表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
562/676

503.アスカベ村の被害状況。

設定は前からあってたまに言及はあったのに今まで名称が出てこなかった奴とか。

 人間の怪我の状態の記録と治療は終わったので、今度は幻獣と家畜の被害を確認する。


(ふええ、おたすけー)

 幻獣の一体はアルルーナさんだった。お花が半分くらい齧られて茶色く萎れているので、〈湧水〉で水を出してかけると、ふわふわと水を吸い込んだ花びらが徐々に回復していく。


(ありがとー、だいぶたすかりー、で!このごはん!すてきー!)

 三分の一くらい花が戻ったアルルーナさんに、サーシャちゃんが例のヒポ羽根キューブを渡したら、一気にお花がしゃっきりと、色艶も良く咲きなおした。

 なるほど、お水だけじゃなく肥料もあげるともっといいのか。


「アルルーナの治療法、それでいいのか……」

 少年がびっくり顔だ。この村のアルルーナさん達が怪我をすることは滅多にないんだそうだ。

 今回はどうも話を聞くに、異世界から漂着した大型草食獣が魔物化して、人もアルルーナさんも襲われた、ということらしい。


「このキューブは特殊な肥料だから、代替品は今の所ないけどな。軽傷なら魔法で出した、つまり魔力を帯びた水だけで大丈夫らしいぞ」

 自分では魔法は使えないけど、兎事件の時にあたし達がアルルーナさん達の治療をしたのを見ているサーシャちゃんが代表して答えている。


 もう一体の幻獣さんは、初めて見る子だった。なんだろう?動物系ではあるんだけど。

 白いたてがみ、毛と鱗が両方ある四角っぽい感じの胴体と四肢は白っぽい灰色、顔は龍とおじいちゃんを混ぜたような、不思議な顔付き、山羊みたいな白いお髭。そして肩から黒い二本の短い角。座り込んでいるから、蹄は見えない。


 うーん、強いて言えば頑丈そうなごっつい麒麟くん、のような……?


(わしゃー麒麟ではなく白澤だぞよー。いや、元・白澤というべきかのー。本来のこの世界の法則であれば恐らく聖獣なんじゃがのー、元居た世界からここに流れ着いたら、なんやらすっかり老いぼれちまっててのー)

 なんとまあ、白澤、だったもの?


 こちらには一旦上位治癒をかける。うん、後ろの足が完全に折れてぶらぶらしていてね。

 それでも怪我をしてからあまり時間が経っていないから、上位治癒で充分いける。


(ほっほう!これはよい!ありがとのー!)

 しゃっきりと元気になったおじいちゃん元白澤さんは、すくっと立ち上がる。お、偶蹄類だ。


《もと白澤さん、魔力が少し増えましたね……クラス変化がある程ではないんですが》

 例によってシエラの指摘。やっぱり相変わらず魔力が増える事がある、かあ。

 人間には基本的にこの副作用、ないんだけどねえ。

 あとアルルーナさん達に関しても、使うのが〈湧水〉だからか、そういう現象は一切発生していない。


 元・白澤のおじいちゃんはモトハクとでも呼んでくれ、と、雑に通称を指定された。多分別に本名があるパターンですね。


「おお、こんな元気なモトハク爺さん初めて見るな!

 モトハクの爺さんはこの村ができてからだいぶんと後にここいらへんに漂着したんだ。魔物に追われて、その時は幸いでかい怪我はしなかったんだが、来た時以降、ずっと体調が悪そうでさあ。良かった良かった」

 推定アスカ君の大雑把な説明を聞いた後は、家畜のチェックだ。


 この村では牛と豚、それに鶏といった定番の家畜の他に、山羊をいくらか、そして、見た事のない、謎の……鶏よりもだいぶんとでっかい鳥を飼っていた。

 謎の鳥、顔つきがちょっと鳩っぽいんだけど、むっくむくのまるまるのふっこふこだ。


(あれ、こんなのいるんだ)

(昔からいたらしいわよ?見るのは初めてだけど)

 ロロさんとココさんの言葉によれば、どうもレアな在来種のような感じね?


「あ!ムフ鳥だ!まだいるとこにはいるんだなあ!」

 そしてカナデ君も何故かこの鳥を知っているようでびっくりした顔になる。ムフ鳥?


「お?他所で見た事あんのか。ってことはやっぱりこいつ在来種なんだな?ムフ鳥ってのが正式名称か?」

「正式名称かどうかは判らないな、僕がムフ鳥と接してたのはエルフの隠れ里で、いくつか普通の人族と違う名称を使っている作物もあったから。地方名の可能性はあるよ」

 あとでシェミルに聞いてみようかな、と続けて呟くカナデ君。


「エルフの!隠れ里!?何その浪漫!」

 そして推定アスカ君は妙な所に反応した。いやまあ隠れ里が浪漫という主張自体には頷けなくもないんだけども。


「その村はもう滅びて、そこに居たムフ鳥も全滅しちゃってるけどねー。ってそういえば、もう一つ隠れ里が別の場所にあるって話、あったね?」

 そして触発されたカナデ君が、別の里の話を思い出した。


「ええ、でもそれも多分シェミルちゃん達の方が詳しいんじゃないかな。帰ったら聞いてみるといいわ」

 取りあえず今回の案件に直接関係はないはずなので、帰ってからにしなさい、と遠回しに通告する。


「あ、そうだよねー。で、ああ、怪我したのは牛とムフ鳥だね」

「そうそう。家畜に治癒魔法は流石に大袈裟だとは思うんだけどさあ、数少ないからできるだけ大事にしてやりたいんだよ」

 カナデ君が対象の牛にまず初級治癒、そしてムフ鳥に上位治癒をさっさと飛ばしている。


(むっふ~)


 牛は無反応だったけど、ムフ鳥は謎の念話を拡散した。何だこの鳥?


「機嫌が良くなると、こうやって意味もない音声で念話を飛ばすからムフ鳥って言うんだ、って聞いてる」

 カナデ君の簡潔な説明。念話を飛ばすけど飛距離は殆どないから、外敵に見つかる原因にはなりづらいらしい。


「あー、これ機嫌がいい時なのか、成程なあ。実はうちでもムフーって呼んでる」

 推定アスカ君が、呼び名も大差ないと教えてくれる。


 そうやって話していたら、周囲の各種生き物の中で、ムフ鳥だけがのこのこのこのこ、とこちらに集まってきた。


「あー、この子達のコミュニケーションなのね、今の念話。いいことがあると、鳴く代わりに念話で仲間を呼ぶ習性があるのね、多分」

 寄ってきた方の鳥から、なになにー、なんかあるの?みたいな、言語化されてはいないけど、シンプルな好奇心が漏れて来てるんですよね。


「あ、おねーさんのスキルだとそういう判定なのかー。……うん、凄く納得いった!」

 そしてカナデ君はあたしの説に納得したという。お世話係してたから、色々心当たりがあるらしい。


 ムフ鳥たちは、ひとしきり呼んだ子とコミュニケーションを取るような様子をみせてから、解散していく。なんていうか、ユルい鳥だなあ。


 それ以外の被害は、畑が踏み荒らされたくらいであるらしい。

 ついでなのでそちらも光魔力解放で綺麗にしておく。


「え、魔力、そんな使い方あんのか……」

「もうちょっと汚染が重いと雷属性の〈分解〉で土ごと綺麗にしないとだめだけど……あ、この辺必要だなあ、ほじくり返しちゃっていい?」

 びっくり顔の推定アスカ君に、カナデ君が説明していたのだけど、ある一か所で立ち止まる。


 ああ、うん。あたしの感覚だとこれは魔物が倒された場所ね。瘴気汚染がやたら濃い場所が二つほど。

 ただ、片方は粉砕状態の家屋が残されているので、そちらは一旦光魔力での相殺で良さげかな?


「ああ、一番デカい奴が倒れたのがそこなんだ。二番目にでかい奴が倒れたのがそこの壊れた建物で、残りの二体は村外だから、無理に浄化しなくても多分大丈夫……かな?」

 撃退時の状況を解説しながら推定アスカ君は、ちょっと離れた場所にいるお花、アルルーナさんに確認を取る。


(できたらきれいにしておいてほしいのー。あの森がふえるのはだめー)

 そしてアルルーナさんの返事は、ほっとくと魔の森が越境してきますが何か?(意訳)だった。


「ほっとくと魔の森越境だそうだから、そこも綺麗にしちゃいましょう」

 カナデ君にはアルルーナさんの念話は通じないので、さっくり要約する。

 いや、ロロさんとココさんが聞いてるから、伝えてるかもしれないけどさ。


 そして久々にカナデ君の複層詠唱人間トラクターが発動しました。一番効率良いからね、しょうがないね。


「なにそれ、人間業……?」

 限界まで目をまん丸にした推定アスカ君が食い入るように見つめているけど、多分あれは他に出来る人間、いないと思う。


 壊れた建物の方は、光魔力解放で綺麗にしておいた。立地的にどうも魔の森監視員の詰め所的な場所らしく、また同じ場所に再建する予定だって言われたしね。


 まあしかし、この村を襲った魔物、跡地を見るだけでも相当規格外なサイズだったことが判るわね。あたしの元世界ではとっくに見なくなったサイズだから、いまいち感覚が判らないな。


 これで良く死者が出なかったものねえ。よく訓練されているって事かしら。

 流石に地理的に端っこ過ぎて境界の力がやや弱い。

 あとムフ鳥の正式名称はムフ鳥です。カナデの台詞には翻訳掛かってるんで原則正式名称が出て来るよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ