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520.王都マティレクに至る。

やっと到着。なお乗合の六割くらいの時間で走破している。

 三日目のお昼前に、王都マティレクの市街地が見えてきた。

 ここはほぼ国のど真ん中であるらしい。


 市街地といっても、最初に見えてくるのは白い羊毛製の天幕……ユルトとかゲルとか、そんな感じの移動住居だ。

 あくまでも移動できる住居であって、簡易とはとても呼べない規模のものが沢山見える。


「市街地にも移動住居が多いのですね」

 トリィもそこが気になったようで、周囲を見回している。


「ああ、あれは羊や山羊、セリーテを飼ってる放牧民が、春先に刈り取った毛を売りに来てるんだよ。糸に紡いでから持ってくる連中がこの時期なんだ」

 刈り取った原毛のまま売る人たちもいて、そういう人たちの商売はこの時期よりもう少し早いのだそうだ。

 原毛のほうはフェルトなんかに加工されたり、そのまま詰め物にされたり、これまた他国の加工業者に現状渡しで売られたりするんだって。


 中には、そう言った産物を売りに来て、割のいい仕事を見つけて、そのまま都市で働くようになる人もいるそうだ。

 そういう人たちも、この移動住居群の中にはそれなりにいる。

 万一都市生活に馴染みきれなかったり、事業に失敗した時に、元の生活に戻りやすいから、と、国が推奨している形式だという話ね。


 移動住居群の横を通り過ぎる形で、防壁で囲まれた市街地に入る。

 門はあるけど、扉はずっと開かれたままで、ケンタウロイ族と人族が半々で構成されている門番さん達は、一度立ち止まったケンタウロイ族の二人の敬礼に、敬礼で返してそのまま通してくれる。

 なお、あとで聞いたら夜には流石に閉門しているとの事。


 朝からずっと後ろを付いてきていた二台ほどの幻獣車は止められてた。

 あたし達の荷駄隊のふりをして便乗で門内に入ろうとしていたんですかねえ?当然留め置きで厳重チェックだろうねえ。


 放牧民の取引は門外で全て済まされるので、この門を通るのは、王都に用事のある人だけだ。

 そういう人達は、門の横に行列を作って順番待ちをしている。


 つまり、ケンタウロイ族で制服組が牽いている車は基本的に特例扱いだ。

 制服組は顔を周知されてからしか仕事に就けないので、不正は滅多に起こらないし、発覚がちょっぱや、だそうだ。


 眺めていたら、郵便の緑制服の人も直行なんだよね。これも一度立ち止まって顔を見せ、略式っぽい敬礼して通っていく。


(おのぼりさんがうっかりついてきただけのようだの。片方は市場の場所を教えられて逆戻り、もう片方は列に並ばされておるわ)

 マルジンさんが後ろの幻獣車の行方を教えてくれた。なるほど、ただの王都初心者か。


「うっかり我らの後ろについてくる初心者は、気候のいい季節の風物詩ですなあ」

 ああいう車両は多いのかと聞いたら、ケンタウロイの二人もその辺りは良く知っていた。


「郵便の方は余程の田舎でもなければ皆見慣れていますから、やらかす奴はあまりいないのですがね」

 風物詩呼ばわりのモーギャさん、追加で解説してくれるブーディさん。


 王都の中も、あまり高い建物はない。大半の建物は平屋だ。

 例外はここからでも見える白っぽい灰色……というか、移動住居のベースカラーと似た色合いで、いくつかの塔以外は二階建てと平屋の組み合わせらしき王宮、あとは二、三階建ての商店がいくつかあるくらいか。

 高い建物の商店は、二階や三階は基本的に倉庫だそうだ。


 神殿はどこだろう、と思ったら、王宮と隣接している様子。フラマリアと同様、王宮と神殿を直接行き来できるスタイルのようだ。

 神殿の方も塔が二本。色も似たような灰白色。王宮の屋根が緑青色なのに対して、神殿はドーム型の屋根も灰白色だ。


 その門前に至った瞬間に、見覚えのあるふわっふわの金髪巻き毛が飛び出してきた。


「おお!ようやっと到着か!もう少し速度も出せたであろうに!待ちわびたぞ!」

「パルミナ殿下、お久しぶりです。あの最高速度は常人にはきついですよ?」

 どうやらトップスピードですっ飛んで来る想定をしていたらしいパルミナ・フィティ王女に、出合い頭に釘をさす。

 あの速度でフル道中されたら、カスミさんだけじゃなくてカナデ君がダウンするから、旅程が逆に伸びるわよ、それ。


 神殿の敷地に車両で乗り入れるのはこの国だと禁止事項だ。なのでケンタウロイのお二人にはお礼を言いつつ、車両から降りる。なおカスミさんは降りるところで人型に化身した。


「それでは、本日はこれにて失礼仕る」

「またのご利用をお待ちいたしております」

 ふたりの返事はこれで、どうも帰路もオラルディ国境辺りまでは彼らに連れていかれる予感。


「では一度中へ参ろうか。流石にこの場は人目がそれなりにあるでのう」

 そう常識的に述べるパルミナ殿下に連れられて、神殿の敷地に入る。


 おおう、ここはまた変わった神力運用してるなあ?フラマリアも割と神力強めな気がしてたけど、比べ物にならないくらい、敷地内の神力が、強い。


「大半の土地で、地味の維持は最小限で良い故な、国境防衛とこの場の浄化に全振りしておるから、他国とは随分様相が違うであろ?」

 そう語るパルミナ殿下の中身は、今はどうやら女神さまだ。


「こんなに神力の強い状態を常時、でございますか?」

 トリィの方はやや不安そうな顔になる。

 確かに神力が強すぎるの、あんまり普通の人族には良くないらしいんだよなあ。あたしを含む異世界人は基本的に全然平気でもあるそうなんだけど。


 理由は一つ。

 人は、神に引き摺られる。引き寄せられ、虜になる。


 神の、強すぎる力は一般的なヒト種を容易に凌駕するのみならず、個人の意思を削ぐのだ。

 その結果、深入りしすぎたヒトは、人形のような、自由意思を失い己が魂の成長と発展を放棄した、ヒトとは言えない生き物に成り下がる。


 ヘッセン国を含む多くの国で、神殿の表からにせよ裏手からにせよ、奥院方面に入れる人が限られるのはそんな理由もあるのだ。


 比較的良く見かける辺りだと、ライゼル勢なんかが大体そんな感じよね。

 本来なら巫覡の才というのは、そういうものに引き摺られないようにするためのモノでもあるのだけど、ライゼル勢の場合、大元がほぼ反転に等しい状況なので、その効果が及ばなくなってるんですかね?


 なお、サンファンのランガンドの時のあれは、ランガンド自身の神力が元々びっくりレベルで少なかったうえに、怠惰の影響の方が強くて、逆にそのレベルの不可逆変化を起こした人は少なかった。……何が幸いするか判らないものね。


《そのレベルの影響を受けた人はほぼ餓死していますからねえ……確かに人数としては僅かではあるのですが》

 あー、そうだ、あの神殿近くのなんとか村、二つあった奴か、あそこの人達がその手の犠牲者だったんだね……


「この国は特別じゃ。神殿は上から下まで、王族、つまり女神の血を薄いながらに、どこかしら引く者ばかりであるからな。視察団の折の我が見張り役も、余り見ないスキルを持っておったろう?ああいう奴ばかりなのじゃ」

 パルミナ殿下はどや顔で説明してくださるけど、それって、アスカ君とトリィに教えていい奴かしら?


(そのお二方なれば特に問題は。元勇者殿は先々代の雫に会っていて、既知であります故。聖女殿の方には、このことも知ってもらわねばなりませぬから)

 そして女神様からの念話。ああ、アスカ君はそういえば再訪なんだっけ。


「君が今代の雫様?……なんか、強そうだなあ」

 そしてここまでの話を聞き流したかのようなアスカ君の反応はこれだ。なるほど、女神の雫の存在自体も既知、なんだね。


「ああ、強いぜ、この嬢ちゃん。俺とほぼ互角?」

「いやいや、其方の域にはまだ及ばぬよ?先日のアレは娯楽の範囲であった故のう」

 そしてサーシャちゃんの解説を秒で否定するパルミナ殿下。これ割とガチで言ってますね?


「いうほど俺の方も余裕なかったんだぜ、あれ?」

 サーシャちゃんはそう言うけど、タチの悪いフェイント系反則技っぽいものは一切ナシだったから、あたし個人としてはパルミナ殿下の印象の方が合ってるように感じるなあ。


「そもそもこの世界で人類相手にサーシャの本気とか、要らなくね?」

 そしてアスカ君の感想に、ディスティスさん以外の全員で頷く我々であります。


「……え、そんなにお強いのですか……?わたくしの存在意義は……」

 そしてディスティスさんは妙な所にひっかかっている。


 貴方は護衛というより、この童顔集団の保護者枠なんだよ、済まんね。

年齢詐欺集団()

聖女様も既婚者にはまだまだ見えないんですよねえ……

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