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476.魔法の仕様と歴史を語る。

一応説明回である。

「魔法陣自体は〈上位治癒〉の物のままなのですな」

 暫くペンを手持ちの紙に走らせていた神官長様がそう聞いてきたので頷く。


「そうですね、魔法陣そのものは変更されません。

 ただ、初級の〈治癒〉の魔法陣からの上位転換も、さっきの二倍半くらいの魔力量を追加するとやれなくはないんですが、そちらだと〈上位治癒〉の古いバージョンの魔法陣に自動変換されますね」

 記録して貰う以上、ここは正確に回答する。とはいえ、初級からの転換なんて、流石にあたしですらもうやらないと言っていいレベルで無茶コースだ。なにせ魔力効率自体が最悪なうえに、効果が目に見えて落ちる。


 うん、最初の頃、サクシュカさんやマグナスレイン様に使ってた時のアレ、本来の効果より大分落ちてたんですよね、今思うと。初級の〈治癒〉しか知らない頃だったし、熟練度もゼロに近い所だったから、しょうがないんだけど。

 そもそもサクシュカさんに使った初回は完全に事故だったし、マグナスレイン様の時は他に知らないからアレを使ったけど、今ならどちらも〈上位治癒〉でさらっと治す程度の症状だったと思います……


《それだけ貴方も成長したってことですよ》

 ほほえましい、という感情を載せてシエラがそんな事を言う。それもそうか……


「古いバージョン、ですか?何時頃のものか、とか判りますでしょうか」

 聖女様が初級治癒での仕様の方に興味を示す。神官長様も気になる様子だけど、これはどこまで解説すべきだろうか?


「一度見た事はあるが、我は治癒魔法には適性がない故、書式の一部が違っていて、効率が良くなさそうに感じたくらいで、違う部分がどうとか、改変時期などは判らぬな……」

 ランディさんはカル君の治療の時に初級からの上位転換も見ている。

 というか、この初級治癒からの上位転換と、上位治癒からの上位転換の両魔法陣に差異がある事に気が付いたのは、ランディさんなのだ。あたし、そこまで意識してなかったよ……

 もちろん、見てはいたからシエラと二人でアーカイブで確認できたし、そうしたら明確に書式が違う部分があったわけだけど。


「あたしの方も改良履歴の方が判らないのでその辺はなんとも。

 古い方にはターゲット指定部分に意図不明の揺らぎ幅があるのと、全体の魔力効率が良くない感じ、ですかね」

 取りあえず両者を重ねて分析した時の結論だけ述べたら、神官長様がああ!と手を打った。


「それは記録に携わる人間には有名な改良項目ですな。

 二百年程前に、当時の聖女様が手掛けたものです。記録にある、最後に〈生命賦活〉を使った方でもあるのですよ」

 神官長様の答えはちょっと意外なものだった。〈生命賦活〉を最後に使った人、思ったより最近の人だった。それにしては情報の散逸が早い……いや、秘匿されてるのか?


「カーラ殿は、カルフェ・マルタ女神の御名は御存知ですかな?」

 へえ、と思っていたら、続けておもむろに尋ねられたのが喪われた女神の名前。はて、これは素直に知っていると答えていいんだったか?


《大丈夫ですよ、彼の地の神々が喪われた事は神殿内限定ではありますが、公開情報です……いえ、だめか。神殿のみの情報を貴方が知っていると知られるのは良くないですね?》

 ああ、それなら名前だけ知ってる、でいいかな?


「滅びた小国、カルマルフェッタの国神、だったか。滅びたのは……これも二百年程前、とあったな?」

 ところが、あたしが答えるより前にサーシャちゃんが答えてしまう。

 そういやあたしが貸した歴史書に載ってたもんな、三人組も名前は知ってるはずだわ。


「正解ですな。ライゼルの併合史を含む史書をご覧になった事がおありですか。ライゼル国が最初に併合したのがカルマルフェッタです」

 そう言われたので頷く。歴史書は元々あたしが取り寄せてもらった本を三人組に貸した奴だから、当然あたしも読んでいるからね。


 但し、本当の一つ目の併合国は創世神の御座があった、名を伏せられた国だ。これは史書からも記録が消されているから、そんな国が存在した事自体が現代ではほぼ忘れられている。

 流石に創世神の御座の存在自体は消せなかったけど、何処にあるかという記録は、これも喪われている。二百年程度で、よくもここまで綺麗に消せるもんだなあと感心するわね。


「カルフェ・マルタ女神は亜人と魔法、そして名前に関わる神でした。この女神が喪われた事により、新たな亜人種族、新たな魔法が生まれる事はもうない、とされております。

 実際には異世界からの民はそういう制限を持たない訳ですが、それはカーラ殿ご自身が良く御存知でございましょう」

 そりゃあ実際に、神官長様のほぼ目の前と言える場所で新作魔法披露しましたからね。


「そりゃまあ、開発者やってますからね……ただ、異世界人だからといってぽんぽん新作が作れるというものでもないんですけど」

 あたしが以前ここで作った〈消去〉は、その他魔法の分解カテゴリの光属性、それ自体に空きがあったから上手くできた奴だ。攻撃魔法でこれができる気は、現状ではしない。


「ライブラリの空きにうまく嵌るかどうかが普通は判らないはず。削除された魔法はライブラリの該当部位を埋めたままだから、攻撃魔法は現状だとほぼ増やす余地はないよね」

 ライブラリを詳細閲覧できる、つまりあたしより魔法そのものに詳しいカナデ君もそう断言する。


「こちらの方も魔法には詳しくていらっしゃる?」

 流石に詳細解説の内容に、神官長様がカナデ君に興味を示す。


「その子はほら、雷魔法の〈分解〉を見つけた人ですよ。最近では魔法陣改良にも付き合ってもらってます」

「カナデさんは雷〈分解〉の開発者さんですね。以前視察でご一緒した時に実演もしていただきましたけど、鮮やかな手並みで見入ってしまいました」

 あたしの雑な説明に、マリーアンジュさんが補足を入れてくれる。


「僕は異世界人で、ついでに魔法関連は称号とかスキルが揃ってるから管理や確認はしやすいけど……それでも、いや、それだから、この世界の攻撃魔法カテゴリには現状では何もできないんだよ。削除の撤回も回避もできない仕様なんだ」

 類似の魔法だと判断されたらそこでアウトだから、どうにもならないんだよね、と更に説明するカナデ君。あ、さては何かやらかしたな?


「随分詳細に語るが、何か禁止項目に触れたのかね?」

 これまた研究者気質のあるランディさんが速攻でツッコミを入れている。


「光初級だけでもなんとかならないかと思ったんだけどね、だめだった。実害はない範囲だと思うけど」

 そしてカナデ君は正直にやらかしを白状する。

 何を考えたのだろうと思ったら、光の霧を発生させてアンデッドにだけダメージを与える魔法、を作ろうとしたらしい。うん、発想がゲーマー!いやそれよりも。


「……それ、そもそも初級じゃなくない?」

「初級に拡散属性は無理だぞ。せめて中級ならまだしも」

 思わずあたしとランディさんが同時にツッコミを入れましたよね。そしてランディさんのツッコミがやたら具体的なんですけど!


「お二方、それはそうなのですが、そこではございません……カナデ殿と申しましたか、魔法の削除領域に関しては、安易な開発作業は謹んで下さいませ。せめて国の学院のいずれかに情報を諮ってからにしてください」

 神官長様に窘められて、それ以降はそうしています、ごめんなさいと素直に答えるカナデ君。そういう素直さはこの子のいい所よね。


「そういえば初歩魔法に土属性がないのも、どうにもならないのですかね?」

 マリーアンジュさんがふと思い出したように全然関係ない土属性の話を持ちだす。いや、削除繋がりではあるか。


「あ、それなんだけど、実はそこは新しいのが何故か埋められたんだよね。〈石〉っていう、足元に小石を一個生成するだけの魔法なんだけど」

 はあ?!いつのまにそんな事してたのカナデ君???全員がガン見の構えですよ!!!


「なん……だと……?いつのまにそのような……人族で禁止された魔法は我等真龍のライブラリに同等のものがあればそれも削除される仕様なのだが……だめだ、我では土属性は判らん、アローカに聞くしかないな……」

 ランディさんは光と風属性の強い真龍なので、土属性は当然持っていない。そして真龍のライブラリも、取得できない魔法は見られない仕様っぽいな?


 ご老人の目の前でずっとこんな魔法談義をしてしまったのだけど、ダーレント元公子はお顔キラッキラで楽しそうに話に聞き入っていた。うん、なんか謎の活力が湧いてる感じだわね。


 好奇心は、生きる力にもなるものらしい。

カナデ君が割と地味派手にやらかしてた。

真龍のライブラリ閲覧は属性違いのものが見えない、なので、単に適性がないだけの治癒や護法なら見られるけど、そんなとこわざわざ見る真龍はあんまいない。ランディさんは見てる。


初級未満は実は枠が固定じゃないので……

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