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340.陰謀に加担した者の末路。

オナガかわいいよね。

 結局、一時間も掛からずに我々に追いつかれた横領犯たちは、速攻で取り押さえられた。

 うん、大量のオナガ達にモビング、つまり空中からの攻撃的威嚇をされて立往生してたところに、マルジンさんが〈混乱〉やら、〈目くらまし〉やら、細かい状態異常をばら撒いてくれておりまして、あとはもう多勢に無勢ですからね。


「軍隊と言う名の割に、直接攻撃はしないんですね」

 取り押さえ現場を眺めつつ、仕事を終えて送還されるオナガ達を見送って呟く。


「できんことはないが、そこまでせんでもよかろう?」

 幾ら数が多いとはいえ、ロストは出来るだけ避けたいからな、とランディさん。


【昔の技が結構使い物になると判ったのう】

 あたしの肩に舞い戻ったマルジンさんもご機嫌だ。ご苦労様の気持ちで背中をちょっとだけ撫でる。


【気持ちはよいが、うん、ワシ、爺じゃからの?そこは覚えておいておくれよ?】

 速攻で釘を刺される。いやほんとまじ先日はすいませんでした。


 まずその場の全員にマッサイトとマイサラスの神官さんが浄化をかける。ぼんやりした顔で荷駄引きの召喚獣たちに心配そうな顔で見られていた人足さん達が、はっとした顔になって、見覚えのない場所にいる事に動揺しているのを、召喚獣達がすりすりして宥めている。ここの荷駄隊の召喚獣たちは種類は様々だけど、幻獣未満の子ばかりで、念話は使わないという。だけど、あたしには、主を心配するこの子達の心が伝わってくる。いい子ばっかりだなあ。なんか一頭だけ、だから言ったじゃないの!という感じの思念と共に、主をぺしぺし尻尾で軽く叩いてる子がいるけど。


 随員三名のうちの一人は、これもあれ?という顔になったので、彼は純粋に巻き込まれ側であるらしい。後で聞いたら神官を装っていた女が一方的に懸想していた相手で、出国前から操られていたんだそうだ。なにそれこわい。

 残りの二人、男女各一名は、地面に転がってのたうち回っている。瘴気吐いてるし、生き残れない感じがするなあこれ。

 明確に生命力が削れているから試しに初級治癒を投げたら、弾かれはしなかったものの、逆に何かを壊してトドメを刺しそうになったかのように、一瞬派手に跳ねて、息こそあるものの、ぐったりしてしまった。まあ瘴気吐きが止まったのでヨシ!


「ああ、拘束をどうしようかと思っていましたが、助かります」

 リミナリス殿下がまるで気にしない様子でそう言うと部下に指示を出し、彼らもさっくり縛り上げられた。

 なおぐったりはしたものの、身体的には一応回復はしたらしく、死亡フラグを一つ解除してしまった、ような感じがする。うーん、そうね、メダル持ち連中よりは話が通じる事を祈ろうか。


 荷駄隊を護衛しつつ、その末尾に罪人確定の二人を括りつけて本隊に戻る。巻き込まれた一人も、操られていたとはいえ、一緒に色々やらかしているから捕縛してください、と申し出たので、こちらは軽く拘束して、護衛の人の大蜥蜴さんに載せられている。

 ……つまり、今回の視察団絡みの案件に関してはこの人から調書を取ればいいのでは?


 ともあれ時間の都合もあるので、まずは本隊と合流して、次の宿泊予定地に進む。

 といっても、今日の予定も野宿だ。事前にサンファン側から貰った資料では、次の予定地は汚染地域から離れた、元々草原だった場所のはずだ。うん、そろそろ村の在った場所、つまり水質と土壌の問題が出て来るのでね。

 実際には日常的に使用する水はどの分団も魔法で出すから、汚染問題に直面する事態は、そうそうないはずだけど、念のためって奴だ。


 なお、我々が環境汚染を残すと本末転倒なので、今回はランディさんが簡易トイレ施設を提供している。元々トイレのシステム自体がコンパクトな刻印魔法陣三つに収まってるから、持ち運びも出来るし、各国用意もしてたんだけど、流石に周りの目を避けるための壁を持ち歩くのは嵩張るからねえ。

 ランディさんのそれは、真龍なんだから格納力にものを言わせりゃいいじゃん、と、ケンタロウ氏と開発したという、ボックス型の、つまりちゃんと壁のあるタイプなので、好評すぎましてな……三人組がこれどこの工事現場かイベント会場?って呆れてたけど。確かに四角くて飾り気のない、インダストリアルデザイン的なボックス式トイレが十数個ずらりと並んでいる図は、田舎の村おこしイベント現場感が否めないわね。

 なおプラスチックはないので素材は木材と金属だ。そのくせ見た目がチープな工業製品風なのは、耐水耐汚性の塗料を塗ってあるせいであるらしい。


 視察団と言いつつ調査団、または査察団でもあるので、泊まる場所では土壌調査や水質検査などを各国持ち回りで実施している。まあ現状は貧栄養極まれり、一択だそうだ。

 ここで試しにちょっとカナデ君にひとり耕運機をやって貰ったけど、そもそもの栄養素の減少の原因が単純な枯渇、だったようで、劇的に栄養素が増える現象は発生しなかった。

 ただ、それでも落雷と同じ理屈で窒素量が増えたみたいで、雷魔法そのものがそれなりに効果があるんじゃないか、という話になった。初級未満、つまり初歩魔法の〈発雷〉で、雷〈分解〉の三分の一くらいの効率になるらしい、という所まで調査が進んだよ!学者勢のメモがそりゃもう捗る捗る。なお他国勢もメモ魔だらけだった。仕様だな!


「つまり〈発雷〉連打で属性力を鍛えて、〈分解〉を使えるようになったらパーフェクトって訳だね?」

 グラニク様が簡単に仰いますが、そもそも〈発雷〉使える人間を探すのが大変だって話、昨日くらいにしたばかりですよね?


「雷かあ、レア属性じゃのう。今回のうちの団員にはおらぬなあ」

 パルミナ殿下はそうぼやく。


「雷、ですか……ぎりぎり〈発雷〉は使えますが、流石にこれを鍛えるのは、気が遠くなりますね……?」

 自分の属性はちゃんと御存知らしいコシュネリク殿下は、そう言うと天を仰ぐ。


「ははは、治癒の才能がある者はそれこそ初級治癒に手が届くまで、〈灯〉を延々唱え続けるそうだぞ?大して変わるまいよ」

 こちらはよりにもよって光属性を引き合いに出すホルクハルス殿下。各国神官勢がうげえ、って顔してますよ!


「はは……我々も浄化適性があると、やりますからなあ……」

 神官勢の中でも最年長の、マッサイトの上級神官さんが思い出したくないなあという顔で返事をしている。実はパルミナ殿下の側付きの人が、彼より高齢の女性神官さんだけど、神殿の業務からは引退しているそうなのでカウント外だ。


「まあ正直に申し上げれば、このタイプの土壌でしたら、普通に施肥した方が早いですね」

 やはりこのやり方で効果があるのは、瘴気汚染地だけですねえ、と結論付けるブリヘン教授。


「それでも施肥効果すら下がる瘴気汚染地を、早期復活させられる手段ができたのは大変喜ばしいことですね。後日分散方式も実演して頂けると伺っておりますが」

 リミナリス殿下はそれで問題ないし大した発明だ、と感心している。


「そうですね、三人がかりの場合の作業手順書もできていますから、日を改めて実演しますね」

 あたしも一応参加することになっているので、そう答えておく。流石にこれ以上やってると、日が暮れて野営の支度に支障が出るのでねえ。


 本日の夕飯は各団がバラバラで摂る形だ。罪人二人は起きてこないのでメシ抜きだそうですよ。

 チンピラ勢が雑かつ勝手に飲み食いしていて、オラルディ国分団の食料がかなり心もとない感じになっていたんだけど、あらかた捕縛されて実質の人数が減ったので、どうにか往路はもつだろうという話だった。夕方位に連絡鳥が来ていて、後を追いかけてきている正規の団員が、予備の糧食も持ってくる予定になっているという話だったので、それまでなら大丈夫だそうだ。

 そういやこのチンピラ勢の食事は?と思ったらこれも予想以上に反抗的なので今日は抜きだそうです。厳しいねえハハハ。


 翌朝起きたら、例の二人の方が死んでいる、という報告があがってきた。どうも捕縛されるか何かがトリガーになって、一定時間後に発動する死の呪詛が体のどこかに刻まれていたらしい。二人とも死んじゃって、呪詛がお仕事完了して消えてるので、僅かに残った残滓で辛うじてそんなことが判った程度だ。

 これ怖いなあ。爆発系の術式とセットにされたら、下手したら神官に被害が出る。


《というか周囲に危害をばら撒く系の術式は貴方の治癒魔法に負けて消えたようです。どうせなら呪詛が消えればよかったのですがねえ》

シエラの嘆息。まあおまけしか消えない、はあるあるだからしょうがないわよ。爆発しなかっただけマシ、そう思うしかない。


「なかなかえぐい死にざまだなあ。この世界の呪術には関わりたくないもんだね」

 絶望と憤怒をないまぜにしたえぐい顔して死んでいる二人を見たサーシャちゃんの感想に、全員で頷く。うん、これは見る方でも当分結構ですわ……


 ちょうどオラルディ国分団の正式な本隊からの先遣隊が来ていて、彼らと共に来たのが捕縛部隊なことが判明したので、死体は浄化と梱包だけして、捕縛したチンピラ共々引き渡すことになった。

 なおパルミナ殿下の提案で、二人の死に顔をチンピラ連中にも見せてやったら、一同すっかりビビり散らかして大人しくなってたから、後は多分大丈夫だろう。

なおうっかり〈消去〉を持ち出すと即爆発の可能性もあった(まあどうせこいつ結界で封じ込めて涼しい顔するんだけどさ)。

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