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556.重なる予想外と想定外。

何でもかんでも予定通りに行くと思ったら大間違い。

 琅環氏族の訪問も無事終了、特に問題のある所見のある人もいなくて一安心だ。

 マッサイトで難民として保護された事のある子と久し振りに再会もした。


 うちのエルフっ子達が王立学院に通っていると言ったらなんか凄く驚いてたけど。

 エルフでも上の学校に行けるのか、と聞かれたので、うちの国では普通に行けるし、多分これからはこの国でも普通に行けるようになるだろう、と答えておいた。


 本来の旅程では、この後あたし達だけで、二日ほどメリサイト国を訪問する予定だった。

 のだけど……


「一旦フラマリア国に戻る、のですか?」

「そうらしい」

 連絡鳥を頭に載せた状態のサーシャちゃんが、トリィの質問に頷く。

 この連絡鳥、ピアちゃんより足腰しっかりしてるな。ピアちゃんだと今の頷き方されたらばたつくけど、この子小揺るぎもしないんですけど。


 王宮の麒麟の園に戻ってきた途端に、この連絡鳥が飛んできたのよね。

 で、訪問団と一緒に帰ってきてほしい、という伝言が付いていたのよ。


「メリサイト国側から、砂漠経由で飛ぶ許可が出なかったそうだ。一度フラマリア国に戻って、これも空路予定だが、レガリアーナ国経由で北側から入国しろとさ」

「あの砂漠を飛ぼうとか、大鷲族じゃ無理だと思うぞ……」

 頭に止まられたのが主な連絡相手だろうと、通りすがりに連絡鳥の通信筒を外してくれたカル君に判定されて、真っ先に通信筒の中身に目を通したサーシャちゃんが答え、それを聞いたカル君が呻いている。流石経験者、問題提起が早い。


「にーちゃん、砂漠の経験あんの」

「おう、十年くらい前だがな、許可を取って飛んだのに、死ぬんじゃないかってレベルで熱いしやたら細かい砂まみれになるしで、酷いもんだったぞ。

 当時の俺は速度任せで突っ切れたが、速度が普通で、しかも羽毛のある種族だとのぼせて落ちるんじゃねえか?

 まあ鱗に直接熱が当たるのも鱗の隙間に砂が潜り込むのも結構キツかったけどさ」


 カル君はさらっと答えてるけど、あたし確かサーシャちゃん達に君の正体、元・龍の王族なこと、教えてないんですけど、通じてますかね?


「あー、炎熱神の影響ですか、確かにそれならまだ寒い地域経由の方がいいかもしれないですねえ……ええ、実際大鷲族は山岳部育ちで寒さには強いのですが、暑さは比較的苦手ですから」

 カル君の言葉を聞いたレンビュールさんは原因の方に思い当って納得顔だ。

 そしてそれを聞いたサーシャちゃんは、そういう場所なのか、と、そっちで納得したらしい。


 でも、本当の理由はそうじゃない。


 実は、ゲマルサイト神に何らかの異変が発生し、彼の影響が最も強く出る砂漠区域は、現在、全ての人と生物を辺縁部に追い出し封鎖中、なのだ……

 植物すらアルルーナさん等に依頼して全て移動させたというから、よっぽどだよ?


 ただ、あたしも異変の詳細は聞いていない。砂漠の上を飛べたものではないらしいのと、最低限の原因の情報だけ聞いたっきりだ。


 不幸中の幸いとして、メリサイト国はメリエンカーラ神とゲマルサイト神の、いわば共同統治の国だ。

 なので、ゲマルサイト神の異変が全ての国土に一気に影響を及ぼすという事はない。


 というか、異変の影響を、メリエン様がその境界の権能を以て、砂漠という一か所に全て押し込めることで、他エリアでの問題を封殺しているのが現状ね。


 尚この情報は秘匿モード一択だ。

 何せ、情報源がね……明かせないからね……


 ともあれ、現状で要請を断る理由もないよね、と言うことで、そうします。とだけ返信を書いて、連絡鳥さんに持ち帰ってもらう。


 その後は指示通り、訪問団の皆さんと再度合流して、王都の外へ出る。

 テイスパス君が待っていますからね。


 そのはずだったんだけど。


 待っていたのは、目立つ翡翠かわせみ色の髪の、眼付きの悪くて耳のちょっと長い美青年、だった。

 マーレ氏、なんでこんなとこにいるの?国神がいない国だから真龍的にも出入りはしやすいんだろうけど。


「やっと出てきたか。娘と聖女、爺の呼び出しだ。あまり時間は取らせんし、安全に往復することを約束する」

 そして出てきた言葉がこれ。国神がいなくても、王宮にみだりに足を踏み入れない縛りはきっちり守るんだね、彼も。


「えー?安全ってどのレベルよ?」

 トリィをこないだのあたしみたいに雑に扱ったらライトレーザーぶっぱじゃ済まないわよ?国際問題になるわよ?判ってる?


「そこは考慮してある」

 珍しく、あたしのダダ漏れ思考に秒で返事がある。マーレ氏って、そういうのは基本聞き流すかすっ飛ばすタイプなのに。


「相当絞られましたね、あれ」

「薔薇のねーさん激しいもんな」

 ワカバちゃんとサーシャちゃんが後ろでこそこそと話しているのを聞き流しつつ、トリィを見る。


「わたくしが必要とされているのでしたら、伺いましょう」

 そしてトリィは自分から、呼び出しに応じると答えた。おおう?


 その言葉が出た瞬間、ふわりと浮遊感。

 やっぱりマーレ氏の転移はランディさんのそれとは、なんか感じが違う。風属性だけを感じるせいだろうけど。


「相変わらずのせっかちぶり」

【今回は爺にあまり余裕がない】

 前回と違って、あたしとトリィがいるのは龍の姿に戻ったマーレ氏の大きな掌の上、そこに載せられた浅い籠の中だ。なかなか器用な事をしているなあ。

 でもなるほどこれなら前回よりは安全かな。

 籠の中には布が敷かれていて、隙間風も来ないようになっているから、前回ほど寒くもない。


「ディスティスがパニックを起こしてなければいいのですが」

 トリィは自分の護衛侍女のディスティスさんの心配をしているし、あたしもそれには同感だ。

 流石にうちのカスミさんは諦めの境地が発動してると思いたい。


【……まあ今回はワシもくっついてきてしまいましたからのう】

 そう、今回はマルジンさんが肩の上に乗ったままだ。


【ぬ、余分がいたのか、うかつ……いや、お主異世界の者だな?なら、よいか……】

 マーレ氏が珍しく自分のミスを認め、雑に大丈夫判定をしてるけど、多分お説教案件だと思うよ?


 いや、マルジンさん自体はあたし的には安心安全だし、情報管理もできる優秀な蝙蝠だから信頼してるし、メビウスおじいちゃんの件が知られても多分問題はないと思うけど、問題を知る耳目は少ない方がいいやつよね、あれ。


「ええっと、転移しながら龍の姿になって、籠に私たちを納めて飛んでいる、ということでよろしいのかしら」

【工程はそれで合っている。地上に直接離着陸すると、風圧で他人に危険が及ぶ故な】

 トリィの確認に、真面目に答えるマーレ氏だけど、実際のところ、彼の場合普段住んでいる禿山が、地面から各種結晶がガンガン飛び出している魔境だから、日常的に本体で離着陸する習慣がないせいでもあるらしい。


 ランディさんを別にすると、島で一番よく化身を使っているのはマーレ氏なんだそうだ。

 化身姿のまま休憩するのは彼くらい、らしいよ。

 これはセレンさんに聞いたんで間違ってるってことはないはずだ。


 そして大陸から直接龍の島に転移するのではなく、本体である龍の姿で飛んで帰るのは、単に真龍の島での決まり、であるらしい。

 出る時はともかく、龍の島を囲う結界を跨いで入る時は、直接転移は原則として禁止、なのだそうだ。


 勿論例外はあって、何らかの理由で時間の猶予がない、などという緊急事態は例外処理される。

 シャカール族をセレンさんが最初に保護した時はそうだったという。


 そういやランディさんも前回すっ飛んできた時は本体で飛んでたっけ。

 昔の褐色エルフ族を連れてきた時も、テイスパス君のワゴンのようにでっかい乗り物を使って空輸したんだって。


 先日シャカール族をハルマナート国やサンファン国に連れ出した時の転移は、島を出る話だったのでノーカンだ。

 彼らの視察旅行の帰宅時には一旦人気のない場所に転移してから、やっぱりちょっと古風なワゴンでセレンさんの本体に運んで行かれたのをあたしも見ている。


 つまり、直で転移されてない段階で、一刻を争う、というほどでもない。

 とはいえ、途中ではっきり知覚できてしまう程度には、メビウスおじいちゃんの状態が良くないのも、事実だ……


 って、ちょっとー?こないだ本人が言うには百年分くらい瘴気の影響、巻き戻したはずよね???

 あの時と同等レベルを超えてるんですが!何があったのこれ?!

城塞にいる時だとサーシャの頭の上にはちょいちょいコルンバ君が載っている。

ふわふわしていて上等な巣の様で落ち着くらしい。

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