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番外編 異界の勇者ヤグスの事情。(下)

はい本日三本目の更新です!異界の勇者後編!

なんてことしやがる?本日作者の誕生日なんで許してちょーだいませ。

 転移魔法の開発のあとは、まあまあ順調だった。

 なにせ、異界から呼び出された勇者ヤグスは、この世界でも有数の火力の持ち主でもあったからだ。


 その高火力持ちが、魔族の最前線を転移で飛び回りながら、ある時は魔法火力でオーク族を一網打尽にし、ある時は謎の鉄の礫を放つ装置を大量に出現させて、魔鬼オーガ族を叩き潰す。

 アンデッドは物理型霊体型を問わずに光魔法で綺麗に浄化してしまうし、邪妖精アンシーリーの幻惑魔法もまるで効果がない。


 あっという間に魔族は南大陸から駆逐されていった。

 ただ、北の小大陸から出てこない者には、勇者は基本的に何もしない。

 人族の残存国家からは、魔族を殲滅し、魔王を倒せと再三の要請があったのに、だ。


 裏に、魔王とやらとは別の扇動者がいる。

 それが既に勇者には見えていたから。


 アンデッド類の中には、夜間のみしか活動できないとはいえ、人族と大差ない容姿で、人の間に紛れ込めるものがいない訳ではない。

 蝙蝠を操る希少種族であり、侵攻にほぼ関わる事なく、人類の中にただ紛れ込んで暮らしていた、吸血系の魔族を奸計に陥れ、人族に狩らせた事案を知った事が、勇者にその存在をはっきりと認識させたのだ。


 最終的に、勇者はただ一人、魔族を統べているはずの魔王の居城へと向かう。


 だが、それこそが黒幕の求める状況だった。


 妙に穏やかな、魔王とその側近たちとの邂逅の直後、城の地下深くから湧き上がり暴走を始める、魔族を魔族たらしめるとされる膨大な闇の魔力に、世界の崩壊、そして、それを回避できたとしても起こるのは魔力相殺による自分の消失、という未来を読み取り、流石の勇者も内心焦ったのだが……


 魔王が、宰相だという美しい夢魔族と共に、その身に、溢れ来たる闇の力を呑み取り、存在ごと崩壊しつつも、威力の減殺に成功した。


 しかも、デスモデウス、蝙蝠の魔人が、勇者に闇に対抗するのではなく、闇を従えいなす、己の力を分け与える。

 その結果、勇者の持つ光の力と溢れる闇の力の相殺により崩壊したのは、魔王城とその周辺の地域に留まり、世界そのものはどうにか存続し、勇者もアンデッド集団に襲われはしたものの、辛うじて生還はできた。


 問題は、黒幕のアンデッドの頭領、魔王をも亡き者にし、自らが王だと僭称しはじめた、エルダーリッチ、死霊卿ゲムルガンド。

 当然勇者は死霊卿を追い立て、滅ぼそうと努力したのだが……


 それまでの死者が、多すぎた。ゲムルガンドは戦場の屍を、自らに程よく引き込んだ闇の力で悉くアンデッドの軍勢に仕立て、人類を襲い始めた。


 なんとなれば、この世界では、死霊卿を含むすべてのアンデッドは、生きた人間の命を奪う事なくして存続ができない、所詮は動く死体に過ぎなかったからだ。


 結局、何度か倒したはずの相手の再生を許した結果、最終的に勇者がゲムルガンドを完全に滅ぼしたその時には、人類も、それ以外の動物も、殆ど滅び去ったあとだった。

 しかも死霊卿は滅びの今際に、勇者に呪いを放った。流石に長い長い時の果てにも至ろうかという連戦で疲弊した勇者は、それを喰らってしまったのだが……


 発動しているのかどうかもよく判らない状態の呪いを抱えたまま、勇者は空間の狭間に墜ちる。

 最早足を留めるべき大地が、失われてしまったからだ。


 崩壊する世界から弾き出され、何処とも言えぬ場所に翻弄され流されていた勇者だったが、突然、唐突に、謎の世界に放り出された。


「おやぁ?いきなり知らん人が沸いたぞな。ひょっとして漂流者って奴だっぺ?」

 幸い言葉は、崩壊した世界に召喚された時に付与された翻訳機能でどうにか判る。

 だが、落っこちた途端に遭遇したこの緑色の小人は、明らかに人類とはちょっと違うよなあ?いやでもこっちを人だと認識はしてるし話は普通に通じそうだよな?と考えている間に、緑の小人は、とんとんと地面を叩く仕草。


「オラの言うてることは判っぺ?オラはゴブリン族で、人族とは細工物や酒の取引でたまに話をする程度じゃで、ちっと聞き取り辛かったらごめんな?」

「え、あ、いや、大丈夫だ、言ってる事はちゃんとわかる。ここはどういう場所なんだ?」

 何の裏表もなく、ヒト族は商売相手だ、と告げるゴブリン族だという小人に、思い切って質問するヤグス。


「国としては、マッサイトってとこだべ。もうちーっと南に下るとアスガイアって国に変わる辺りぞな。といっても兄さん多分漂流者って奴だで、地名は判らんべ?」

 そう指摘されて、それはそうだ、と頷くヤグス。


 ゴブリン族の村に案内されて、この世界の話をちょっとばかり聞く。

 違う世界から落ちて来る漂流者が、明らかに田舎の村人である小人系の種族にまで知られているという世界に、大丈夫なのかなあ、随分ユルいなあ、とやや不安になるヤグスである。


 幸い翌日に、行商に来た人族のおじさんに、町まで連れて行って貰う事ができた。

 人族に関しては、滅びた世界や、元の、最初にいた世界とあまり変わりないな、と思う勇者。


 いや、今の彼は元勇者、だ。この世界に落ちた瞬間に、謎の声がそう告げたのだ。


〈勇者の存在を確認。異界産、但し能力が強力であるため、更に元職として制限を実行〉


 そして気が付いたら、[異界の元勇者]なんて称号が付いていた訳だ。しかもどうやら、隠蔽された状態。勇者が存在するのは、この世界的には大変宜しくないらしい。


 幸い、町の神殿であれこれ話を聞いたところ、今回の世界は漂流者や異世界人慣れしていて、支援諸制度も整った、案外過ごしやすい所であるらしかった。


 取りあえずどんな場所かは、見てみないと判らないな、と、あっちこっちの国を彷徨って気付けば二百年近く経ったろうか、最初に落ちた国の隣国、アスガイアで、迫害を受けるエルフ族を庇って軍に襲われる人族の一団に遭遇し、思わず軍をなぎ倒してしまう。


「久々に腐った連中を見たな……流石にコレ国内に留まるのはヤバくねえ?」

「そう……ですね。もう、無理だと思います」

 行きがかりで助けた者達を、放っておくわけにもいかない、と、そのまま彼らの国外脱出に手を貸すヤグス。


 脱出先に選んだのはハルマナート国、そう、丁度一番近いのがそこだったので。

 この時代にはまだ謎の断崖などなかったから、国境地帯の山中の道なき道を通り抜けることで脱出に成功し……


 ……何故かそのままハルマナート国に住み着く事になった。

 これは迫害を受けていたエルフ族にも、それを庇っていた人族にも、文字を読めるものが殆どおらず、それを自然と補佐したらそうなっていたのだ。


 といっても、彼も実は読むことはできるが書くことに難があるタイプだったので、結局代書人を雇う事にはなったのだが。


 受け入れてくれた礼に、出来るだけ厳しい辺地での開墾がしたい、という脱出者たちの意向を汲んで、ハルマナート国の東側の最南端に居を定める。

 結界や隠蔽などはこの世界式のものが使えるから、防衛は問題ないだろう、と思ったところで、ヤグスは自分もこの地に住むことを自然に選んでいることに気付く。


 まあ、いいか。この世界には戦乱は縁がなさそうだし、見たい場所はそれなりに見て回ったからなぁ。


 そんな軽い気持ちで自分も移住したヤグスであったが……


 五十年ばかりをうっかりそのまま過ごしてしまったら、自分が歳を取らないどころか、ちょっと縮んでいる。なんでだろう?と、この世界に落ちた時にできる事が随分と減ったうえに、元々診断系技能は持っていない元勇者は首を傾げるばかりだ。


 歳を取らない事自体は、老化が外見に現れにくいエルフ族もいるうえに、ヤグスはずっと旅暮らしだったから、本人を含め、誰も気にしていなかったのだが、若返るのは流石にちょっと、まずいのでは?


 そう考えたヤグスは一度村を二十年程留守にした。

 無論村の警備は万全を期したうえでだ。


 そうして、ヤグスの子供だという触れ込みで、新たに村に入ってみたら、何故か村が二つに分裂していた。

 仲が悪いわけではなく、単に人が増えて手狭になったからだそうだが。


 そして、それまで無名だったその村に、アスカベ村、ヤグスカ村、と自分の名がつけられてしまっている事に、絶妙に照れる羽目になるヤグスであった。


 なお、主な村人にはなぜか本人だと速攻でばれた。

 世代変わってるんじゃねえのかよ!と、首を傾げる元勇者だったが、だって称号丸見えですから、と、長老格の老人に言われてがっくりする羽目になった。


 まあ、気味悪がられてるわけじゃないならいいか、と、気を取り直すヤグスであった。

百年程前の移住なんで、アスガイアの侵攻直前にうまいこと逃げ出した集団なんですね<アスカベ村の人達

アスカと下の名前を名乗るようになったのは帰って来てから。


明日も番外編を2本です。


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