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438.真龍とその名前。

 そして日が暮れ始めた頃。うん、あたしがそう望んだわけでもないのに、移動とお説教で半日がかりなんですよ今日。


【貴様、真龍の風上にも置けぬ愚か者が!!!】

 上空から降ってくるランディさんらしき声と共に、一直線に翡翠色の真龍氏に突っ込んできたのは、真っ白な、本当に全身見事に真っ白な、美しい龍だった。唯一黒い目元の雰囲気、化身姿の時と変わんないなあ……いやいや。


 ランディさん、完全にブチ切れてますねこれ。彼、理由は知らないけど、あたしの前では可能な限り龍の姿は見せないように努力していたらしいのに!


【こら!!!人前でしょうランズ!!!】

 だけど、彼が翡翠色の真龍氏に到達するより早く発動する桃色龍さんの拘束術の結果、べしゃん!と、予想外にしょっぱい音と共に翡翠色の龍の真上に落っこちる、真っ白な龍。


 ってええっと……見なかったことにしておきますね……スペシャル雑な扱い受けてても、双方無傷みたいだし。流石真龍、丈夫だね……



「いや、済まぬ……あまりの事に頭に血が上ってしまっておった」

 拘束を解かれた時点で即、見慣れた化身姿に戻り、あたしの前でしょぼくれるランディさん。


「……何も見てませんから」

 思わず目を逸らしながらそう答えるあたし。だってあまりにも、凹みっぷりが可哀そうな気がしてですね。


「目を逸らしながらでは何の説得力もないな……ぐっ?!」

「「誰のせいですか!!!」」

 これも化身姿になった翡翠色の真龍氏がそんな風に鼻で笑って、桃色真龍の化身のお姐さんとシェラザードさんに、両脇から後頭部を派手にどつかれている。いや待って、シェラザードさん、その人真龍なんだけど、普通にどつきにいくんです??しかもなんか真龍側が痛そうにしてるし??


「本当に、上位種のくせして粗忽ものばかりで申し訳ございませんわ、ああそうそう、妾の事はセレンとお呼びなさい。流石に真名は教えられませんの。そしてあなたも、妾たちには名乗らないでくださいね」

 にこやかにそう宣う、桃色真龍のお姐さんことセレンさん。彼女の化身姿も、鱗と同じ桃色の髪に、これも龍の姿と同じ青紫の瞳、非常に美しい、だけどどこか作り物めいた顔、肌色は割と色白めね。お顔の違和感は、多分わざとそうしている、そんなイメージね。そしてどことは申しませんが、シェラザードさんを上回るたゆんたゆんです。柔らかそう。


 ランディさんも普段名乗っているのは偽名というか通名らしいから、真龍も名前絡みの縛りはあるんだな、と知ってはいたけど、こっちが不用意に教えるのもだめなのか。

 まあそうよね、彼我の存在そのものの力量差を考えれば、そうなるか。この世界、名前絡みは色々厳しいもんな。名前復唱しただけで契約状態とか、あたしですらやったことあるし。


 あれ?でもランディさんには初対面の時に名前を教えた覚えがあるな?ランディさんの方が、普段から、自称勇者様以外の人の名前も、呼ばないようにしてるきらいは確かにあるけども。


「……マーレと呼べ」

 翡翠色の真龍氏も、不承不承といった感じでそう名乗って、また女性二人に睨まれている。ランディさんの呼ばれ方で予想はしていたけど、龍達の間の呼び名と、人間族向けの通名って、別なのね。


「ああそうそう、名前の件だけど、そこの白いのは例外よ。できるだけ言わないようにし慣れているでしょうし、流石に名を呼ばずに拘束術を発揮できるのは本体の時だけですしね」

 どうやら、真龍が本来の姿で他人の名を呼ぶこと自体が、拘束力を発生させる可能性があるらしい。力を籠めれば略称でも通じているあたりがね、ヤバいよね。というか最初に翡翠色の真龍氏、ことマーレ氏が来た時も、ランディさんの名前は呼ばずに発動させてたよね。

 なんでも、真龍同士でも、受ける側が化身姿の時だと名前無関係に拘束術を受けるらしいよ。ランディさんはともかく、マーレ氏も化身姿になったのは、セレンさんがやらかしに対してより迅速に拘束する為、と説明を受けました!


「悪人、いえ悪龍じゃあないんですけどねえ、どうもみどりの真龍様は思慮はともかく言葉が足りなくてらっしゃって」

 さらりと酷いことを述べるシェラザードさん。ぐぬう、と唸りつつも否定はしないマーレ氏。


「見ての通り、そこで反論すらしないんですよねえこの子」

 そしてセレンさんが溜息と共に追い打ちをかける。


「其方等に反論したところで、我ですら言い負けるのだが?」

 ランディさんが擁護する雰囲気ナシでそう述べるけど、このタイプの女性二人に口で勝つのは多分あたしも無理だな、と思わず頷いてしまう。いや、ランディさんも割と饒舌な方ではあるけどね、彼のはオタクの早口系分類のトークが多めだからね……


「こんばんはー、皆様お揃いで……あら、お客様?」

 そこに新たな女性の声。声のした方をみると、シェラザードさんとやや似た色合いの、だけど髪の色がこれは属性の色じゃないし、眼を見れば光彩の端が時折ちりり、とした光を放つ。夜見ると良く判るんだけど、時々光るんだよね、エルフ族の目。

 ……つまり彼女は、話にだけは聞いていた、真龍の島在住の褐色エルフさんね?


 以前トゥーレでも褐色エルフさんには会ってるけど、服装が全然違うせいか、あんまり印象が被らない。あちらは真冬の訪問で、室内にあってさえ、まあまあな厚着だったけど、こちらはハルマナート国と大差ない気温のせいか、お肌が良く見える服装だ。いやシェラザードさんほどではないんだけど。なお胸部装甲はエルフ系なので割とささやか。いやあたしさっきから何処見てるのよ!


「ああ、モリー、いつもありがとうございます。お客様といいますか……」

 シェラザードさんが挨拶しながら、説明を途中で濁して、マーレ氏の方を見る。


「ああ、翠の真龍様、またやらかしましたのですね?で、今回の案件は救助ではないと」

 どうやら、恐ろしい事に『よくあること』であるらしく、モリーと呼ばれた女性はそれだけで納得の顔になった。


「救助というのはワカバちゃんの時の話かしら」

 取りあえず思い当たるフシはそこだけだ。彼女も知り合いがこんなことして、心情が少し心配な気もするけど……いや、普通に見損ないました!って怒っていそう。


「そうですそうです!ワカバさんも急にうちに連れて来て、拾ったとだけ仰って、そのまま帰ってしまわれて!」

 なるほど、説明しない常習。いや、ワカバちゃんの案件は、前に聞いた限りだと、説明はしづらい奴ではあるんだけども。真龍側から見ても、いきなりワイバーンと一緒に降ってきたらしいからね。


「ああ、ワイバーン一匹丸ごとガメたあれか」

 ランディさんが思い出したように、今言わなくていい補足説明をし、それを聞いたセレンさんの額に青筋が立つ。


「え?去年の話よね?畜養場から消えた長老個体、あなたがガメた、の?」

「救出の正当な報酬だ。所有権は撃墜した娘にあるはずだ」

 どうやらワカバちゃんが落としたワイバーンは、真龍たちの間でも所在が気にされるレベルの大物であったらしく、セレンさんの言葉がきつい。だけどマーレ氏は気にもしない様子でそうバックレる。


「娘がワイバーンごと落下したのが水晶山の結晶の上で危険だったから、近場の同類の所まで送る見返りに譲渡されたものだ。我のもので間違いなかろう」

 ふふん、とふんぞり返るマーレ氏に、反省の色は当然微塵もない。

 というか、少なくとも人族の習慣的には、彼の言い分は全く間違っていないから、反省する必要は、その案件に関しては確かにないはずなのよね。この世界の慣習を知らないワカバちゃんが相手だという点を除けば、だけど……


 でも、あの子の性格だと、別に要らないしちょうどいいや、って押し付けたつもりでいる可能性も高いんだよなー。うん、やっぱり別にそっちの件は反省案件じゃないわね!


 自分の中で結論を出したところで、セレンさんがこっちをじっと見ているのに気づく。思考が漏れてたかな?


「……ワカバちゃんの性格からすれば、人間には有毒なワイバーンは面倒だから欲しがってるひとに押し付けておこう、くらいは考えてた可能性がありますね。少なくとも、トラブルはなく、同意のうえで渡したものだと、あたしも思いますよ」

 そう解説したら、はぁ、とセレンさんはため息を吐いた。


「ならばその件は蒸し返すのはやめておきますけど……あのサイズを一人で、は流石にごうつくが過ぎましてよ……あとドヤ顔してる場合じゃないでしょう、人間いきなり攫ってきた案件のお話と謝罪がまだですわよ!」

 ねちっこい口調を作ってマーレ氏に説教を再開するセレンさん。げんなりした顔になるマーレ氏と、何故かランディさんも似たような顔になる。


 最終的に、モリーさんの同行者が晩御飯の支度ができました、と呼びに来るまでお説教第二ラウンドは継続された。

 あたし本日、総計三時間ちょっと、他人へのお説教を聞かされた格好ですね……?

 当事者だから、いち抜けたできない、だるい。

流石にバトルは阻止されました。

なお魔法やブレスは現代の真龍の島内では使用禁止なので、舌戦か肉弾戦しか選択肢がない(ので後者選択時点で、実はランディさん不利だったりする。どんだけキレ散らかしてたの。

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