482.視察団の裏面をぶっちゃける。
こうなったら全部ばらすぞのターン!
「そもそもですね、あの視察団自体が最初っからそういう、お見合い前哨戦みたいな編成だったんですよ、あれ。
少なくとも言い出しっぺのフラマリア国と副団長を出したヘッセン国に関しては、完全にそのつもりで編成していましたから」
もうこうなったら、外堀をきっちり埋めてしまおう。視察団の裏事情、ぶっちゃけるぞ!
でも流石に速攻で諦めたメリサイト、オラルディ両国に関しては置いておこう。そっちは最早どうでもいい話だし。
《早めに纏めないと、メリサイト国側が第一王女殿下辺りを送り込んだり……はないでしょうけど。メリエン様が旧北領を抑えている以上、それ以上の干渉は行えないはずです》
シエラがちょっと脅すようなことを言うけど、そもそもホルクハルス殿下の真の目的って、あたし達の確認でしたよね?
《そう、ですね……悪い印象ではなかったようなので、大丈夫だとは思うのですが》
まあそれはまた後で。後でと言いつつ、ちょいちょい忙しさにかまけて忘れてる事もいくつかあるような気がするけど。
「……あちらのメリット、あるんですかね」
ぼそりとグレンマール陛下が呟く。現状のこの国は、負の遺産てんこ盛りだから、気持ちは判らなくもないけども。
「そりゃ旧アスガイアの惨状だけでも頭が痛いのに、更にもう一国、ぺんぺん草も生えない更地になるなんて困りますもの、どの国だって。
しかもサンファン国って怠惰が流行る前は農産国でもあったでしょう?
できるだけ早めに手厚く支援して、可能な限り近い将来に、農産国の一角として自立してもらいたいんですよ。
南部国家と気候の厳しい国との貿易不均衡の問題が出始めていますし、農地として整備可能な平地と、水運を活用できる水利を併せ持つサンファン国が農産国側になって貰わないと、人口の増加にも対応しきれなくなる日が来る、というのがフラマリア国、ハルマナート国双方の将来予測なんです」
頭の中で用意していた原稿を一気に読み切る。うん、これはいい加減王様には明確に伝えておかないといけなくってね。全く察してない話でもないはずではあるんだけども。
「……獣人の方たちが国内に戻って一部の農家を手伝っているのも?」
「それは全く別件です。シンプルに親切に親切を返しているだけですね、彼らのは」
少なくとも、彼らに国家レベルから何らかの指示をしたという話は聞いてない。
ただ、マッサイト国辺りでは、サンファン国内の状況はかなり早い段階で開示していたし、生き残りで怠惰にやられていなかった老人達の動向もある程度流していたとはいう。
これを国主導で情に訴えた、とみる人もいないことはない、かもしれないけど……
でも、事態が落ち着いてからサンファン国内に戻った獣人の数は、脱出できた人の五分の一もいない。
よって、主人と良好な関係を最初から築いていた彼らは、シンプルに例外だと言い切っていいだろう。
「で、話を戻しますけど、この世界の国家は、国神と王によって定められ、成立するものです。国神を欠いたままの現在、王様を継げる人がいないのが非常にまずいのは、陛下もとうに把握しておられるでしょう?
他国から見ても大問題なんですよ。何せ、国神がいない以上、別の家に引き継がせる易姓という手が、使えないんですから。
ならば手っ取り早いのは、適度な身分と能力の、適齢期の女性をまずは顔合わせとして送り込む視察団だったわけです。
下手に能力の低い人間を送り込むと更に国が乱れますから、選定はかなり慎重で、最終的にフラマリア国は王女の一人を候補に立て、それを聞いたヘッセン国も、サンファン国側での呪詛の蔓延と神罰でなし崩しに破談状態になった王女がいましたから、改めて縁付けるのもありだろう、と判断したんですね、こっちは推測ですけど」
フラマリア国については、実は自称勇者様経由でも裏が取れているからこれは事実だ。
ヘッセン国の方はアデライード様とマリーアンジュさんの組み合わせからの推測だけど、本人たちの反応を見る限り、おかしな勘違いは多分してないはず。
「そこで多分か」
が、タイセイ君が横からツッコんでくる。ええい、まぜっかえすな!
「ヘッセンの方はそう判断するしかないってのもあるのよ。アデライード様の場合、現状他に行き先のない宙ぶらりんだから……」
今現在は未成年の王太子殿下の代わりに外交の任を任されている為に、その行き先のなさが目立っていないアデライード様だけど、実は嫁ぎ先候補、現状ほぼグレンマール陛下しかないんですよね。
まずレガリアーナのレッゲスト家の新王ティグラン二世には既に妻子がいて、第二妃を取る予定はない。そもそもアデライード様の母エメルディア妃ことマリーアンジュさんはティグラン二世の伯母だ。この世界、いとこ婚は禁止の国が九割だからその時点でアウトなんですよね。
マイサラス王家は次代は女王で、お子様こそまだだけど、王太女殿下は既に結婚しておられる。王子も一人いるけど、十二歳。今年十八歳になったアデライード様では年齢が流石に釣り合わない。
オラルディ国の王太子、アンセル殿下も既婚だ。こちらの王太子妃様はマイサラス国の貴族家の出身で、格上の第二妃をねじ込むとかトラブルの元だと判定されかねないから無理だろう。
フラマリア王家の適齢期男子でお相手が決まってないのは第二王子のオルスモード殿下だけど、王位継承には絡まない方だから、他国の王女の降嫁はナシ、らしい。王太子殿下の奥様が平民出身だから、だという話ね。バランス問題難しい。
マッサイト王家は暫定王太子殿下は未婚だけれど、この方もまだ十二歳だし、王妃様がヘッセンの現国王の姉君なので、これまた年齢差といとこ婚制限でアウトですね。
メリサイト国は王家の者が外国人の妃を娶る習慣自体がないそうなので論外。出すほうは出してるんだけどね。
そして間が悪い事に、アデライード様と同世代のヘッセン国内貴族にも、未婚男性自体が殆どいないのよね。これは完全に偶然の事らしいんだけど。
……オラルディ国のコシュネリク閣下がフリーといえばフリーなんだけどね。あの方現状浮いた噂も特にないし。
ただね、アデライード様の意識にコシュネリク閣下、全然ないっぽいのよね。あればもうちょっと話題にしそうなものだけど、どうも性格が合わないのか、全くさっぱり全然だもの。
なにせ、グレンマール陛下の話は色々聞かれましたからね、あたし。
「自国、もしくは他国の貴族では対立候補にならん、と?」
タイセイ君はなおもまぜっかえしにくる。いや、一応解説すべきラインではあるんだけど。
「ヘッセン国の場合、主に年齢、あと身分的にも釣り合いの取れる未婚の方がいない、ってのは聞いてるわ。
他国は……レガリアーナはごたごたが尾を引いていて、他国から王族を迎えられる家がないわね。オラルディ国も正直似たような感じだと思う。
強いて言えばコシュネリク閣下はありかもしれないけど、視察団の時に見た限りだと、そもそも御本人同士があんまり合わないっぽいのよね。
あとフラマリア国は貴族制度自体は残ってるけど、王家以外は実情もほぼ元世界でいうところの国家公務員だから……最近じゃ外国から結婚相手を選ぶって発想自体がないって話よ……
流石にそれ以外の国の貴族クラスまではちょっと判らないわ、現状では接点がないから」
特に足を踏み入れた事のないマイサラス、メリサイトと、王家とすらほとんど絡んでないマッサイトはほんとにさっぱり判らんのよ!あたし平民ですぞ!!
「ああ、コシュネリク殿は現状結婚までは考えておらんのは知っている、二度ほど会った。
ふむ、平民でもあれこれある結婚、王族ならば、尚面倒ごとが多いか。人間も大変だな」
タイセイ君が悟ったような口調でそんな事を言っているけど、君未成年って聞いてるぞ?
いやでもペンギンとしては立派な成体だっけ……というか、彼の自認、完全に聖獣なのかな?それにしちゃあたしのスキルには反応ないんだけど。
……いや、以前聞いたサーシャちゃんのタイセイ君評を鑑みると、こういう小難しい事を言いたがる系中二病説……まさかね?
「まあそういう感じなので、王族の結婚問題、割とどこも面倒な事になってます。レガリアーナの旧王家も、御長男が俗世離脱しちゃって、残っているのはまだ十歳のお子様ですし、オラルディ国の旧王家はそもそも未成年の女の子ばかりですからね……」
最後に既知の情報を付け加えると、グレンマール陛下は無言で天を仰いだ。
いやそこまで深刻にならなくても大丈夫、押せ押せ系女子が苦手になってるとかじゃないなら、多分!!!
という訳で各国の王家のおさらい回でした。
タイセイ君がドライなのは中二病もなくはないけど、オンリーワン種族化で自分にそういう欲求がなくなってるせいもある。
あと主人公、それ外堀を埋めてるんじゃなくて外堀もう埋まってます報告に過ぎない!




