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531.エルフの聖女の事績を辿る。

前提条件:ハルマナート国、割と何処の村にも花畑はある。

 翌日の朝は、旅館の朝ごはんにちょっと後ろ髪を引かれつつも、麺屋オスタリカに向かう。

 昨夜のうちに予約を入れてあったので、奥の大部屋に通してもらった。


「こんな時間のご来店とは珍しいですね」

 ヘッケルさんが首を傾げる。そうね、朝の繁忙タイムには普段来ないもんね、あたし達。


「朝食を食べたら出発だから、お昼御飯がお弁当決定なのよ」

 今回のお弁当は旅館の方で作って頂いて、サーシャちゃんの収納にしまってもらっている。


 宿泊料金が基本朝食コミなのに、朝を抜くので、ならばせめて出発前にお弁当をお持ちください、と言って頂いたのです。

 朝のメニューをアレンジしたものがお弁当に詰まっているらしいので、楽しみね。


 そんな会話のなか出てきたのは、例の塩ラーメンだ。

 あたし達に出す、つまりは恐らく再度改良したバージョンでしょうね。

 添え物としてきゅうりとゆでだこの酢の物と、茸の煮びたしが付いている。


「こいつはお弁当は無理ですからね、伸びる前に手早くいってくださいよ」

 そう言われて、そそくさといただきますして麺を口に運ぶ。


 うむ!見事ですよこれは!


「まあ、不思議な食感……美味しいですわ」

 流石にお箸は使えないので、フォークとレンゲで上品に食べているトリィもにっこにこだ。

 実は、聖女様に食べ道楽を教えるのは程々に、とかあっちの神官長様に言われてた気はするけど、申し訳ないけどそこだけは自重できない我々です。


「腕あげてんなぁ、流石だぜ」

 サーシャちゃんの感想も文句なしであるらしい。


「そりゃあ毎日研鑽しておりますからなあ。また手が空いたら今度は冷麺の相談がしたいですがねえ」

 試作用程度の分量だと、原料の取り寄せが逆に難儀でして、と、ヘッケルさんが述べるのにおっけーおっけー、と気楽に答えるサーシャちゃん。


「そういや前にランディさんが作ってた大根餅の澱粉、あれなんて良さそうじゃない?」

「む?あれか?葛粉と甘藷澱粉の配合だから、この店には普通に在庫があるだろう?」

 ふと思い立って、ここ暫くで一番もちもちしていた食品の話をしたら、ちょっと離れた所でやっぱり塩ラーメンを啜りはじめていたランディさんから直接回答があった。


「……いやまって団体室になんで?」

 カナデ君が当然の疑問を呈する。

 そうね、あたし達に配膳され終わった辺りで唐突に案内されてきたのよね、ランディさん。


「表が満席だった故、どうせ身内であろう、とこっちに放り込まれたところだね」

 ランディさんの返事はこれで、そりゃそうだよな、という顔で平然としていますけど。

 ……ヘッケルさん、真龍、いや、超級召喚師に対して扱いが雑ぅ!


「まあ事実ではあるし、いいんじゃね」

「そうですねえ、私たちの事情も知れておりますし」

 サーシャちゃんが苦笑しながら頷き、トリィもにっこりと同意する。


「葛切りと似た配合になりそうですが、あれを押し出し製法で製麺しても、文献にあるような食感にならんようでして……」

「あー、確かにこないだジャガイモ入れて作った奴は柔らかめだったもんな。

 今度手が空いたら本格的に探るかぁ。食感の話になっちゃうと、食べたことある異世界人、いた方が良さげだよね」

 そんな訳でサーシャちゃんが仕事が終わったらまた開発協力をする、という話で落ち着いたところで朝ごはんは終了だ。


 お支払いの後、オスタリカを後にして、そして今度こそ乗合幻獣車の旅だ。


 うん、人数が多いからほぼ貸し切りだなコレ!


 まず最初に向かうのは、タブリサからちょっとだけ北の方にある、テレッケンという小さな港町だ。

 船でも行けるけど、幻獣車でも大差ない時間で着けるので、今日は陸路です。


「テレッケンって初めて行くけど、何があるの?」

「エルフの聖女、緑洋氏族の祖でもあるフィリステルレーレの上陸地って碑文があるだけね」

 身も蓋もないけど、実際この土地にあるのは、上陸地の碑文だけだ。


 エルフの聖女は、属性力の変動の結果、元聖女になってから、現在のハルマナート国にやってきた。

 でもその頃はこの一帯は国など無く、それどころか、雑草すら碌に生えていない無人の荒野だった。


 それは、魔物の存在する魔の森(既にこの時代には魔の森は存在が知られていて、その範囲も現在とそこまで違わなかったらしい)と、人類圏との緩衝地帯とされていたせいなのだけど。


 実は、スタンピードは一度発生すると、何処までも突っ走っていくから、緩衝地帯なんてあってもなくても大差ない。


 魔物はヒトや知性の高い幻獣を襲うけど、食べる訳じゃない。

 彼らに食料は必要ない。かつて生物であったモノ、であって、生物じゃないのだ、魔物ってのは。

 なので、距離を置いたところで、単純なエネルギー切れで止まることはないのよね。


 それどころか、この緩衝地帯を走る間に魔物同士の淘汰や同化が発生して先鋭化し、個体としては強化されているのではないか、と考えたのがこのエルフの聖女、フィリステルレーレだったのだ。


 なおこの説は、のちにハルマナート国が正式に建国された後に、徹底的な歴史資料の洗い出しと、自分たちの撃退事案の積み重ねの分析により、事実であると認定されている。


 緩衝地帯を突っ切る式時代のスタンピードは、どっちかといえば小規模精鋭、襲撃個体が極端に強かったそうだ。

 数は今のスタンピードの半数以下だったらしいのだけど、倒すのにかかる時間は倍どころではなく、当然被害者も戦死者も大量に出したのだという。


 今はスタンピードの規模が最大のものでも、陸地でなら、龍の王族が数人いれば雑魚集団は速攻で蹴散らせる。そもそも最大クラスなんて百年に一回くらいらしいけど。


 そんな解説をしながら、丁度お昼時くらいにテレッケンに到着する。


「わあ……碑文だけだなんてカーラさんのうそつきー!」

 最初に幻獣車を降りたワカバちゃんから、想定外の抗議の声。


「えぇ……?……いや、嘘とかじゃなくて、資料にこれは載ってなかったのよ?」

 続いて幻獣車を降りたあたし達の目の前には、見事なお花畑が広がっている。


 畑という表現をしたけど、切り花生産の為の畑ではないわね。この場所を彩る為だけに植栽された、もしくはそこから自然に再生産された、夏の、色とりどりの花々。


「お客さんがた、碑文はこの花畑の奥ですよ。一本だけ道があるはずです」

 御者さんはそう教えてくれる。


 なんでも、ここの碑文の前は、ずっと昔から、こうなんだそうだ。

 なので、近隣の人間はそれが普段の光景であり、特筆すべき事だと思っていないので、ものの本にも記述がない、というオチが。


 そして、言われた通りに一本だけの小道を通り、海岸近くの石碑に辿り着く。


『かつての聖女にして、緑洋氏族の祖、フィリステルレーレ上陸の地』

 白い大理石っぽい石に、緑色の蛇紋岩で象嵌された文字は、そう読み取る事ができる。


「大理石かと思ったけど、石の質が違うな……天然素材じゃないかも」

 表面を調べたサーシャちゃんが、首を傾げている。


「あー、これ前に調べたけど、結局謎素材って結論だった」

 アスカ君も訪問経験があるそうで、そんなことを言っている。なるほど謎素材?


 あたしの目には、石、として見えている。確かに石にしちゃ年月による摩耗が全く見られないから、違和感があるかないかでいえば、あるんだけど。


「この石碑は村ができるよりもずーっと前のものだし、この花畑もそうなんじゃよ」

 ひょこり、と石碑の裏側から現れたおばあさんが、そう説明してくれる。


「ご近所の方ですか?」

「うむ、少ないながらに、今日の君らもそうじゃが、観光客も来るからねえ。

 定期的に村から掃除当番が出ることになっておっての。今日はわしの番だったんじゃ」

 このおばあさんは、テレッケンに先祖代々住んでいるおうちの人だそうだ。

 村に今住んでいるのは獣人を含む人族と、エルフ族が少し、あとコボルト族もちょっとだけいる、そんな感じの漁村だそうだ。


「エルフ族っちゅうても、聖女様の子孫とは別の氏族の子等じゃがね。皆いい子達じゃよ」

「あー、ここのエルフはうちの村のの遠い親戚だから、確か蒼草氏族のはずだね」

 アスカ君の言葉に、ああそうそう、そんな氏族じゃったねえ、と、のんびり返すおばあさん。


 蒼草氏族は旧アスガイア系のエルフ族。

 アスカベ村にいるのは戦争直前に難民としてやってきた人達だけど、この村のエルフ族は、それよりも前、迫害が始まった初期の頃に身の危険を感じて自ら国を捨てた人達の子孫だそうな。


 だもんで、この村にはエルフの聖女の事績自体は、あんまり残ってないらしい。

 本当にこの碑文とお花畑くらいだろう、という話だった。

 しかも、花畑の方の資料、地元にも特にないらしい。碑が建ってから後にできたものだとしか、判らなかった。


 その後はお昼のお弁当を碑文の前で頂いた。

 朝食で良く出るベーコンや卵焼きを挟んだサンドイッチと水筒に入った冷製スープ、それとお茶。


 花畑の前で食べるとピクニック風で完璧ですね!

第一事績、謎のままでは説。

サーシャが協力する事案だけど、サーシャ本人は蕎麦粉がだめなので、多分三人組纏めて連れていかれる奴。

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