434.収納魔法と格納魔法?
イードさんのちょっとした秘密?
さて、現状だと会わずに済ませさえすれば良さそうな、真の目的不明な外国人の話は置いておいて、だ。
「そういえば話は変わりますけど、イードさんって格納魔法使ってる所、見たことないですね」
話題の切り替えに、ふと思い出した疑問を述べる。まあ化身しないうえに、城塞引き籠り生活してると、格納魔法なんてわざわざ使う理由ってないような気はしているけども。
「何を言う。呼び出し用の魔法陣を仕舞っているに決まっているだろう」
呆れ顔で反論されました。え、あれ?あれって、ローブの懐辺りから出てると思ってた!!
「そやつ空間属性を持っておらぬからな、感覚的には判っておらんだろう、とは思っていたが……お主の服装と出し方だと、衣装に隠しでもあると思われておったのだろうよ」
ランディさんがド正解を推測してくれたので、頷く。
「ええ、てっきりそう思ってました。服装的にもどこにポケットがあってもおかしくなさそう、というか実際イードさんの服って、全部じゃないにせよ、ものによっては、ホントに隠しポケットがあるんですよ……!」
イードさんの服装は、基本的に内着も上着も、だぶっとした、というか襞の多い、体形を隠す感じのローブ系で、作ろうと思えばどこにでも隠しポケットが作れそうな構造だ。
といいますか、暇なときには洗濯も手伝ってたからこそ知ってるけど、実際に隠しポケットのある衣装がいくつかあるんですよ。何故か、全部にではないんだけど。
「うむ。確かに、ここに着任する前に作った何着かには付けてある。実は、それ以降のものには必要ない気がして付けていなかったら、どれに付いていたか忘れがちになってな、さっぱり使わなくなってしまったのだよ。実際、自前の格納魔法で充分間に合っておるしな」
ハハハ、ズボラみたいな事を言いおる。でも確かに気候に合わせて数着ずつ着まわしている内の三分の一くらいにしか隠しポケットは付いていないようなので、使わなくなる理由としては、あるあるではある。
「私は化身を持たぬから、容量が急に変わることもない。格納の現在の仕様でも問題はないのだよ。そも、紙など数十枚あったところで、たいした容量ではないしな」
イードさんはそう述べて、ごちそうさま、と席を立って自室に帰っていった。
いや待って、十数枚じゃなくて数十枚?あの龍の王族仕様でそれを瞬時に選んで出してるの、この師匠?
「そういえば、格納魔法の問題点について、であったか。学院で検討したいと言っていたな、其方?」
ランディさんがその後姿を見送るでもなく見ながら、あたしに確認してくる。
「ええ、丁度いいからその話も今ちょっとしておきましょうか。サーシャちゃん達の意見も聞きたいところがあるから」
巻き込む予定です、とまずは回答ついでに三人組に宣言する。
「俺らの収納魔法は参考にはならんと思うぞ、システムそのまま引っ張ってきただけだから、俺ですらどういう理屈で収納空間を形成してるのかまでは把握してねえし」
そしてあたしの巻き込み宣言を理解したサーシャちゃんの回答は、だいぶんと酷かった。把握、してない??
「そんな筈は……我の格納魔法の改良に応用できた以上、この世界で通用する法則で形成されているはずだぞ?」
ランディさんの反論は尤もといえばもっともなんだけど。
「プログラマーとシステム管理者は、被る部分があったとしても、別の職業ですからね……」
恐らくは、サーシャちゃんの発言はそういう事なんだろう。三人組の魔法や収納やUIの元となったゲーム世界を創る仕事をしたのは別のプログラマーたちで、サーシャちゃん自身はシステムの監視や不正クラッキングの取り締まりみたいなのが主な仕事だった、って話を以前ちょっとだけ聞いた事あるし。
「そう言う事。ああでもアンダルならちょっとは理屈判ってるかな?あいつタイセイ向けに収納魔法の調整とかもできてたし」
サーシャちゃんはあたしの発言に同意すると、今ここにいない元魔神の名を出す。アンダル氏は不審な手代の案件に対応するべきだろう、と、今回は一人で村の借家に居残っていて、今日はこっちには来ていないのよね。恐らく完全に留守にすると、家探しとかされかねないって思ってる可能性?
「なるほど。では当初の巫女の提案通り、後日、全員揃って学院に邪魔した方がよさげかね」
ランディさんは取りあえず問題の先送りには同意した様子。内心ちょっと知識欲がうずうずしてるのが漏れて来てるけど。
「確かにシステムの理屈とかは考えないで使ってるもんね、僕ら」
カナデ君も、サーシャちゃんの意見に納得顔だ。そうよね、カナデ君やワカバちゃんは一般ユーザー枠だもんね、通常はその種の理屈まで考える立場ですらない。
「だけど、少しは考えておくべきなのかしら。永久にこの状態で運用できるとも限らないんでしょう?」
ワカバちゃんの方は少し心配げな声音でそんな風に言う。それもそう?いや、彼らに関してその心配は多分ないんじゃないかな、あたしの技能判定だと、だけど。
「現状では問題ないはずだ。この世界にもほぼ完全にマッチングはできているし、世界側に余程でかい異変が発生しない限りは、いや、そうだったとしても、このシステムが破綻する事は現状では、あり得ない」
何せ、そうじゃなきゃとっくに破綻してる、と、サーシャちゃんはさらっと語る。
「アンダルをこっちに組み込めたお陰で安定性自体も増している。奴経由でこの世界のリソースも分析できて、更に効率化できていると報告を受けているしな」
なので、少なくとも三百年位は安定稼働が可能だ、とサーシャちゃんは述べ、他の二人にそこまで長生きする気は今んとこないよ、と突っ込まれていた。
「そうかね?君達三人はその位は余裕で生きそうだが」
そしてその会話を聞き終わったランディさんがそんな判定を下す。ハイエルフより長生き認定されましたね、君達?いや、あたしの目でもそういう判定だけどさ。
「そうねえ、確かにその位は行けそう。むしろサーシャちゃん、寿命あるのかしら」
アンダル氏との契約がある限り、彼女に寿命問題は発生しないのでは、というのがあたしの技能判定だ。ただ、その場合、成長速度が犠牲になる可能性が大変高い、という判定もおまけにくっついている。それは言うと凹みそうだなあ。
「えぇ……それだと成長しないレベルで育たないの確定じゃん、それはやだよぉ」
案の定、心底嫌そうな顔でサーシャちゃんがそう述べたけど、実際カナデ君と比べても、サーシャちゃんの背の伸び方、明らかに遅いからね……
「その辺は我には判らぬが、其方判っていそうだな?」
ランディさんがあたしの方を見て、言わなくていい事まで言わせようとしてくるけど、ここはどう切り抜けるべきか……
「言わせなくていい、自覚はある、言ってみただけだ……」
そしてあたしが口を開くより早く、サーシャちゃんがげんなり顔で諦めの発言。そ、そっか、自覚、あるんだ。
「……むしろ多少成長を早められる方法を探るほうが建設的かもしれないわね」
ないこともないよね、という感じで軽い調子で述べておく。それでもちょっとげんなり顔のままのサーシャちゃんだったけど、カナデ君の方の顔がぱっと明るくなった。
「そうだよね!そういう方向性でもいいよね!」
そういや彼も身長の伸びが遅いの、気にしてるんだった。当然の反応だったわね!
ただ、カナデ君が身長を気にしているのはしょうがない所はある。ワカバちゃんとあまり変わらない背丈なうえに、とうとうティスレ君に追いつかれてしまったのよね。シェミルちゃんも殆ど変わらないところまで背が伸びているし。
そしてエルフ族の二人はもう少し伸びるだろう、という治癒師の技能判定が出ている。
エルフでも、王城のお針子さんのミケリアツィーシャさんみたいに背の低い人も稀にはいるけど、基本的に人族よりその割合は少ないのよね。
そしてこの世界、人族も背の低い人はそう多くない。コボルト族なんかはもう身長は千差万別だけど。あたしより背の高いコボルトさんもいるし、サーシャちゃんより背の低いコボルトさんもいるのだよ!皆かわいいけどね!!
そんな感じで、格納魔法関連の話は身長が伸びない話に押し流されて、完全に後日回しが確定してしまった。
とはいえ、身長を伸ばす手段って、技能はないこともなかろう、みたいな判定だけど、全然手段を思いつかないのよねえ。あたし自身には必要ないせいかしらね?
それを言ったら、格納魔法関連もあたし自身には関係ないんだけどもさ。
いやほら自分は使えなくても周囲の人が……あれ大体使えるな……?




