422.[異界の聖女]。
さて、本人から転生者である言質を取ったし、邪悪さんの話も終わった事だと片付けたので、あとは調整のターン、というところだろうか。
「まあ、そのような訳ですので、マリエッタ様に関しては、もしも異国観光をご希望でしたら、フラマリアからの招待状を手配することも可能です。未成年の場合、保護者同伴が必要にはなるんですけど」
なんなら保護者役くらいはしてもいい。と言おうとしたんだけど、マリエッタ王女はうーん、と考え込んでしまった。
「フラマリアの神殿では何故そういう事業をしておられるのでしょう?メリットが特に思い浮かばないのですけど」
あらま、警戒されてしまったかしら?
だけど、そう言われてみれば、前提条件不明のままだと、何のためにそんなことしてるんだろう?と考えてしまう気持ちは判る。だってあたしも、実際に招待状が来た時、それより前のサーシャちゃんの質問と疑問の応酬がなかったら、同じように考えていただろうし。
「うーん、そうですねえ……それに関しては、招待状の主にきちんと説明して貰うのが一番確実に理解しやすいのですよね……
ただ、仮に招待状が届いたとしても、絶対行かなきゃいけないというものじゃないんですよ。あたしが聞いた話だと、紙一枚にでっかく『いやだ』とだけ書いて返信した人が、昔いたそうですしね」
流石にあたしの口から彼の国神の正体を話す訳にはいかない(既に知っている人以外に彼の異世界人フラグの絡む話をするのは禁止、という誓約をしているのだ)ので、まずは割と気安い話から振ることにする。異世界人招待状絡みでウケがいいの、未だにこの話のインパクトを越えるネタがないんですよねえ!
「そ、それって、怒られないんですか?」
ファルティア王女の方がおっかなびっくりの顔になる。確かに、普通なら国際便で届く招待状への返事としては最悪の部類だよね、これ。
「実はこの例に挙げたお手紙、先方には大層バカ受け、大爆笑されたそうです。そして、無理に来なくても大丈夫です、という返信が届いたとか。どちらかというと、招待状が来たのに無視する、どっちつかずの返事をする、などの方が宜しくないんだそうですよ」
実際問題、二度招待状を送って、二度返信がない場合、内偵捜査が入るらしいし。被召喚者の場合、初期の頃はちょいちょい監禁事案とか、後ろ暗い話に巻き込まれたとかもあったそうなので、その頃の習慣が残ってるらしい。
最近じゃもうそんな無茶苦茶な召喚をやらかすのはライゼルだけだし、召喚補助機構の不具合で、それも年単位で実行不可能が確定しているから、当分は被害者は出ない訳だけど。
あ、そういえばあのサンファンの転生者ニート君の件、報告上がってるかなあ?あれは視察の時で、リミナリス殿下も一緒にいたから多分上がってるよね?
《報告はいっていますが、彼は神罰を受けていますので招待状は保留中ですね》
ああ、そうでしたそうでした。信仰はしてなかったのに国民としての意識自体はあったせいで神罰喰らっちゃってたんでしたね、彼。
「で、目的はなんなんですか?行くつもりは全くないので、出来れば教えていただきたいんですけども」
おおっと、マリエッタ王女、行く気がない、かあ。まあそれは個人の自由だし、そもそもあたしの目では、彼女の場合、必要なのは気分転換の外国旅行よりも、全力で愛され甘やかされること、そんな気がしないでもないんだよねえ。
なんせ彼女達は、演技だった、とはいうものの、父である前王の言葉や態度に心を傷付けられ続けてきた子供たちなわけでね?
なおベルタルダ伯爵夫人が、爆笑のくだりで何故か、でしょうねー、って顔になった。いや、何故かじゃないな、時期的に、アミーユ元王女の診断の為に分体で来ていたという彼に遭遇していた可能性があるな、彼女。
「……異世界から呼びこまれたり、漂着したりした人達が、この世界に馴染めているかどうか、心身に問題がないかを確認しているのだそうよ。問題がある場合には支援することもあるというけど、これも受け取るかどうかは本人次第ね」
実際例の邪悪さんは逃げ出したわけですしね。フラマリア国内にいる間はメンタルと性格に多大な問題を抱えてはいたけど、表立った迷惑行為は実はあまりしていなくて、国替えを止められなかったのだそうだけど。
……多分奴の好みのキャラ及び立場と被るタイプの人と接触できなかったんだろな。あの国そういう対策は割ときっちりやるほうだし。
「何故そう言う事を始めたかというと、昔の、異世界召喚術が流行っていた頃に、召喚された人達を、無理やり働かせたり、意思を縛ったり、はたまたこの世界の在り方に馴染めずに病んだり、という事案がいくつもあったせいね。前者は三年ルールとかの保護法が出来てからは下火になったそうだけど」
返事がないので説明を続ける。下火になったとは言ったけど、ライゼルが残っている以上、ゼロにはなっていない。いや、あそこのは最早そういう次元の話じゃないから、実質ゼロという見方もできなくはない、かもしれない。
あの国で被召喚者を待っているのは、地獄の方がまだ温情ががっつりあるよ!ってレベルの、純粋な破滅だからね……。
「……そんなにしょっちゅう異世界人って現れるものなんです?私は多分……いえ、転生者だろうって自分では確信していますし、ご先祖様にもそういう方がおられたのも、それに、結構昔のこの国にも、異世界人の王妃が数人いたのも調べたことはありますけど……」
マリエッタ王女の言葉はあくまでも慎重だ。そしてまず自分で調べた事を確認するように教えてくれる。
「大規模召喚術で異世界から人や物を呼び寄せる、という事は、今はもうほとんどの国ではやっていませんけど、漂流者といって、他所の世界から事故で流れ着く事例はそこそこあるんです。ここ十年程でそれが増えているという話も聞いておりますし、実際あたしの友人にも数人いますね」
そう、異世界からの漂着者は増えている。これは自称勇者様から聞いた話なので、ほぼ間違いない話のはずだ。転生者の方は、推定だけど、増えてもいないし減ってもいない、らしいのだけど、こちらは自己申告からの調査で判明した分しかカウントできないので、絶対とは言えない、らしい。
まあ何らかの外的要因で漂流者同様に転生者が増えているのだとしても、その転生者達は同時期に発生したのであればまだ赤ちゃんや幼児だろうから、判明するのはもっと先だろう、とも言っていたけどね。
そして、マリエッタ王女の場合、漂流者が増える前の生まれなので、取りあえずその話からは除外でいい。
「転生者の方は?」
当然そこは気になるのだろう、確認してくるマリエッタ王女。
「そっちは自己申告でしかカウントできないので、正しい値としては出せないって聞いてます。神様方の体感的には特に増えていないだろう、くらいの話だったと思います」
「そうなんですね。できたら、そこは隠しておきたいです。平穏な市民生活、というのが私の理想のライフスタイルなので……」
……ははは、無茶を言いおる。庶子とはいえ、貴方、王女ですよ。お姫様ですよ?あと、貴方の称号、女神様が隠しているそれ、かなり、アウトだと思うんですよねえ。
[異界の聖女]
なるほど、彼女の治癒適正はやっぱり前世由来な訳ですね。
それにしても、これが「元」聖女って称号なら、なんてことはないお他所の世界の称号だね、で済んだんだろうけど……この称号、困ったことに現役だ。恐らく彼女、この称号に由来する、またはこの称号の根拠となる、なんらかのスキルや技能、持っているね?
そして、彼女が市民、庶民生活にあこがれを持っている理由も多分これだな……この称号の為に、不本意な前世生活だった気配がするのは、多分ラノベ知識補正ってだけじゃないはずだ。
(ええ、付随スキルが複数あって、そちらも隠蔽しています。
ただ、この称号は一度『元聖女』になっていたものが転生でリセットされて戻ってしまったものですので、然るべき手順を踏めば、元、に戻るようですわ。スキルの方も技能に弱体化されるかもしれない、と本人は申しておりましたが、そこはやってみないと判らない、と)
女神様から再度の注釈が入る。ほー?
《ああ、称号条件に純潔が含まれているタイプの称号なのですね。つまり意に染んだ人と結婚できればそれが色んな意味でゴールインだと……》
シエラからも解説が入る。そうね、あたしの目にも条件が見えた。
そして彼女、明確に意識しているかどうかまではまだ判らないけど、恐らく……意中の人が、いるな?
今回一番難産だった回(半分以上書き直した。そして次回は全て書き直しである)
※もう一つ前から書き直しじゃないだけマシ。




