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66.夕暮れと着地点。

今回も日数の割に濃い経過でしたねえ……

 壊れはしないし漏らしもしなかったとはいえ、結界そのものには有効期限というか、展開可能時間の制限というものがある。まああたしの魔力だと結構な時間維持できるといえばそうなのだけど。


 それでも危ないので一旦寝室の扉は封印式の呪印を貼ってもらって、それから自分たちを別に結界で保護。

 そこまでしてから、イーライア王妃の居住エリア全域に、〈消去〉を掛ける。


 あ、どこかで何かが、一個だけ、壊れた。

 ただ、それ以外は特に何も起こった感じはしないので、もう物理トラップ以外の警戒はしなくていいし、物理トラップもカルホウンさんによればないらしいので、自分たちの結界は一旦解除。

 ドレッサーの結界はまだキープ。大丈夫、二日くらいはいける。まあ寝られなくなるから、眠くなるまでには解決したいところ。

 ひとりで発動するタイプの結界魔法最大の弱点がこれだ。眠気に、勝てない。

 つまり維持するためには意識が覚醒している必要がある。

 そうしないためには儀式魔法じゃないとだめだけど、そっちは流石に覚えてないし、現状使う気もない。ええ、一人だけ魔力が突出してる人がいると儀式系は成功率が下がるんだって。

 ……そういうところも、呪詛と逆だ。

 ああでもそうね、儀式魔法の場合、主導者以外は当該魔法への素養はなくても大丈夫らしいから、例えばマグナスレイン様とイードさんと女王様あたり巻き込んだら、相当強力な儀式結界が張れそうね?まあその案が採用されるような事態があったら、ほぼ確実に世界自体の危機だって気がしないでもないですけども。


「音はこちらだね。……ああ、いい椅子だったろうに」

 カルホウンさんが部屋をひとつ戻り、壊れたものを指し、その破壊を嘆く。

 執務室にしていたらしい部屋の、女主人の為の、緞子織の背面と座面を持つ、ゆったりとした立派な椅子。

 その背面が折れ、座面も派手に吹き飛んでいる。脚にあまり損傷はないから、座っている人がいたらその人が吹き飛ばされるような、そんな壊れ方。


「なんていうか、如何にも証人を消します、って吹き飛び方ねこれ」

 サクシュカさんが嫌そうに状況を表しているけど、誰も反論しない。できない。


「邪悪ゲーマーの件を伏せたら、完全にイーライア王妃も被害者ですね」

 できるだけ感情を載せないようにして、そう提案する。ええ、これは提案。

 ここまで周到に証拠隠滅ついでの加害を狙ってくる輩が、そういつまでも本当の証拠品なんて残している訳はない。

 呪詛式?恐らくだけど、これもトラップの一種でしょう。あとあとあたしたちを嵌めるための、ね。


「別件扱いのほうがいいのかしら。巻き込まれたとすべきなのかしら」

 マリーアンジュさんが考え込む。まあそこはお国の都合が良い方でいいんじゃない?

 うん、呪詛式の由来の動線の謎は残ってるけど、これはもう時間切れで、解決不可能だ。

 オラルディ国がいないと言い張る商人を抑えていれば話は別だったろうけど、残念ながら事態が、あの邪悪ゲーマーの魂が大きく動き出した頃には、もう雲隠れした後だったらしいし。


「……悔しいです」

 ぽつんと、ジョアナ殿下が呟く。そりゃそうだ。ここまでそんな感情を出さずにいたのが、偉いと思うよ、あたしは。


「国家の中枢に近い所の女三人死んで、得たものは邪悪な魂一匹の消失、か。確かに負け戦っぽいわね」

 マリーアンジュさん、その言い方は身も蓋もないというか。


「……聖女様防衛戦は完全勝利したんですけどぉ?」

 あんまりこういうことは言いたくないけど、どうせ戦に例えるならそっちを評価してくれませんかね!?


 ぷっ、とジョアナ殿下が吹き出す。


「そ、そうね、確かに緒戦は大勝利でしたのよね。そうね、戦後処理がもたついて被害が出たのは、後方のわたくしどもの責任でもありますわね?」

 ジョアナ殿下がなんだかほんとに大人みたいな事を言い出すので、皆が一瞬きょとんとする。

 その顔をみてはっとして、そこから真っ赤になるジョアナ殿下。なにこれ可愛い尊い。


「いやあのその、最近戦記物小説に、ちょっとはまっておりまして」

 なるほどなるほど、読書少女か!なお良し!推せる!っていやそうじゃなくて!

 気が付いたら皆笑ってた。マリーアンジュさんはジョアナ殿下を撫でてた。羨ましい、いやなんでもないです。



 諸般の調整の結果、国王陛下を呪ったものがいて、イーライア王妃はその身代わりになろうとして遺体も残らず死亡、陛下も呪詛は消せたけど健康状態が回復しきらないため譲位予定、そしてエメルディア王妃はその陛下の魂の回復を祈るために神殿に入る、という筋書きが公表されることになった。

 犯人はせっかくなのでオラルディ国の消えた商人君に担ってもらう。どうせもう『どこにもいない』んだし、そのくらい、いいよね。

 残念ながらアリエノール殿下が過失による失火での事故死ってことになっちゃったけど、そこまで辻褄を無理に合わせると逆に盛大な憶測を呼び込みそうだったので、諦めざるを得なかった。

 まあ不名誉にはならないので良しとしてもらうしかないか……

 影武者さんもひっそり葬られることになってしまったけど、それは問題ないし仕方がないことだ、と、マリーアンジュさんがあっさりと受け入れた。初めからその程度の覚悟はお互いできている、そうだ。重い。


 いやまあ厳密にはイーライア王妃の遺体、一切残らなかったわけじゃないんだけどね。

 離宮で触媒にされていた髪の一束、それだけは消えずに残っていたの。

 ただ、それは呪詛の振替の触媒にした証拠、という形で保全された。術式の内容はきれいさっぱりあたしの魔法が消しているけど、呪詛関連に使われた何か、というマーカー的なものが残るので、都合が良いと言えばよかったのよ。

 嘘八百並べ切るより、それっぽい本物の証拠が一つあれば、それだけで信憑性って変わるものだからね。

 しかも今回の場合、そういった判定をする神殿の者は皆こちら側。うん、問題ない。


 夕暮れ時。騒動の着地点を示すための、虚実でいえば虚多めの筋書きが、関係者一同に承認されたところで、フォルヘッセナーレ神との契約の繋がりが切れた。任期満了、いや契約完遂ですね。

 前にシエラに聞いたけど、この世界の神々は基本的にただの酔っ払いのほら吹きみたいな裏のない虚勢や、確実に公益性のある、今回みたいなお出しせざるを得ない系虚偽には割とジャッジが緩い。恒常的につき続ける嘘とか、悪事そのものの隠蔽には厳しい傾向があるけど。


「あら?カーラ様、今何かありまして?」

 マリーアンジュさんと聖女様が口を揃えてあたしに聞いてくる。繋がりの切れるのが伝わっちゃったのかな?


「ああ、国神様との一時契約が完了したんです。国神様的にはこれで事件の解決、ということになるのでしょう」

 素直に答えておく。ってあれ?国神様と一時契約した話、サクシュカさん以外にしたっけあたし?


「国神様と、一時契約?そんなことできるのです?」

 アデライード様が怪訝な顔になった一同を代表するかのように、そんなことを言う。


「できるというか、調停と解決って依頼を押し付けられたというか?」

 正直あれ、拒否権なかったから、押し付けられたって表現が、あたし的には一番しっくりくるんですよね。


「……押し付け……依頼主は我らが国神様ですぞ?物語の冒険者がギルドで強制依頼を受けるみたいに言われましてもですね」

 神官長様がそう言うこと言うんだ。成程以前口を開くと結構お茶目って紹介されたっけ。


「そう言われましても、あたし外国人ですし、そもそもここの国神様とは相性が宜しくないですのでね?」

 終始一貫して強調したいのはここだ。音楽もだけど、芸術系の神様がたとは、あたし、絶対的に相性が良くない。今回接触して痛感した。なんかしらないけど、魂レベルで、合わない。

 小説読むのもゲームやるのも好きだったけど、自分で作ったり演奏したりとかは、考えたこともないせいかしらね?実際、今までものを作る系の趣味って一切やったことないし。


《あらあら、刺繍とか編み物とか、楽しいですよ。手を掛ければ掛けただけ、自分が美しいものを作りだせる実感!実益もありますしね!》

 シエラはそういうところはあたしと逆なのね。極小属性が反対なのとおんなじように。

 でも今回はその刺繍の手腕が凄く役に立ったのも確か。周囲からは、あたしがやったようにしか見えないのが残念なくらいね。


 ああ、おなかすいた。お肉、ううん、魚が食べたい。海に面してる国なんだから、魚が美味しいに決まっているのに、ここに来てから畑の作物しか食べてないのよねえ?

政治組がすっかり空気だけど、会議の場にはいます。いるんです。

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