513.移動手段を相談する。
ここで早速予定から1話ずれる(
特に日時の指定はなかったのだけど、余りのんびりしている訳にもいかないだろう、と、早速ヘッセン国に出かける算段をする。
とはいえ、行き先が行き先、まあまあ遠方なので、ランディさんにお願いするのが一番手っ取り早い、んだけど……
「そうは言うがな、実際の巡行には我は付き合えないのだし、其方はまだしも、そっちの三人組は、一度この世界の一般的な旅程をきちんと体験しておくべきではないかね?」
と、ド正論で論破されました。
ちょうど折よくイードさんとこに来てたから聞いてみたら、これを即答ですよ!
確かに、マッサイトからアスガイア、サンファンとほぼ徒歩で巡った旅の経験があるあたしはともかく、三人組は最初にマッサイト方面からハルマナート国に来た時と、最初にフラマリアに行った時以外は、ほぼずっとランディさんの恩恵を受けているといって過言じゃないものなあ。
それに、あたしもヘッセン国に行くときって、ランディさんの転移以外だと、龍の背に乗って、とかいう超絶イレギュラーだったりしたからなあ。
「そうは言うけど、ヘッセンだとどうせ定期船だろ?現地の連中だって海路一択なんだし」
サーシャちゃんは、どうせ船ならオプティマル号でも定期船でも大差なくない?と、首を傾げている。
「……ヘッセン行きに関しては、確かにそうか……」
こら、そこの真龍!論破され返してるんじゃない!実際その通りではあるんだけど!
「まあ三人の場合、乗用幻獣との契約もままならないんで、ある程度の融通はアリだと思うんですけどね……」
あたしの意見はこんな感じだ。召喚契約を結べないというハンデが一応ありますからね、この三人に関しては。
「私とサーシャは走鳥さんくらいなら追いつけますけどね」
ワカバちゃんの言葉は、あろうことか事実だ。全力疾走する走鳥に、女子二人は追いつけるし、かなり長時間の並走もできるのよね……
元世界のゲームデータのレベル補正が乗っかってるせい、らしいのだけど。
「僕ができないんですが!!」
そしてレベルはあれど体力には自信がない系男子、カナデ君が悲鳴を上げる。
あたし同様、元世界の自分の身体は病弱もいいところで、自分の身体の動かし方を忘れそうになるレベルだったらしいからねえ。
「あたしだって無理よ?」
あたしの方も、いくら元世界より健康体だからって、そんな人外枠ギリギリな身体能力は持ってないです!
「魔力チート勢が体力一般人アピールしおる」
そしてサーシャちゃんの台詞が酷い。だが事実ではある。
「お嬢様、皆様。いっそ幻獣車のひとつも購入されてはどうです?予算はございますのでしょう?」
そして話を聞いていたカスミさんが、とうとう自家用車導入を提案してきた。
「移動先での保管が面倒」
「結局船と一緒でランディさんに預ける未来しか見えないわね。あと、誰が曳くのそれ?」
そして提案はサーシャちゃんとあたしが秒で却下する。
「……それもそうですわね。失礼いたしました」
そしてカスミさんもあっさり引き下がる。
彼女も結構なサイズの収納魔法持ちだけど、乾燥コベションの叺を入れるのも結構大変そうだったし、ましてや乗用幻獣車クラスの大きさのものは、入れられるかどうかが怪しいらしいのよね。
【幻獣が曳かねばならんものでもあるまい?自動機械なんてものは創れんのかね?】
そしていつも通りあたしの肩の上にいるマルジンさんから謎の提案。
自動機械?って単語に、なんかゴーレム的なニュアンスを感じましたけども?
「あー、要するに自動車かあ。動力は魔法陣魔法でいけるだろうけど、駆動機関をどう作るかって問題があるよなあ」
「……それを考えた事がある異世界人が今までいなかったとは思えないから、多分なんか制限掛かってる奴じゃない?」
その言葉に簡単に問題点を想定するサーシャちゃん、搦め手から思考して、無理なんじゃないのと疑問を呈するカナデ君。
「少年が正解だな。駆動機関を設計し、部品を作成するところまではなんとかなるようだが、組み立てる事ができないそうだよ」
そして正解をランディさんが知っていた。なんていうか、本当に絶妙に底意地悪いとこあるよね、この世界。まあ大体ズボラのせいだけど。
「この世界にも傭兵集団みたいな団体はあるんだろう?そういう連中はどういう移動をしてるのか、ってそうか、そういうのが騎乗獣を使うんだっけ」
「そうだな、それに、この世界の場合、傭兵といっても国を跨いだ活動をする者はほぼ居ない。
彼らの職業が成立した発端が某国内戦であったために傭兵という名称が普及しているが、現代での実態は、ラノベで言うところの冒険者というものとあまり変わりないからね」
自己解決に追い打ちをかけるランディさんの説明に、結局召喚契約ありきかぁ、とため息を吐くサーシャちゃん。
初期の傭兵は、人族の貴族同士で内戦を起こしたある国で職業として確立したのだという。
その後、貴族の私兵として一時的に雇われたり、護衛を専業とする者だったりをも統合して、今の傭兵団という団体が成立した、ということらしい。
そして現代での傭兵団の収入源は、貴族の一時雇いの私兵だったり、旅商人の護衛だったり、肉の旨い魔獣を狩る事だったり、はたまた軍の手が回らない僻地での魔物狩りだったりする。
うん、事例だけ並べたら、私兵以外は完全にラノベ的冒険者だなこれ!
それでも彼らは国を跨いだ活動は基本的にはしない。
国際商人は基本的に自前の護衛を雇っていて、傭兵に入る隙はないからだ。
国を跨ぐ商隊の人員は全て名簿で登録管理されていて、入出国の手続きを簡素化しているから、臨時雇いの人間はそう簡単には入れられないんですって。
「なんか痒い所にきっちり制限かけて来るの、性格悪いよなあこの世界」
サーシャちゃんのぼやきももっともですね。っていうかあたしも全力でそう思う。
【おや?来客じゃよ】
そこにマルジンさんが耳のいい所で誰かの来訪を教えてくれる。
「サーシャさんに、お客様ですよ」
少し遅れて、ジェニアさんが指名したのは、何故かサーシャちゃんだった。はて?
「俺に客?……アスカかな?」
「そうです、アスカさんという男の子ですね」
アスカ君ならまあ問題ないよね、と通してもらう事にする。
「やあ久し振り!ちょっとヤボ用で近くまで来たから、ついでに寄ってみたんだけど、皆元気そうだなあ!」
ややあって、ライムグリーンの瞳と、ちょっと硬そうな黒髪を後ろで無造作に縛った少年が顔を出す。
うん、アスカ君だね、お変わりないようで。
「久し振り、アスカ。野暮用ってこの辺までくるようなネタあったっけ?」
「この辺じゃないんだけどさ、すんげえ久し振りに王都まで出たから、遠出したついでに?」
そしてサーシャちゃんの問いに、呑気な回答をするアスカ君。
「王都からここまで来て、更にアスカベ村……?大回りというレベルではなくないかね?」
イードさんが怪訝な顔だ。
そりゃそうだ。この国境城塞からアスカベ村に、直行便なんて当然存在しない。どころか、直通で行ける道自体がない。
此処から道沿いに移動する場合は、必ずベネレイト村を経由しなくてはいけないのよねえ。
そして、アスカベ村へは、ベネレイト村、どころかドネッセンからその次の次の町辺りまでいっても、アスカベ村の二つ隣の村への直行便すら存在しない、のだけど……
「つまりここから適当に境界伝いに歩いて帰る予定、とかそんな感じ?」
「ビンゴ!さっすがねえさん、カンがいいねえ!」
それしかなさそうだな、と聞いたら、大当たりだと返されました。
「……まあお前なら狼の群れも避けて通るだろうから、問題ないんだろうけどさあ……魔物がちょっと漏れてきたくらいなら余裕でしばくんだろうし……」
サーシャちゃんがすっかり呆れ顔だ。
でもあたし知ってるぞ、君もたまにそういうレベルの派手な徒歩移動、してるって。
「途中まででも乗合幻獣車とか使えばいいのに」
カナデ君からは尤もな意見。だけど。
「え、だってそんな金ねえし!そういやサーシャたちって割と羽振りよさげだけど、なんか割のいいバイトでもあんの?空きがあったらオレも混ぜて?」
まさかの:元勇者、金欠。
なんか気のせいかなあ、この子も連れてヘッセンに行く羽目になりそうな、そんな気がしだしたんですが?!
当然のようにレギュラー顔でやってくる元勇者君……




