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閑話 ジャッカロープを選んだ者

予定通り、ジャッキーの独白回。前半が激烈重い。

 おれの名は、ジャッキー。ジャックでもジャッカルでも、ましてやジャクリーンでもなく、ジャッキーだ。

 今は、見知らぬ土地にあるごっつい砦で、一角獣みたいな黒や茶色の角を額から生やした大兎、アルミラージという連中の群れに混ざって暮らしている兎だ。

 まあ、兎と言っても、おれの頭にも小さな角がある。ただ、額ではなく耳の間から、数は2本。先端は僅かに枝分かれしている、硬質の角。


 なるほど、恐らくおれはいずれ、レプスコルヌトゥス、いや、違うな、きっと、ジャッカロープになるのだ。

 ジャッカロープのジャッキー。語呂合わせぽくていいじゃないか。


 レプスコルヌトゥスにしたところで、ジャッカロープにしたところで、人間には無害な生き物だ。まあ幻獣だかUMAだか判らねえだろ感はあるが、流石にこの、明確に、おれが兎になる前に住んでいた場所とは違う世界に、UMAなんて概念はないだろうから問題ないさ。


 そう、おれは今のこのおれとしての意識を持つものとして、最初から兎だったわけじゃない。

 一度死んで、そのあと兎になってから、この世界に飛ばされた。

 死んだ身体のほうは魔法陣状のものに包まれて何処かに飛んで行った。感覚的にはこの世界のどこかに現れて、多分だけど、もうどこにも存在していない。おれにはこの兎の身体しかない、って何かが告げている。本能かなあ?


 魔法陣状の何かは光った瞬間に死んだおれの魂も絡めとったのだが、何か変な壁を越えたところで、その魔法陣の力っぽいものからぺろっと引き剥がされた。

 そうして、おれをひっぺがしたその何者かから、人間以外の物になれるなら何がいいかと問われ、ああそうだ、思い出した。おれは自分でジャッカロープを選んだんだ。

 昔、本当にちっちゃな子供だった頃、じいちゃんに連れていかれて見せられてかっこいいって思った、ジャッカロープの剥製。

 無論作り物で、それをかっこいいって言ったら散々母親に馬鹿にされたんだけど。


 おれに質問した何かは、成程なかなか愛らしいな、と褒めてくれたのだが。可愛いか。かっこいいじゃなくて。

 ああ、でも今の幼体っぽいおれの角はちみっと生えてるだけだから、普通に可愛い兎だろうな。中身はあんま可愛くねえが。


 できたら、ぶち兎で、ってのも一応対応してくれたけど、何故か耳の後ろと尻尾の脇、なんて目立たない所にしかぶちがないから、前から見たら完全に白兎だ。あの強烈な力を持った何者か、随分とひねくれ、いや、お茶目さんだな。


 でもまあ、人間のおれが死んだのは、正直に言ってしまうと、せいせいした。ろくでもなかったからな、主に、おれの周囲が。

 なんだか知らないけど、おれには人をちょっとだけ癒す力があるとかないとかで、母親には完全に金蔓扱いだったし。

 そのくせ宣伝は下手だし碌な人脈がない、というか元々裏社会にずぶずぶの、おれの父親の顔さえ判らないようなあばずれのアル中のヤク中のクソ女だったから、気が付いたら変なおっさんどもが母親の兄弟や夫を自称して家に入り浸り、おれに暴力を振るったり、ああでもないこうでもない、ろくでもないことをしたり。

 気が付いたら人を癒す力なんかどこかに消えてしまったし、おれは病気みたいになってガリガリになっちまった。そして役立たずと怒鳴られ殴られて、路地裏に捨てられて、死んだ。


 今なら判る。何が癒しの力だ。あれは、おれ自身の命を切り売りするだけの、ペテンに近い力だったんだ。なんでそんなことができたのかだけは、今でも判らないけど。

 だから、奴らの暴力がなくても、さして変わらない時間で、おれは死んでいたろう。もうとっくに限界だったんだ。



 砦のアルミラージ達は、言葉を理解するし、魔法を使う。但し、魔法を使うのは大人だけだ。

 おれは気が付いたらここにいたんだけど、アルミラージを取りまとめる長老の婆ちゃんは、まあ兎のなりだし、角はあるんだから我らと似たようなもんだろう、と、鷹揚におれがここに居ることを許してくれた。今は群れの子兎たちと一緒に、この世界の事を学んでいる。

 婆ちゃんの孫の子兎の一羽がなんかおれに懐いてくれていて、居心地もいい。

 まあ貴重な女の子に張り付かれてるからって野郎どもの眼は厳しいが、群れ全体が黄色っぽい茶色ばかりで、おれは白くて目立つのに、この子くらいしか寄ってこないんだから、大目に見て欲しいもんだね。

 あと、子兎たちにはまだ皆、名前がないから呼び分けるのも面倒だし、隣にひとりいるくらいが、ちょうどいい。


 おれにも魔力はあるそうだが、アルミラージたちが使う土の魔法は使えないようだ。なにができるんだろうな?



 おれたちが住んでいる砦には、藍色の長髪の、ひょろっと背の高い、ちょっと疲れた顔の兄ちゃんと、庭師だというガタイのいい茶髪の髭のあんちゃんが住んでいる。二人とも多分人間。それとは別にアナグマみたいな耳と尻尾のあるおっさんと、ごく普通の、でも何かに守られてる感じのおばちゃんが定期的に通ってくる。アナグマの耳と尻尾って、これ物語でたまにある獣人ってやつ?

 髪の長い兄ちゃんは腕のいい召喚術師だとかで、時々おっかないでっかいやつとか小さい奴とか呼び寄せたりしている。

 茶髪のあんちゃんは召喚術が使えないけど、毛皮でもふもふした生き物と仲良くしたいタイプの人で、砦の生き物の多くがあんちゃんのブラシでふかふかのふわふわのさらさらにされている。おれもされた。気持ちよかったし毛皮がふわふわになった。


 ああ、ここの暮らしはのんびりしてて、いいなあ。

 もう、死ぬ前の事なんて、忘れちゃっていいかなあ。


 そんな風に思うようになったら、本当に段々と昔の嫌な事を忘れ始めた。

 ああ、癒されるって本当はこういうことを言うんじゃないかなあ。


 おれが砦で暮らし始めてそこそこ経った頃、砦に女の子が増えた。なんか、おれから見ても、ものすっごい魔力が強いのが判る、黒髪の美少女。

 最初は幻獣や聖獣の大人勢が寄り添うように監視したり、保護するように傍にいたりしていたんだけど、彼女がこの場所に慣れたらしい頃から、あんちゃんのブラッシングを手伝うようになりはじめた。


 なんでか知らないけど、この女の子の考えてることが、時々おれたちのほうに漏れてくるんだよな。

 そうして知ったんだけど、この子は、ジャッカロープの事を知っていた。それも割と正確に。


 思わず覚えたての念話を投げてしまった。この世界にジャッカロープなんて痕跡すらないのはもう判っていたから、彼女はこの世界のものじゃないってはっきりしてしまったんだ。

 おれと同じ世界の者でなければいい、そんな気持ちを隠して。


 名前を教えて、召喚も許可して。おれにくっついてる子兎は名前を貰って、彼女も召喚を許可した。名前を貰うこと自体が許可なんだそうだが。

 もふられたりブラッシングされたりしながら、いろんな話をしたけど、多分彼女はおれとは違う世界から呼ばれたのだろうというのが、おれの結論になった。


 おれのマスターになった彼女はカーラという名前。やっぱりもふもふした生き物が好きで、ブラッシングも上手で、なによりおれたちの事を随分とよく判ってくれている。動物と意思疎通ができる便利なスキルがあるそうだ。

 そして、おれのことをなんだかんだととにかく褒めてくれる。なんだろう、嬉しいな。


 海で魔物が大発生したのを、ひょろなが兄ちゃんが倒す手伝いをしに行く、そして女の子に留守番はさせられないから、と、カーラも付き合いで見学に行くことになって、おれは湯たんぽ代わりに連れてってもらうことに成功した。子兎のミモザはカーラが載る予定のグリフィンさんが怖いっていうから、置いていくことになったから、おれだけだ。

 南方のここら辺では季節が判りづらいけど、今は春先でまだ上空はだいぶ寒いんだってさ。


 ドラゴンの群れがすっごくかっこよくて、魔物の群れはぞわぞわするかんじで。

 ドラゴンたちはブレスも使うし魔法も使う。時には物理で噛みついたり尻尾でひっぱたいたりもしている。何もかもが初めて見るもの、そして全部がカッコイイ!!

 だけど一向に自分が使えそうな魔法が見えないなあ。婆ちゃんは自分が使える属性の魔法を見たら使えるって判るよ、って言ってたんだけど。どれもこれも、魔法の構成や種類は判るのに、使えるって気がしない。


 あ。


 細長い翼のある蛇のような龍の人が使った魔法。あれ、使える!


 よいしょ、と真似して魔法陣のようなものを作ったんだけど、あれ?なんか違うな?

 マスターにも乗っていたグリフィンのねーさんにもダメ出しされた。幻獣式と人間式が混ざってるって。

 でもあとで正式な幻獣式の先生を紹介してもらえることになった。おれ、治癒の魔法の才能があるんだって。


 死ぬ前の癒しの力どうのこうの、には正直嫌なイメージしかなかったけど、今の治癒の才能は、どうしてだか、純粋に嬉しい。

 きっと、皆が、マスターが、何の裏もなく、純粋に褒めてくれるからなんだろうな。


 よぉし、昔の事はきっぱり全部忘れて、癒し系の癒せる兎、目指すぜ!

兎は幸せコースに乗りました!乗ったんです!もう大丈夫ですから!


あ、次回から第二部です。ついに他国に行くよ!

取り合えず二部終了までは毎日更新です(書き溜めが公開分の倍になりましたので

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― 新着の感想 ―
(おれは転生者でもあるからな、といっても転生前も人間じゃあないし、記憶はもうほとんど残ってないけど。ジャッキーって呼んでくれ。おれの名だ) って言ってたから安心してたけど人間だったんですねぇ。この頃に…
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