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番外編 天馬の騎士たるべくは。

称号回にしようかと思ったらそんな時間はない!とタイムテーブルに蹴られたので、登場時にはキーパーソンにする筈だったのに、終わってみたら終始一貫蚊帳の外だったコシュネリク閣下回です。一人称。

時系列的には初登場以前のどこか。

 自分が今の王の子でない、そのことは幼い頃には既に知っていた。神託によれば『王』の子には違いない、という話であったから、公開されている王家の系図を見れば、実の父が今の王のその父であろうことも、文字を覚えて間もない頃にはもう判っていた。


 王に放り出されそうになった赤子の私を保護し養育してくれたジュレマン公爵は、私にコシュネリク、という名を与えてくれた。建国の物語に登場し、今の王家にもその血を残す、建国王第一の騎士にして、初代[天馬の騎士]の名だ。

 美しく勇ましい天馬と共に雷の魔法を駆使して魔物を倒していく勇士の物語は、幼子の私にも大変好ましく、その名を貰った自分も何時かは、そう思うようになるには、さほどの時間を要しなかった。なにせ現王、レナール三世に認知を正式に拒まれた時点で、私が王位に就く事はあり得ないルートとなっていたからね。

 残念ながら私の雷属性は極小で、時折〈発雷〉を使うのがせいぜいだったから、流石にかくの如く、とはいかないな、と思ったものだ。天馬も前王の時代に、前王に愛想を尽かして王家から去ってしまっていたしね。


 ただ、それでも私は王の認知を受けていない庶子、という中途半端な立場であり続けた。幼少時にはよく判らなかったその理由も、我々の世界の常識や倫理観を学ぶうち、なるほど前王によるやらかしは、到底公表できない事なのだな、と納得もいった。


 当然の事ながら、中途半端な立場の人間が目立つのは、国政の安定には宜しくない。その位は当時から小賢しい子供であった私にも判ったから、学業の成績は程々に手を抜いた。武技は公爵が手ずから指南してくれる手前、手を抜くわけにもいかなかったが、この国は魔物の発生が少ない事もあって、そちらは余り重視されるポイントではないので問題はなかった。国同士の戦は、滅多な事では起こらない仕組みだからね、我らの世界は。それでもやらかした愚かな国(アスガイア)は、すっかり衰退してしまったと風の噂にもなっていたし。


 ジュレマン公爵以外に特に後ろ盾もない私は、案外と自由に暮らしていた。

 顔も知らぬ実の母が植物属性の強い人だったせいか、王家の色で雷属性を象徴する紫が見た目に現われなかったのもここで幸いした。

 私は存在は辛うじて知られていたけれど、大半の人が顔を知らない、そんな『王族っぽい、数合わせの隅っこ人員』でしかなく、世間からは完全に無関心を決め込まれていたのだ。


 そして、私はこれを幸いとばかりに、国内をあちらこちらと旅するようになった。

 流石に神殿からは王族の端くれと認定されていた身故、許可なく国外に出る事は許されなかったが、国内に関しては、それこそ人里離れた山奥以外はくまなく回ったように思う。これは認知されない子であるが故、妹たちですら参加したものがあるという公務に、一切関わることのない身であったのも理由だ。つまり、時間だけはたんまりとあったのだ。

 こんな気楽な生活をしていていいのかな、などと思った事もあるくらいだ。


 ただ、気楽でいられるのは子供の間だけなのも、判っていた。宙ぶらりんな立場の人間のままでは、公職を得る事も出来ないからだ。

 けれどそこで今度は、公爵の妻、私が幼い頃に既に著名な劇作家であったミシェーラ夫人が手を貸してくれた。劇作の手ほどきをして頂き、偽名で彼女の弟子として発表する機会を得た結果、幸いにも中程度の当たりを二作ほど書き上げる事ができたのだ。勿論散々な評価のものもあったのだけどね。恋愛ものは、私のような一般世間を良く知らない若輩者には難しすぎた。


 そうやって、偽名での作家業のお陰で、王家を離れても恐らくある程度生活ができるだろう、と確信を持てるようになった辺りの頃だった。彼に、天馬グリンディパイルに遭遇したのは。


 盆地の多いオラルディ国は、実は地味に夏が蒸し暑い。

 よって、真夏は山間部に避暑に赴くのが、王家でも各貴族家でもそれなりの頻度で行われる恒例行事だ。私は数年に一度くらい、公爵一家と共に出かける程度だったが、その年もそうだった。マイサラスとの国境に近い公爵の別邸に落ち着いたあと、チェリクだけを連れて散歩に出たところで、突然青空から彼が舞い降りた、その時の事は今でも鮮明に思い出せる。


【其方、王家の血、ひいては勇士の血を持つものだな?】

 純白の美しい天馬は、口を開くなりそう問うてきた。嘘を嫌い口にしないという聖獣相手に嘘、あるいは隠し事などしてはならぬ、というのはこの世界の不文律故、私は頷くしかできない。


「一応、そうだね。認知されていないから、只の遊び人だけど」

 遊び人なんて職業?は物語の中にしかないものだと思っていたけど、そういえば今の私はまさにそれだな、と思ったのでそう返事をする。


【ヒトの間での立場は今はどうでもよいのだ。其方、吾輩と契約せぬか。どうも其方とは随分相性がよい、そのような気がするのだ】

 そして天馬の言葉は、よもやの契約依頼だった。何故?いや、血の故に、か。そういえば建国の天馬の騎士、その愛馬グリンディパイルは、勇士の家系に、そして何時しか血を合わせそれを吸収した今の王家に仕えていた、のだった。それも前王が自堕落な生活と暴虐性の強い性格を露にした時点で契約破棄され、去られていたのだったね。


「いいのかな。私は君が嫌った男の血を直に引いているそうなのだけど」

 天馬は憧れだったから、私個人としてはもう既に心が浮き立つ気持ちでいるのだけど、そこはどうしても、確認しておくべきだと思った。だって私自身が、彼の子であること、それが人生最大の問題点になるだろうと確信しているのだからね。


【ん?そうなのか?吾輩の眼には、到底そうは見えんのだがね。いや、あの男も一応同じ血を持ってはいたのだ。個人差の範囲であろうし、そも奴とて、契約した王子の頃は、ちょいと尊大な馬鹿だなあ、くらいの印象しかなかったのだからな。

 そう、もし其方が豹変するようであれば、前王の時のように契約を破棄して去ればいいだけの事なのだから、細かいことは今は気に病むでないよ】

 返す天馬の言葉は確かにごもっとも、だ。そうだね、契約破棄の実績もちゃんとあるんだった。ならば、もう躊躇う理由などどこにもない。


「そうだったね、では私が道を誤ったら、容赦なく捨ててくれて構わない。私の名、彼の勇士にあやかったコシュネリクの名を汚さぬよう、努力はするけれど」

 そう、私の目標は、幼い頃自分の名の由来を教えられたその時より、彼の建国の勇士コシュネリク、天馬の騎士その人なのだから。自らを律する覚悟など、ずっとしているに決まっている。


【なんと!なんと!同じ名を戴く者と契約できようとは!そうだ、其方は姿も思いのほか彼に似ている!吾輩グリンディパイルの最優のパートナーに!】

 そう声を上げ嘶くグリンディパイルとの契約の繋がりを感じる。天馬なら中級だから、ギリギリ随意に呼び出せる範囲だな、って待て、君上級じゃないか!才的には大丈夫そうだが、目立たないようにと中級止めしていたから、現在の技量が足りない!


【あー、吾輩雷属性も持っておってな、そのせいで群れで吾輩だけが上級なのだよ。いや、主ならば、少し他のもので呼び出し訓練をすれば上級はすぐだから、じきに吾輩も呼べるようになろうよ。彼の血筋にはその補正もついておるはずだ。そうそう、普段はグリンと呼んでくれればいい】

 グリンディ、いやグリンがそのように慰めてくれる。中級程度で召喚師の訓練を止めていたのが裏目に出たのは想定外だが、召喚師は上級まではそう珍しい存在でもないのだから、これはきちんと修行をしなくてはね。


【ああそう、吾輩たちと契約した者には[天馬の騎士]という称号が付くのだが、この称号は吾輩たちが表示を制限する事ができる。具体的には騎乗中のみの表示にできる、だけなのだが、どうするね?】

 グリンが提案してくれたので、即時、騎乗時のみ表示を選択する。これは、王に知られてはならないからだ。

 少なくとも、今の、表面的には善政を敷きつつも、私的な空間に至るや前王をなぞるがごとき暴君と化す今のあの王には、知られてはならない。初めて契約したと喜んでいた白いセリーテを、言葉巧みに巻き上げられた挙句殺されて泣いた、ファルティアの轍を踏んでは、ならない。


 いや、グリンの場合は、あの伝承の数々は真実であると、国神様にも保証されているというから、殺される心配より、王宮を壊される心配の方をするべきなのだけどね。


 ―――かくして『天馬の騎士コシュネリク』は、この世界に再誕した―――


 誰かがそんな台詞を紡いだ気がしたが、まだそれには、程遠い。もちろん、目指すのはそこだけれど。

白いセリーテちゃんは王の実験の失敗で事故死したんで、殺された、とは本当はニュアンスが違うけど、ここはファルティアちゃんの心情フィルターが通っている伝聞なのでこうなってます。

本日はもう一本番外編更新しています。

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