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550.琅環氏族、到着。

一族ほぼ総出でやってきた人たち。

【ではー、裏山に居られる大きな神様にも、ちぃと御挨拶してきますかのー】

 モトハクさんがそう言うので、あたしも偶には直接挨拶するかー、と一緒に裏山に出る。

 当然皆もぞろぞろと付いてくる。


「大きな神様って、こんなとこにフリーの神様いたっけ?」

 アスカ君は首を傾げる。そうねえ、百年引き籠りならここ二、三年の事は当然知らないよね。


【主の坊も、時折国境伝いに歩いていた、どでかい狼の御方は知っておろう?あの方がこの地で神の座を得たというのでなあ】

【とうさま、狼のおじさまを御存知なんですね】

 どこからどうやって情報を得ているのか、モトハクさんがアスカ君に答え、ぴょこん!と麒麟くんがびっくり顔で耳を立てる。うむ、かわいいな!



〈おお、久しいな、皆。随分と遠方からの客ではないかね〉

 お、今日のレイクさんは巨大バージョンか。見上げる高さから声がかかる。


「お久しぶりです!ここ暫く訪問しても直接お会いするまでの時間がなくって」

「ほんとだ、でっかい狼の旦那じゃないか……なんでこんな場所で神様なんぞに?」

 取りあえず挨拶するあたしの後ろで、アスカ君がびっくり顔だ。

 そっか、レイクさんと顔見知りではあるんだな、彼も。


〈まあ、我が身内絡みでも色々あってな。だが、そういう其方も不老不死を失っておるではないか、何かあったのかね?〉

 レイクさんの方も、アスカ君のことは知り合いとして認知していたようで、そんな話を振ってくる。


「うん、そっちのねーさんに呪いを解除して貰ったんで、要らなくなったからさ。モトハク爺さんにあげたんだよ。爺さんの不調も治してもらったしね」

〈ああ、確かに治癒師としても巫女としても腕が良いからな。我も甥共々、随分と世話になったものよ〉

 アスカ君のざっくりした説明に、あたし絡みだと知ったレイクさんはさもあらん、と頷き、しゅるる、とノーマル狼の二倍程度サイズに縮む。


「甥?」

「ここの元四聖の白狼さんの旦那さんがレイクさんの弟さんだったのよ、だいぶんと前に亡くなられたそうだけど。甥ってのはそこのお子さんね」

〈白狼のも、ようやっと子の自我が確りしてな、暫し前に魂が去っていったよ。己の知識と記憶をある程度預けて行ったようで、それを馴染ませるために今は眠っている〉

 ああ、白狼さん、天に還ったのね。

 それはそうか、ずっと居座っているのは子の精神や魂には、良くないものね。


大神おおかみ殿と成りましてからは初めてお目にかかりまする。我が子が随分と世話になりましたようで】

〈ほう、其方が麒麟の坊の父であったか、それは知らなんだ。遥かなる遠地からの我が子との再会、目出度いことであるな〉

 モトハクさんはそう挨拶し、レイクさんもうむうむ、と、嬉しそうに頷く。

 麒麟くんも隣でにっこにこだ。


 多分モトハクさんは当分はここで麒麟くんのサポートに励むことになりそうではある。

 言われてみればなんか権能っていうか、やれることが麒麟くんとよく似ていてですね?


 その日はその程度の会話で引き上げる。翌日のエルフ集団との面会にも付き合えと言われたのでお泊まりですよ!



 翌日は薄曇りの中、裏山に集合だ。


「そう言われてみれば、なんか山中にエルフがいること、あったような……」

 元のお前の管理地の話だろ、と、カル君に背中を押されてやってきた黒鳥が、隣で首を傾げている。


 拗れた譲渡術式のせいで、記憶がボロボロに欠けている彼でも、管理地内でエルフを見かけることがあった、くらいの記憶は辛うじてあるらしい。


「現状のキミだと、それを思い出せただけで上等だわね……」

「うん……でも時期とかどんな状態だったとかは全然思い出せないや」

 早々に諦めの境地に至っている辺り、相変わらずだな、などと思う。


 待つこと暫し。

 軍の走鳥さん部隊に先導され、狼達に護衛されながら現れたのは、確かに全員が濃淡こそあれ、緑色の髪のエルフ集団だ。

 後ろには牛山羊なんかの家畜と、ムフ鳥が続いている。あっちの里にもいたんだ。

 ってこの牛、随分ともっふもふだな?


「おー、服装からしてなんか違う」

 滅びた方の隠れ里である程度暮していて、彼らの習俗にもある程度通じているカナデ君は服装にまず目を付けた。

 あたしはそっちの住人は奴隷商人にまともな服を奪われてからの子供たちしか見てないので、判定のしようがないけど。


「ええと、多分だけど、氏族自体が違うって感じがする」

「うちの里だと、緑髪って三分の一いるかどうかだったもん」

 エルフ絡みだから、いてくれるとトラブルが減るかな、と連れてきていたエルフっ子達も、彼らは系列からして別の集団だと認識している様子。


 まあ推定される居住地が、国のほぼ反対端同士だもんなあ。


〈招きに応じ、良く来てくれた。我は……大口真神という号を持つ、狼を統べる者だ〉

 本日は最大サイズの半分くらいの大きさで立っているレイクさんがまず挨拶する。

 それに対して、全員で平伏するエルフ勢。


「狼神……大口真神様。この度は、我らのような者に目をおかけ下さいまして、誠に恐縮でございます」

 先頭を歩いていた若い女性がリーダー格なのか、平伏したまま挨拶が返される。


〈頭を上げるがよい。拝礼されるために呼んだ訳ではないからな。

 そもそも、我は歩けるもの皆で来い、とまでは述べておらんのだが……〉

「畏れながら、里の民を挙っての移動になりましたのは、真神様の御威光に縋りたいものが多かったが故にございます。

 この国の人族からの圧こそ急激に減りましたが、細々と交易していた他国の民も寄り付かなくなってしまい、生活が些か苦しくなりつつございまして」

 続けて出てきたのは、割と想定外の言葉だった。

 こっちの隠れ里は、きっちり隠れ切ってたわけじゃないのか。


 詳細を聞いてみたら、この琅環氏族の里は、マイサラス国の、とあるエルフ氏族と細々と交易していて、それで山では確保しづらい穀物を仕入れていたんだそうだ。


 ……争乱時に発見されなかったのは、そもそもサンファン側に降りる道自体が、急峻な崖に阻まれて存在しないからだそう。

 そういや保護された子達、崖崩れがどうこう言ってたって子供たちから聞いたっけ。


 マッサイトに保護された子供を迎えにこれたのは、マイサラス方面から山を北から西に大回りしたんだそうで、後ろの集団に見覚えある、でもうちの子くらいに成長した子の姿が見えた。


 そして、現在のサンファンに危険はない、というのを説明されると、彼らはそれならもうちょっと平らな土地に住みたい、と口にした。


「もともとカレルレン様の守護地は、畑を作るのには余り向いておりませんでしたから、狩猟と交易を主としてきたのですけども、我々も本来なら農耕に向いた属性を持っておりますから、農民への転向に抵抗はないと自負しております」

 そう語る琅環氏族の長、シェーンベレラさん。


 ……カレルレン、ってどなた?


 全員同じ疑問を持ったらしくて皆で見回したら、黒鳥が固まっていた。こいつか?!


「……おもい、だした。

 そうだ、エルフはこの国では住みづらいだろうからって、加護をやった、気がする……けっこう、前だよな」

 ややあって、口を開いた黒鳥は、シェーンベレラさんの言葉を肯定した。


「ええ。カレルレン様、お加減が悪いのですか?」

「体調は別に悪くないが、神罰やら呪いやらあれこれあって、今は聖獣とすら言えたもんじゃないし、記憶のかなりの部分を喪失している。呼ばれるまで真名すら忘れていた始末だよ」

 心配そうなシェーンベレラさんに、苦笑で答える黒鳥。


「でも、ありがとう。君らに名を預けておいてよかった」

 俺の為にそうしたわけじゃないけれど、と呟く黒鳥。その声音は、不思議と安堵の色が大きい。


 その後は話し合いの結果、耕作できそうな土地を西領で見繕う方向になった。もともと黒鳥の管理地だった辺りね。


「西領は国内でもやや山手で、森が多くて人族はやや少ない土地だったから、王都周辺や北領に比べたら、耕作適地が多く残ってる。

 人族は王都周辺で集中管理するしかないくらいに減ってしまって、西領からは全員引き上げているんで手つかずの状態だし、君らの人数くらいなら入植可能だと思う」

 行政府も、土地の状態調査は最初の一年で、他国からの調査団の手も借りつつ、きっちりやったという。

 黒鳥自身も、それなりに調査に駆り出されたりしていたようで、その言葉によどみはない。


「土中まである程度焼いてから分解かけて耕転かけたら、多少マシになるんじゃないかなあ」

 カナデ君は埋まったものを燃やす火力があればどうにかなる、と仮定している様子。


「その火力を出すのが難しいんじゃないの?」

「まあねえ。僕もできなくはないけど、流石に真龍の火力には及ばないから、時間かかるかなー、多分」

 そこを突っ込んだら、できなくはない、という回答だった。


 カナデ君もだいぶんと人間枠から外れかけてるなあ……

 忘れていた物を取り戻したので、今後の黒鳥はアホの子から大分脱却しますが、暫く出番はない。

 西領は全人族引き上げ、南と東はそれなりに年寄りが残ってて、北領は水害でほぼ無人。


次回から巡行に戻るよ!

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