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560.まずはレガリアーナ国へ。

移動しますよ回。

 翌日は、朝ごはんを食べたら早々に巡行メンバー丸ごとランディさんの転移でカレントス港へ移動し、そのままオプティマル号に乗り込む。


 今回は、北周りでメリサイト国に入国することになったので、まずはオプティマル号でレガリアーナ国まで行って、そこから改めてテイスパス君のワゴンを利用する格好になる。


 ワゴン本体は、今回はランディさんが収納して運ぶことになった。

 レンビュールさんも収納魔法はあるけど、流石に団体用ワゴンは入らないそうな。


 なのでテイスパス君の呼び出し担当であるレンビュールさんもオプティマル号にご招待だ。


「ほほう、新造船ではなさげとはいえ、なかなかいい船ですね。船なのにタタミ部屋があるのが謎ですが」

「冬には炬燵を入れる予定なのだよ、去年は冬に船を使う機会がなくて未設置のままだがね」

 そう、ランディさんと孫弟子の会話の通り、オプティマル号の休憩室には畳のスペースが既に設置済みだ。

 去年は真冬に船を出す事案がなかったんで、炬燵は出さずじまいに終わったけど。


「正直、真冬にオプティマル号を出すような事案とかあんまり要らない気もしますね」

 なんせ嵐がない時でも、冬の海は荒れる。

 冬慣れしている地元の漁船や定期旅客船でも、冬は湾内待機や欠航がそこそこ増えるんだから。


「確かに、観光とかの呑気な手段で使う事は余りないもんね」

「ちょっとした嵐までなら私たちでも対応できるけど、そこまでして出なくちゃいけないような事案はそうそう要らないわよね」

 操船担当のカナデ君とワカバちゃんも頷いている。


 ちょっとした嵐程度までなら普通に乗り越えるとさらっと言える腕のふたりでも、やれるとやりたいは別だと断言できるのがなんか頼もしい。


 フラマリアからレガリアーナ国に行く場合、ヘッセン沖を大きく迂回するルートを取るのが基本だ。

 セオリーど真ん中のルートは定期船が良く使うので、世間様の快速船の倍は軽く出せるチート高速船である我々は、もう少し外側を選んで進む。


「皆様ー、お久しぶりでございますー!」

 推定斜め前方、ちょっと離れた場所から、聞き覚えのある美しい声。あ、イルルさんだ。


「あ、アプカルルのおねーさんだ、ちょっと停めるねー」

 カナデ君も声を覚えていたようで、ささっと停船する。トップスピードに近い所から止まる時も反動を殆ど出さないのは最早神業クラスでは?


「……普通、船ってちょっと停めるねー、でこんな短距離で止まるものではないのでは?」

 レンビュールさんが不審顔だけど、他のメンバーはディスティスさんですらもう慣れてしまっていて、そういうものなんです?と顔に出しているのがちょっと笑える。


「この世界の船は基本魔法制御だから、少ないとはいえやれるものは地元の民にも居るぞ」

 そしてランディさんの答えはこれで、成程?

 地元民でもこういう、正直言えば変態挙動で船動かしちゃう人いるんだ?


「イルルさーん、お久しぶりです!そういえばこの辺り集落に近いんでしたっけ」

「そうですね、定期船航路の内側ですから、もう少し陸に近い場所になりますけど」

 更に接近して、海からちょこんと顔を出すイルルさんの、銀の地色に光り輝く虹色を纏う姿が相変わらず美しい。


 この、聖獣アプカルルのイルルさんの属する集落は、音楽と音を司るヘッセンの国神を慕う、いわば音楽好きの集団だもんで、ヘッセン国の岩礁地帯にほど近い場所を住居にしている。


 以前緊急救命で海の中を移動して訪れた時は、なんか海神様の加護だかなんだかで、距離をショートカットして運ばれてたらしいんだよね、あたし達。


 正確な場所を後から聞いたら、フラマリア領海界隈を丸ごとショートカットしていたのが判明して全員でびびったっていう。


 アプカルルという種族は特に西の海神様に愛されている種族だという話がものの本に載っていたのも納得がいくわね。


「ちょっとお邪魔致しますね」

 そう告げて、すっと潜ったと思ったら、勢いよく飛び出しながら空中で化身してくるりと一回転、船の上に飛び乗る姿が美しくもカッコイイ!アプカルルって本当に綺麗だなあ。


「タイセイも大概だが、アプカルルも結構アクロバットなことするなあ」

 サーシャちゃんがやや呆れ顔だ。


「化身があるからこそできる技ですね。魔法での補助も当然していますけれど」

 そう解説すると、イルルさんはトリィに向けて軽く頭を下げる形の礼をした。


「今代の聖女様には初めてお目にかかります。ヘッセン近海のアプカルルの集落の長の娘のひとりでございます。イルルとお呼び頂ければ幸いです」

「……岩礁地帯の近隣で、時折迷い船を助けてくださっている方々ですね、お噂は時折伺っておりますわ。

 カーラさん達とも親しいようですし、今回の航海の間は、わたくしの事はトリィと呼んでくださいませ」

 イルルさんの挨拶に、トリィもどこかうっとりした様子でそう返す。

 というかアプカルル、そんな人助けもしてるんだ。


「大したことはしておりません。我々の居住地の手前くらいがちょうど、岩礁地帯に乗り上げてしまう海流のほぼ終着点なので、自然と見つけてしまうだけですもの」

 なんでも、岩礁地帯に迷い込む船はちょいちょいあるらしい。


 大体の場合投錨したものの流されたとか、天候不良で航路を見失ったとかで船が迷い込むのを、安全な海域まで誘導しているんだとか。


「放っておくと難船して、積み荷はさておき、死体が沈んで来たりしますからね。放っておくのは我々のためにもなりませんから」

 一応合理的に判断してやっているのだ、と述べるイルルさんだけど、その表情も言葉も、限りなく優しい。


「さて、本日はフラマリアの御方もご同船と伺っておりまして、西の海神様からの御伝言を預かってまいりましたのですけれど、どちらにおわしますでしょう?」

 一転して表情を改めると、本題を口にするイルルさん。


【あー、ここここ。流石にノーマルサイズの分体出す訳にいかなくてね】

 ランディさんの頭の上から、聖獣式の発話で回答した自称勇者様の姿は、まさかの手乗りサイズのテディベア、だ。


 ワカバちゃん曰く、由緒正しい伝統的テディベアメーカーの作品スタイルだという。

 ライトブラウンのフェイクファーの毛皮はふわふわで、触り心地がいいらしい。

 ええ、例によってあたしはおさわり禁止です。

 というかですね、あたし、ぬいぐるみには興味ないんだけどね?


「あらまあ……随分と愛らしい御姿ですわね?小人さんバージョンもあると伺ったことがございますけど今回は不採用なのです?」

【妙なこと知ってるねえ……あれ一回やったらすっごく不評でさ、封印中】

 オラルディ出張時にサイズを縮めただけの小人さんバージョンとやらで出かけたら、大不評だったのだという話をする自称勇者様。


 まあねえ……小人じゃなくて小さい人間、だったらそりゃフィギュアとか見慣れてないこの世界の人達だったら警戒するよね……


「あー、等身そのままで小さくすると案外違和感つえーからなあ。ドールとかフィギュアとか見慣れてる文明の人間ならいざ知らず」

「普通の人間と全く同じように動ける時点で、玩具を見慣れてる程度だと違和感あるんじゃないかしら?

元世界のVRゲームですら、小人やフェアリーなんていう小さい種族はデフォルメ強いゲームが大半だったの、そういうことよね?」

 サーシャちゃんの感想もあたしと似た感覚なうえに、ワカバちゃんの補足説明にはあたしも頷くしかない。


【あー、そういう感じかー。まだぬいぐるみが動く方がマシ、と】

「アニメにそんな感じの作品がいくつもあったから、僕らはそれは気にならないね」

 納得した様子の自称勇者様に、カナデ君が更なる追加説明。

 あたしも同感なので頷く。


「我らのこの世界でも、ラノベのお陰で動くぬいぐるみ概念ならば理解されているからな、無難な選択であろうよ」

 ランディさんもそう述べたので、今回はテディベア一択になりそうだ。


「パンダとかでも面白そうだけど……」

【パンダ?】

「あれ、知らないっけ。白黒の熊っぽいかわいいやつ」

 余談の会話は続いているけど、あたしもパンダとやらはラノベでしか知らないな……


 海神様の伝言の方は、何かオーブのようなものが手渡されて、読み取る形だった。

 海を映してゆらゆら光が揺れる宝珠って、ファンタジーっぽくていいですね!


 そして別れの挨拶と共にイルルさんが帰って行ったら、何故かトリィに海神様の加護が付いた。

 あたし達は海底遺跡の時に既に全員友誼を頂いているので変化なしだけど。


 海神様の御用事も済んだので、船は再びレガリアーナ国に向かう。

 幸い、トラブルは特になく、いつも通りケラエノーさんとも遭遇しただけで、無事到着だ。


 まあ今回は王都を通らないんでほぼ北端のテムクル村なんですけどね!

 自称勇者様、ぶっちゃけパンダ到来直前にこの世界に来たので…… 

 そしてパンダさんは脆弱系大型生物なのでカーラさんの元世界だと早期に滅びて存在しない。

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