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451.森にひしめく兎の群れ。

この作者森にみっしり生き物詰めるの好きだな?

 例によって一番固いワカバちゃんを先頭に、索敵役のあたしとランディさん、カナデ君と鶏たち、後方警戒のサーシャちゃん、という並びで、森を進む。


 数日前にセラフィレイア様が言っていたように、森の周縁部からちょっと奥に入っただけで、もう穴だらけだ。周縁部の穴は徐々にアルルーナさんが埋めていたらしいのだけど、今は兎騒動が終わるまでは、と、キャンプ場の花壇に皆で避難して貰っている。三十株くらいまで増えていたのが半減したそうだけど、花壇にはみっしりアルルーナさんのお花が詰まった。それでも最初に植えてあったお花の邪魔はしていないのが不思議な風景だったけども。


 穴からは、兎の耳が見えたりもする。現在掘ってる最中で尻尾と巻き上げられた土だけ見えたりもする。これらの兎は一旦スルーだ。特に魔力が溜まった個体もいないそうなので。

 ただ、もう少し進むと、様相が変わってくる。


 穴自体はあるけど、掘りたての新しい穴はない。兎の数の方はあからさまに増えたけど、それらはもう穴を掘ってはいない。魔力の蓄積は、あったりなかったりだ。魔力の強い個体は、イライラと近くの兎を威嚇している。うん、ここら辺の兎あたりまでは、あたしのスキル、〈動物意思疎通〉が通用する。


「少し森の外に追い出しますか?魔力のない個体なら恐らくあたしのスキルが通じます」

 魔力のある個体は恐らくスキルに抵抗してくる。ただ、普通の兎も、通常の状態とは言い難い。何かにコントロールされている感じね?


「そうだな、今朝見てきた限りでも、我の想定より広い範囲の兎を何らかの手段で呼び寄せている故、これを殲滅してしまうと良くないね。

 日常的に人の入るここは肉食獣が余り居ないから大丈夫だろうが、近隣の他の森の肉食獣が飢餓に陥る可能性がないでもない。影響の薄いものは隔離すべきであろうな」

 ランディさんの返答はもっともだ。朝出かけた時にこの森が余りにも異常だったので、近隣地域も確認してきたそうなのだけど、兎だけ居なくなっている森や草原が結構あるらしい。兎以外の生き物に変動はないので、即肉食獣達が飢えるってことはないともいうけど、生態系のバランスを維持してきたエリアの破綻って、一種絶滅からの連鎖、とかないとも言えないからね。


「ああ、そこまで見てきたんだ。流石にーちゃん、真龍だけあって考えが深いな……」

 サーシャちゃんが感心した顔になる。さては普通に全部お肉のストックにするつもりでいたな?


「お嬢様、あの個体に治癒魔法をかけてみて頂けますか?」

 そこに突然カスミさんがそう言うと、小さな炎の花を一体のイライラ兎の頭上に灯す。怪我してなくない?と思ったら、その炎の花が耳の先をちょっぴり焦がした。びくりと立ち上がって警戒する兎。ごめんねーこのひと狐だからねー君たちの天敵だからねー。


「こんなもん……あら?」

 言われるままに初級治癒を投げる。ふわっと光った兎の魔力量が増えたとシエラから念話に似た感じで報告が届くのと、兎の光が増すのがほぼ同時。


「……なんだと、幻獣化……?!」

 光が収まった後には、小さな一本角が額に生えた、毛並みのいい黄色っぽい、普通サイズの兎。はいこれアルミラージ幼体だ!ミモザの子供の頃にそっくり!!!


「マジで?アルミラージ幼体に誘導できちゃうのこれ?」

 魔法を放ったあたし本人もびっくりだよ!


(ある……みら……ぼくのしゅぞく?)

 イライラした様子はすっかり消えて、首を傾げるかわいい角つき子兎をサーシャちゃんがひょいっと隣のイライラ兎の蹴りから助けて連れて来る。


「そうよ、あたしの魔法で悪い影響が消えてそっちに進化したの。この森の騒動を納めたら同じ種族の居る所に連れて行ってあげるわ」

 子兎にそう告げて軽く耳の後ろを撫でてやる。


「この辺りだと、この個体だけが風属性に転じていませんでしたから、あるいはと思ったのですが……流石に無条件でとはいかないでしょうね」

 カスミさんから判断理由を聞いて、ぐるっと見回す。確かに魔力持ちのイライラ兎の大多数は風属性だ。あれは今の手法ではどうにもならない、と技能も判定する。


「アルミラージは土属性。つまり其方では属性の反転まではできぬという事だね」

 では風属性の魔力持ち個体は全討伐しかないな、とランディさんが結論を述べる。


「ええ、風属性個体は無理ですね。後はうちのミモザが水持ちなので、もしかすると水持ちも影響を及ぼせるかもしれません。兎に水属性なんて他に見た事がないですけど」

 なおミモザは極小の土属性も持っている。水属性が使えると日照りの時に助かるから、と、水属性の練習しかしていないそうだけど。穴は未来の旦那様が掘ってくれたらいいよね、だそうだ。あの子意外とちゃっかりしてるのよね。


「あれはレアもレアだからな……我も他に二例くらいしか知らぬよ」

 ああ、初ってわけではないのね。まあそうね、ワールドファースト系の優遇、ミモザにはないものね……


「でもそうすると、呼び寄せてる奴は属性の反転もさせているってこと?」

 カナデ君の疑問。既にイライラ兎を数匹、ストーンバレットで仕留めては、サーシャちゃんが収納に仕舞っていっている。子アルミラージもその流れですいっと拾ってきたんだけど、今はワカバちゃんがふわふわ毛皮を堪能している。


「特定の個体がそういう現象を引き起こしているという可能性もないとは言わないが、恐らくそうではないな。

 そもそも魔力の蓄積時に起こる現象には謎の方が多い。属性の変化や反転も稀にではあるが記録されている。ここまで大規模なものは歴史上では一例もないが。

 ただ、リーピングヘアはこれまで風属性と闇属性の個体しか確認されておらぬから、兎に関しては世界の仕様であろうよ」

 ワイマヌですらこんな無茶な転換は起こさないものらしい。まあワイマヌの場合は、周囲が海という水属性過剰環境だから、いきなり反転すると死んじゃう可能性があるからねえ。ペリカンなんかの火属性コースは、一旦風属性を持って空を飛べる種族に変わらないと厳しいのだ、と以前ワイマヌの生態を経験者(タイセイ君)に聞いた時に教えてもらった。

 彼自身は最初から混沌属性持ちだから、それでも行けたかも、という話ではあったけど。自分でペンギンに決めた時点で水優位維持で問題なかったのでその辺は干渉してないそうな。


 周辺のイライラ兎を大体仕留めたら、残りのノーマル兎は森の周縁部に逃げ始めた。イライラ兎がアンテナの役割も果たしていたらしい。

 なおもう一匹土属性のイライラ兎がいたので、カスミさんが耳を焦がし、あたしが治癒魔法を投げたら、やっぱりアルミラージ幼体になった。こっちは女の子だ。


(ふぇ……こわかったあ)

 今度はカナデ君に渡された子兎は、耳をぺしょんと伏せて、ぴるぴるしている。アンテナ役、つまり他のイライラ兎の断末魔とかも検知しちゃってるんだろうから、これは仕方ない。


「既にこれ百匹目なんだが、どれだけいるんだ」

 サーシャちゃんが呆れ顔で収納したイライラ兎の数を教えてくれる。ええ?そんなにいたの?いやでも最初にアルミラージ化させた辺りから、足の踏み場が怪しいレベルで兎で埋まってた気はするから、そんなもんか……今も足元はぼんやりした兎だらけだ。周縁部に逃げていく個体もいるけど、また新たに引き込まれて戻ってくる個体もいて、ノーマル兎は全然減らない。


「魔獣前兆個体百に対して幻獣が二か。なるほど、幻獣化と魔獣化の比率も統計通りの範囲に収まっておるなあ。魔力の蓄積の原因はさておき、属性反転はやはり兎側の仕様だな」

 敢えてサーシャちゃんの質問には答えず、ランディさんが兎の仕様についての結論をまず述べる。


「そして魔力持ちになる確率は、通常であれば五千羽に一羽というところであろうが、ここでの発生率はおよそ百倍になっておるな」

 つまり、五十匹いたら一匹魔力持ちになる。そしてこの奥はどういう理由でか、更に魔力が濃い。うん、魔力視オンにしたら、森自体の魔力濃度分布がおかしかった。


「この、進行方向側がやたら魔力の濃い原因って何ですかね。魔獣が魔力だけを放出するっておかしい感じもするんですが」

「我の感覚だと、恐らく複数個体の魔獣とそれに類する何か、とまでは判るのだが……」

 ランディさんの台詞、珍しくキレが悪い。見通し切れてない感じ?


「魔獣が死ぬ時には魔力放出がありますから、良くて候補個体の殺し合い、最悪、リーピングヘア同士の殺し合いが始まっているのかもしれませんわ。血の匂いが濃くなりだしておりますもの」

 カスミさんに言われて、全員が顔を見合わせる。その蟲毒はいけません!瘴気汚染引き起こしかねない奴!!!

瘴気の産生もされてるはずなんだよな、既に。

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