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538.『百年の廃墟』。

……ホラー回?

「うーん、家財道具、なしかぁ……この辺りで荷物を持った状態で雨露を凌げるような場所は、『百年の廃墟』しかないと思うんだよねえ」

 フェアネスシュリーク様がどこか嫌そうにそう指摘する。


『百年の廃墟』とは、アスガイア侵攻時に滅ぼされた二つの街の総称だ。

 因みに最初に廃墟の呼び名に年数が付いたのは、侵攻から四十年程経った頃のことで、それ以降、数字の部分は二十年ごとに改訂されて、数年前に百年の大台に乗った所、だそうだ。


 そうね、あたしの技能も、その廃都市に、ここの住民がいる、という判定だ。


「えぇ……じゃあ、そいつらも十中八九、人間やめてるんじゃ」

 アスカ君も、これまた嫌そうにそう述べるけど。


「んー……技能判定的には、一応生きた人間もいる感じよ?」

 確かに魔物化している元人間もいるようだけど、先にその場所に逃げ込んだ、マトモな人間もいるっぽい?


「真っ当な人間が生き残ってるなら救出に向かうべきだな?」

 サーシャちゃんが確認してくるので、全員が頷く。


「まず偵察ですかね、〈召喚:星隼ラナーシュート〉」

(はろーはろー!マスター、今日の御用事は?)

「偵察だねえ。魔物化した元人間に、普通の人間が追われているようでね」

 まずフェアネスシュリーク様が可愛らしい顔つきの、濃い青地に白い斑点を持つ翼のハヤブサを呼び出して、偵察に出す。


【ではワシも行って参りますぞ】

 続けて、隠蔽に長ける、うちのマルジンさんが飛び立っていく。


 キャンプ地はアンデッド発生地になってしまったので、一応光魔力相殺で瘴気の影響を消しておき、我々も出発です。


 この、百年前に滅びた都市は、ギレバルという名の、結構人口の多い、国境近くの交易都市のひとつだった。主にアスガイア方面に穀物を輸出していたんだという。


 もう一つ滅ぼされた、今いる所からはより海側に遠い、ホルカットという街も、アスガイアとの交易を主に行う都市だった。

 こちらの方は川を使って、レメレ方面や海外とも取引を行う商業都市だったそうだ。


 まあどちらも、住民を全滅させられて、その後誰も、盗人ですら碌に近付こうとしない廃墟になっているわけですけれども。

 この廃都市は、初期にはアンデッド、その後も魔物が極度に出やすいという特性を持ってしまったために、最終的に人はもう住めない、と判定されたので。


 今回、この廃墟に妙に近い所に難民キャンプが設定されたのは、他に場所がなかったからだ。

 彼らは緊急避難的に救助された人々で、移民の意思があるわけじゃないって判定された事もあるんだけども、どうも、差別思想をいまだに持った人が含まれていて、この国の都市部は勿論、一般住民のいる地域には置けない、という判定だったらしいんだ。


 いっそそういう人達を分けてしまうという案もあったのだけど、これは難民側のほぼ全員が拒否した。

 理由までは聞いていないけど、異郷の地で少ない人数を分けたくないという意思がベースにあったのも確かだろうけど、それ以外にも、多分思想の強い人に引き摺られてたんじゃないかな、と感じなくはない。まあこの段階では只の憶測だ。


 幻獣車が停止したので降りる。

 廃墟内部の道は、経年劣化で崩壊した周辺建物も多くて、瓦礫だらけで車では通れそうにないそうだ。


 今日の幻獣車を牽いてくれているのは、白地に赤い縞模様を散りばめた羽根を持つ、二頭の羽毛竜さんだ。

 彼らは戦闘能力もある上級種だそうで、軛からは一旦解放して、停車した幻獣車の護衛に早変わりだ。


(生き残りは見つけましたぞ。廃屋の一つに逃げ込んだところで物理的に床が抜け、追っ手からは逃れられたものの、彼ら自身も脱出できないようで)

 マルジンさんから念話が届く。という事は余り奥の方ではないわね。


「生き残りはいちおう魔物からは隔離された場所にいるようです。ただ、床が抜けて彼ら自身もそこから動けなくなっているそうですが」

 念話共用をしていないトリィとフェアネスシュリーク様に説明する。


「こっちは魔物勢を見つけたよ。なかなか酷いね、既に何人も食われているようだ」

 どうやら隼のラナー君と視覚共有しているらしいフェアネスシュリーク様が魔物側の状態を教えてくれる。


(現状で生き残りは二十人程じゃね。ただ二人ほどかなりきつい怪我をしておる。止血も碌にできておらんようなので救援に入りますぞ)

 マルジンさんは、怪我人の救護に当たると報告してくれたけど、あの国(アスガイア)の人って、幻獣聖獣の類にも縁がなかった人達よね?大丈夫かな?


「二十人か、先行して手伝ってくる。俺一人なら壁伝いにでも上がれるだろうし」

 サーシャちゃんがそう述べて、返事も聞かずに駆けだす。

 ……ちっちゃい子供が現われるのも逆効果にならんかねえ??


「流石にサーシャより体重あるから、オレが同じ事したら多分危ないよなあ」

 アスカ君はそうぼやいて、あたし達と同行を続ける。ってかおなじこと、できるんだ?


(最低限の止血はしましたが、お嬢様がた、お急ぎ頂けますか。かなり怪我人の加減が宜しく御座いません。今で上位治癒でギリギリというように見えます)

 マルジンさんからの続報は、余り嬉しくないものだったけど、どうやら生き残りとは喧嘩にならなかったらしい。


(いえ、刃物を振り回されましたのでやむなく鎮圧いたしました)

 わあ、だめだった。

 とはいえ、今回の場合、身内が魔物化して警戒心も恐怖心も限界マックス状態だろうから、そこはしょうがないんだろうな。

 鎮圧といっても、マルジンさんだからスタンとか麻痺の応用で動けなくしているだけだろうし。


(流石に応急処置をしてやったら、静かにはなりましたよ。

 妙なものを見る目で見られてはおりますが、普通の民でも稀にある反応でございますので問題ないでしょう。

 それにしても、集団からのこういった視線は随分と久し振りでございますなあ。この世界でもこんな民がいるのかと思うと面白うございます)

 続くマルジンさんの感想に、アスカ君がうへえ、という顔になる。


「確かに言われてみれば、アスガイアの一般民、ゴッテゲットの庶民と似たとこあったなあ。

 思い出さなくていい事思い出したぞ?」

 ……どうやら、マルジンさん達の元世界に、似た雰囲気の国があったかなにか、したらしい。


 そんな風に情報を交換しながら、廃墟を進む。

 結構階数の多い建物が並んでいたらしい大通りの両脇は、大半の建造物が劣化し、崩れている。


 一部の高層建築だったっぽいものの基層部に、コンクリ―トっぽい構造物がたまに残ってるけど、鉄筋が少ないなー、などとチェックしながら進んでいく。


 大半の建物はハルマナート国での基本構造、モルタルで固めた石積みを基礎として、上部は木材と漆喰の組み合わせ、が多数派だったっぽいね。漆喰壁なんてほぼ崩れ落ちて、下地の板組が見え、それすらも壊れているけど。


 床や天井なんかは木造だったから、あらかた虫に食い荒らされて、壊れて落ちているのが、柱と僅かな壁の向こうに良く見える。


 アスガイアに近い側だと、砲撃で完全に崩された建物もあるのだそうだけど、内陸側は、殆どの建物が戦時には一見、無傷だったんだという。


 実際には内部は略奪され、住民は人質に取られつつ、次々に拷問されたり虐殺されたりして、最終的にほんの数人の生き残り以外、全滅したのだそうだけど。


 そして生き残りも、精神が壊れてしまっていた人がいたり、絶食を強要されていたりで、最終的に、全員死んでしまった。

 それでも、彼らが生き残ったおかげで、旧アスガイアの蛮行は国内外に知れ渡り、神罰の実行が容認される根拠となったのだという。


「……まあ当然そうですよねえ……」

 マルジンさん達のいる方向に、先頭切って進んでいたフェアネスシュリーク様がそう呟くと、立ち止まる。


 幾つもの、人のような形をした昏く揺らぐ影のような、薄い魔物。

 何本も、白い歪んだ手足を背中に生やし、自らは四つ足で歩く異形の、それでも原型がヒトであることは判る魔物。

 挙句の果てに、揺らめくヒトガタの魔物を更に背後から呑み込んでは膨れ上がり、百足のように突き出す手足と長さを増していく不定形の魔物。


 そんなものが、近付いてくるのが見える。


 魔物が共食いするのはハルマナート建国史を習った時に出てきたから知っていたけど、目の前で見るとは思わなかったなあ。


「同じ集団が魔物化したにしちゃ、バリエーション豊かだな」

 アスカ君が不快感を声に載せる。ただ、その顔はどちらかと言えば無表情に近い。


 この世界の魔物は、当然の事ながら知的生命体を狙って襲撃してくる。

 現在の距離感は、元々追いかけていた人達の半分くらいの距離に、あたし達がいるわけで。


 そりゃあこっちに来ますよねえ!知ってた!!

実は、神罰自体は人間の思惑と違うところで判定されて実行されたもの。

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