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551.第四次聖女巡行。

忘れた頃に例の果物の話。

 さて、サンファン国での用事(なつやすみ)も大体済んで、再び聖女巡行だ。


 サンファンでは、ほぼ一か月丸ごと過ごす感じになった。

 夏休みというか避暑というか、前半は結構のんびりしてたんだけど、結局エルフの琅環氏族や、これもあっさり許可が下りた、アスカベ村の人達の移住の為の新規居住地の選定に駆り出されたり、候補地の汚染状態の除去作業をカナデ君共々請け負ったりした結果、またツケ払いが増えたりはした。


 汚染物質が浅い場所に埋まっているなら、カナデ君の提唱したやり方で綺麗さっぱり処理できるのは確定した。


 だけど焼かないと逆に汚染を拡散する可能性がある、というのが彼の結論だ。

 必要な火力が人族の火上級だとちょっと怪しい感じなので、超級魔法師か上級以上の聖獣格じゃないと厳しい、つまりコストが割とヤバい感じですね。


 この結果は一旦秘匿することにした。あたしの研究じゃないし……

 ……もしかして、火属性じゃなくて闇属性、腐敗でいけばいいんじゃないの、と思ったのでそれだけは伝えておいた。後日『百年の廃墟』辺りで改めて実験する予定だ。



 で、月が替わっての今回の聖女巡行は、まずは陸路でヘッセン国の南の端にある、とある村を訪ねる。

 まあここはただの経由地だ。大鷲ワゴンが降りられる広場のある村が、国境近辺だとここしかなかっただけね。


 ちなみに、ここから東南方向に向かって真っすぐ国境を超えていくと、酒飲みだらけのヘレック村がある、そんな立地ですが隣国なのでこの村には無関係。


「やあ、カーラさんお久しぶりです」

【やあやあ。お空のワゴン予約便へようこそ!】

 既に到着して待っていてくれたのは、フラマリア在住の上級召喚師である、『魔導士』レンビュールさんと、彼の契約相手の大鷲、テイスパス君だ。


「はじめまして、トリィです。宜しくお願いしますね」

【よろしくねー!綺麗なお姉さんを乗せるのは嬉しいな】

 テイスパス君、割とそういうヨイショもするんだよね。人付き合いに慣れている。


「おー、立派な大鷲だなあ。まだ生き残りがいたんだね」

 アスカ君はそんな風に言う。多分最後の方にライゼルの属国になった国には、一度くらい足を踏み入れた事があるのだろう。


【兄弟も三人いるよ!野郎ばっかりだから末代って奴だけど!】

 大鷲たちの故地はディアバンドだと聞いている。確かケット・シー君達が最初に住んでたのもそこら辺だったかな。

 要するに、昔はメリサイトの隣国だった、現ライゼル国の最南端だ。


【ケット・シー君達が先に逃げ出して、人族に状況を教えてくれたから、ボクらの卵だけでもって回収してくれたパパさんがいてね!お陰で四兄弟だけ無事に成長できたって訳】

 当時決死の覚悟で卵だけでもと回収しに行った召喚獣斡旋業者さんは、彼らにとっては育ての親で命の恩人だ。

 今でもパパさん呼びして家族づきあいしているのだと前回会った時に聞いている。


 そんなテイスパス君の運ぶワゴンに載って、お空の旅だ。


「まあ、ちっとも揺れませんのね!」

 トリィが感動の面持ちだ。そうでしょうそうでしょう!この子ほんとベテランだからね。


「テイスパス君はベテランさんですからね!風魔法の使い方が本当に上手いのは種族柄もあるんだろうけど、兄弟の中でも一番上手いと弟君も褒めていたんですよ」

 レンビュールさんはテイスパス君の兄弟とも顔見知りだ。

 というか、契約するにあたって全員と面談したらしい。そのうえで彼を選んだと。


 例によって、我々は窓の外を見るのは禁止だ。ヘッセン国内だけは大丈夫だけど、今回はすぐに国境を越えてしまうからね。


 ヘッセン国を飛び立つと、フラマリアとオラルディの国境の上を飛んで行く。

 基本的に山続き、後半、オラルディを離れてマッサイトに近い側になる辺りだと、湿地帯が見える場所もあるかな、という感じのはずなので、余り見どころもないはずだけど。


 快適なお空の旅の終点は、王都カルムナエではなく、神殿の街、ティサニクだ。

 以前サンファン国視察団を結成した、当時は折れた樹木を片付けて軽く整地しただけの更地だった場所が着地点ね。


 但し、もうずいぶんと開発が進んでいて、新しい旅館やお店の建物が増えて、街路も整備されている。

 参道沿いでは手狭になってしまった旅館が主に移転進出しているらしい。


 更地時代の半分くらいの広さのある、防災広場として再整備された石畳の上に、ワゴンがふんわりと着地する。


「凄い、こんなに短時間で着いてしまうんですね……」

 朝イチに辺境村を出発してから、まだ夕方にもなっていない。

 テイスパス君、意外と速度出るんだよねえ。


 流石にお昼御飯はワゴンの中でサンドイッチで済ませたけど、そろそろ小腹が空いてくる頃合いだ。

 この時間だと、屋台は売り切れ御免の所が多い。その代わり、神殿からの仕事帰り勢向けの、御夕飯のテイクアウトや、お惣菜を売る屋台がちょこちょこ出て来る。


 蒸し饅頭、というか我々の認識でいうところの中華まんのお店ができていたので、そこで寄り道しておやつタイムだよ!


「お、なかなか良く出来てる。うめえな!」

 塩味肉まんを食べてサーシャちゃんがにっこりだ。


「膨らみ加減もいい感じですね。小豆、この辺りでも穫れるんです?」

「去年くらいに入ってきて、爆発的に流行った奴だよ!以前は赤いのはササゲ餡でちょっと粒がでかいってんで、漉し餡ばかりだったんだがねえ。

 このチュウカまん、って奴は、神殿勤めの連中から、外国の客人が食べてた旨そうなふかし饅頭があるから再現してくれって頼まれてね。

 幸い神殿の古い外来レシピ集に載ってたんで、それを再現したものになるんでさあ」

 つぶあんのあんまんをほおばるワカバちゃんに、店主さんが教えてくれる。

 流石国神様が植物を司るだけあって、流行るとあっという間に普及するのね、この国だと。


 そして中華まん系統が進出したの、コムサレンさんとランディさんが発端だった。

 ……いや、予想は、してた。


「そういえば神殿饅頭とか、白あんと漉し餡だったわね、あれも美味しかったけど」

「そっちもハルマナートの黒砂糖を使った餡とか、つぶ餡とか種類が増えてるんで、是非試してやっておくんなさい、流石に今日はもう遅いから明日の話になっちまいますが」

 店主さんにお勧めされたけど、明日は屋台食べ歩きするのは、最初から予定していたりする。

 勿論そんな裏話はしないで、素直にお礼を言いますけども!


「前回来た時よりラインナップ変わった店多そうだな……」

 サーシャちゃんは女神様案件で何度かここ、ティサニクを訪れている。

 その時とも店の並びがいくらか変わっているそうなので、期待すべきでしょうかこれは!


 翌日は朝から神殿に詣でて、マーサ・ティルデ女神様との面談です。

 まあ聖女様の面通しも早々に切り上げて、バナナの話になったのは草生えたけど。


「……なんか歴代の異世界人でも有数の神々のこき使いっぷりでは?」

 アスカ君の感想が、酷い。


「ウィンウィンだぞこれでも!

 ……しかし甘味種より先に主食用プランテーン型の温帯適応が来るのは想定外だなあ」

 アスカ君の感想の主犯であるサーシャちゃんは、試作品として出された、皮ごと焼かれたバナナを試食して唸っている。


「これも栄養価は高いですし、おやつになるほど甘くないとはいえ、簡単な加熱で主食にできるのは良い事ですよね。ただ、この形状のまま甘くしようとすると、何故かうまくいかないのですよねえ」

 マーサ・ティルデ女神は本日も分体を出しておられる。

 まあ試食の話になると実体があった方がいいので、そこは仕様だ。


「そうねえ、このサイズだと主食用には物足らないと思いますから、大きさを改良したプランテーン種と、これより少し小型になってもいい甘味種に分岐させるのがいいんじゃないかしら」

「なるほど、ここで二系統化ですか。悪くない案ですわね」

 ワカバちゃんの提案に頷く女神様。


 あたしの元いた世界には主食用種はなかったっぽいけど、あちらだと今出されている、サーシャちゃんが以前収穫して来たバナナとほぼ同サイズのものより、長さ重さが倍くらいの主食用種があるんだそう。


 せっかくなので、トリィにもサーシャちゃんの在庫のバナナを食べてもらった。


「ああ、甘いですね……でも種がない。

 僭越ながら、この世界でこのレベルの安定をさせるなら、最低でも先端か元の方に種子を配置しないとダメな気が……?」

 トリィ曰く、この世界に、種なしの果物は基本的に存在していない、のだそうだ。


「やっぱりそうですよねえ。例外を作れないかと勘案していたのですけど」

 女神様もそれをあっさりと認めた。


「食べる時に容易に取り除ける程度なら、あっていいんじゃないかなあ」

 サーシャちゃんも、種の存在には肯定的だ。


 そんなやり取りの結果、マーサ・ティルデ女神からのトリィの称号は、加護じゃなくて友誼が付いた。やったね!


 方向性がしっかり決まったから、来年にはリリースできそうだ、との女神様の言葉に期待が膨らむ我々であります。

結局マッサイトも食べ物の話しかしない程度には平和。

あと巡行が超短縮バージョンになったのは、そろそろ大鎌が振り回される農繁期で、地元待機が必要だから、という切実な理由もあったりします。

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