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351.公開対局を見守った後は。

正直本来なら戦略系ボードゲームはもっと時間かかるもんだとは思うんですけども。

 翌日の午前から、早速『超戦略・紙上の戦争:古典版』の公開対局が開かれた訳ですが……


 うん、グレンマール陛下、格が違うわこの人。あまりに鮮やかに短時間で決着がつくので、予定になかったコシュネリク殿下やホルクハルス殿下、それにサーシャちゃんが飛び入りで参加したものの、彼らを含む挑戦者全員が、容赦なく敗退しました。ワカバちゃんは最初は場繋ぎ程度なら、と言っていたけど、先にサーシャちゃんが負けたのでこれは無理ですね、と飛び入りは中止しました。ちょっと登場の順番間違えたね……


「やべえ、強さの次元が違う……」

 完全敗北して唖然としているサーシャちゃんですが、ルール覚えた昨日の今日だってのに、挑戦者一同の中で一番最後まで粘ったの、君だからね?他の敗北勢がガン見してるのも、君だからね?


「皆様対局有難うございます、おかげさまで、久しぶりに星が増えました」

 一方、完勝して称号の☆が増えた、と報告してくれるグレンマール陛下は久々にボドゲで発散できてご機嫌ですね!大変ニコニコしておられる。よきかなよきかな。

 元々勝敗云々よりも、この一年ばかり、心労が溜まっているのに趣味のボドゲも殆どやれていない有様だったから、どうせやる事になるのなら何戦か連戦にしたい、と言い出したのは黒鳥なのです。お邪魔虫にするくらいなら利用してやれの心意気を買いまして協力しましたハイ。


「……星がいっぱい」

 たまたま隣で観戦していたマリーアンジュさんの唖然とした声。ああ、陛下が言及したから、称号、見ちゃったのね。他の称号視持ちの皆さんもざわざわしている。実際こんな星がずらりと並んだ称号なんて、他に見た事ないしなあ、あたしも。プラスの方も召喚術以外は五つまでしか付かないから、記号がずらっと十個以上並ぶ称号ってもの自体が、レアっちゃレアなのよね。


「今増えたとおっしゃったので二十四個目のはずですね」

 以前シエラが数えてくれた時は二十三個だったはずだ。確かサンファンから帰る前に聞いた段階で二百三十五勝って言ってたもんね。今日六勝したから二百四十一勝、いや、カル君こっちに来てから負けたって言ってたから二百四十二勝、か。


「数えたのですか……このタイプの星って十勝でひとつ、ですよね?」

 仕様はマリーアンジュさんも把握しているようで、そんな言葉が返ってきたので、頷く。まあ数えたのはあたしじゃなくてシエラさんですが!

 せっかくなので、確かサーシャちゃんので二百四十二勝三分けですね、と教えたら聞こえた範囲の全員が絶句していた。ですよねー。

 真面目な話、彼と引き分けた三人ってのが知りたいレベルだ。何となく、一人はランディさんじゃないかとは予想してるんだけど。


「いやはや、噂には聞いておりましたが、本当にお強い……感服いたしました」

 そう、頬を上気させて笑顔で陛下を称えるリミナリス殿下は——あたしにすら判る、すっかり惚れた顔ですよこれ。自分より優秀なところのある人が好み、ってタイプだったのか。


《いや……その可能性は否定しませんけど、グレンマール陛下は普通に素敵な殿方ですし、正直に申し上げて、この世界の女性から見た理想の男性像に大分近い気はしますよ》

 サンファン国の王、という一点以外は理想的なんですよねえ、とシエラが酷いことを言う。とはいえ、実際不良債権そのものだもんな、今のこの国。


「それにしてもサーシャさん、でしたか、体術の優秀なところも拝見いたしましたが、戦略ゲームもお強いとは、やはり異世界の方は色んな方面に優秀な、多才な方が多いのでしょうか」

 ホルクハルス殿下が珍しくこっちに矛先を向けて来る。ってエンメルケルの若様がおらんな?ここまでほぼ常時自分の隣にくっつけて、こちらに接近する用事の時以外は片時も放さないようにしてたのに。こちらと接触する用事の時だけは別の側仕えに用事を回させていたようなので、中々苦心しておられるなあと感心していたのだけども。


《……兄は昨夜、一足先にランディ様の手で本国に帰されたそうです。どうも身内に不幸があったとかで。順番でいくとお婆様かしら……》

 シエラからの報告。うーん?何となくだけど、そうじゃない気がするわ。多分貴方の知らない親戚が死んだことにされてる、そんな感じがするんだけど。


《つまり言い訳的な?》

 そうそれ。ほら、貴方のおうち、他にも神殿関係者がそれなりにいるでしょう、そっちから手が回ってないかしら?


《あー……はい、はい、その通りだそうです。今貴方が正解したから、と、答えを頂きました。架空の曾祖母が亡くなった、のだそうですわ……》

 あはは、と力のない笑いと共にシエラが報告してくれる。なんか高校生のサボりの口実みたいな話よね。

 でもそれってつまり、あたし達の現状を、貴方の家の中枢部、お父様辺りは既に把握しているってことじゃないかしら。そのうえで、神殿に協力しているということでしょう?


《そう、ですね……?》

 シエラの答えはやや懐疑的な感じだけど、まあそこはしょうがないか。

 シエラにも見せないよう遮蔽した意識でちょっとだけ、考える。まだそこはなかなかうまくいかないから、本当にちょっとだけだ。

 多分、あたしたちのこの現状は、あたしがこの世界に呼びこまれた時点、ほぼ最初の段階から定められていたのではないのかな。シエラが、そしてその実家がどこまで把握しているのかは判らないけど。

 だって、ここまで見てきた境界神様の力の強さは、己の巫女候補を、隙をついてかどわかす、なんて事態を、見逃す、いえ、実行させるなんて気が到底しないのよ。そして、召喚補助機構を創ったのも、その境界を司る神な訳で。だとしたら……


 まあ状況証拠しかない以上、これはただの妄想だ。心の底にがっちり鍵をかけて、その件はしまっておく。


《最近隠し事をするようになりましたね?必要な技能ではありますから頑張ってほしい気はしますが、少し複雑な気分ですねえ》

 はは、やっぱりやってる事自体はばれますか!修行が足りないなあ!



「……たまたま向いている事だけが目に付いてるだけさ。俺は魔法はさっぱりだし、この世界の儀礼とかいまだにイマイチ判らないからなあ」

 そして、対戦前に異世界人三年ルールの話を自分から出して、無礼な物言いをする許可を取っているサーシャちゃんは、そんな風に言って殿下の言葉をはぐらかした。実際はやろうと思えば大体の儀礼は既にこなせるのがこの子だけどね。


「いやいや、『超戦略・紙上の戦争:古典版』に触れたのはごく最近であろう?それなのに、我等の数倍の時間、あの陛下相手に粘って見せた君なら、儀礼を覚えるくらい造作もなかろう?ただ、三年ルールの間は必要がないから覚えておらんだけでね?」

 そしてホルクハルス殿下のツッコミは容赦がない。全くもってその通りなんだよなあ!


「確かに詳細ルールまで読んだのは昨日の話だが、似たルールの作品は元の世界でも幾つも触ってたから、そんなに驚くところでもないさ。ゲームとしての場数はそれなりに踏んでるのさ」

 そういやこの子、カナデ君がちょっと引くくらいの割とガチのボドゲ勢でもあるって話だったっけ。これは昨日ボドゲが話題に出た時にカナデ君に聞いたのだけど。


「異世界人といっても色々だろうが、俺らは特に娯楽の多い世界から来てるからな、そのくらいのアドバンテージがあってもボロ負けしたって方が俺としちゃびっくりなんだぜ?」

 まあここの王様のは、正に天才だよな、とサーシャちゃんは続ける。確かにそこはそうかもしれない。ボードゲームというか、戦略の、天才。

 無論それだけではない、色んな才能も持ってる人なんだけどさ、国王なんて面白くなさそうな座に縛っておくのが勿体ないくらいに。いや流石にその考え方はだめよ、あたし。グレンマール陛下は、神罰が下っていない自分とその直属の部下は逃げ出すことだってできたのに、自分でその道を選んだんだから。


 そうだ、アデライード様はどうしているかな、と思ってマリーアンジュさんのその隣を見たら、うっとりした顔でグレンマール陛下を見ていた。あれえこの人もすっかりやられてるわー?


《ですからグレンマール陛下は本当に瑕疵がこの国の王であることだけ、なんですってば》

 判った、判ったからそこを強調するのは止めよう?

 正直あたしの目だとコシュネリク殿下も割といい線行ってるんだけどなあ、身分の問題で身内のもめ事が確定なのと、ちょっと弱腰なところがあるのがだめなのか?

 ってそうだ、この人は別に婚活で来たわけじゃなかったわ。

引き分けたのは子供の時の初戦の相手だったどこかの将軍と真龍二人ですね。

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