表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
538/632

480.弔いと聖獣の炎。

お葬式とこの世界の死生観がまた少し。

 亡くなった人には、神罰はもはや影響を与えない。

 なので、朱虎氏以外の全員で、ダーレント元公子の載った車椅子と共に、国境を越える。


「このような仕組みなのか、不思議だな」

 初めてこの神罰の境界に触れるタイセイ君が、言葉通りの不思議そうな顔で、車椅子と、越えたばかりの境界線を見比べている。


「お久しぶりです、カーラ殿、ランディ師。今回は我等が血族の為に、御足労ありがとうございます」

 走鳥から降りて、グレンマール陛下がこちらにやってくると、一礼する。


「ついでとはいえ、我等がわざわざ海底遺跡から引っ張り出したご老体だからな。この程度の、さしたる手間でもない望みくらい、叶えてやろうというものさ」

 代表して、こちらで一番格上になる、超級召喚師にして真龍たるランディさんがそう答える。

 本来なら真龍としてのランディさんがこの場では一番格上なんだけど、そこは普段は出さない事にしている話なので、一旦除外だ。公然の秘密というか、なんか単なるお約束になっちゃってる気はするけど。


「おじいちゃん、行っちゃったね……」

 シェミルちゃんが天を見上げて、瞳の端を光らせながらそう呟く。

 ティスレ君は、ずっとダーレント元公子の手を握っていたのだけど、まだ、手を離しかねている様子だ。そうね、まだ、暖かいものね。


 あたしの目にも、天に還るダーレント元公子の魂は視えていた。

 エルフ族に巫覡は基本的に出ないって話だけど、魂を視る技能はそれとは別に持っているものなのかなあ。


《エルフ族は神々ではなく、世界に仕えているのだ、という文献をどこかで見た事があります。何らかの異端書だったように思うのですが》

 シエラの情報通りなら、エルフ族には人族とは本来違う役割が与えられているということなのかな?異端書扱いなのは、神殿組織的には都合が悪そうな話だから、な気がする。


 それでも、この世界の淡色エルフは後からレガリアーナ系人族から改めて創られた存在らしいから、なんか矛盾する気もしないでは……いや、人族から切り離して、エルフ族としての特性を載せた、って事なら別に矛盾はしないのか。


「朱虎氏も、久しいね。顔も知らぬ私より、旧知の貴方に会う方が心の安寧に繋がったと、そう思うよ」

 続けてグレンマール陛下は、朱虎氏に声をかける。


「だといいな。あんたも随分王らしくなってきたようで、何よりだ。仕える国は替えたが、そうさな、あんたら親子は悪くない連中だと思うぜ。またなんぞ野暮用があったら、一声掛けてくれていいからな。

 じゃあ俺はそこは越えられんから、これで」

 朱虎氏はざっくばらんな口調でそう述べると、くるりと反転してマッサイトの森に消えていく。


「相変わらずだのう。隣国の女神様はああいうざっくばらんな奴がお好みなのかのう」

 グランデール前王が、ちょっと呆れたような声音で首を傾げている。


「ざっくばらんというよりも、聖獣らしく裏表を持たぬ癖に、どこか人くさいところが好まれておるのだろう。あとあの図体で足音をさせぬところ、であろうか」

 ランディさんが大雑把なイメージだけで自分の感想を述べている。うん、根拠は特にないのよ、この発言。そこまで的外れな事は言っていないのも確かだけど。


 ダーレント元公子の御遺体は、この場で火葬することになった。

 秋の終わりが近く、気温がだいぶんと下がってきたとはいえ、御遺体を王都に割と近い場所にある、サンファン王家の墓地まで直接搬送するには、ちょっと距離が遠いからね……


「私では、聖獣の方々程上手くはやれないと思うが……朱虎氏は帰ってしまったしね」

「ふむ。我が契約中のものから、火の扱いが上手いものを呼ぼうか」

「僭越ながら申し上げます。もしお嬢様とサンファン王陛下がお許しくださいますなら、あたくし、五尾いつつおの舞狐が火葬の任を賜りとうございます」

 炎系の術式を得意とする上級魔法師でもあるグレンマール陛下と、流石に人族の魔法では火力が怪しいのではないかと考えているらしいランディさんの会話に、珍しくカスミさんが率先して割り込む。

 うん、あたしもここにひとりいるよなー、と思ったところだった。ので、カスミさんに同意の頷きを返す。


「舞狐の……五尾?よもや、カガリ家のカスミ様でございますか?」

 グレンマール陛下もカスミさんの名は知っていたようで、驚きと共に質問が返される。

 ちなみに氏族単位で暮している聖獣種族は、国によって多少扱いが違うけど、大体の場合人族の王族貴族辺りと同格扱いなので、陛下はカスミさんを様付けで呼ぶのです。あたしはお仕えされている身だからさん付けどまりだけど。


「左様でございます。亡きダーレント元公子の救出の折にも、お嬢様に同道させて頂いておりました故、あたくし自身に縁のない方でもございません。お認め頂ければ、我らが舞狐の炎の術にて、御送りさせて頂きます」

 どうやらカスミさんもダーレント元公子にはそこそこ好意的であったようで、珍しく随分と多弁に自分の役目としたい、と強調してくる。


「なれば、是非に。王といえど人の身にすぎない私が行うより、余程格が高い弔いになりますからね」

 そしてグレンマール陛下もカスミさんの要望を認めた。

 実際、魔法師の炎で遺体を焼き尽くすって意外と難しいらしいんだよね……この国では先年の乱の折の遺体は、ほぼ人力で全ての火葬をやり遂げたらしいのだけど。


「骨も残さず灰にする方向で宜しいでしょうか。ある程度お骨を残すやり方もできますけれど」

「骨を残す習慣はわが国にはございませんから、綺麗に灰にして頂けるとありがたいですな」

 どうも国によっては、骨の一部を焼き残して骨壺に入れる地域もあるらしい。この国は違うようだけど。

 カスミさんと、この国の過去の儀礼には然程詳しくないグレンマール陛下の代わりに答える先王陛下の会話のあと、ローラントさん、タイセイ君、エルフっ子達の四人がかりで、短い草に覆われた地面に降ろされるダーレント元公子。流石に借り物の車椅子まで巻き込むわけにいかないですからね。

 車椅子の方はもう使わないから、と、一旦ランディさんの格納魔法でしまわれた。あとで返しに行く、はずだ。


「それでは、参りまする。亡き方に、来る世までの安寧を」


 ご遺体は、軽く手を組み合わせる形にしてから、マントで包み直され、そして人が離れたところで、カスミさんの言葉と共に、淡い色の炎の花がぽつぽつとご遺体の周囲に灯り、くるくると回りながら花開き、散りながら大きな炎と変じて、あっという間に拡がると、ご遺体を隠すように包み込む。

 然程時間も置かず、美しい、桃色がかった炎が消えた後には、人の形とも言い難い感じに細長く纏まった灰だけが残った。


 多分これ、カスミさん、マント残して人体だけ焼くとかいうアクロバット的な事もできるんじゃないかなあ、とふと思う。だって、草が一本も焦げていないのよ。


(できなくはございませんが、指定が細かくなる分、時間が余分にかかってしまいますね)

 念話で回答、やっぱりできるけど、ネックがまさかの燃焼時間。


「舞狐族の炎の技は初めて拝見いたしましたが、見事ですね。このような美しい色の炎が、存在するのですね。故人に最高の弔いを、ありがとうございます」

 炎の術の余韻を追うような、グレンマール陛下の感想に、皆頷く。

 本当にカスミさんの術は、いつ見ても綺麗だものね。


 その後、ご遺灰は纏められて、シンプルな素焼きの壺らしきものに納められた。

 なんでも、墓所の納灰堂の中でこの壺を割り、祖先の灰と混ぜ合わせるんだそうだ。この国の王族独自の習慣であるらしい。

 そして、気が付いたら、近衛部隊が掲げていた幟が、灰色で、高さも長さも最初の幟の半分くらいの、弔意を示すものに変わっていた。


 時間はお昼を回ったあたりだ。そういえば、午前の中途半端な時間に呼び出されて、そのままここに来たから、お昼ごはん、まだなんだよなあ。まさにランディさんとサーシャちゃんが作っているところだったからね……


「そう言えばすっかり昼時を過ぎているな。小娘に遅くなるまでは言ってこなかったが、どうしたものか」

 ランディさんも時間に気付いてちょっと軽く眉を寄せる。


「ああ、葬儀になったから先に食ってていいって、サーシャに連絡しておいた」

 そこにタイセイ君がそんな言葉を。ネットワーク化されているからゲームの時みたいにフレンド間メールみたいなのが使えるんだそうだ。何それ便利。

骨壺文化があるのはマッサイトの一部かなー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ