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58.第二妃の行方。

敵も主人公も抜け道を通るような話。

 取り合えず解呪自体はできたんだけど、残念ながら、国王陛下は正気には戻らなかった。

 聖女様のも、あたしのも、〈治癒〉をかけても魔法自体が素通りするので、身体が悪いわけじゃないんだよねえ。

 治療が終わっても、ぼんやりとしたまま、ただ虚空を見つめる国王陛下の姿は、あたしにはこれもまた、空虚に見えた。


「父上は、二人の王妃を本当に愛していたから。多分第二妃に裏切られたと感じて、耐えられなかったのだろうな」

 それを見ながら、ぽそり、と王太子殿下が呟いていたけれど、どうなんだろうね。

 あたしには、男心は、判らない。


 当面は、国王陛下は急な体調不良で御静養を取るということにして、国の行事や業務は王太子殿下が代行、ただ、彼も未成年なので、二代前の国王様の弟が分家したという公爵家の当主と、宰相閣下が後見に就く形式になりそう、だそうだ。

 まあそういう政治がらみの話はあたしたちは蚊帳の外。外国人だからね!その程度しか聞いていないし、そこまで聞ければ充分だ。



 でもまだあたしたちにもやるべきことは残っている。乗り掛かった舟ですし。

 第二妃の行方、これがはっきりしないと、中途半端に放り出して帰ることになってしまう。

 っていうか、本来こういうことするはずじゃなかったですよねえ。


「そこはそれ、はじめっから相手側に難があったことだからね。ここに来ることを選択したのはカーラ嬢、君なんだから、君が満足いくように動けばいいんじゃないかい?」

 カルホウンさんは軽くそんな風に言うけれど。どうもなんか、釈然としない。

 うん、今頃になって、なんであたし、もふもふ達と離れてこんなことしてんのかなーって。

 シルマック君は毎日一緒にいてくれて、随時もふらせてくれるけどさー。

 実はジャッキーの召喚、今サクシュカさんに禁止されてんですよ。

 治癒が使える兎とかいう爆弾持ち込んじゃだめですって。

 かといってミモザを呼ぶのも、ジャッキーが仲間外れみたいで嫌かなって思うと踏み切れなくって。

 ああもふもふが恋しいいいいい!城塞に帰りたいいいいい!

 そんな風に思えるようになったということは、大分状況が落ち着いてきたってことでもあるんですがね。事の真っ最中は、流石にあたしもそれどころじゃなかったですもん。


《シルマックさんの事はマメに愛でてましたよね》

 それはそれ!これはこれなの!



 後宮周りと王宮本館は虱潰しに調査済みだそうで、ぽつぽつと建つ離宮を回る。

 そして、まさかの、あたしたちが最初に借りていた離宮に、それはあった。


 まあ、その姿、というか顔かたち、首から上は確かに第二妃だろう。それは確かなんだと思う。

 ただ、これを本人と言って、いいものかどうか。

 どろりと黒く蕩けた、手足の先。それでも立っているその姿は、本来の第二妃より、高い。

 長く伸びた白い首。なんかそんな妖怪いたよな、ろくろ首、だっけ?

 その先にある顔は、特に変化は見られないけれど、全くの無表情だ。

 胴体部分、というか腹の辺りには、大きな穴が開いていて、そこからぎょろりと、得体の知れない白濁した眼が、こちらを見据えている。いやこれ見えてるのかな?そもそも、意思も感情も魂もなくないか、これ?


 第二妃の首が、口を開く。漏れ出すのは、言葉ではなく、呪詛。

 飛んで来るそれを、シンプルに光魔力だけで消し去る。練った魔力を直接膜状に張っているだけなので、実質無詠唱。


「これ、何なんでしょうね?生者でも死者でもない感じなんですけど」

 絶え間なく飛んで来る呪詛を消し続けながら、首を傾げる。どうも、なんかこう、すっきりしない物体。うん、人に尋ねておいてなんだけど、これは物体だ。どうみても、生き物ではない。


「カーラちゃんが判らないのに、あたしに判るわけないでしょう?」

 サクシュカさんは速攻で理解を諦めたようで、お手上げのポーズを取っている。

 カルホウンさんはといえば、無言で周囲を警戒している。まあこれだけ派手なものがあったら、そっちに気を取られる、みたいな定番ネタありますもんね。警戒は大事。


 そうやって呪詛を飛ばしながら、末端からどろどろと溶けていく第二妃だったと思われるもの。

 その呪詛を全て受け止め、消滅させるあたしの光。

 はなっからスッカスカのヌケガラめいたなにかだったそれに、大した時間は残されていなかった。

 それにしても随分悪趣味な形だな、と思いつつ、一気に浄化していく。

 む、この目ん玉、抵抗するというか、光属性に対抗してくるな?魔物みたいだ。


 あ、まずい。


「〈結界〉」

 咄嗟に結界で元第二妃だった何かの方を覆う。


 ばきん!とでかい音がして、結界にひび割れ。うわあ、とんでもないトラップだった……


「え、嘘、属性吸収爆破トラップ?あれってアスガイアの時に禁止されて、作り方、もう封印して残ってないんじゃないの?しかもあれ光吸収ははなから存在しないんじゃ」

 サクシュカさんが呆然と呟く。ほうほう、トラップとしては前から存在しているものなのね。


《えー、〈書庫〉よりお知らせです。今のはサクシュカリア様が言うトラップとは別物です。吸収されたのは光属性ではなく〈浄化〉のみです。というかあなたなんで〈浄化〉が使えてるんですか、あれ神様との契約がないと使えないはずですよ》

 速攻でシエラに突っ込まれた。

 まあ、今浄化が使える理由は簡単で、話を纏め解決せよ、って国神様の依頼を受けているせいで仮契約状態になっているのよ。相性が絶対的に良くないので、本契約にはならずに任務達成と同時に消失するやつ。


《そんな抜け道があったんですか……》

 シエラの声がちょっと呆然としている。まあそうよね、あたしもこんなことができるのは、ぶっちゃけさっきまで知らなかった。

 まだ話を纏めている役を振られているなって思った時に、やっと気が付いたのよねえ。


「なんか属性じゃなくて浄化の力だけ吸われたみたいですね。国神様の依頼を受けてて、今ちょっとだけ浄化が使えるんですけど……」

 素直にそう答えたらサクシュカさんに三度見くらいされた。解せぬ。


 結界を解除したら、第二妃だった何か、は、一束の髪の毛だけ残して消失していた。

 あー、これを触媒にしてなんか寄り憑かせてたのかー。そりゃ魂とかあるわけないね!

 あれ、ってことは、つまり、本当の第二妃自身は、まだ生きている?


 なんだろう、軽くやらかした感があるぞ。国王陛下や王太子殿下、大丈夫だろうか。

 そもそも、どれだけ邪悪であろうと、魂そのものがあたしの〈消去〉で消えるってのも、考えてみればちょっと変なのよ。魂の扱いは、あくまでも神、いえ、世界の領分なんだから。


「これは生きた実体ではなく、かつ、第二妃自身でもなかったということでいいのかな?」

 カルホウンさんが確認してくるのに、頷いて返す。

 多分あたしたちを足止めするための罠だろう。問題は、本命がどこにいるのかだけど。


 ぴい。

 突然シルマック君があたしの服のポケットから顔を出す。さっきまで寝てたんだけど。

 紡がれたのは、いつもの風の魔法陣。

 ふわりと飛ばされた微風は、床に落ちた髪の毛をずらす。


 何かと、目が合う。


「〈結界〉!〈消去〉」

 咄嗟に紡ぐ魔法。ぎりぎり、間に合った。〈消去〉のほうは、まさかのレジストだ。まあ魔力練る時間が足りてないので今回は仕方ない。というかこれは呪物なんだろうか?魔物なんだろうか?魔物なら、〈消去〉は多分効果がない。使うのは〈ライトレーザー〉だ。

 浄化は……使って判ったけど、これを使うと力を借りてる神様との親和性が上がってしまうらしい。あとあとの事を考えると、今のあたしは乱用しちゃいけない。

 ガツンどかんと、大音響と共に結界にぶつかる闇色の何か。


「おおっと」

 同時に背後から飛んできた別の何かも結界が弾き飛ばし、軽い調子でカルホウンさんが全力の威圧を発動する。


「おや、こちらもヒトではないのか、屋内に居られるサイズの奴に威圧が効果ないのは久し振りだねえ」

 うへ、なんだかカルホウンさんが楽しそうに目を金色に光らせております。いや待って、化身はなしだぞ化身は!建物が!壊れる!


「ホウ君化身はなしよ!あんたが外回りに出されない理由、覚えてないとは言わせないわよ!?」

 サクシュカさんが慌てたように叫ぶ。

 大人しいというか、落ち着いた大人っぽさがあると思ってたんだけど、カルホウンさん戦闘になるとネジがすっぽ抜けるタイプですかもしかして?!

はいはいバトル回スタート。

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