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454.バロメッツという謎生物。

謎なのはバロメッツよりむしろ主人公説(

 鶏たち、ロロさんとココさんは不思議なくらい、間違った事は言わない。

 ので、そのままもふもふと作業じみたモフりを続ける。反応が薄い通り越してないから、微妙につまらな……

 ……あ、手ごたえが変わった。とろんとした、気持ちいい、みたいな感情が生まれた。なんだこれ?


 めえ。


 一声鳴くとひょこんと立ち上がるバロメッツもどき。あれ、足が四本になってる。二本どこいった?

 そのままそいつは、くるりと振り向くと、めええええ!と大きな声で叫んだ。その途端、ぴたりと止まってその場でうずくまる、残りのバロメッツもどき。


「何故だ……モフるだけで正規のバロメッツに戻る、だと……?」

 ランディさんの困惑の声。え、これが正規のバロメッツなんだ?尻尾まだ二本のままだよ?


 めえめえ。


 どうですわたし、うまいことやったでしょう?とどや顔になる手元のバロメッツを撫でたら、嬉しい、と形容できる感情と共に二本の尻尾を振った。うん、完全に〈動物意思疎通〉のスキルの対象に変わってる。


《……上の方が想定外だって騒いでます》

 シエラからは、それだけのシンプルな報告。そ、そうか。またやらかしましたか、あたし。


《ああいえ、そもそも今回のバロメッツの変化自体がイレギュラーらしくてですね。他の個体には光魔力をぶつけておけば大丈夫だろうという話ですわ》

 ほうほう、流石に全部モフり散らかす必要はない、か。


「残りは光魔力どーんでいけそうです」

 宣言して、実行する。森に入ったあたりから、いつも通り光魔力の準備はずっとしてたから、問題なく発動できるからね。


 道中できっちり練り上げておいた光魔力を解放する。ふんわりした光が大量のバロメッツもどきに降り注ぎ、歪んだ存在をもとに戻していく。

 うん、やってみたら判った。これ、トレントの魔獣に引き摺られて、野生のバロメッツが中途半端に変化した状態だったのね。

 完全に魔獣化しなかったのは、兎のせいだ。彼らに餌とみなされて、アルルーナさん達同様に齧り散らかされたせいで、エネルギーを修復に持っていかれて、不完全な、魔獣体になりかけの状態で変化が終わっちゃったのね。


「兎に齧られたのを修復しなくちゃいけなくて、完全に魔獣化するための魔力が足りなくなったみたいですね」

 端的に説明したら、ランディさんがようやっと納得顔になった。


「なるほど、それで中途半端な状態で引っかかっていたから、元に戻せたという事か。だが、なぜモフるという行動でそれが起こるのか……いや、マスターだったな、其方……」

 なんと、ランディさんによれば、[もふもふマスター]の効果の可能性がある、らしい……ってはい?そもそも以前から、こんな称号が存在すること自体謎なんだけど、あたしとしては!


《あなたのモフりは基本的に対象に快感や安心感を齎す、マッサージなどに類する能力といって良さそうですからねえ。能力として突き抜けた結果、歪んだものを正す方向に強化された、という可能性はありそうです》

 上の方の推測ですが、と断ってシエラがそう解説してくれる。判るような、判らないような。

 確かに相手に不快感を与えない、気持ちよくなってもらおう、とは心掛けているから、その結果ではあるようだけども。


 めえめえ!


 本来の姿に戻ったらしいバロメッツたちは、あたしがモフった子の鳴き声に合わせて、そっちも鳴きながらあたし達に道を譲るように両脇に並んだ。不思議なことに、あたしがモフった子以外は、植物判定のままだ。


「羊型に育ち切ったバロメッツはリーダー個体だけが幻獣化し、残りは植物の属性を残したまま群れの構成員となる。今回は其方がモフったものがリーダー個体になるようだが、まだバロメッツとしては完全体ではないな。魔獣になりかけたために、魔力がやや足らなんだか」

 ランディさんの解説にふむふむ、と頷きながらバロメッツたちの間を進んでいく。リーダーの子は、あたしに寄り添うように、足取りも軽やかに一緒についてくる。うん、この子の足は、ちゃんと関節がある、動物の足の動きだね。他の植物モードの子の歩き方は、なんだかちょっともにゅっとしているというか、くにゃっとしているというか……不思議な動きね。


「見た目はぬいぐるみの羊レベルのファンシーさだが、食えるのか?」

 サーシャちゃんの素朴な疑問。あたしもそれはちょっとだけ気になっている。


「現状ではまだ無理だな。完全にリーダー個体が幻獣化すれば、随時群れの下位のものを完熟させた状態で渡してくるようになり、それが食用や、高級繊維である草絹シードシルクの素材となるのだよ」

 完熟する、つまり群れの本体と言えるバロメッツのリーダー個体以外は、植物のままなのね。


 めえ!


 時期が来たらおいしいのをお分けします、みたいな思考が流れてきた。そっか、楽しみにしているわよ、と、リーダーくんを撫でる。ゆらゆらと楽しそうに尻尾が揺れる。


「そうか、数が多すぎるのもあるのだな。本来のバロメッツの群れは、多くてもこの十分の一程度の規模のはずだからな」

 ランディさんがそんな指摘を追加してくる。なるほど、本来の挙動とはそこも違うんだね。


 そうやって、もこもこの間を通り抜けた先に、それはいた。

 巨大な、葉の一枚も付いていない樹木。木の肌は暗く、幹も枝もねじくれ大地に向かい折れ曲がり、それぞれがうねりうねり、と見た目の固さにそぐわない動きで更に枝をよじっている。

 幹の中央上よりには、樹洞としか言いようのない形状なのに、明らかに禍々しさを感じる黒くぽっかり空いた眼と口に見える、穴。


 それでもこれはまだ、魔物ではない。分類としては植物系魔獣。かなりのレア種だけど、さっきランディさんが言ったように、人類的には何のうまみもないタイプの魔獣だ。

 そいつの足元には、くにゃっとしなだれた長い長い茎と、広い葉を持つ植物。なんとなくだけど、あれがバロメッツの元々生えていた草、らしい。バロメッツたちは分離済みなので、もう役目を終えて後は枯れるだけの草、というか、リーダーくんがあれを食べたがっている。出産後の動物が胎盤食べるようなもんかな?魔力の補填が多少はできる程度の残留があるものね。


「じゃあ〈サンダー〉」

 川を背に、周囲にはワカバちゃんの張った結界以外は何もない、砂利の河原のような所にいるトレントに、カナデ君が開幕サンダーをぶちかます。


 オオオオオオオオオオオオオオン


 うわ、こいつも声持ってた。断末魔的な絶叫と共に、真っ二つに裂けて炎上するトレント魔獣。それでもこちらに近付こうとしてきた所に、マルジンさんが無言で風魔法をぶつけたら、ぐらりと傾いで頭の方が水に浸かる形でざぶん!という音を立ててひっくり返った。あ、やべ、鎮火するのでは、と思ったところに、カスミさんの炎の花が飛んで、あっという間にトレントを灰にしていく。わぁお見た目かわいいのに高火力!


【おおっと、済まぬ済まぬ。横になぎ倒すべきであったのう】

「問題ございませんわ。舞狐の炎は水中でも燃えまする」

 マルジンさんとカスミさんが和やかに会話している。オラルディに最初に行った頃から、このふたり、凄く仲がいいんだよね。一緒に幻影系魔法の研究もしてるらしいし。


「……おっけー、討伐完了ね」

 トレントが完全に灰になり、それが維持していた魔力が霧散する。どういった仕組みだったものか、このトレント魔獣が周囲に高濃度の魔力をばら撒く、もしくは集約していたらしい。拡散していくから集約かな?


 バロメッツくんはとっとこ走っていくと、彼が元々くっ付いていたらしい植物の、大きな葉をむしゃむしゃ食べている。それでもちょっと足りないかなー感があるなあ。


「んー……バロメッツ……りこぽん……?」

 めえ!


 名前となりそうな単語を口にしたら、バロメッツくんは元気よく返事して、ぴかりと光った。うん、契約成立したわね、りこぽんという名前は割と気に入っている様子。


「わー、おねーさんがまた壊滅的命名センス発揮しちゃってる」

「でも、りこぽんってかわいいといえば可愛い気もする、バロメッツからそっちに行くのが判らないけど」

「ああ、バロメッツの別名に何故かリコポディウムっていう羊歯植物が紛れ込んでるんだよ。その連想だろう」

 三人組が言いたい放題だ。りこぽんの由来はサーシャちゃんが正解ね。


「というか、最初にサーシャちゃんの翻訳がバグって羊歯って言ってたからそっちに連想が流れたのよ」

 あたし一人のせいじゃないよ!と表明だけしておく。


 あたしとの契約で魔力が増えたはずだから、りこぽん君はこれで正常なバロメッツリーダーになるはずだけど、どうかな?

予想以上に雑魚く蹴散らされるボスエネミー……

そしてついにもふマスの謎が解けたような、解け残っているような。


なおバロメッツの完熟個体をヒトに渡す挙動は飼育個体、つまり人と契約している個体だけの挙動。普通は完熟したらそのまま種子として地面に埋まる。

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― 新着の感想 ―
主人公、そのうち「モフり聖女」とか言われ・・・るのかな!?(;^ω^)
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