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580.テンクタクト氏の秘密。

関係者各位それぞれの秘密、かもしれない。

 思わぬ称号欄でびっくりしたけど、改めてテンクタクト氏のスキルのチェックだ。

 技能ではあたしの隠蔽は抜けないはずなのでまずは一旦スルーで。


 ……うーん?


 流石に、〈神速詠唱〉と〈詠唱破棄〉、〈終局の一撃〉では看破系関係ないよなあ。

 っていうかテンクタクト氏の前世、スペルキャスター系か。


《そうですね。テンクお兄様はスキルは以前は持っていなかったですし、魔法の才もある方ではなかったですわ。

 今は混沌属性が発現していますから、ホルクハルス殿下の近侍のお仕事がなかったら、確実に雷か闇で引き合いがありますわね》

 うむー。

 とはいえ、彼の今後の仕事には興味ないし、もっかい称号を見るか?結構沢山あったし。


 ……あ、称号の方に[魔導士]がある。レンビュールさんと同じ世界の人の可能性?


 あー!


[真名看破を会得せし者]


 これ、か……?でも真名だけが対象だと、法則上引っかからない気がするんだけど。


《複合効果ですわ。[横紙破り]という別の称号の効果が載るようです。あとは前から技能にあるはずの、一点突破も掛かっていそう》

 そしてあたしよりチェックの早いシエラが、結構長い称号リストから、目的のものを探し出してくれた。


[真名看破]は読んで字のごとくで、本来の名を暴く、看破系スキル、または技能だ。

 この世界だと、召喚獣との契約の際に有利になりそうな能力だから、最初から持っていたなら、余程才能の方に難がない限り、テンクタクト氏の職業は召喚術師になっていただろう。


《うちは召喚の才能はごく普通ですね。ただレンビュールさんと同世界の方の影響を受けているなら、今の召喚適性は高くなっていそうです》

 そうね、レンビュールさん、この世界に来てから召喚適性を得たらしいのに、上級だもんね。


[横紙破り]の方は、技能やスキル、そして恐らく効果が発生するタイプの称号の効果をも、一時的に変更できる称号だ。うん、設定さえされていれば、説明文まで読めるのよ、あたし。


 つまり恐らくは技能で所持している真名看破に、[横紙破り]で看破対象を変更し、一点突破であたしの魔力やメリエン様の神力の壁を抜いてきた、と?


(うむ、正解じゃ。妾の壁を抜かれる程とは、思っておらなんだがのう……)

 人の執念とは思わぬ力を持つものよ、と、メリエン様が感嘆している。


 以前テンクタクト氏の事を、シエラが『一番面倒くさいお兄様』って評してた理由が、なんとなく判ってきたわね……


 技能と後付けである称号、特に地元民には本来フレーバーテキストでしかない称号をここまできっちり利用できる思考能力、称賛に値するわよ。


《前世記憶で人格が変わった、という雰囲気もないではないのですけど、どちらかというと冷静さを欠く方向な気がするんですよね。神殿に怒鳴り込んだ辺りが、特に》

 うーん、そうだよね……


 転生記憶が後から発現するタイプの転生者は、結構多い。

 こないだ見事に更生していたサンファンの元ニート君も、後発性の転生者だ。


 赤ちゃん時代を意識と思考能力のきっちりした状態で過ごすの、多分結構苦痛だろうから、そこは案外世界の温情なんじゃないかな、って気はする。


《記録にある、最後に[賢者]の称号を得た方が先天性だったそうですが、確かに自伝では、赤子時代が本当に物凄く大変だったとお書きになっておられますね》

 やっぱりかー。というか、[小賢者]じゃなくて、[賢者]、いたんだ。


《ええ、百年程前までご存命だった方なので、自伝以外の伝記や物語はまだ余り多くないのです。私は文章が好みだったので、何度か読んでいますけど》

 そっか、後で読ませてもらうわ。


「ふむ。そこの三男とやら、面白いスキルを持っておるな。この世界のモノではないようだが」

 そこで、デザートのケーキプレートとカフワを配り終わり、自分もカフワだけ持ってテーブルの端っこの席に座ったランディさんから、おもむろに質問が飛んだ。


「ええ、現在の私には攻撃魔法の才はないので、死にスキルですが」

 テンクタクト氏の方も、さらっと答えている。

 兄二人の方は、どちらも何故かやや痛ましげな目で、弟を見ている。


「いや、混沌属性に変化した時点で、攻撃魔法の才は……いや、孫弟子と同じか、この世界で使える形式でないのだな?」

「ああ、そういえばレンビュール殿もこの子に現れたのと同じ称号を持っておられましたね?」

 ランディさんの確認に、クレドランテ卿が思い出したぞ、という様子で確認を重ねる。


 なお、本日この席にレンビュールさんは不在です。デミノトロス殿下から仕事を請け負ったそうですよ。


「そうですね。

 と申しますか、私の前世は、レンビュール師の名を知っています。

 愚王の無謀な魔法実験に付き合わされ、王城諸共消失した高等魔導士の一人として。

 まだ若く、いずれは導師にも至れた才であったものを、という評価を同僚だか友人だか、といった人の噂で聞いただけなので、当時のお顔までは存じ上げないのですが」

 そして、テンクタクト氏の言葉から、レンビュールさんが思ってたより不憫な過去持ちであることが明かされた。


 魔法実験の失敗で漂流したのは聞いていたけど、理由がそんなだとかまで聞いてないもの。


「……ピンク頭兄ちゃん、予想外に過去が不憫だった」

「今はだいたいいつも楽しそうにしてるもんね」

 サーシャちゃんが身も蓋もない事を述べ、カナデ君が現在の印象を端的に追加する。


「あやつ、何気に危ない橋は渡らないタイプ故、異界漂流する程の事故を起こした実験、とやらが大規模すぎると不思議に思っていたが、成程、上が無能であったか……いい話を聞いた、感謝する」

 そしてランディさんは納得の言葉と共に、謝辞を述べる。


「過分なお言葉、恐縮です」

 テンクタクト氏は、ランディさんの謝辞に、言葉通り恐縮している。

 まあ超級召喚師、王族同等の格上の相手な上に、ホルクハルス殿下の近侍を務めている彼なら、恐らくランディさんが真龍である事は知っているはずだから、さもありなん。


 そうよ、我々が気安く超級召喚師、三人も懇意にしてるの、普通の人ならあり得ないからね?

 ダグマーさんにも会ったから、今世界にいる超級召喚師で顔も名も知らないの、一人だけだったりするんだけど!


 なおこの最後の一人は、どこぞの山奥に引き籠っているそうなので、今後も多分会う予定はない。

 だってランディさんですら、名前はともかく顔も居場所も知らないっていうんだもの。無理無理。


《それを言うなら真龍の複数の方と懇意にしておられる方が余程のイレギュラーでは》

 それは言わないお約束……というか、真龍に関しては聖女巡行で結局関わるの必須だったんだから、問題ない、はず。


「……俺その話初めて聞くぞ。転生者?いつのまに?」

 そして素の口調に戻っているらしきマレリアンデ氏が隣の弟を凝視する。


「割と最近ですが、既に二年半は経っていますよ?」

 そうね、あたしがこの世界に召喚された、その時の事件が原因なのだから、二年半、より少し過ぎているくらいかしらね。


 次の春先であたし、夏あたりで三人組の三年ルールの適用が終わる、はず。

 なんかもうサーシャちゃん辺りは、気に入った国は自分の腕でお出入り自由を獲得する構えのようだけども。


「リアンは家に顔を出さないからねえ。私も気付いたのは王宮での職務中でしたから、余り人の事は言えませんが」

 そしてトレルバイド氏が、家族内でもテンクタクト氏の前世の件は、一部を除き周知である事を遠回しに教えてくれる。


「トレルは神殿に呼び出された私の代わりに王宮に詰めて貰っていたからね、仕方ない」

 丁度その頃に、クレドランテ卿は神祇伯への就任を打診されていたのだそうだ。


 ……恐らく、その時には既にシエラの件も、クレドランテ卿にだけは開示されていたのだと、今は確信している。


《お母様も最初から御存知ですわ。私、相談しちゃいましたもの》

 へぇ……って!おいこらシエラぁ?!ちょっと待って???


 貴方、最初っから、知っていたの?!?


《……あ。》

 あ、じゃないです、あ、じゃ!!!


 なんですか、つまり、シエラ、あなた最初からこうなるのを判っていて承認した、と?

 初期のあの態度、演技?!


(うむ、魂が露になっていてもあそこ迄演じられるとは、流石我が巫女)

 そしてメリエン様からは、なんとも判定しがたいお言葉が。


《いやだって、異界の書物読み放題なんて極楽環境、興味しかないじゃないですか》

 てへぺろ、って感じの極めて軽い返事が来る。


 そんな!軽い理由で!健康な自分の身体を捨てないで!!頼むから!!!


 だめだ、テンクタクト氏に本格的に同情したくなってきた……

いや、流石に他にもちゃんと理由はありますから!後で解説するから!

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