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558.大聖女『見習い』?

【……ぶわっはははは!そうきたか!世界も愉快な事をしおる!】

 一拍置いて、おじいちゃんが呵々大笑したので、慌てて結界を張るあたしであります。


 この真龍、相変わらず笑いの圧が物理。


「笑うとか、ちょっと、酷い」

 きょとんとしているトリィを前に、あたしの言葉はちょっと詰まりがちだ。


 いえね。称号は付いたんですよ。


[大聖女見習い]

 これがトリィの称号欄に現れた、新しい付きたてほやほやの称号だ。


 ええ、言わんとすることは判るわよ、あたしや外部からの魔力の補助なしでは、まだ〈生命賦活〉を発動できない以上、見習い枠がトリィの立場的に妥当だってのはね!


 問題はあたしの方よ!

 なんですこの[大聖女見習い補佐見習い]って!!!


 いや、まあ、その、なんだ。確かにそっちも、事実ではある、けどさあ……!


 なおマーレ氏はあたし達を見比べたあと、後ろ向いて肩を震わせております。

 ガチの笑い上戸かこのあんちゃん。


「マーレ氏……笑ってないでおやつください」

 割と無理やり構築した魔法陣術式だったから、こちとらおなかぺこぺこですよ!


「……うむ、済まぬ。成功したらこれを出しておけと言われていた」

 向き直って無表情を取り繕いながらそう述べるマーレ氏が取り出したのは、色とりどりの果物が美しく並べられた、沢山のタルトだった。


 うわあ、いろんな季節の果物のタルト詰め合わせとか、どれから行けばいいか迷っちゃう!


 ホールじゃなくてプチタルト盛り合わせなのはトリィへの配慮というか、切り分けてサーブできる人がいない判断をされた気がするな?


「まあ、素敵……!」

 疲労困憊の顔だったトリィが、一瞬でキラキラ目になったので、あたしもにっこりだ。



「うう、食べても食べてもお腹が空きます……」

「ごめん、ここらで少ししょっぱいものが欲しいけどあるかしら」

 真龍級以上程じゃないけど、やっぱり魔力回復にブーストが付くランクになると、魔力が枯渇した時点で、どれだけ食べてもお腹が空く現象が発生する。


 当然食べられる総量には限界があるのだけど、そこまで食べてもなお、お腹が空くので、お互いに初級治癒を掛け合う事で胃のダメージを抑えながら食べるというアクロバットな事をして、わんこそばならぬわんこタルトしている我々です。


「塩気か、これはどうだ」

「ありがとう、助かる!」

 ちょっと途中でナトリウムが足りない感が出たので、しょっぱいものを要求したら、ポテチとアタリメが出てきた。

 酒のつまみ?まあいい、味覚リセットだリセット!


 お腹が落ち着いたところで、もう一回、あたしが最大魔力でおじいちゃんに〈生命賦活〉を実行する。

 うん、それでもやっと半分ちょっとって感じね。


【ありがとうのう、これならもう暫くがんばれそうじゃい。

 炎神の力をかなり奪った故、あの阿呆が随分と活発化し、どうやら自らの地の民をも喰らい始めたようじゃから、余り猶予はないかもしれぬが、炎神のの所に其方等が行けば、ある程度改善されよう】

 ああ、とうとうやらかし始めたか。


 おじいちゃんに聞くまでもなく、それをやりかねないなあ、という予感は、暫く前からしていたんだよね。


 だって、瘴気の増え方が、聖女巡行を始めた頃から、明らかにおかしかったし。

 ライゼル勢の手が及んでいなかったマイサラスですら、瘴気蓄積量自体は、増えていたのだから。


 そして正式にその情報を得た段階で、あたしの技能がカウントダウンを開始した。

 まあ流石にいきなり二桁なんて酷い話ではないのだけど。


「瘴気が増えているのも、そのせいですね……?」

 トリィが眉を寄せるのに、全員が同意する。


【そう言う事じゃ。

 儂が暫くは余剰産生を引き受ける故、そうそうすぐに世界が反転するなどはしないが、あの小僧にもそろそろ活を入れておやり】

 そしておじいちゃんは、カナデ君がまだ仕上がってないよね、と忠告してくれる。


 そうね、今回の特訓であたしの方の経験値も大分上がった。

 あとはカナデ君を特訓したら、準備は整う、その予感は確実にあたしの内にある。


「ではそろそろ戻るとするか」

【空間制御を戻した段階での経過時間は三時間程。

 眠気は来ておらぬじゃろう?連れの者たちをびっくりさせておやり】

 おじいちゃん、この段階でまだそんな愉悦系発言するんですね!?


「はい、本日は本当にありがとうございました。

 ここまで押し上げられてやっとはっきりと判りましたけれど、地道な修行ではまるで間に合わないところでしたわ」

 トリィの方は素直にお礼を言っている。


 うん、そうね。この場合はトリィの態度が正解だわ。


「あたしも普段足りない部分の経験が積めました。ありがとうおじいちゃん」

【うむ、よいよい。終わったら儂の尾も完治するであろうし、大陸で宴でも開こうぞ】

 そんな風にご機嫌で答えるメビウスおじいちゃんに挨拶したら、再びマーレ氏に連れられて大陸に戻る。


 今度は転移一発で王都の門前だ。

 すっかり待たせてしまった訪問団一行はワゴンの中で待機していて、あたしの連れである異世界組の面々とカスミさん、心配顔のディスティスさんに加えて、ランディさんが立っている。


「戻ったか。どうやらタルトを堪能できたようだな」

 まず最初に口を開いたランディさんは、極めて平常モードを装って、迂遠な表現で成功を確認して来た。


「ええ、すっごく美味しかった!途中で塩気が恋しくなってポテチとアタリメも摘んだけど」

「? それは渡した覚えがないが……」

「我の在庫だ。昔試作品を押し付けてきたろう」

 回答したら怪訝顔のランディさんに、マーレ氏が想定外の回答。

 え、あれ、君のおやつだったの。


「まあ、ありがとうございます。烏賊の干物もおいしゅうございましたわ」

 トリィに礼を言われ、なら補填だ、と、ランディさんになにか渡されたマーレ氏は、うむ、とだけ答えるとさっさと転移で帰っていった。


「せ、いえ、べ、いえ、あの、お嬢様、ご無事、で」

 化身していたとはいえ、マーレ氏は真龍としての圧をばら撒いていたので、ここまで言葉も出せていなかったディスティスさんが半泣きで言葉を発する。


「ごめんなさいね、ディスティス。

 実は、わたくし達、ご縁があって、余人に知られては困る場所で特訓させて貰ってきましたの」

「へ……うわぁ、この短時間でそれって、どういうスパルタ特訓してきたんだ……?!」

 トリィの返事に、アスカ君がトリィを二度見して、絶句している。


 まあそうよね、地元民が特訓して増強できる魔力量の限界ギリギリだよね、今のトリィの魔力量。


 本当はあともう一個プラスが欲しいところなんだけど、称号補正に慣れてから、メリサイト国で魔力消費したらイケるとあたしは踏んでいる。


「ねーちゃんもなんか変わったとこがある気がするな」

 サーシャちゃんに問われて、首を傾げる。


「トリィほど大幅には変わっていないわ。

 でもそうね、技能判定の精度は上がったし、魔力称号もプラスが増えたわね」

「ねーちゃんのそれで、まだ増えるの……?!」

 ちょっと考えてから簡単にまとめたら、慄かれた。まあ気持ちは判る。


 あたしだって、大魔王級っていう最上級称号でこれ以上プラスが付くのか、ついても大丈夫なのか、そこだけは、判らない。


《え、問題ないですよ。魔力のオーバーフローが仮に発生したとしても、〈書庫〉が吸収してしまいますから》

 そしてシエラからは、よもやの、なんにも問題ありません、という解答だ。


 そっかー、そういえばこの〈書庫〉って、チートだったねえ……


 無事全員と合流できたので、我々も一旦フラマリア国へ帰還する。

 今回はサンファン国境ギリギリで野営してから、翌日一気に帰還するルートになる。


 時間が押し気味なんですよ。何せ我々、三時間半不在だったらしいので。

 体感的には三日位経ったつもりでいたけどね!


「いや、ランディ師が説明してくれなければ、危うく集団パニックを起こすところでしたよ」

 オルスモード殿下に遅れたお詫びを述べたら、そんな風に返されてしまい、平謝りするあたし達です。


 それにしてもメリサイト国、現状どうなっているんだろう。

 メリエン様が頑張っているうちはきっと大丈夫、そう思うのも確かなのだけど。


 でも取りあえずフラマリアに戻って、自称勇者様に直接確認取ればいいわよね。


「特訓モード、流石にちょっと疲れたから、仮眠しますね」

「わたくしも、少し休みますね……」

 トリィと二人で、毛布を貰って肩を寄せ合う。

 隣の体温が心地よいな、と思ったら瞼がすうっと落ちた。


 取りあえず移動中はすることもないし、休めばいいよね?おやすみなさい。

というわけで聖女巡行自体は終わっていませんが、長かった第十五部は今回で終わりです!


いつも通り人物紹介同時更新です。今回も長いぞ!

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