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529.亜竜種:霊亀玄武。

久しぶりのおじいちゃん系登場。

(おおーい、お嬢ちゃーん、久しいのぉー)

 お昼御飯のあと、フラマリア沖を抜け、ハルマナート国領海に接近する航路を取ったところで、のんびりした口調の、聞き覚えのある念話が飛んできた。


「あら、イスカンダルおじいちゃんだわ」

 城塞亀のイスカンダルおじいちゃんとは等級クラスの壁で呼び出し不可とはいえ、召喚契約はしているから居る方向は判る。ここからだとやや南西ね。


「え?あのでっけえ亀のじいちゃん?近くにいるんだ?」

 サーシャちゃんがちょっとびっくり顔だ。


「ええ、念話が届く範囲だから、そんなに遠くないわね。時間に問題ないようなら、少しご挨拶していっていいかしら」

 どうせならトリィにも城塞亀を見てもらいたいしね。あの種族、岩礁地帯を避けるから、ヘッセン国ではあんまり見ないそうだし。

 いつぞやの冬の騒動の時も、トリィ自身は亀を見てはいない、と言っていたし。


 船の進路を少し西寄りに変更して貰って十分ほどで、巨大な島みたいなシルエットが見えてきた。

 ……おじいちゃん、前よりでっかくなってね?


【おお、嬢ちゃん、久しぶりだのう。ちょうど近くに気配があった故、つい声をかけてしもうたが、元気そうで何よりじゃ】

 そして今度は肉声が届く。どうやら聖獣化したらしいのだけど……


 色が、普通は茶色系である城塞亀とは全く変わってしまっている。

 全体の色合いとしては、殆ど黒に近い紫紺。ああ、メビウスおじいちゃんとほぼ同じ色合いだわ。

 濃い紫紺の、そのくせ凄く透明感のある分厚い甲羅の表面にも、透ける様に光を受け止める奥の方にも、薄青く細波が這うような文様が、彼の動きにつれてゆらゆらと、幾重にも揺らめくのが本当に綺麗だ。


 背中に載せた土の上には柔らかな青草と小さな木の茂み。

 以前軍船との事故で甲羅を割った時に、背中の木はほぼ全滅しちゃって、育て直し中らしい。


 それにしても、でっかい。

 初見の折も、城塞亀の中で一番大きな個体だったのも確かなんだけど、二回り以上でっかくなっているわよね、これ?


「……其方、亜竜と化しておらんか?」

 暫くイスカンダルさんを無言で凝視していたランディさんが、怪訝な声でそう聞いている。


【そのようじゃのう。ケートスの若いのと同じくらいじゃないか、とあっち(ケートス)の長老には言われたのう。儂、なんでも霊亀玄武、という種族になってしもうたそうじゃよ】

 のんびりした声で、そう語るイスカンダルおじいちゃんは、ちょっと若返りの効果は出ていたはずだけど、やっぱりおじいちゃんっぽい。顎にもお髭があるせいかなあ。


「おー、尻尾が蓑亀みたいになってる」

「尾の毛も自前なんです?」

 カナデ君とワカバちゃんの会話で気が付いたけど、そういえば尻尾が見える程度には喫水が浅いようだけど、ここ、いくら普通よりでっかいといっても、城塞亀の足の付く水深じゃないわよね?


【ほっほっほ、そこは自前の毛じゃよ。昔もちょろっとは生えておったんじゃがね?

 あと、水属性が強まったせいなのか、足の着かん所でも、ぷかぷか浮いて移動できるようになってのう。魔力のいい節約になりおるよ】

 なので今回はあんまり背中の島は育てていないのだとイスカンダルおじいちゃん。


 トリィは、と横を見たら、甲羅の模様にすっかり見とれていた。そうよね、どれだけ見ていても飽きないくらい、ゆらゆら模様は綺麗だ。


「こんなに美しい甲羅があるのですね……」

 ほう、とため息を吐く姿が本当にかわいい。おじいちゃんのおかげでいいものを見られたわ。


 今回は本当にご挨拶だけのつもりでいたんだけど、流石にここまで壮大に種族が変わっていると、ランディさんがですね……完全に質問タイム無双だ。


「それにしてもこの甲羅の構造は気になる……一部が剥落したりなどは……いや変じて間がないからそれはないか……」

【甲羅かね?古い方なら脱皮で剥落したが……そちらは元の茶色じゃったからのう】

 おじいちゃん、大きくなる時には脱皮する生き物らしい。

 というか、亀の甲羅って、脱皮するんだ……


「他の亀さんはいないんですね」

 周囲を見回したワカバちゃん。あー、三人組はあの大集団しか知らないもんねえ……


【普段は固まって行動したりはせんのじゃよ。あの時は例外中の例外じゃ。

 子が欲しくなった時だけ、その気になった者だけが集うと定めている島に向かうだけじゃなあ】

「確かに歴史上の記録でも、二頭以上の大人の城塞亀が同時に目撃された件は殆どないですね」

 トリィもあの騒動の時に城塞亀の生態は少し調べたんだそうで、そんな補足をしてくれる。


【一族があらかた集まっちもうたのは、あれが最初じゃのう。

  昔も、単なる事故や、海賊のちょっかいで怪我した者が出た時に数頭集まることはあったがのう。

 ……出来たらあんな理由は最後がええの。】

「そうですね、あたし達が出動するような大事は暫く海では要らないですね……」

 海では、と返事したのは、陸ではいずれあると決まっちゃってるからだ。ええ、技能の台詞改変ですね。


「そういえばカーラさん、海はさておき、陸の方の時期的なものって、まだ結構先でした?」

 思い出したようにトリィが確認してきたので、頷く。


「少なくとも、技能がカウント開始しない程度には先よ。

 ここまでで、貴方の国を含むあっちこっちの陰謀を潰してきたからね、結構先送りできているのよ」

 そう、今までのあたしが関わった事件。あれを全部放置していたら、今頃カウントダウンは二桁に突入していたはずだ。

 関わった限りにおいては、経過はともかく、結果の方は全て潰したからこそ、時間に余裕がある現状があるのよ。


 そういやマイサラスだけ、本当になーんにも、ライゼル勢の気配どころかその手の判定すら一切なかったな。なんでだろう。


《パルミナ様……雫様とケンタウロイ族が、強い瘴気耐性があるうえに、ライゼル勢の欺瞞工作も見破るのだそうですわ》

 あ、ハナっから防御完璧なんすね……


 そうか、雫様って先祖返りで異世界の異種の力も強く出るって話だったし、ケンタウロイ族の方も、種族全体が異世界人と同枠のままなうえに、彼らは郵便事業で全国くまなく走り回ってるから、あいつらの付け入る隙がないんだな……


《それに視察団の時に、サンファンからマイサラスに抜けようとしていたライゼル勢を始末していますからね、事前に片付いていた、とも言えますよ》

 それでもどのみち人里に近付いた時点でケンタウロイ族に捕まるでしょうけど、とシエラ。


「其方は随分と頑張っておったからな。

 ……それでも、そこまで遠い未来の事ではないであろうな……」

 ランディさんがそう述べて、かなり嫌そうな顔になった。


「真龍の制限的に直接対決には赴かないんでしょう?場合によっては、手前まで送ってもらうかもしれないにしても」

 そう言いながらも、なんかそれはないな、という印象はある。


 彼を、対ズボラ決戦に連れて行ってはいけないのだ、という謎の確信もある。

 世界が生み出した種族とはいえ、真龍もこの世界の地元の生き物だし、真龍と神のタイマンは基本対消滅だそうだから、ナシだというのは理屈でも判るけど。


「我単体で参加するのは無理、いや、無謀だし、他の同族が付き合うとは思えん。

 対消滅という結果となるのは他の人類にとっては比較的マシな結末とはいえ、流石にあんなモノ相手には御免だな」

 ランディさんの意見は至極もっともだ。あたしだってあんなズボラと心中は絶対嫌だ。


「それは絶対になしですね……」

 トリィも何かの技能判定を得たらしく、ランディさんに同意している。


【世界のおおごとの話であるようじゃが……なんだか儂には関わりなさそうでもあるのう】

 ちょっと困惑した様子のイスカンダルおじいちゃん。


「そうねえ、事案が起こるとしたら、巻き込まれる可能性があるのは東海側だろうし」

 といっても、海に出る予定は恐らくあちらの方にないので、東海もそこまで大きな被害は出ない予測だ。原則、海に出られないからね、あいつら。


 流石に、あんな厄災をライゼル国の外に出す気はない、ないんだけど。

 なんかそうはいかんぞ感がですね……いや大丈夫、これは技能判定ではない、けど。


 その後も少し雑談してからイスカンダルおじいちゃんとは別れた。

 南の海がちょっと暑かったんで、寒流の端っこに涼みにきてたらしいよ。


 では、気を取り直して、ハルマナート国に戻りましょうか!

なお放置だった場合一番ヤバかったのは実はヘッセン、次点がレガリアーナ。

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