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448.患者さんをチェックする。

 カスミさんと肩に乗っけたマルジンさん、ポケットのシルマック君、という完全にいつメン状態で、患者さん達を収容したコテージに向かう。


「あ、治癒師様。ちょうど良いところに」

 最初のコテージの前で、介護役を買って出たうちの一人、タブリスさんがそんな言葉をかけて来る。ただ、そんなに焦った表情ではない。ちょっぴり困り顔だけど。この人は三十代後半の女性で、最初に起きた三人のうちの一人の家族だ。

 ……やっぱシャカール族、全体的にお胸大きいな……?


「ええ、御夕飯前に、今から一度皆様の所を巡回するんですが、何かありましたか?」

 巡回予定で来たから、時間は取れると表明しておく。


「すみません、実は、ここのお手洗いの使い方なのですけど」

 あれ?シャカール族の村って魔法陣水洗ないんだっけ?集会所にはあったし、文化レベル的に一般家庭にも普通にあるだろうとスルーしてたけど。


「判らないのはどの辺です?村の方でも水回りには魔法陣を使っておられたように思うんですが」

 基本的にこの世界の水回りは、水を出すほうも、トイレも、備え付けの魔法陣に魔力を込めて起動するだけ、なのだけど。上水道タイプの最新式の、温水と冷水の切り替えができるタイプは、切り替えは物理スイッチだけど、トイレは基本的に温水一択だから、ややこしい切り替えは付いていない。制御式の小型化が難しいとかで、水圧は固定だしね。


「いえ、寝ている方の分をどうしたらいいかと。洗う前に流す、とかは付いてないですよね?」

 あっそういう!都市部の病院や施設みたいに介助者が必要な人が常時いる所じゃないと付いてない奴!

 普通のトイレだと、誤作動防止に一定の重量がかかっていないと放水が作動しないんだったわ。しかも最低でも洗浄の放水が済んでからじゃないと、排水部分が起動しないんだよね……


「あー、そうね、うっかりしてました。ここのは汎用型だから、別で水を用意して、一度トイレ内で固形物を洗い流して貰うしかないですね……

 あ、使い捨てタイプのおむつを利用している場合はそのまま流して平気です。地下で生ごみと合わせて分解処理するシステムなので」

 この世界のトイレ最大の利点はこれだ。うっかり大事なものを落とすと分解の餌食になるデメリットもあるけどね。

 生き物の方は、判別魔法が設定されていて、これはだいたい鶏のヒヨコ以上の大きさを指定だそうだけど、一定サイズより大きな生きものが入ると排水以降が動作しない安全システムも完備だよ。どんな事故があったものか、その辺の安全装置はガッチガチに固められてるのが大陸の排水周りだ。昔の開発者たちに感謝だね。


 あと生理用品の現物を使ってみて、ちょっと疑問に思ってたら、やっぱり紙おむつも実装されてた。高分子ポリマー相当まではいかないけど、相当量の吸水ができる植物がメリサイトの砂漠にあって、それを乾燥させた物を薄く仕込んでいるという話だ。つまり自然素材なのでこれもトイレに流そうと思えば流せる。水分を多量に含むと、流石に膨らむので流しにくい事はあるらしいけども。


「やっぱりそれしかないんですね。でも大陸だと排水以降は自動回収なんですね?判りました、ありがとうございます」

 真龍の島で人類が生活するにあたっての最大の問題点は、上から下まで闇属性持ちが一切、誰ひとりとしていないことだ。

 反属性である光持ちしかいないシャカール族はもちろん、褐色エルフ族もこの世界のエルフの特性として闇属性は持たないし、おまけに本来の住人である真龍にも、決して闇属性持ちは出ない。おまけに自動化するだけの技術力も自前では持っていない。大陸でも最新技術だしね。


 なのでその辺の処理はどうしてるんだろうと思っていたら、一次乾燥でのブロック状態化までは家庭で済むけど、そのあとは専用の密閉式バケツで各自で村はずれにある処理施設に持ち込んで、魔力電池式魔法陣の腐敗処理槽で、こちらはそのままの状態で持ち込む生ごみと纏めてから堆肥化しているそうだ。なんでもこの、最終処理の〈腐敗〉の魔法陣化が難しいらしくて、ここ百年程は魔法陣を制作できる職人さんが大陸にもいないので大事に使っている、そうな。


 というか、最近の闇属性持ちは人口増加による需要増の結果、大体魔法陣職人コースじゃなくて魔法による実務コースに引っ張られちゃうそうだからね……魔法陣化の最後の職人さんは、混沌属性持ちの転生者さんだったらしいよ。その師匠さんはドワーフ族だったらしいけど。

 ドワーフ族も最近は魔力がそれなりにあっても、みんな酒造りに行っちゃうらしい。こちらも需要が昔よりも増えたせいね。

 固定魔法陣化は、書いたものを魔力だけで動かせるように定着させる工程で魔力を結構消費するんだよね。更にその辺の制作技術が安定するまでに年月がかかるのも不人気の理由だそうだけど。

 ……カナデ君ならそこらへんもやれそう感はあるな。職人仕事系は好みじゃなさそうだけど。


 闇魔法陣の話はあたしにはどうにもできないので、一旦置いておいて、手近なコテージから順番に、患者さんの状態を確認していく。

 光属性の減少は当然止まっているし、久しぶりに食事、といっても重湯あたりだけど、栄養分を補給する活動で疲れてしまったせいか皆さん眠っている。

 だけどそれは技能判定でも健康的な眠りだ。取りあえず魔法を持ち出さないといけないような問題のある人は現状ではいない。よきかなよきかな。

 トイレの注意事項は他の人にも伝えたし、当面は食事をどのタイミングで変更するかの観察をする感じで良さそうなので、まずは一安心だ。


 コテージ群から戻って入り口辺りにきたら、ランディさんが立っていた。


「取りあえず皆さん問題ないです。食事で疲れて眠ってしまった人が大半ですけど、属性減少は止まりましたから、後はまずは徐々に食事の質量を上げていく感じですね」

 解説したら、無言で頷くランディさん。ん?彼にしちゃ、無言って、イメージ合わないな。


「……其方は、我が恐ろしくはなかったのか」

 首を傾げてみせたら、ぼそ、と、想定外の事を呟くランディさん。え?なんのこっちゃ?


「え?何の話ですっけ?……っとああ!鱗キラッキラで真っ白でとびっきり綺麗だとは思いましたけど……あ、あたしが覚えているのが不満なら記憶枠に突っ込んで封印しますが」

 ちょっとだけ考えて、そういえば龍の姿で突っ込んできたんだっけ、と思い出す。話の後半はほら、あのべしょん!は覚えられていたくないかな、って……


 そう答えたら、ランディさんはなんともいえない、本当になんとも言えない不思議な表情になった。

 落胆ではない、驚きでもない。ただ困惑、だろうか。いつも大体余裕しゃくしゃくの上位者でござい、って感じなのにね、このひと。そんな表情もできるんだ。


「いや、そこまではしなくて……いや、後半はできれば」

 そして、困惑顔のままのランディさんの回答は、まあ予想通りだったのでニッコリ笑って頷いて承諾する。

 あたしもね、普段はあんまりあれこれ考えたりしてなかったけど……ランディさんには真龍としての理想像でいて欲しい気持ちが、あたしにもちょっとだけ、あるみたい。あの情けない姿は封印決定で!


《流石に、なさけないいきもの枠には入れちゃダメですよね……》

 シエラ、そこは武士の情けって奴よ!そのラベルは不許可!あたし達は武士ではないけども!

 というかあの、そのフォルダ初めて聞く名称なんですけど。へんないきもの枠とは別に作ったの?


《ええその、麒麟くんの蕩けてるやつとか、ケラエノーさんがひっくり返った時のとか》

 ……把握しました。あとでチェックします。隠蔽は禁止ですよ?


 動揺するシエラの気配は放っておいて、ランディさんに歩み寄る。


「年長者に勝てないは、真龍でも若輩者あるあるなんでしょう?それより、そろそろ晩御飯のメニューが決まる頃合いだと思うんですけど、久しぶりにランディさんの料理が食べたいかも」

 たまにはあたしも希望を述べてみよう。胃袋を掴まれるってのは人間にとってはちょっとやそっとでなく、とってもでかいんですよ!ってね。


「……ああ、昼は焼き肉だったようだが、夜は介護役の者も同席するであろうし、それもいいか。小娘と相談するとしよう」

 幸いあたしの思惑はちゃんと伝わったようで、いつものように余裕ありげに薄く笑いながらそう述べて、サーシャちゃんを探しに行くランディさん。

 まあこの時間なら、あたし達が借りている、一番大きなコテージ辺りか、売店のある受付の建物辺りにいるだろう。

 そもそもランディさんは一度会った人は追跡検知くらい余裕だそうだしね。


 うふふ、今日の晩御飯、楽しみだな。

走り回って事態が落ち着いたら不安になるとか人間みたいなことを。


なおなさけないフォルダには龍輸送で悪酔いしたカスミさんもいる。

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