457.兎とおやつとアルミラージ。
おやつ回だよー。
「ともかく、召喚契約獣に関しては、一度召喚主が呼んでみるしか確認のしようがなかろうよ。流石に己で契約もしていない兎の区別などつかん」
ランディさんがサクシュカさんにそこまでは面倒見られないよ宣言をしている。
「確かにそれはそうね……ところでそのやたら数が居るバロメッツはともかく、アルミラージ幼体っぽいのが居るのはどうしてかしら?この辺りにアルミラージの群れはいないはずだけど」
それを受けてか、サクシュカさんは次なる疑問点を口にする。
アルミラージはこの国が主な生息地で、国境城塞にいる群れが最大の集団だ。去年ごっそり減ったけど、それでも一番多いらしいよ。他は三か所程、国境の群れの半分くらいの規模の集団がいるくらいらしい。
「魔力を蓄積した兎で、属性変化を起こさなかったものを、魔法で少し後押ししたらこうなったんですよね……ほら、サクシュカさんも治癒魔法で魔力の蓄積が起こる話は御存知でしょう?」
そう説明したら、ガチめの真顔になるサクシュカさん。
「……新規に聖獣種族の発生をコントロールできる、とか流石に言わない、わよね?」
「前提条件が特殊過ぎて、そっちの再現性がまずないと思います」
おっかない話を秒で否定する。そもそも本来なら、魔獣が出現するその寸前の状態に遭遇するって事自体がレアどころか完全にイレギュラーというか、どういう確率でそうなるのよって話だからね?
「……確かに。こんなことそうしょっちゅうあっちゃ困るわ」
何やらしょんぼりした顔でそう納得するサクシュカさん。これは、エンブロイズさんの報告以後、相当走り回らされた感がありますね?
兎たちは、明確に飼育個体だったもの達とそれ以外に改めて分けて、そこから更に野生個体を適当に仕分けたところで、全員でおやつタイムだ。
バロメッツたちと兎にも一応食べ物はあげているよ。カナデ君が何故か草刈りした時の雑草とか収納にぶち込んでたので……足りない分はこれもなんで持ってるのか判らないけど、ランディさんが牧草っぽいものを出していた。
うん、流石に結界の維持はまだまだできるけどワカバちゃんもお腹が空いたそうだし、あたしやカナデ君はもう待ちきれなくて、先に出してもらったキャンディを摘んでたりする。
ガラスのドラジュワールに入れられた色んなキャンディ、ドラジェやらボンボンやら混ざってて、これだけでも見た目がとても綺麗ね。
「では本日は皆かなりがっつり魔力を使ったことでもあるし、ケーキ類の食べ放題、としておこうか」
例によって屋外のテーブルに、苺の乗った白いクリームで飾られたスポンジケーキとか、チーズケーキとか、色んなフルーツのタルトとか、エッグタルトとか、パウンドケーキっぽいものとかが並んでいく。なんかチョコレートケーキみたいな見た目のものすらあるけど、これなんだ?
「チョコはないはずだよな?」
サーシャちゃんも怪訝な声で黒に近い焦げ茶色のケーキを指さしている。
「キャラメルでコーティングしてある。焦げ臭くならんように、かつ固さを調整しながら色を濃くするのに苦心したのだぞ」
そう説明しながら、すっと綺麗にナイフで切り分けると、中身は白黄茶色の縞模様。白いのがメレンゲを入れたケーキ生地、黄色いのがカスタード、茶色部分はこれもキャラメルかと思ったら、これは以前国境城塞近くで手に入れた小さな椰子の実をドライにしたものを、更にペースト状に加工したものだそうだ。これはキャラメルを着色するのにも使ったそうだ。
「あー、エスターハージートルテか……いやあれはナッツペーストだから少し違うな?」
サーシャちゃんが心当たりがあったという顔でそう呟いている。
「うん?ナッツペーストのものもあるぞ。こちらはキャラメルではなくナッツと糖衣で仕上げてあるから、大分甘いが」
そしてランディさんは、さっきのトルテより色の淡い、やっぱりコーティングされた、断面縞々のケーキを出してきた。あるんかい!ってサーシャちゃんが呆れてた。
「流石ランディ師……王都の菓子店でもこの種類は一度に出てこないわ」
サクシュカさんがお目目キラキラになっている。甘いものにはどんなに忙しい時でも飛びつきますもんね、貴女。
「菓子には手間暇のかかるものが多いからな、パティシエが二人程度の店に出すものであれば種類をあまりに多くするのは難しいであろうよ」
どうやらサクシュカさんの言う王都の菓子店を知っているようで、ランディさんがそう答えている。
「お店の人員構成まで御存知なんですか」
サクシュカさんがランディさんを二度見。いや、このひとなら人族の食品関係のお店はあらかた知っててもおかしくないでしょ?
「もともと我が指南した店故な、知らん筈もない。開店当初だけ少し手伝いもしたが、あそこの子供たちもなかなか優秀であったから、今も味が安定しておろう?」
ランディさんのネタバラシに、あー。と納得顔になるサクシュカさん。聞いてみたらそのお店、王都で一番格式が高い、かつちょいちょい新作菓子を発表してくる意欲的な店だそうだ。
「そういえば暫く立ち寄っておらんな、新作も増えて居ろうから、今度一度見に行くか」
ランディさんは平常の顔でそんなことを述べている。
ちょっと移動時間が長くて喉も乾いているから、冷やしたほうじ茶が今日のお供だ。形式にこだわる場じゃないし、ほうじ茶ならごくごく飲める。紅茶だとどうしても、お手洗いが近くなりがちでねえ……
「うわ、パチパチキャンディあんのこの世界」
ガラスの器に盛られた砂糖菓子の中から選んだ四角いキャンディを一つ口に放り込んで雑に噛み砕いたサーシャちゃんが目を白黒させている。口の中で炭酸が弾けるやつね?
「砕いたこれがアイスに入った奴あったわよね、今度再現して貰いたいかも」
結構好きだったんです、と、同じキャンディを口にするワカバちゃん。
「アイスに入れたものは、今話にあった菓子店で時折扱っているよ」
なんと、既に市販されてた。時折しか出ないのは、氷属性持ちが常駐じゃないからその人が手配できた時しか作れないから、だそうだ。なおランディさんは氷菓の類を作る時は契約召喚獣に手伝ってもらうと言っていた。
「氷属性の召喚獣も契約しておられるんですね」
そう言えば超級召喚師としての実力自体はよく知ってるけど、どんな召喚獣がいるのか、ってその時々に呼び出された子達しか知らないなあ。
「雷以外は全ての属性持ちが揃ってはいるな、そういう意味で契約をしたわけではないが。我の契約している氷持ちはほれ、トゥーレで見た事があろう?ユキオコジョだよ。契約で魔力が増えて長命化した結果、今ではやや大型の亜種化しておるがね」
あー、雪遊びついでに人間の手伝いをしてたあの子達か。あの時は遠目にしか見ていないけど、かわいいんだろうな。
見てみたいな、と思ったけど、あんなところに住んでいる氷属性持ちが、こんな暖かい国に用もないのに呼ばれるのは嫌だろうな、と思ったので自重する。うん、その内何らかの機会があるでしょ、多分。
それにしてもどのケーキも美味しいから、目移りするしあれもこれも食べたくなって、ちょっと困る。魔力結構派手に使い散らかしたから、食べる量的には少し多めくらいでも全然平気ではあるんだけど。
(おいしーね)
(おいしー)
小さな新米アルミラージの二匹も、ランディさんに牧草を貰ってご機嫌で並んでもぐもぐしている。かわいいなあ。
うちのミモザが小さい時も正にこんな感じだったよなー。いや、ミモザは今もぶっちぎりでかわいいアルミラージだけども。
ミモザも流石に完全に成体サイズになったので、気軽にお膝にだっこ、がちょっと厳しくなってしまったのだけが残念だ。
そう、実は今もここらのノーマル兎と大差ないサイズのジャッキーより、ミモザの方が大きいのよ。今年の頭くらいにサイズが逆転したら、みるみるうちにミモザがでっかくなりました。アルミラージとしてはそれでも大分成長が遅い方だったそうだけど。
ジャッキーの方はここいらへんの普通の野兎と変わらない程度の大きさで今の所足踏み中だ。ただ、まだ成体には程遠いそうなので、魔力量がそこそこ多いせいで成長がのんびりなんだろうという話ね。
ミモザも結構魔力を増やしたけど、ジャッキーは魔力量に関しては既にミモザを完全に突き放す勢いで伸びていて、既に城塞のアルミラージの誰よりも魔力が高いし、技能判定だとまだまだ伸びるっぽい。転生者だからかなあ。
「今度王都に来るのはいつ?お菓子屋さんと調整取るわ」
アイスの話を聞いていたサクシュカさんが妙な事を言い出した。ってそうか、お菓子屋さんの氷属性持ちのツテって、サクシュカさんか!!!
お菓子屋さんで氷とアイスクリーム作成のバイトする王族。
なおカナデが草を収納に突っ込んでいたのは草刈りの後始末の時短のためで、ランディさんが牧草を持っているのは召喚契約したい個体が草食だった時用の懐柔用のおやつ。




