449.何故か、晩餐会?
全力で!ごはん回!!今部食べてばっかりだな?
夕飯の席も、人数が多いし、お天気もいいし、と、庭にテーブル一式が並べられたわけですが。
なーんで、龍の王族御一行四名様、いらっしゃるのかなー?この後夜間訓練じゃないの?
「夜の屋外でこんなに大勢とお食事する機会って滅多にございませんもの」
あーはいはい、セミナリューラ様が一息で言い切りましたね!社会勉強ですねはいはい。
「夜間訓練をやりながら帰路に就く形になりそうなのでね、ご挨拶がてらにと」
エンブロイズさんが追加説明。わあ王女様達、思ったより予定がハードモードだった。
「流石にレポートは帰宅途中で一泊するので、その時で良いと」
セラフィレイア様が更に事情を明かす。そういえば空飛んで帰るんじゃないなら、王都までは、流石に乗合じゃないにしても幻獣車を使うだろうから、一泊はしないと強行軍が過ぎるか。
「私たちはまだ未成年で、人のいる街の上を飛ぶのは許されておりませんからね」
セシリアーナ様がそう纏める。あー、そういう規制もあるんだな、龍の王族。
「やらかすと最悪で一年程、外出自体が禁止になるからねえ」
エンブロイズさんの解説に、妙に実感が込められている。恐らく弟たちの誰かが、それも複数名やらかしてるな?うん、正直根拠はミリもないけど、カル君とか絶対やってそうだし!
そんな訳で、敢えて彼女たちの正体は介護の皆さんには明確に説明することなく、皆で晩御飯です。
いやだって、流石に真龍の島から出てきたばかりの、言っちゃ悪いけどおのぼりさんに王族と同席は荷が重くない?この国の場合、王族勢が全然気取らないどころか、普通に一般市民の行事に紛れ込んでは即バレ、とかしまくってるけど。
なおバレてもそのまま平民仕草で普通に混ざって遊んだり食ったりしてるし、混ざられた方もそこまで気にしてる人を見ない、気はする。
「では本日は我がメインで調理したものを中心に。スペースが限られているから順番に出していくが、本来フルコースを出すような場でもない故な、気楽に食せばよかろうよ」
そう言いながらランディさんが持って来たのは、小ぶりなロールキャベツ……にしては色が濃いな?
「まずは葡萄の葉を使ったサルマ。具は今回は兎肉と玉葱とブルグルだね。葉もそのまま食べて問題ないよう調理してある」
ランディさんが大皿に盛られたサルマを全員に配して、その間にサーシャちゃんがスープと、何か色の薄い、四角いものを焼いた一品を配る。
「スープは鶏出汁でレンズ豆、こっちの四角いのは焼きチーズな、伸びたり溶けたりしないタイプのチーズだから冷めても旨い。好きなタイミングで食べるといい」
説明の仕方からすると、どうやらこの二品はサーシャちゃんが作ったらしい。焼いても溶けないチーズってちょっと面白そう、と真っ先に食べてみたら、チーズにしては固めで、焼いてあるのにさっくりとしていて、焼き色の香ばしさと塩気がベストマッチでしたよ。勿論スープも流石の滋味。
サルマの方は脂っ気少なめであっさりめの挽肉に混ざったブルグルのぷちぷち感がいいアクセント、兎肉ってそういえばこの世界に来てから初めて食べたから、この世界の兎の味しか知らないんだな、あたし……
その次に出てきたのは、結構大きな魚の切り身を使った、トマト味の煮込み料理だった。コッテションを煮込んでみた、そうだ。試作なんです?
……これ面白い食感だな?あっさりめの推定白身魚なんだけど、全体がなんというか、固いとか噛み切れないとかじゃなく、歯ごたえがぷにっとしてる。味はトマトの酸味も合わさって、あっさりさっぱり系だ。
「煮込めばいいとは聞いていたものの、まさかこんな食感だとは思っていなかったな」
ぷにぷにして面白い、と述べたらランディさんからそんな回答。あ、知識はあっても、調理するのは初めてだったんだ。完全に試作品ですね!
「なんだか初めて見るものばかりいただきますけれど、どれもこれも美味しいですね!」
セラフィレイア様がにこにこと、ここまでの料理を評している。
「大陸の方でも珍しいものなのですねえ、このお魚?面白い……」
介護勢のひとり、ポレッサさんが頷きながら魚を噛みしめている。なんかこのぷにっとした反発力が癖になる感じよね、うんうん。
そして焼きたての全粒粉のパンと、羊と兎の串焼き。串焼きの肉の合間には例のししとうなんかも刺さってて、食感の変化が面白い。味は勿論絶品ですとも。羊も柔らかく仕上がってて、どうやってんだろうね、これ?
たくさん食べる勢の前には魚と鶏肉のカラアゲもどん!と置かれたので、あたしも龍の王族勢もにっこりだ。介護勢の皆さんも興味津々だったんで全員に分配したけどね!大好評だよ!
「今回は鶏は塩味なのね、勿論美味しいけど。お魚の方は魚醤?」
カラアゲを摘みつつ確認したら、うむ、と調理人二人が同時に頷く。
「塩唐揚げの方が元々俺の好みなんだよ。なんで鶏の方は俺が作った」
「以前小娘に紹介された魚醤がこの調理法に合うように思って試作したら、いい感じだったのでお披露目だ」
なるほど、二人がそれぞれ好みと研究の成果を披露したってわけか。
全員がほぼ満足の顔になったところで、お待ちかねのデザートだけど、今回はものすっごく薄い生地が幾重にも重なるパイ……フィロってやつね?それに固めのカスタードを挟んで焼いて、四角く切り分けてある。
「今回は普段とは違う香りづけもしたので、地元ハルマナート産の卵だよ」
口にしてみたら、なるほど上品な甘さと卵の滋味に、ほんのりとバラの香り。ガラクトブレクっていうんだったかな?胡麻のプリンみたいなペーストを挟むと名前が変わる奴。
「にーちゃん、フィロ生地も手作りするのか……」
サーシャちゃんが愕然とした顔になっている。なんかすっごく作るのがめんどくさい生地らしいね?
「そりゃあ我らのこの世界では手作り一択だとも。大規模な工場での生産、などという事案をこの世界を創ったものは好まぬそうでな」
要するに規制がかかっておる、と世界の秘密をさらっとばらすランディさん。そっかー、工業方面に発展しないの、ズボラの差し金かー……
なお流石に今日いきなり生地から作ったわけではなく、生地自体は作り置き、だそうです。時間経過のない収納魔法っていいよねー。下手な冷凍庫より優秀。
【随分と手間のかかったものであるな……芸術品とでも言いたくなるような】
一切れ分けてもらったマルジンさんが、豪快にフィロ生地をこぼしつつそう述べる。零れた生地は鶏たちがささっとついばんで片付けちゃったので問題ない。
「まあ工業化路線も正直良し悪しだからなあ、この世界の場合、魔法がもう少し便利ならそもそもそこまで必要ないって気もするが」
絶妙に痒い所に手が届かん部分があるのがなあ、と、ぼやくサーシャちゃんだけど、彼女は魔法は一切使えない人だ。
「そう?生活周りはそれなりに充分便利だと思うけど」
そう首を傾げるのは、召喚術と治癒系最上位以外の大体の魔法は使えるかもしれないカナデ君だ。この子に言われると割と説得力あるな、って思っちゃう。
「そうねえ、魔力だけで動かせる固定魔法陣はそこそこ発達してるから、普段の生活に関しては、不便とまでは言えないわね、現状だと」
異世界人的には、時々「もう一声、こうならないかな」みたいな部分がないとは言わないけど、それでもこの世界の文化的生活って奴は、結構レベル高い方だと思うのよね。それもこれも、過去に呼びつけられた異世界人達や、非人間種族の皆さんが主に頑張った、って話ではあるんだけども。
「そこは確かだな。魔法が使えない俺でも魔力はあるから、便利に魔法陣魔法の産物を使えてはいる、か」
サーシャちゃんもその点に異論はないな、と頷く。
「ラノベで言うマジックバッグみたいなものがあったら便利よね、とは思うけど」
恐らくかつての異世界人もチャレンジしてそうではあるよね、と思いつつ口に出す。そういえばエンブロイズさん、空間属性魔法の研究をマルロー殿下から引き継いでるって言ってなかったっけ。
「小型化は無理でも、倉庫などに時間停止を活用できれば、食品輸送にもう少し余裕が出るんですがねえ、魔法陣化自体が困難なんですよ」
案の定、エンブロイズさんがそういう回答をくれる。ほう?そんなとこがネックなんだ。言われてみれば魔法陣魔法じゃないよね、あたしが見た事ある収納系魔法全部。
エンブロイズさんと、その系列の話を後日学院でやりましょう、と約束して、晩餐ライクな食事会は終了だ。
介護勢の皆さんも食事内容には満足な様子でなによりです。
なお彼ら、セレンさんと一緒に食事をすることもたまにあるそうで、目上の方が同席するのは慣れてるそうだ。そういや大陸の王族より格上ですね、真龍……
そう、真龍は基本的に上位種だから人の地位とは関係なく格上。
というかその真龍謹製のディナーの時点で同席がどうのとかいう話じゃなくなってる。




