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466.氏族内での意見対立?

 でも後半は全然そんな話じゃない。

 その後、第二回の視察会も無事開催され、前回と三分の二のメンバーを入れ替えたシャカール族の皆さんは、開拓村視察の方でも大変満足して帰っていった。


 ところがだ。


「申し訳ございません、農繁期だというのにわざわざおいで頂きまして」

 シェラザードさんが恐縮した面持ちでそう述べる。


 ええ、ここはシャカール族の村。今朝がたセレンさんが国境城塞にやってきて、あたしとカスミさんと三人組を連れてきたんですよね。そしてランディさんが慌てて追いかけてきたよ!


「いや、今期は俺らは農業関係はちょっと止められてっから、そこは問題ない」

「あたしは農家じゃないですからね、確かに収穫期は刃物を使うからか、日頃より多少出動は増えますけど、今期はその辺はもう終わって次作の作付け時期ですから問題ないです」

 三人組を代表して、次の春までは暇だと言外に述べるサーシャちゃん、現在の本業は治癒師であって農家じゃないんですと回答するあたし。


 うん、治癒師として呼ばれるのが一番多いのが、麦の刈り入れ時期なんだ。この時期しか使わない、刈り取り用のでっかい鎌でざっくりやらかす人が、毎年出るという。

 風魔法を使えば?と思わんでもないんだけど、できる人はそうしているのよ。農家に多い、土属性を持ってる人は風属性は持ってないから、やれる人が少ないというだけね。


 なので今期は、麦の刈り入れが終わるまで、ベネレイト村の三人組の所に居候、いや駐在していた。うっかり大きい動脈でも引っかけると一刻を争うからね、刃物は。

 幸い今期はそこまで深刻な怪我をした人はいなかったけど、それでも上級治癒を使わないとだめですね、って人が何人か出ましたよねって。


「で、問題というのは?村内が以前に比べてざわついてはいるが、これは活気というものではないのかね?」

 ランディさんが以前を知っている者として質問を投げる。


「ええ、二回の大陸訪問で、以前よりもいろんな意見を皆さんが交わすようになって、活気が出ているのは確かです。

 ただ、その結果、大陸への本格的な移転を考えだす人が増えたうえに、その移転先の候補に想定外の国を挙げる人が現われて、しかもそちらもそこそこ高評価を得ているために、緩い対立状態になってしまいまして。

 流石に我々氏族を二つに割ると、数世代くらいで氏族としては消滅してしまうのではないかという懸念もございまして、現状ではどちらにも賛同しかねるのです」

 シェラザードさんの語った我々のお呼び出し理由は、思ったより深刻だった。って他国?


「そなたらに都合のいい国がハルマナート国以外にあるとは、思えぬのだが……」

 ランディさんが首をかしげている。我々も大体同意見だ。

 いや、待てよ?もう一つあるといえばあるな、国神のいない国家……


「サンファン国にも現在は国神がおらず、しかも人口が大変少なくて、余人にあまり遭遇したくないという人達に向いているのではないか、と言い出した人がおりまして」

 やっぱりかー!


 確かにサンファンも条件自体は合致している。ただ、あそこは土壌改良とかの技術と支援をがっつり入れないと下手な所には住めないから、頭の中では速攻で除外してたのよねえ。

 あの土地の人達、侵攻前は極端に保守的だったというから、シャカール族の見た目が受け入れられない可能性もあったし。


 でもそうね、今は人手が足りなくて、のんびりしたおじいちゃんおばあちゃん勢の一部を除いては人口はほぼ中央に集約されているから、場所を選べばあるいは、というところはある。


「……あー、ここと同様の生活をしたいなら、いい場所があるといえば、あるね……ってだめだ、あそこ遺体を土葬しちゃってる、そこまで思いつかなかったから」

 そしてカナデ君が今言わなくていい情報をポロリする。エルフの隠れ里だった場所ね。


「そういえば隠れ里って水回りはどうしてたの?君が拾われるまでエルフ族しかいなかったのなら、水はともかく、闇持ちなんて当然いなかったはずよね?」

 出てしまったものはしょうがないので、カナデ君に以前からちょっと疑問に思っていたことを聞いてみる。


「村長さんが闇属性持ちの幻獣さん?と契約していて、肥料化処理をして貰ってたんだよ。僕がお世話していた鳥の糞とか、トイレから乾燥させて回収したものとかね」

 水洗式トイレ自体は、水属性持ちの人が簡易式で作っていて、隠れ里にもあったんだという。


「闇属性持ちの幻獣……?よもやブラックスライム、か?いや、あれは幻獣と言えたか??」

 ランディさんが眉を寄せて考え込んでいる。えっ?この世界スライムいるの??図鑑で見たことないけど?


「そうそう、なんか黒豆の入った黒蜜を寒天で丸く固めたみたいな、ぷにっとした可愛い奴。侵攻された時に死んじゃったけど。死ぬと溶けてべしゃってなっちゃうんだよ」

 カナデ君の説明に、驚いた顔になるランディさん。最近感情激しいわね?


「ブラックスライムが契約可能だなんて話は、聞いたことがないぞ……?!奴らは希少種なうえに、そもそも言語を理解せんはずだ」

 あー、数が居ない上に、契約がうちのシルマック君級の難易度か!!それは驚くわ。


「なんか大昔に、干からびかけてた所に偶然水を撒いたら懐かれたって言ってたよ。おねーさんとこのシル君みたいなものだと思う」

 そしてカナデ君の回答も、シルマック君を引き合いに出すものだった。って大昔なの?


「あたしの場合は意思疎通スキルという自分でも結構反則だと思うアドバンテージがあるから、一概にはいえないですけど、死にかけを救われたら恩に着る程度の思考があればあるいは、というとこなんですかね」

 自分が例外だという自覚はあるので、そこは強調しておく。


「それはそうなのだが、スライム類は希少な上に、意思があるのかどうかも曖昧な種族でな。人類の活動域にはそもそもほぼ生息しておらぬし……少年の説明だと、形態自体も通常のスライム類とは違っておるしなあ」

 そもそも人間を嫌うのだよ、あの種族は。と説明を締めくくるランディさん。


「あら?そうだったのですか?この村にもブラックではないですけど、可愛いスライムちゃんがおりますよ?」

 そしてそこでシェラザードさんの爆弾発言。はい?スライム飼ってるの??


 是非見たい、と前のめりでランディさんが詰め寄るのをステイさせつつ、皆で見学しに行く事になった。


「あら族長、お客様ですか?うちのライムちゃんを見に?」

「ええ、そうなんです。ちょっとだけいいかしら?」

「そうですねえ、人数が多いですから、ちょっとだけになっちゃいますね、あの子ちょっとシャイだから」

 そんな会話の後で、飼い主さんに抱っこされて連れて来られたのは、確かにまん丸系の半透明な可愛らしいフォルムの、あたし的にはデフォルメ系、と呼びたくなるそんなスライムでした。色は薄緑、かな?目や口は付いていないから、ほんとにぷるぷるの寒天かゼリーの玉みたい。


「…………は?風属性?……スライムに、風属性??」

 そして、ランディさんがたっぷり十秒くらい固まってから、それだけ述べて、また固まる。

 そうね、この薄緑は確かに風属性の色ね。シャイだと飼い主さんは言っていたけど、今はどっちかというと、見たことないヒトがいっぱいいる!という感じの、たいへん好奇心が旺盛な感情を感じるわね?


「この子、人の言語をある程度理解できる気がします。あたしのスキルで感情が言語化できる感じなんですよね」

 好奇心が強い、という事は、このスライムには自我が確立されているという事だ。

 そしてその段階に至った動物は、基本的に人の言語を理解する素地ができているのよね。


「ねーちゃんのあのスキル?ってことは、スライム、動物なんだな」

 そして、あたしの言葉にサーシャちゃんがシンプルな感想を述べる。


「そうね、この世界では動物分類みたいね。でもアルルーナさんみたいな植物幻獣にも多少はスキルが通るから、それだけでは判定はできないわよ」

 そう、アルルーナさんやトレント族のような植物型幻獣にも、あたしのスキル、〈動物意思疎通〉は通用する。但し動物相手の時より精度自体はやや落ちる。これは植物の時点で思考形態が動物とは違うせいじゃないかな、とあたしは思っている。


「……スライム種の常識が全部覆ったぞ、今……」

 暫くの間完全に固まっていたランディさんが、そう述べて更に思考の海に沈んでいく。類例がない、と呻くような呟き。


 まさかの:結構な大発見?

 そもそも本来のこの世界のスライム種、こんな丸くないし、森の最奥で地味に分解者やってるべったりした、ほぼ粘菌に近い生き物のはず、なんだけど。


 そしてまたマルジンさんが置いてきぼりである。鶏はいるのに。

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