626.星に願いを。
この回だけBGM:Enya / Cursum Perficio で書いてた。
※当初の予定通り。
光属性を込めて、魔力を練る。
あたしも、カナデ君も、これまでに、ここまでで、散々やってきた工程だ。
だけど、どうも、要求量自体はいつもの解放と同じくらいと思わせておいて、異様な高密度を要求されている、そんな気配。
まあそれでもやるしかないんだけどね。
「ああ、そうだ。例のバングル、付けとけ。なんか補助があるとか聞いてる」
唐突にアンダル氏に指摘されたので、そういやそんなものあったな、と、ウェストポーチから取り出して、手首に装着する。
するり、と姿を僅かに変え、ぴたりと嵌る、いくつかの小花を咲かせた透かし唐草の銀のバングル。
花の中央部分に嵌められた石が、眩く煌めく白い光を放ち始める。
「属性極大だとこうなるんだ……」
ハルマナート国の女王様の着用していらしたものは、ここまで派手に光ってなかったと思う。
「極大というのも空前絶後だよなぁ多分」
「神殿の記録で見た事はございませんから、恐らくは」
アスカ君の疑問には、カスミさんが答えてくれる。
そうね、経緯はどうあれ、この世界の創世神は完全に喪われるのが確定した。
というか今、我々の目の前にいるのは、もう創世神どころか、神ですらない。
単純に魔物と呼ぶには、ちょっと凶悪が過ぎるかな。
でも魔王ってこの世界には存在し得ないしな。
なんにせよ、その状況では、恐らく民の属性力が上振れすることは、もうないだろう。
そもそも地元民の場合、特大にプラス三つくらいまでが限界値らしいし。
バングルを装着して、再び光魔力を練る。
だいぶんと、操作が楽だわね?神器があたしの補助をしてくれている?
それに、魔力回復量も増えてる。流石は神器というべきね。
「おっけー、貯まった」
「こちらも大丈夫」
結局、あたしの方が数倍の量の魔力を、密度マシマシで捏ねる羽目になったけど……
ランク違いでカンストだから、実際の魔力量がその位の差なのね、多分。
「じゃあ始めるね。技能発動、対象魔力量、称号一時変換、よし!」
「ではこちらも始めるわ。リミッター解除、技能停止、魔法陣起動」
カナデ君が技能で魔力量称号を上位変換し、儀式魔法のロックを外すのに合わせて、こちらもリミッターを解除し、まず基本の儀式用魔法陣を描く。
……いやまて。リミッター解除ってなんだ?そんなもの、かかってた?
「リミッター???ねーさんまだそれで上があるの???」
アスカ君が鳩豆顔だ。
気持ちは判る。というかこのクソ真面目な場面じゃなかったら、あたしも鳩豆顔がしたい。
でももう返事をしている余裕はない。
魔法陣を描いたら、後は突き進むのみ、なので!
「主詠唱:開始」
「副詠唱:開始」
今回の儀式魔法も、あたしが先導者だ。魔力比と熟練度の都合なので、致し方ない。
力ある言葉を引き出し、解放するのがあたしの役目、それを受け取り、自分の受け持ち分をなぞるのがカナデ君の役目だ。
そして、あたしと重なって存在している〈書庫〉とシエラが、全力で魔法構成を補正し、修正し、反映させていく。
「遥か遠き異界にありて遍く夜天よりこの世界を照覧せし星々よ」
「暗き大地をさやけく照らし地にある人々の願いを受け止めし大の月よ」
あたしの言葉は星々へのアクセス。カナデ君のそれは、月へのアクセス。
この世界、太陽と月、ついでに惑星はそのまんま、空というか宇宙的な場所に存在するんだけど、夜空に映る星々、恒星の方は、なんとまあ、異界のそれの光を引っ張ってきて映し出す、トリック画像のようなものなのだそうだ。
レガリオン神の神殿で見せてもらった、海の光景と同じ理屈。
そういうことを異世界相手にやらかすあたりは、ズボラも相当な腕前ではあったのだろうね。
「汝等は癒しの光なり、汝らは破邪の光なり」
「雲の陰に在りてなお輝き放ち命育む太陽よ」
あたしは異界から流れ込む星々の力に方向性を与え、カナデ君は更に太陽へのアクセスを口にする。
「陽の中天にありて尚、遥けき彼方から降り来るその御力を我等に貸し与え給え」
「廻る星々の御力を妨げる事なく導き給え、星々の御力を支え護り給え」
言葉の連なりが、力を帯びて魔法陣に降り注ぎ、それはやがて魔法陣の姿を、その構成する文字を変えていき、くるくると回り始めた魔法陣が、拡大しながら遥か上空に翔び立っていく。
それは、遥か異界より呼びこまれし星の力を受け止める為の器。
曇天の空で、雲に張り付くように、拡がり続ける魔法陣が更に光を増していく。
それと同時に、雲の後ろからも、眩い光が漏れ溢れ始める。
「悪しきもの、地に蔓延りて滅びを為さんとする魔の主に星の裁きを」
「穢れしもの、地に染み入りて世界を毀たんとする魔の主に星の定めを」
詠唱している間ずっと、結界の外側には魔物の触手のようなものや、人が変異した魔物の類が押し寄せ、張り付き、入り込もうとしている。
勿論、ワカバちゃんとアスカ君、二人の超級護法師の結界がそんなものを通すはずもない。
サーシャちゃんはズボラの本体の辺りを見てくれている。
そして。
「真の裁定の時は来たれり」
「世界の裁定の時は来たれり」
「「今、裁きの光を!〈スターライトシャワー〉!!」」
魔法名を詠唱しきった瞬間に、猛然と奪い取られる魔力。
勿論その場でも大回復しているのだけど、回復分も、勿論事前に練っていた分も、あっという間に持っていかれる。
まだ、倒れてはいけない。
そう必死で堪えていると、バングルから染み出し、流れ込んでくる魔力。
この魔力は知っている。女王陛下、サクシュカさん、それに、水晶龍様……?
(ごしゅじんさま!)
(わずかだけど受け取って)
ロロさんとココさんが契約を通じてカナデ君に魔力を与えている。
【むむむ!足りませぬか?!】
マルジンさんもあたしとカナデ君に交互に魔力を分けてくれている。
そうして、全てを絞り尽くしたような時間のあと。
魔法陣の光は、既に雲から漏れる光と混然一体となっていて、とてつもない広さで輝いている。
そこから、雨のように、思いがけず柔らかな星の光が、降り注ぐ。
光の雨に打たれた魔は、穿たれ、毀たれ、地の底深くにあった存在すらも、消失していく。
流星雨。
超級光攻撃魔法は、ただ一度の行使に応えた。
そう、光の雨は、ライゼル国の全てに、降り注いだのだと、僅かに復活した技能が判定を寄越す。
降り注ぎ、残された命に癒しを与え、魔を穿つ。
……これ、攻撃魔法って言って、いいんだろうか。
「うへぇ……きもち、わるい……」
そして、まず最初にカナデ君が音を上げた。
「ぐらぐらするわね……」
こっちも完全にグロッキーですよ、勿論。
ただ、カナデ君と違って、あたしは完全枯渇は二回目だ。
流石にそうそう何度も気絶してはいられない。
いや、ズボラの気配なんてもうどこにもないんだけどね。
魔物としてのズボラは、完全に討滅された、そんな確信。
「地面の下にも通るのか」
アスカ君が呆れたような声。
「この魔法、浸透属性が付いてる……水属性の〈溶解〉と同じ、いや、もっと強力な奴……」
しんどそうな声だけど、カナデ君が解説してくれた。
「……魔物が完全に消えているのに討滅完了になってないのは何故?」
カナデ君を支えていたワカバちゃんが、唐突にそう告げる。
そうなのよね。
ズボラが堕ちた魔物自体は、完全に討滅したはずだ。
……いや、それ自体がおかしいな?
確かに超級光魔法必須の状況ではあったけど、これでとどめを刺す予定では、なかったような……
それに、フラグがあたしにも、カナデ君にも来ていない。
確かに早めに魔物化したけど、腐ってたにしたって曲がりなりにも創世神だったモノが、その手のフラグまで腐らせるような時間は、あったろうか?
「フラグが足りてねえ、か。ありそうなのは、神核が何処かに残っている、あたりか」
アンダル氏が目を僅かに細め、鼻の頭に僅かに皺を寄せ、僅かに尖り気味の犬歯が見えるような、最近ではとんと見かけなかったような険しい表情で周囲を見回す。
結界はまだ維持されたままだ。
当然の事ながら、スターライトシャワーの魔法の光は、あたし達には何の影響も及ぼさないはずだけど、魔法は弾かれていたらしい。
アンダル氏が光属性苦手だからね、そこはしょうがない。
……いや待て?レガリオン神との契約の結果、アンダル氏は光属性にも相応の耐性が付いたはずだ。
別にこの魔法を弾く必要はなかったんじゃないの?
そして、ひんやりと冷え凝る、足元に気付く。
(危ない!!)
(間に合え!)
突然、鶏たちの念話が響く。
そして、背中になにかがぶつかる、衝撃。
蜘蛛絹を重ねた衣装は優秀で、あたしにはダメージすら入っていない。
だけど、この状況であたしに攻撃を仕掛けた、これは、誰?
作中他に出て来る機会はなかったけど、攻撃魔法の儀式詠唱はこのくらいカッチリしている。
治癒魔法の方がふんわりしすぎではある。




