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459.亜空龍メビウス爺さん。

 あたし自身とシエラのそれぞれの技能やらなんやらを重ねた視界には、なかなかばかでっかい龍が伏せている。マグナスレイン様の倍以上大きいな?真龍、もしかして成長限界がない種族?


 先日知ったけど、ランディさんでマグナスレイン様と同じくらい、マーレ氏はそれより半周りくらい大きい感じ、二人とも、龍の王族で言う紋章系有翼ドラゴン形態である真龍としては割とスリムな方。

 セレンさんは彼らより大きくて、化身姿同様、どことなくたゆんとした、ふとましくまではないけど柔らか気な造形だった。


 このおじいちゃんの身体は艶やかな、黒に近い……茄子紺とでもいうべき色、空間魔法の影響でそれ以上は判らないけど、恐らく構造色で青みの強い光を放っている、そんな感じ。

 鱗は大き目でちょっとがさがさ感があって、鱗の先端が棘のように尖った……ほんとになんかキーワードだけ並べると茄子っぽいな……流石にあんな柔らかそうではないけども。


(や、め、ろ、耐えきれん)

 マーレ氏があたしの思考を読み取ってしまったようで、念話と共に、完全にしゃがみこんでしまった。


「ち、長老、バレバレ、だそうだ」

 それだけ辛うじて言い放つと、うずくまるようにして肩を震わせるマーレ氏。貴方のこと、笑い上戸認定していいかしら?


【……茄子、茄子か……随分と食い気に寄った感想もあったものだが】

 ぼやきながら、隠蔽を解除する長老のでっかい龍。うん、やっぱり隠蔽解除したら鱗の色は構造色が強く出る、キラキラ系だった。所々に金色の星のように、色違いの鱗があるのは、隠蔽が消えてから初めて気が付いたけど。目の色はお月様のように輝く薄い目の黄金色。


「半月のかかる冬の星空のような姿ですね、綺麗だわ」

 一応そこらへんは褒めておく。今の所けなす要素は根性悪いお試し精神の部分だけだし。


【普通の誉め言葉も持っておるか、よかろう。我は亜空龍メビウス、と認識して貰えばよい】

 亜空龍、空間属性に優れた龍というニュアンスね。人向け通称はメビウスさんか。


【うむ、我らの名に関する慣習も理解はしておるようだな、では娘御よ、我の用件であるが、ランズの監視をして貰いたい】

 頷く気配のメビウス爺様、いきなり無茶を言い出した。


「無茶言わないでください。転移サクサク使う真龍を監視とかできるわけないでしょう」

 あたしの技能に、全世界をカバーできるものなど存在しない。それに、その発言自体になんか欺瞞を感じるんですよね!本命とは別でしょうそれ!!

 この期に及んでまだ試す気ですかおじいちゃん!!


 ガチで即答したら、いきなりぐわっははははは、みたいな感じで笑いを波動として放出するメビウス爺さん。

 やめろください、こっちはひ弱な人族ですよ!物理波動で笑われる?と、普通に吹き飛びかねない!無言で結界追加してるからどうにかなってるけど!!


【……なんとまあ。我の波動にも微動だにせん結界か。本当に其方なら、やれそうだな】

 笑いを納めると、思いのほか真面目な声音でそう述べるメビウス爺さん。

 やる?何?って、ああ、最終目標のズボラ討伐の話か。意思疎通スキルのお陰でそういう細かいニュアンスがほんのり伝わってくるのは便利だわね。不用意にその存在に言及できない現状だと、助かる。


【そういう事だ。アレは最早世界を呪い蝕み壊す宿痾、死病としか言いようのないモノに変わり果てた。放っておけば、世界は奴に食らい尽くされ、最悪の状態で崩壊する。

 無論、討伐しても世界はいずれは消失する事にはなろうが……そうなった場合の行く末はランズに聞いて居ろう?】

 重々しく告げられた言葉に頷く。うん、かなり前だけど、そのコースは聞いたことがある。最終的に真龍だけが残って、世界の最期を共に迎えるだろう、だったか。


【そうだ。だが、実はそうならぬ方策も、あるのだ。

 但し、その役割を押し付けられたものにとっては地獄と呼ぶも生温い、凄惨なる試練の道である故……達成できるかどうかが、危うい。

 で、其方、聞いたものを封印する手段も持っておるな?

 今はそう、この言葉を封じておくと良かろう。【世界龍】、それが我ら真龍だけが持ち得る最終手段だと】


 うん、なんだかよく判らないけど、記憶はした、そして記録として封印した。おっけー?


【今はそれで良い。そもそもの機が熟して居らぬのは其方も存じておろう】

 それはもう重々承知しています。あたし自身に、まだ色んなものが足りていない、それだけは確信しているから。


【其方に関しては、其方自身が思うよりは熟して来ておるように見えるがね。魔法解放の相方となるものが、まだまだ未熟である故な、せいぜいしごいてやるが良かろうよ】

 でーすーよーねー。こんな遠方にいる方にもバレバレ、いやこないだ島に来てたからその時に見た可能性もあるか。

 それでも使用したら魔法師称号が超級になるところまでは来てるんだけどねえ、カナデ君。

 ともあれ、長老さんの本題は今ので終わりらしい。キーワード封印状態だから、考察するのは現状では無意味だけど。


【我は長老故な、他の真龍たちの見聞したものは概ね把握して居る。故にムルラッハ、別に笑っても構わんぞ】

 メビウス爺さんにそう言われて、立ち上がりはしたものの、笑うではなく憮然とした顔をつくるマーレ氏。せっかく笑わないように最大限努力してたのにね、ちょっと気持ちは判る。

 そういうところがいけずとか性格悪いとかいう評価になるんですよ、おじいちゃん?


 ぶわっははは、と、あたしの思考を読んだらしきおじいちゃんがまた呵呵大笑する。


【いやはや、思いのほか楽しい娘御よの。儂は最早この場から動けぬ身ではあるが、良き時間を頂いた。礼をしたいが、今の儂から何かを贈るのは逆に世に宜しくなさげではあるな……】

 見聞が増えただけで充分といえば充分ですよ。どうせまた会う機会も案外あるでしょうし。


「動けない?」

 でもそこは突っ込んでみよう。ってああ、診断技能が反応してる。真龍も病気とか……いや、違う、これは……これは!


【おう、診てしもうたか。儂のような図体がでかいばかりの年寄りに出来る事なぞ、知れておってなァ】

 あたしから見えないように後ろに回された彼の尾は、その殆どの骨が見える程に、そして黒々と、腐り果てている。それは、あのズボラの異変に近しくも、違う何か。

 恐らくは、奴から生み出され、世界に還元され厄災を齎すべき瘴気を、その身に引き寄せ、受け止め続けた、その結果だ。

 そして、シャカール族から光属性を収奪していたのも……世界だけではない、彼も、だ。

 この瘴気を相殺するために、世界のトラップをここに引き寄せ、利用した。流石に最初からそのために彼らを保護したのではないだろうけど。


【うむ、うむ……我は時の始めの真龍故、世界とほぼ同格での。でなければこれを引き受ける事もできんのじゃが、な。

 光の人の子等には悪いことをしてしもうた。だが流石に、近年流れ込む量がちと増えすぎておってなあ……これ以上浸食が進むと、儂が魔物化しかねん】

 そういう怖い事は!!!もっと早く教えてください!!!魔物化した真龍とか厄災どころの騒ぎじゃないでしょうそれ!!!


「それ人類世界が余裕で二、三回は滅びる奴じゃないですか、勘弁してくださいよ……」

 正直に述べながら、上位治癒の魔法陣を描き、過剰に魔力を込めて上位転換する。瘴気の挙動だというなら、賦活でちょっとくらいはマシになるでしょう!流石に完治させるのはあたしの魔力全て使っても不可能だけど!


 そう、それほどに彼の取り込んだ瘴気の量は大きい。多分聖女様が正規の〈生命賦活〉を使えるようになったら、二人掛かりで、複数回かけて、数日がかりならなんとかできるかもしれないな、くらいの奴だ。


 それでも、やらないよりは、やるべき。それが今のあたしの全ての技能の出した結論だ。


 ギリギリまで魔力を詰め込んだ魔法陣は相手に合わせて大きな円を描き、べたりと老真龍の身体に張り付き、浸透し、弾ける。……うん、効果自体はそれなりに出たけれど、半分どころか、四分の一も治せてないな。

 ……彼は、何年、いや何百年?これを続けていたんだろう。蓄積が、多すぎる。


【おう、おう……随分と、本当に随分と楽になったぞい……百年分くらい命が巻き戻ったようじゃよ、ありがとうなあ、嬢ちゃんや】

 そしてメビウス爺さんは、さっきまでよりも随分優し気な口調になって、そう礼を言ってくれた。


 でもそっかぁ、今のあたしに行使できる全魔力を使っても、百年分かあ……やっぱり修行が足りないわね、色々と……

前作読んだ人ならピンと来るかもしれないね。

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