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557.おじいちゃんと緊急ズボラ対策。

もはやズボラが固有名詞化しかかってなくもない。

 今回のマーレ氏は、龍の姿のまま、龍の島最高峰の頂上である平たい広場、メビウスおじいちゃんの居場所に着陸した。


 ええ、上から見たので、一旦尻尾の半分ちょいくらいの所まで引っ込んでいた腐食が、一気に尾の付け根近くまで進行してしまっているのが見えましたね!


 思わず上空から緊急避難的な意味合いで、あたしの中では普通程度の魔力の〈生命賦活〉をかける。

 うん、ちょっぴり戻って、しっぽの付け根辺りが綺麗になった。


 最悪、尾を切り落とす可能性があるにしても、付け根は残しておかないといけないという、謎の技能判定がありましてね?


「え、その魔力量を使って、あの程度、なのですか」

 わたくし、役に立てるんですかね、とトリィが横でおじいちゃんの尻尾を凝視している。


「多分だけど、今回のコレ、役に立てるようになるまで超特訓されるとか、そのたぐいだと思うわ……」

【おうおう、毎度済まぬなあ。同じくらいのをもう二度程貰えるかの】

 籠から降り立った途端に、おじいちゃんから要望があったので、もう二回、緩めにかける。

 どうも急に最大出力でかけるのは今回はだめらしい。


【うむ、うむ。今はこの程度に留めて置いて良い、ありがとうなあ。

 聖女殿には特訓も多少はして貰うが、一応裏技は用意して居る故な、役に立たぬなどと言う事はないぞい】

 おじいちゃんの声は意外とご機嫌だ。さっきまでしんどそうに浸食に抗っていたのにね。


「お久しぶりですメビウスおじいちゃん。今回急に浸食が進行したのはどういうことですかね」

【まあまあ、まずは聖女殿に挨拶をさせておくれよ】

 取りあえず状況を確認しようとしたら、止められた。


 あ、そうか。これも聖女巡行で必要な旅程、なのね。

 場所が場所、相手が相手なので記録されていないだけ、なのか……!


「はい、お初に御目もじ仕ります、真龍の御方。わたくしが今代の聖女を申し付かりました、ベアトリス・ヘンシェンでございます」

【うむ、当代の聖女殿は肝が据わっておられるな。この爺が怖くはないかね】

 そしておじいちゃんは相変わらず発言が時々捻くれる。おじいちゃんだしそんなもの?それはそう。


「雄大で素晴らしい、夜空の如く美しい御姿ですわ。確かにわたくしの心にも畏怖はございますけれど、今は尾の辺りのお加減の方が気になりますの」

 そしてトリィの回答には一切の逡巡も、淀みもない。

 むしろ今までで一番本気になっている、そんな気配すらある。


【ヤグスの言うたこと、成程理解した。確かにこれは、真の聖女よ。我らの世界ではついぞ現れることのなかった、本物、じゃな……】

 そしてマルジンさんも、何やら納得の面持ちになっている。


 そっか、マルジンさん達の世界、本物の魔王と勇者は現れても、聖女はいないまま、だったのか。

 そもそも、その三者は、必ずセットになっているというものでもないもんな。

 彼らの世界でも、勇者は召喚された存在だったのだし。


【ほう、異界出の聖獣か。我の事は大陸では他言無用ぞ】

【心得ておりまする】

 僅かに目を細めたメビウスお爺ちゃんに、マルジンさんが平伏でもしているような様子で答えている。


(いやいや、古き真龍殿は、中々の霊威をお持ちですからな。敬服すべき存在でございますよ)

 念話で解説が飛んで来る。やっぱそういうものなのか。


【さて、聖女殿の挨拶は受け取った故な、今回の事情を話そう。

 其方等の巡行の予定が変更された話は聞いておるね?それにも関わりがある事だ。


 メリサイトの炎神が、片手足を失うた。

 ……我等ですら感嘆するレベルの美しき女を妻にしていてなお、ハニトラに引っかかるとは、粗忽と贅沢が過ぎると思うのは儂だけかのう?】

 そして、おじいちゃんの口からは、よもやの詳細情報が語られた。


「「は、ハニトラ……?!」」

 おおう、ハモってしまった。


 ……あたしがびっくりしたのがそっちなのは、随分と前に愚痴られた事があるあれそれ、っていう事前情報のせいだけど、そんな事情を知っているはずのないトリィまで、そっちに優先して引っかかるのは想定外です。


「いや其方等、国神たるものが身体の一部を失うなどというおおごとの方はスルーか?」

 自分まで本体だと流石に邪魔だろうと化身してくれていたマーレ氏から、彼にしては極めて珍しいタイプのツッコミが入る。

 あふん、反論できない。


「メリエンカーラ様がいらっしゃる時点で最悪の事態にはならないと踏んでおります」

「国神がお二方だからどうにかできているのかな、と。旅程も変更であって中止ではございませんでしたし」

 そしてあたし達の回答はやっぱり被った。そこらへんの認識まで近いのか、あたし達。


【其方等が冷静なのは重畳であるな。

 炎神の手足は、例の阿呆、娘御のいうところのズボラが喰ろうてしもうたようじゃ。

 どうやってあの境界神の隙を掻い潜ったものやら、と思って居ったら、迂闊にも自ら手を伸ばしたなどとは、愚かが過ぎる。

 境界神が辛うじて察知して、全身持っていかれることだけは防いだが……現状では其方等に、決戦もまだなうちに過大な負担をかけることになろう。

 で、儂の尾の状態が悪化したのも、糧を得て、阿呆が活性化してしまったが故、じゃな】

 うわ、国神の治療依頼が来るってことか、それ。


 確かに現状、そう、このおじいちゃんのしっぽの具合を癒す事すらできかねている我々には、神の治癒は、荷が重いぞ……


 最悪、自称勇者様の分体出動まであり得る奴じゃないっすかね、それ。

 というか、フラマリアに戻れって指示は、多分そう言う事だよねえ?


【それでじゃな、今から儂の力でちと空間を歪め、時の流れを変じる故、魔力修行をちーっとばかり、やってくれんかの。余分な魔力の拡散は儂が受けとめるでな】

「腹が減ったら言え。ランズから調理済みの甘味などを預かっている」

 そしておじいちゃんからは、現状だとかなり魅力的な提案、そしてマーレ氏からはちょっと予想していなかった発言が来た。


 つまり、今回のこれはランディさんも承知して、真龍たちの総意で行われる特訓大作戦、ということですね?


「そこまでおぜん立てして頂いたら、やらないという選択肢はございませんわね!」

 トリィも提案にはバチバチの乗り気だし、あたしにも異存はない。


【其方も指導の方法を色々試すのが良かろうよ】

「承知しています。ではそうね、まずは光魔力解放の習熟から進めましょう。漏れてる瘴気の軽減から始めるわよ」

 言われるまでもなく、あたしの指導経験値の不足も問題ですのでね、頑張るよ!


 それにしても、空間属性のないあたしやトリィ、マルジンさんには、空がちょっと暗くなって風が止まったな、くらいにしか検知できないんだけど、どうなってんですかねこれ。


 いや、魔力の膨大な動きは見えるから感覚が余計に狂うっていうんですかね。


 でも、この魔力の動き自体も、かなり参考になる。

 強大な力を繊細に揮う仕草を観察し、読み取り、リサイズして落とし込み、自分のものにしていく感覚。


 トリィも四回目の枯渇と軽食のあとから、魔力の動かし方が変わってきた。

 どうも彼女も魔力の検知が磨かれてきているから、あたしの真似をしているのかな?


 そうして七回のトリィ側の魔力枯渇と、四回の軽食休憩を挟み。


「なんだか普段より効率がいいような気がします」

「魔力のランクが上がったから、称号効果が活性化しているのよ。ここまでで、神々に加護称号を頂いてきたから、全体の能力の底上げも発生しているし」

 トリィの魔力、あとプラス一つか二つで頭打ちになりそうなところまで来たよ!

 ……それでも髪色が変わらないあたり、ヘッセン王家系列の謎法則、強いな……


 なおあたしの魔力称号のプラスも一つ増えた。いやお手本を見せるのに結構酷使しまして……


【うむうむ、よく頑張ったのう。仕上げとして、儂の尻尾に魔法をかけて貰えるかね。二人で組んでやってみると良い】

 そして、空間のずらしは維持したまま、メビウスおじいちゃんがそう指定してきたので、向かい合ったトリィの手を取る。


「天より降り来たる荘厳なる癒しの力を」

「遍く地に満ちる慈愛の癒しの力を」

 あたしの魔力で魔法陣が描かれ、自然に詠唱ワードが口から零れる。トリィも同様の状態なので、かなりいい線きているぞ。


 そこに、外からの魔力がトリィ側にだけ加わる。まああたしに更に外部魔力載せたら流石に過剰だもんなあ。


「その光もて傷者を慈しみ癒し給え」

「その御力にて衰えし命の輝きに新たな活力を与え給え」


「「其は奇跡ならず、〈生命賦活〉」」

 詠唱が完成し、魔法陣が一瞬あたし達を取り囲むように舞い上がると、大きく広がりながらメビウスおじいちゃんの尻尾に張り付く。

 うわ、この時点でまだ魔力使うのか、トリィは大丈夫かな?


 成果の方は、残念ながらあたしが最大魔力で転換版生命賦活を使った時とほぼ同じくらいだ。

 それでも、尻尾の浸食は三分の一程縮小されて、根元の方は随分とすっきりした。


 浸食深度の回復量はさておき、今回のこれで、トリィの称号には大聖女、の文字が加わるはず、なんだけれど……

本来詠唱する魔法じゃないのでこれでも詠唱コードはシンプルな方です。

あとおじいちゃんの一人称は相手への好感度で変わるタイプ。余所行きが我。

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