514.元勇者と昔の聖女様。
元勇者、果たしてレギュラー入りなるか?(そうじゃない
アルバイトの件は、結局アスカ君に押し切られた。
そういや彼、超級護法師なんだから、護衛役にはうってつけ、ですよね……
そんな訳で、タブリサから船でヘッセン国です。結局普通に乗合幻獣車でタブリサに行って、そこから普通に定期客船に乗りました!
勿論今回は地道な移動になるんで少し遅れます、という返事はしてあるよ!
今回のメンバーは、あたし、三人組、アスカ君、それにいつも通りカスミさんとマルジンさんと鶏たちだ。ランディさんは不参加です。
そうそう、タイセイ君はヘッセン国にあたし達と戻ったあと、またオラルディ国に戻ってる。まだもうすこし描きたいものがあるんだって。
タブリサでは麺屋オスタリカにも立ち寄った。
というか船の出航スケジュールと合わなくて一泊したから、朝昼翌日朝、と、都合三回食べに行った。メニューが!多い!どれも美味しい!!
なおランディさんが、何故かオスタリカにいて、しかも三回とも我々と同じメニューを食べていた。解せぬ。
ヘッセン航路の客船は、東海のレメレとマッサイトのホンハイを結ぶ船より少し小さい。
これは便数があちらより多いから、乗客が分散するのと、ヘッセン沖合には岩礁地帯があって、あまり大きい船だと通れない航路があるためだそうだ。
そういえばフラマリア航路の船の方が大きいよね、便数も多いし。
但しフラマリア航路の船は、貨物のスペースがとても大きいから、乗客数はそこまで多くなかったりはする。
ちなみにヘッセンよりも北に向かう航路はほぼ大型船だ。距離が長くて泊数が多いので、娯楽施設なども詰め込まれているからだとか。
というのも、各国に順番に寄港していくスタイルなので、時間も相当かかるらしい。当然便数は少なめだ。
船での道中はこれといってイベントらしいイベントは発生しなかった。
時期的な問題か、乗客がやや少なめだったせいかもしれない。
「相変わらず色合いの可愛い街だなあ」
ヘッセンに最後に来たのは百年以上前だというアスカ君が感心した顔になっている。
へえ、そんな前からこうだったんだ。
なお彼の旅費はバイト代の前借りであります。世間は厳しいのよ。
というか今回は相談と顔見せだから、あたしも無収入なんですけどね。
あたしの方は、そこらへんは後で経費で落とすから問題ないのだ。
入国手続きも特に問題なく、ただ、文字が書けないアスカ君の分は、名前をサーシャちゃんが書いて、拇印を押す、という古典的な方法がとられた。
「国を跨ぐの、これだけが面倒くさいんだよなあ」
「文字が書けないと面倒よねえ」
あたしは幸い、最初の出国までに文字の読み書きはちゃんと覚える事ができたから、あまり苦労をしたうちには入らないけど、それでも手続きを知っていると、書けない人は面倒だろうな、と思う。
「元の……生まれた世界ではどうしてたんだ?」
ちょっと気にしてます、という様子でサーシャちゃんが尋ねる。
「読めない訳じゃないし、スマホやタブレットに入力することはできたから、学習自体は問題なかったんだ。自筆サインが必要な書類の時は流石に困ったけどなー」
なるほど、読めるから、手書きじゃないならいけるのか。タブレット端末ならキーボード式でもフリックでも、あったとすればVR経由でも入力できるものね。
そんな話をしながら、乗合幻獣車で大神殿に向かう。
上陸前に手紙を飛ばして、王宮とどっちに行けばいいか確認したら、そちらを指定されたのだ。
現在でも、王妃としての公務のない日の昼間は基本的に神殿詰めなのだそう。
「お久しぶりです、カーラ様、皆さま。今回ははじめましての方がいらっしゃるそうですね」
いつも通り、聖女様の祈りの間に通されたところで、聖女様の笑顔に迎えられる。
白の衣装は以前のままだけれど、前は背に流して花を飾っていた髪は、結い上げられて、額の部分に水色の石をあしらった、細い金環を戴いている。
髪を結い上げるのはこの国だと既婚者の証ね。そこらへんは国によって微妙に違ったりするんだけども。
ハルマナート国辺りだと、髪型に関しては男女ともに、特に決まりごとがないよ!
そして、以前とは違って、明らかに貴族出身者っぽい侍女さんが二人、後ろに控えている。
これは王妃として、最低でもその人数は置かないといけないのでやむなく、という話を手紙でぼやかれているあたしであります。
「お久しぶりです、聖女様。そうなんです、異世界人で護法師の知人が増えまして。少々資金難だという話だったので、顔合わせ的な意味で連れて来てはみたんですが……」
でも聖女様の護衛に男性はだめなんだよなあ、多分。
「そうですわねえ、今回はわたくしの巡行の護衛とルート案のご相談をと思ったのですけれど、護衛に男性が増えるのは余り宜しくございませんね……」
そして聖女様の用件と回答は、完全に予想通りだった。うん、知ってた。
「取りあえず、ご挨拶だけでも、というあたりで……って、アスカ君、どうかした?」
なんか様子が変だな。アスカ君、聖女様をじーっと見つめている。
「え、あ。すみません、まさか勇者も魔王も居ない世界に、本物の聖女様がいるとは思わなかったので……」
そしてアスカ君の返事はコレだ。ホンモノ?
いやまあ世界に認められし聖女、なんだから、この世界的には本物のはずだけど……なんかそういうニュアンスでもないなあ?
「はて……まあ、元勇者様ですのね。それは、この世界の在り方には驚かれたでしょうね……
そうなのです。どういう理由でか、聖女だけは常時一名だけ、世界から指定されるのですわ。
そして今代の聖女はわたくし、ベアトリス・ヘンシェンが務めておりますの。
現在ではこのヘッセン国の王妃も務めておりますから、二足の草鞋、という形でございますね」
おや、聖女様も最近は称号視を覚え……いや、アスカ君の元勇者称号は隠蔽がかかっているはずよね?
《恐らくですが、勇者若しくは魔王を含む称号は、聖女には無条件でバレるんじゃないですかね、と、上から……ってこれどなたの示唆かしら……?》
そういうユルくて出処が判りにくいのは多分小月の方だと思うから、探らなくていいわよ。
まあシエラのいう示唆を考慮すると、やはり聖女というのは、この世界でも本来なら勇者や魔王に関連付けられるべき称号なのね。
単に対立構造からハブられてるから有効化してるだけ、とかじゃないだろうな?
「そうです。オレはこことは違う世界の元勇者で、アスカ・ヤグスと言います。
まあ、元なんで、今は普通の異世界人、ですけどね」
アスカ君も聖女様の説明には納得した顔で、自分も名乗る。
「……にしても、マレーニアの時にはばれなかったのに、なんでだろう」
ぼそ、っと謎の言葉を発するアスカ君。
「マレーニア……四代前のヘッセンの聖女様を御存知なのです?わたくしですら、短命な方だったとしか伺っておりませんけれど」
「ああ、オレは最近まで不老だったから、三百年ちょっと、この世界で過ごしていてね。マレーニアと会ったのは、彼女が死ぬ直前だったかな。
……やっぱり四十歳って早死にの方なのか」
そして、聖女様からの問いへの答えで、想定外の年齢が出てきた。
「四十、だと微妙ですね……平均寿命よりは少なくはあるのですが」
「あ、そうだ。聖女としては短命、といえたかも。彼女が聖女になったの、三十歳過ぎてからだったと聞いてる。十年も就任期間、なかったと思うよ」
へえ、若い人に飛ぶとは限らないのか。
「……ああ!確かにそうかもしれません。
その前の聖女様、マイサラスのリディスリンデ様は、ニ十歳で就任なさってから、八十二歳で天に還られるまで、ずっと聖女の座におられたそうですから」
そういえば、世界による自動認定だから、条件を満たさなくなるまではずっと聖女なのか……
「八十二歳はこの世界でも相当長命なんでは?」
サーシャちゃんの疑問に、あたしと地元民勢が一斉に頷く。
「つまり、前任者が属性力などは保ったまま長生きされたので、次点候補者もそこそこ年齢がいっちゃっていた、ということね。
絶対ないとは言い切れないなあとは思っていたけど、やっぱりそんな案件もあるのねえ」
「わたくしもあまり頑張って生きすぎると、同じ事になりそうですわね……」
あたしのまとめに、聖女様がそんな事を言い出した。
「いや、聖女様はどれだけ長生きしてもいいと思うんですよあたし」
聖女様には長生きしてほしいあたしですので、そこはさっくりと持ち上げ?ておく。
聖女様とはずっと友人でいたいのよ。
流石に百五十年越え予測が立っているあたしと同じくらい、とまでは言わないけど。
自分が人間の枠のギリギリラインにいる自覚だけは辛うじてある主人公。
なおアスカの元世界は彼が生きてた段階ではAR止まり。




