番外編 見た目はミニマム、中身は?
サーシャとパルミナ殿下のひそひそ話。サーシャの一人称。
サブタイ、見た目は子供、頭脳は?にしようかと思ったけど自重しましたー、アポ〇キシンとかこの世界にゃ存在しないし!
今回の旅は原則野営ということで、一応分団ごとにひとりずつ、夜番を立てる事になっている。
他の分団は護衛役が順次振り当てられているが、うちは護衛が俺とアンダルとワカバだから、基本的に俺とアンダルが交代でやっている。いや、睡眠が必要じゃないアンダルにまかせっきりでもいいんだけどさ、あんまり連日だと不信の目で見られるかもなって……
「其方はお子様なのだから、でっかいのに任せて寝ておけばよかろうに」
焚火ならぬ魔法陣式ストーブの近くに座って星空を眺めていたら、そんな風に声を掛けてきたのは、これも見た目はお子様である、マイサラスのパルミナ王女だ。相応に腕の立つ武人にして、女神の依代。雫様と呼ばれる、女神の欠片を宿すもの、と解説を受けたが、この娘に関しては、どう見ても、完全に依代として活動している。
カーラねーちゃんもそこには気が付いてはいるようだけど、あまり深く突っ込む気はないらしい。というか、なんか俺と相性良さそうだから、と、パルミナ王女に関しては完全に俺に丸投げされている。いやまあ確かに演武会とか、その相談とか、楽しかったけどさあ。
分団長同士の交流はねーちゃんの仕事じゃないの?と突っ込んだら、団員に仕事を振るのも分団長の仕事ですって返されて撃沈した。三年ルールの期間内で、相性のよい人脈を作るのも大事よ、とまで言われたらそりゃあもう、ぐうの音も出ないわけで。
何せねーちゃんは、これもどうみても意図してやったわけじゃないとはいえ、既に着々と人脈をうず高く積み上げてるんでな、説得力が違う。現存十か国三地域しかない上に一か国鎖国しているっていうこの世界で、四か国の王宮にお出入り自由だなんて、既に天上人なんだよなあ。本人どこまでも平民意識が抜けてねえけど。
「そっちこそ高貴なお子様は寝る時間だろう?」
暗に、護衛される側でいたほうがいいんじゃね?という気持ちを込めて、そう返す。
「はっはっは、わらわ、ニ十四歳じゃぞ!まだまだ成長期なのも確かじゃがな」
え?と思ったけど、そうだ、各国の名簿に年齢も書いてあった。見た目やキャラと全く結びつかなくて完全に失念してたけど!ハタチ過ぎててこれ?どうなってんだマイサラス王家。
「ふふふ、驚いたろう。わらわは先祖返りでの、常人の三分の一でしか成長せんのじゃ。おかげで嫁の貰い手もないがのう」
女神の雫自体が、異世界人を召喚でもしないと子を成せる相手が居なかったという先祖の形質をほぼそのまま再現してしまった存在なんだそうで、普通の人間相手では子を成せないので降嫁させる意味がなく、しょうがないので神殿に入れている、というのが実態なんだってよ。
「そんな内部事情、一般異世界人枠の俺に喋っちゃっていいのかそれ?ねーちゃんなら知ってていいだろうけどさあ」
思わず疑念を口に出す。
「あの巫女嬢は根源典拠にもアクセス可能じゃから、知りたければ勝手に知るじゃろ。とはいえ、あまり他人に興味を持たぬタイプのようじゃから、そこまでせんだろうがのう」
ふふふ、と含み笑いと共に、隣にしゃがみこみながらそう答える王女。根源典拠ってのは、この世界を規定する各種の基礎データを収めた重要な……えぇ、カーラねーちゃん、創世神同等クラスのアクセス権限持ってんの?いや全事例記録とは別物だから、そこまでじゃない、か。
……でもその一歩手前疑惑は拭えないな……恐らく本人、全く自覚ないけど。
「というかじゃな、そなた、一般異世界人枠などと、心にもない事を言うでない。……もとをただせば、異界の魔神であろ?」
後半は声を潜めて、如何にも内緒話、というポーズで、突然そう突っ込んでくるパルミナ王女。まあそうだよなあ、この世界の、とはいえ実質女神相手じゃ、見透かされもするだろう。
「所詮もと、だよ。今はせいぜい、普通に毛が生えた程度の異世界人、さ」
否定する部分はないが、言い訳はしておく。だって、かつての権能は全て失われるかスケールダウンするかしていて、正直現状では実質無害だぞ、俺。少なくとも、人を殺せるような権能は、全くない。残った権能なんて、ちょっと不運をばら撒くのが関の山だし、それすら一人一回こっきりなうえに、それで人死にが出る事だけは、絶対にないのが何故か確定してしまっている。
「それでも、ものの見方はヒトとはやや違うであろう。そなた、今話しているわらわがどちらか、気が付いておるのであろう?」
にやりと笑ってそう続けるパルミナ王女。そりゃまあなあ、俺が見ているものには『本質』がどうしても含まれる。ぶっちゃけパッシブスキルだもんで、見ないようにって訳にもなかなかいかねえんだな、これが。
こないだはそれが原因でちょっとひやりとさせられたし、いずれどうにかしたい案件ではあるんだがね。
「そりゃまあ視えているが、別に誰も困りはしないだろう?」
内心は一応隠して、そう答える。これは第三者の介入できる事案ではないからな。自分でなんとかしなきゃいけないやつだ。
「そうであろうか?ローリーポーリーの殻でやらかしたと報告があがっておるぞ?」
うげ、あの件、知ってやがんのか。ってそうだ、マッサイトの女神とマイサラス、オラルディの各女神は井戸端会議仲間だとねーちゃんにちらっと聞いた!これだから女の情報網は!!!神ですら噂好きか!!!
「とはいえ、わらわ達にどうにかできるものではない、のも確かじゃの。まあ自覚があるのならよいとするか」
そこからもっと突っ込んだ話をするのかと思ったら、すいと引き下がるパルミナ王女。成程、どうやらあちらから見ても、俺の現状は俺自身がどうにかするべき、という事か。
「まあできるだけ早い目になんとかする、確約はできない努力目標だがな……」
正直に言えば、現状打てる手がないんだよな。アンダルをこちら側に引っ張り込んだお陰でリソースには余裕が出来たんだが、俺が得意なのはあくまでも壊すほうであって、弱めるだけとか封じるとかは、基本的に不得手なんだよなあ。ものをつくる方が、最近では料理のせいでマシかもしれないっていうね……あ、そうか。これも原因のひとつ、なんだな。とはいえ、ここは個人の信条として、うち捨てる事は、あり得ないしなあ。
「まああの巫女嬢が近くに居る限り、そう慌てるような状況でもあるまい。当面はゆっくり考えるがよいさ」
パルミナ王女はしたり顔でそう言うと、ひょい、と立ち上がった。
「ではわらわはグラニク殿をちとからかってくる。ではまたな」
いや別に次の行先はどうでもいいが、と返事を考えている間に、ひらひらっと手を振ったパルミナ王女はあっという間に駆け去っていった。
「まーた変なのに懐かれたな」
後ろにいつのまにか来ていたアンダルがそんなことを言うけれど。
「あれが?懐く?お前の目ん玉フシアナか?」
どう見たってあれは俺を警戒して釘刺しに来た奴だぞ?まあ程々にこの世界の善良な神らしい親切さは発揮していたようだったけどさ。
「世間にはそう見えるってこった。ってお前さんも今は身体的には女子だからなんもおこんねーんだったなハハハ」
こんにゃろう、レガリオン神との契約でリソースやあれこれに余裕が出てきたせいか、最近ホント口を開くと余計な事しか言わねえ。といっても普段はそこまでよく喋るほうじゃないから、ピンポイントに俺に嫌味が言いたいだけだな。
「当然だろう、この世界に居る限りこないだの勝敗から次に進む目がないんだぞ、嫌味でもぶつけなきゃやってられっか」
おいおい、負け方が無様だったのはお前自身のせいなんだから、八つ当たりしてんじゃねえよ、とは思ったが、俺が負け側になっても多分同じような事はするだろうなあと思ってしまったので、ニヤニヤしておくだけにしておいた。
「うっわ無言で煽りやがるこいつ。まあいいや。代わるからチビは寝ちまえよ、育たなくなるぞ」
……本日一番刺さる言葉、イタダキマシター。
俺とカナデに関しては、魔力による生命力・ひいては寿命の底支えが強いから成長は遅くなるって予測がカーラねーちゃんから出されてて、現状ほぼその予測通りの伸び率だから、これは当分擦られるんだろうなあ……
ワカバちゃんも多少は影響するんだろうけど彼女は成長期ほぼ終わってるのでノーカン。
次回から第十一部です!
あと多分この世界アカシックレコードつっても過去事例しか記録しとらんから優先度低いし、流石に主人公のそれは読み取り専用だし根源典拠にしたところで、第一表層しか読めないよ。




