553.第五次聖女巡行、開幕?
フラマリア王が初めて本格登場のはずだったのに。
フラマリアでタコパのあとは、一旦ハルマナート国に帰還だ。
なにせ、秋の繁忙期だ。あたし達にも地元ベネレイト村でのお仕事がありまして!
幸い去年と違って、あたしが出動するような大きな怪我をする人は、近隣の村を含めてもいなかった。
遊んでいて兎の穴に躓いてコケて捻挫した子供が一人いたけど、骨は無事だったし。
これなら、割とさっくり次の旅程に移れますね。
まずはヘッセン国から、海路でフラマリア国に向かう。
これは今回もオプティマル号での旅になった。
フラマリア国のカレントス港に到着して一泊したら、そこからは空輸ワゴンの旅だ。
今回もテイスパス君がちょっぱやで運んでくれたよ!
但し、この国で最初に向かうのは神殿ではなく、その手前にある王宮の方だ。
うん、あたし達もフラマリアの王宮は初めてですね!
それというのも、この国の国神、ケンタロウ氏は異世界人とはいえ、人族出身だ。
うっかり人族に加護を出すと、相手を引きずってしまうから付けられないのだと、前回の訪問で告白されましたよねー。
あたしに彼の加護称号が付かないのも、そのせいなんだって。
……自分で言うのもなんだけど、あたしクラスの巫覡の才があってなお、下手に称号を投げられないってことは、まず正規の巫女が置けないし、殆どの人には加護を出せないよねえ。
舞狐族とかの人外種には出せると言っていたけど、なかなか不便そうね。
なので、この国では神殿詣ではするけど、その実態はたい焼きパーティだ。
それが先方の王様にバレちゃったので、先に王宮においでくださいって言われちゃったんですよねえ!
なおバレたのは自称勇者様のやらかしだ。
末の王女のモリリアナ様に、君もたい焼きパーティ如何ですかって誘っちゃって、日時から芋づる式に我々の早めの到来がバレたという。
こっちも大雑把な日程は提出するからある程度はバレ覚悟だし、ちゃんと王宮に立ち寄る予定も最初から入れていたけど、時間までは書かないから先にたい焼きで平気だろって思ってたらコレっすよ……
というわけでだ。
「ごめんなさい……降嫁されているオーガスタ姉さまになら、たい焼きパの話、喋っても平気かと思っちゃって……」
王宮の入り口で、まず真っ先に、出会った頃のリミナリス殿下よりちょっと甘めの顔立ちの美少女に謝られるあたし達です。
「ええーっと、モリリアナ殿下、でしょうか?」
「あっはいそうです!そうでした、初対面でしたわね、重ね重ね、大変失礼いたしました。ケント四世オレスタスの末娘、モリリアナでございます」
なるほど、ちょっと軽くておっちょこちょいな所がある、とリミナリス殿下に聞いていた通りの方ね。素直でかわいいなあ。
モリリアナ殿下の案内で、王宮内を進む。
王女様自らの道案内、というか……情報漏洩は宜しくないねえ、という親の判断での罰で、普通はやらないことをさせているらしいのだけど。
……我々、罰ゲーム扱いか?と思わなくはない。
「おや、カーラ殿、お久しぶりです」
途中で、何やら大荷物を抱えたレンドール殿下にも遭遇した。
「お久しぶりですレンドール殿下。その後いかがですか」
「おかげさまで、なんとか順調ですね。マリエちゃんの成人が待ち遠しいです」
爽やかな笑顔でそう述べるレンドール殿下には、全く何の問題もなさそうね。よきよき。
「ねーさんここにも知り合いいるの……」
アスカ君が軽く引いた顔してるけど、スルーだスルー。
「レンドールお兄様が他国で随分とお世話になったそうで……」
モリリアナ殿下もある程度兄の婚約にまつわる話は聞いているらしく、ちょっと困り顔でそう聞いてきたので、まあちょっとばかり?とだけ答えておく。
案内されて辿り着いたのは、謁見の間ではなく、私的な面会に使う部屋だそうだ。
「皆様、ようこそフラマリア国へ。王を拝命する、ケント四世オレスタスと申します」
紫がかったようにも見える褐色の髪に少しばかり白髪の混じる、髭の美丈夫が部屋に入るなりそう挨拶してくれる。せっかちだな?!
「ハルマナート国の従軍治癒師、カーラと申します」
まず挨拶するのはあたしだ。
何故かって?今回この王宮に招待されたのは、あたしだからでっす!
「先日の娘の出産では随分と御手を煩わせたと伺っております。貴方のお陰で、母子ともに無事に済んだ、とも。今回は是非その礼を申し述べたく、ご招待させて頂きました」
うわあやだよやだよ、王様に敬語使われてるよあたし!!
流石にそれはちょっと!異世界人三年ルールとか以前に!問題ありでは!
「貴方、いくら異世界生まれの方が相手とはいえ、王たるものがそこまで下手に出るのはやりすぎでしてよ。
確かに今日は私的な面会で、謁見ではございませんけれど、答えに困っておいでではないですか」
そう隣の王を窘めて座らせる、濃いめの金髪だったものの半分ほどが白くなった女性が、どうやらファラリエ王妃のようですね。
ええ、本当に貴方の言う通りなので、王様、自重して?
「む、いや、その、済まぬ。クロエ殿のレポートが余りに壮絶であった故、つい」
「確かにわたくし達の想定を超えるレベルの内容ではありましたけれど……」
うわ、クロエさん相当詳細にレポート書いたんだな……
「……そういえば一週間くらい帰ってこなかったけど、そんなに凄かったの?」
「あたしが行った日の朝イチ出会い頭に産気付いて、出産が最終的に深夜っていうかほぼ夜明け?」
「うわあ」
サーシャちゃんにひそひそと囁かれたので、こちらもひそひそと返す。
「わたくしも同行した方が良かったのでしょうか……」
「正直、いてくれたらな、とは思ったわ。幸いなんとかなったけど」
いや実際には、トリィは公務があったんで連れていけなかったんだけどね……
その後は非公式の謝礼と、そのついでのように、この後のサンファン国行きの日程と人員構成を説明された。
今回のサンファン国行きは、公式にはフラマリア国からの訪問団に随行する形となっている。
なのであたしの名前が一番先に出て来る形なんですよね。
正使が第二王子オルスモード殿下、これは結婚式の時にリミナリス妃殿下の介添人を務めた繋がりね。
副使が宰相補佐のボーデラン伯爵。このお二方を中心として、随員を含めると総勢十五名の訪問団だ。
この随員にはクロエさんも含まれている。一旦休暇で帰国していたんだけど、今度はアデライード妃殿下のご出産が近づいてきたので、再びサンファン国に戻るとのこと。
で、あたし達は前回の実績を買われて、クロエさんの同僚扱いで随行、というのが今回のシナリオですね。
この随行枠というのは、当初からの一応の予定ではあった。
ただ、あたしがちょっと頑張りすぎたというか、割とガチめにリミナリス妃殿下の出産案件で活躍しすぎたので、王家側が割と本気になっちゃったっていうか……
治癒師としての引き抜きを受けて秒で断りましたよね。
聖女様本人じゃなければ勧誘してもよかろう、じゃねーんですわ?
なお発言した王様本人は速攻で王妃様にシメられていた。
……え、物理で行くんだ??
早々に退出して神殿に駆け込んだら、また自称勇者様に平謝りされた。
いや子孫だからって貴方に謝られる案件ではないと思いますよ、あたし。
「いやあ、エレン嬢があっちに行っちゃったのが予想外に不満だったらしくてさあ、あいつ」
たい焼き用の鉄板を設置しながら、自称勇者様が言い訳している。
あいつってのが国王様なのは、まあ国神様の方が偉いし、ご先祖様だからね。
「ひょっとして、収納魔法に結構頼ってた?」
「頼ってたというか、僕がお使い頼むときに便乗してたらしいんだよ。勿論僕もあっちも、ちゃんと報酬は出してたんだけど」
セッティング完了して火を起こし、新品の油引きで型にほんの少しだけ油を塗りながら、サーシャちゃんが質問するのに、困り顔で自称勇者様が答えている。
「そういえば、今代は、刺身をことのほか好んでおったな……」
こちらは生地に使う卵をかき混ぜながら、ランディさんがちょっと遠い目をしている。
確かにこのアフルミアって海からはまあまあ遠いから、刺身にできる魚は、氷魔法持ちか、収納系魔法持ってる人に頼むんじゃないと、そうそう手に入らないよねえ。
会話の内容はしょっぱめだったけど、たい焼きパーティ自体は大盛り上がりでした。
さつまいも餡がちょっと気に入ってしまって食べ過ぎたよね。
明日は速攻でサンファン行きだから、早寝しましょうねえ。
ガチめで王様が残念にしか見えない(※公的には極めてまともな人なんだが