423.過去の称号と生えるスキル。
その後も本人に色々質問したところ、どうやら前世である異界の聖女、というのが、そもそも俗に、というかラノベでいうところの召喚聖女であったらしい。称号から読み取れる情報や、それに紐づいて構成された彼女のスキルや属性を見る限り、間違いなく、この世界のそれではないのだけど。
庶民的な会社員が若い子狙いの巻き込み召喚を喰らったと思ったら、実は年かさの方が本命だったとかいう、ラノベでもたまに見る奴。
聖女時代はそのせいで結婚どころか男性の顔を見る事すら禁止されたうえに、更に主に食事面での清貧生活と、聖女としての魔力や技能の過度の行使を強いられていたらしい。
教会の連中は贅肉ダブダブに抱えながら贅沢していたのにね、と、投げやりな口調で語る王女様は、どうもその頃にだいぶんと性格がスレたのが、今もたまに顔を出す模様。
最終的に、一緒に召喚された若いカップルがうまいこと逃げ出した挙句、不条理と不公正が蔓延していた召喚主の腐れ国家に反乱起こして成功し、悪徳神官を一掃した教会からはどうにか救出されたものの、苦行レベルの過度の清貧生活下での能力の酷使で健康を損なっていた彼女は、辛うじて聖女の資格の放棄には成功したものの、あまり長くは生きられなかったんだって。
資格の放棄が必要だったのは、そうしないと召喚契約国に永劫に縛られかねないから、だそうで……別世界とはいえ、酷い国もあったものね。滅びて当然感が否めない。
「聖女時代のいい思い出は、資格放棄の際に好みの人を選べたことと、教会のクソ爺たちが吊るされて石礫ぶつけられるのを見物できたことくらいですかね……」
そう語るマリエッタ王女の目が死んでいる。他人の残酷な死をいい思い出扱いにできる時点で色々お察し、というやつだから、結構な過去の話とはいえ、同情しかない……
ちなみに、その聖女として召喚される前の会社員時代のことは、殆ど覚えていないらしい。ラノベとか読んでいて、あーそうだ、こういう感じだった、くらいに判別できる程度だという。
なるほど、そのせいで余計に庶民生活が憧れ化しちゃってんだな、これ。
話を一緒に聞いているうちの、ファルティア王女はうんうんと頷いていて、ミレーニエ王女はびっくり顔になっている。ファルティア王女とマリエッタ王女は元々母違いとはいえ、お互い庶子の年子ということで、とても仲が良かったというので、この話もファルティア王女の方は聞いたことがあるんだろう。ラノベライクな話だから、そういう作品に触れやすいこの世界では、案外と喋りやすかっただろうし。
一方、ベルタルダ伯爵夫人の方はというと、少し困った顔だ。ラノベ文化にあまりなじみがなくて話に付いていけない、というよりは、初対面の相手に随分とさらさらと内情を打ち明けているマリエッタ王女が少し心配、といったところかしら?
「……だから、今の生活自体は、父の暴言がなくなった今は、まあまあ快適なのですけど、でもやっぱり庶民的なものに立ち戻りたい気持ちがあるんですよね。少なくとも前世由来の称号は早めにうっちゃってしまいたいですし」
前世の記憶があるということは、称号を『元』にする方法も把握しているわけだ。まあ実行はまだ何年か先じゃないと、神殿から叱られが発生するやつだけども。なんせ未成年だからね!
なおレナール三世、顔を合わせると庶子たちにも暴言を吐いてはいたけど、マリエッタ王女に関しては、その私生活には基本不干渉だったらしい。ファルティア王女の方は紫の王家らしい髪のせいで、余分にウザ絡みされていたそうだけど、それも纏めて謝罪はされたという。白いセリーテの件は、巻き上げたのは事実だけど、死なせちゃったのは事故だったんだそうだ。毛皮に関しては、コルネリオ元王子の方が触媒として使ってしまったのだという。
その辺のあれこれに関しては、許す気はないですが、理由は納得している、というのが王女たちの統一意見だった。なんでも、王から謝罪のあった日の夜に、コルネリオ元王子が夢で真相を全部語っていったんだとか。
兄貴、全部ひっかぶって墓まで持ってく気らしいけど、カッコつけだからね!気分が落ち着いたらイジってやるといいよ!ってばらしていったそうな……前王の女癖がアップしだしたときに気安く頭どついてたからもしかして?とは思ってたけど、陽キャかあの人……
懇談しながら、王女たちを観察していて気付く。ファルティア王女の方も、不思議な、というか、ヤバげなスキル所持してるな?
〈運命の糸〉:他人の運命の糸を見極め、繋ぎ、解き、時には断ち切ることも可能。但し、能力の行使には術者の寿命かその運命を消費する。また、相手の意志力または魔力量差によりレジストされることもある。
使用した形跡はなさそう?というか、恐らく彼女、スキルに気が付いていない?寿命ならまだしも、『運命の消費』のくだりが割とこの世界的にマズい奴なので封印推奨、という判定が出てますけども。
(む、おかしいですね、先日覗き見た時にはそんなスキルはなかったはずなのですが。コルネリオが去り際に何かやらかしてますかね、これ……)
女神様の怪訝そうな心話。光属性が強い状態で接触したから何か影響が出た?いやそんな事象知らないな、いや、あたしが知らないだけの可能性はあるけども。
《いえ、これは恐らくマリエッタ王女の称号効果のひとつが発現した結果です。スキルや技能の発現確率や、魔力の増強などの上げ幅を上昇させる効果があるようです》
うへえ、つまり[異界の聖女]の方も封印対象じゃないの!いや、元、にランクダウンさせる事ができれば後は放置で大丈夫な奴だという確信も同時にあるんだけど、生憎まだ成人まで五年位あるんですよね、彼女。
(あぁ、そちらですか……そうですね、確かにそう。一度神殿においで頂かないとだめそうですね、これは……封印、苦手なのですけど……)
そして追認した女神様が弱音を吐く。なんかこれもあたしが手伝わないとだめな奴かな……
なお、神々諸氏、特に国神様がたには、あたしとシエラの件はだいたい周知されている。何故なら今のシエラは、神々との窓口役でもあるからだ。そこらへんはメリエン様が根回ししてくれているので問題ない。
あたし達の現状を知らない神は、遭遇機会自体がなさそうな地方の小神と例のズボラだけだ。
他の人達も一応確認しておく。ベルタルダ伯爵夫人は前回お会いした時と変化なしだ。彼女は過去の事件で属性力やらあれこれ減っているから、恐らく新しくスキルを生やすにはキャパシティが足りない、そんなイメージがあるな、どこまで合っているかは謎だけど。
そしてあたしにもそこらへんの変化はない。こっちは光極大の干渉防御の結果だろうから、まあ当然といえば当然?
だけど、ミレーニエ王女にも、前回会った時には見た記憶がない〈シャットダウン〉という謎のスキルがですね……えーとなになに?対象一人を気絶させる?ああ、パソコンの電源をコマンドで落とすみたいに意識だけを安全に落とすからシャットダウンってか。
こっちは女性の護身用に良さそうではある。悪用も可能だろうけど、ミレーニエ王女がそうすることはまずないだろうから、そこは心配しなくていいかな。
ルシール殿下は先に寝たので、多分新たにスキルが生えるとかはなさそうかな。というか、彼女は元々〈魔力増強〉というスキルを所持している。彼女の魔力が年齢の割にかなり多いのはこのパッシブスキルのせいね。こちらも現状では特に問題ない。
ただ、魔力称号が一定を越えたところで、称号効果と相乗効果が発生してしまうと、魔力増加ループを発生させてオーバーフローする可能性が微レ存、といったところか。
(そちらは亜竜級に至らないと発生しないループですね。家系を考慮すると、素の状態でも聖獣級までは至りそうではありますが、まだ幼少ですので未確定ですね。無理に修行をするなどしなければ大丈夫かと)
え、微レ存じゃなくて越えたら確定なのはよろしくないのでは?女神様の注釈に内心で首を傾げる。
(魔力初期値が高い割に成長しない家系なんですよ。天馬の騎士の家系から引き継いでいる召喚制御補正に魔力リソースが食われがちなものですから)
なるほど、そういう事情ならそこまで心配しなくてよさそうね。
それにしても、マリエッタ王女の問題、予想外に即対応推奨だったな……まだミレーニエ王女を説得する方が難易度低い、まである感じがそこはかとなく?
他人ごとのように言ってるけど主人公も理由は別とはいえ、元の自分の世界での庶民生活あんまり知らない勢ではある。




