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412.乾燥魚のお取引。

 魔力蓄積の謎が増えはしたものの、味や健康に良くはあっても悪くはないのは間違いないので、そのまま買い付けの話を進める。


「数を偶数に揃えるのでしたら、あたくしがひと叺買いましょう。里への土産に致しますわ」

 カスミさんがそう申し出た事もあって、全部で五十八叺をお持ち帰り決定です。


 代金は金銭で半分を、後は日持ちのする黒砂糖やらレーズンやら干しいちじくやら、後は麦なんかの主食系の食品で支払う事になった。カスミさんが全部金銭払いになったので、ランディさんとサーシャちゃんが食品多めで払う感じのようですね。あ、バナナチップスがある!あたしあれまだ食べてないぞ?!


「いやこれは有難い。この辺りだと甘味は本当に貴重でしてなあ」

 山が迫る地形のせいで畑はあまり面積自体が取れなくて、蕎麦とライ麦と芋類を少し作っている程度で、甜菜まではとてもじゃないけど植える土地がないというので、小麦と甘藷と黒砂糖がたいへん喜ばれた。

 黒砂糖、主産地であるハルマナート国だとお土産屋さんでも一般食料品店でも、かなり安価に売ってるんだけどね。気候の加減で他国では殆ど甜菜糖だから、そういう意味では珍しいのも確かだっけ。白砂糖まで精製しちゃうと、どちらも大差なくなるし、実は白砂糖って案外と、それこそ庶民が程々に使えるくらいに安いのがこの世界だ。精製が魔法の組み合わせでできちゃうせいだろうね。


 そして、何もない空間からどしどしと小麦粉の袋やら、黒砂糖の袋やらが現われたり、ドライフルーツの小袋がわらわらと現れて、それぞれ積まれたところで、びっくり顔だった村の人達がストップをかけた。


「集会所に積んでしまうと保管に困るので、保管所の方に入れて欲しいんですわ、そのほうが隣村のモンも取りに来やすいんで」

 これはテムクル村の住人のおじさんというかドワーフさんで、バレノさん。保管所に入れちゃうと、出し入れ大変なんじゃないのかな?そうでもない?


 ともあれ、ここも地元民の提言に従うとこだな、と、一旦出した荷物はしまい直してもらって、保管所に案内してもらう。

 ……うん、岬に繋がる山の麓、崖の真ん中とでもいうべき場所に、結構でっかい木製の扉が付いている。鍵はかかってないけれど。


「半地下、といったところか?」

「元々テムクルとホルクムを結ぶ隧道を掘りぬいてあったんですが、温度湿度が食品類の保管に大変良い、とお墨付きを頂いたので、山側に地下室を掘って保管所を拵えたんですわ」

 ランディさんの質問に、バレノさんが答えている。なるほど、地下室的な、というか洞窟的な場所に置いているのか。この世界、魔法があるせいか、隧道やら地下室やらは、それこそどこの国でも一般的だもんね。風魔法で削り取って、土魔法で固定するのが一般工法だよ!


 扉を開くと、なるほど、手掘りともなんともつかない、多分魔法を駆使して掘られたトンネルですね。

 隧道の中に入ると、明らかに外よりだいぶんと温度が低く、空気自体がひんやりとしている。そして隧道の真ん中あたりの壁面、その両側に、こちらは鍵の付いた扉が付いている。


 山手側の扉を開いてもらう。その奥には真っすぐな通路が続いていて、扉のない部屋が両脇に並ぶ構造だ。しまう場所がなくなったら新しい部屋を掘る、というやり方だった為に、手前から順に古い在庫になっているという話で、奥は今も新しい在庫の為に掘り進めているという。なるほどこれなら保管場所には困らないわね。掘った場所には定期的に〈固着〉の魔法をかけて、強度も担保しているという話だった。

 小部屋の中には、一部屋ごとにだいたい一年分、平均六十個の、大きな叺に入れられた製品が、みっしりと収められている。左右でテムクル村の製品とホルクム村の製品に分かれているけど、作業工程が同じということで、品質などもほぼ同じだそうだ。なので年間生産量は二村ぶんで百から百三十個くらいになるんだそうだ。


 そういう訳で、最初のふた部屋から予定数の在庫を取り出して貰っては、さくさくと収納していくサーシャちゃんとランディさん。カスミさんとカナデ君は次の十九年物の部屋から一つずつ、サーシャちゃんは四つの部屋から合計五つを選び、もう一つ、麺屋オスタリカさんの分を、自分が選ばなかった方の部屋から取ってバランスを取る。ランディさんは二十年物の部屋の左右から二十五個ずつ取ったので、左右の部屋から同数ずつ減らしたことになるね。


 こちらからの荷物もここに降ろすのかと思ったら、隧道に戻って、反対側の扉に案内された。岬側にも拡張性はないものの倉庫が作られていて、ここ数十年必要量が変動していないという、冬の間の食料などを二村ぶん、これまた左右に振り分けて入れているのだそうだ。


「地理的な構造を利用し尽くしてるなあ」

 渡す荷を出し終えたサーシャちゃんが感心した様子で周囲を確認している。


「如何せん土地が狭いですからな、地上に光の当たらなくていい倉庫を建てるなんてもったいない真似はできないんですよ。家庭の地下室と違って掘り下げがない分、物の出し入れもこの方が楽ですしね」

 一緒に案内についてきたドネクさんがそう言って笑う。山が海に迫る土地柄で、家も幅は狭く高さは三階建てくらいに高く伸ばし、隣とくっつきあっているスタイルが主流なのよね、ここ。家の素材も森林で豊富に採れる針葉樹がメイン、後は石と漆喰かな?


 全てのお取引が完了して、港の見える場所まで戻ったところで、ざばり!と派手な水音。

 見ると丁度でかいコウテイペンギンが桟橋に上がって人型に化身するところだった。

 うん、実はタイセイ君、王都でランディさんの試作に付き合った後、ちょっと泳いでくるわ!と出掛けたっきりだったのよ。居場所はアンダル氏とお互い把握しあっているから、移動してもちゃんと追いつける、とは聞いていたから特に心配はしていなかったんだけどね。


「こんな北にも村があったんだなあ。それにしてもここの海、どうなってんだ?同じ魚ばっかりいるんだが?ペンギンとして食べる分には問題なかったけども、いくら何でも偏りすぎだ」

 どうやらタイセイ君が海中で見かけた魚も、コベションばかりらしい。


「ああ、抱卵個体を食して気が付いたのだが、この魚、卵が他種に比べて小さくはあるが異様に多い。繁殖力が強すぎるのであろうなあ」

 ランディさんが試食の時にやけに魚の腹をためつすがめつしているな、とは思ったんだけど、そんな所を見てたのか。雌もやけに卵周りの食感が滑らかな気はしていたけど、卵の粒が小さくてみっしり詰まっているからそんな感想になったっぽい?


「昔調べに来た学者のお人がいたんだが、卵をやたら一杯産む上に、その季節は集団行動して卵を護る行動をするから増えやすいんだと言うちょったね。だから産卵期にいっぺえ獲って調整した方がいいっちゃ言われたんだけんども、この時期の奴に限って乾物に向かねえ脂加減で、保存しづれえんであんまり獲ってなかったら、もうどんどん増えちまってなあ」

 ちょっと訛った話しかたで説明してくれたのは、テムクル村の方で漁網の制作と修繕を生業にしているというオークさんだ。スタンピードで自分の集落を失った人で、ここで手先の器用さを生かして働いているそうな。


「ほう、そういう事であれば少し網を出して貰えるかね?我やそこの子等の収納は時間を留めて置ける故、乾物でないものも長期保管ができるのでな。試食で頂いた腹子も白子もなかなかの美味であった故、ある程度確保したい」

「お、それはいいな。数があるなら色々試作ができそうだ」

 ランディさんがそう提案し、サーシャちゃんも乗っかったので、村の漁師さん達に交渉して、それぞれがふた網程を丸ごと買い付けることになった。一晩泊まる事になったけど、日程が押してたりはしないので問題ない。流石にお宿がないので船中泊になったけど、改装の結果、ちょっとしたお宿並の設備がありますからね、今のオプティマル号。


 翌日、本職の皆さんによって水揚げされた魚は本当に物凄い量だった上に、九割以上がコベションで、なるほどこりゃあワンシーズンで百叺とか増えるはずだわ、と皆で納得してしまった。

 そしてそれを全部するするっと収納する規格外の収納魔法持ち達。村の人達が昨日の今日でまだそんなに入るんですか?って二度見していた。まあよくある事ですね。


 では無事に買い出しも終わったし、帰りましょうか!


 ……ってあたしはオラルディに寄らないとだめでしたね、ぐぬう。

かますのサイズ、割とでかい設定です(こいつら気にもしてないが)、なお麻製。

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