表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/628

38.本当に危なかったのは?

結果オーライだったという話。

「……実際の被害者が言うと言葉が重いなぁ。嬢ちゃんみたいな例が他にもあり得る、と?」

 カルセスト王子がこちらに目線を向けて尋ねて来る。


「実際にあたしがこうしている以上、確率はゼロではない、と確定してしまっていますからね。

 ただ、あたしのように召喚そのものが事故って弾き飛ばされるならともかく、仕様通りに召喚陣の中に呼び出されたのなら、呼ばれた側に自由はないでしょうけど」

 この点に関しては、本当にあたしは運がよかったと言える。シエラにとっては不幸中の不幸だったわけだけど。


《それはもう済んだ話ですわ。今のコレはこれで悪くはありませんし》

 知識と娯楽小説楽しみ放題なんですよーいいでしょー、と笑うシエラ。

 確かにこの世界に流通してる娯楽書籍の数倍は軽く読んでたからなあ、あたし。

 この世界、出版は一般的だけど、言語自体は共通なのに、国をまたいで流通している書籍はあんまり多くないって事情もあるようだけど。

 以前イードさんに借りた本、シエラは見たこともないって言っていたもんね。


 あたしとカルセスト王子のやり取りを聞いていた、サクシュカさん以外の人がぽかんとしている。

 はは、そういえばそういう事情って隠しておいた方がいいんだったっけ?いや誰ともあの国の召喚者なことを隠すなんて話はしてないな!所属している訳でもないし!大丈夫!


「え、本当に、ライゼルが召喚した方、なのですか?それでなお無事でおられる?」

 フレオネールさんが戸惑った声。無言でこくこく頷いているレンネンさん。白狼改め白麒麟の子はきょとんとしていてかわいい。


「いきなり城塞に女の子が増えてて、なんでだ、とは思ってたけど、召喚事故ってか。なるほどなあ」

 城塞に数日おきに通ってきているから、以前から顔を合わせてはいるベッケンスさんの方は驚きつつも、納得いったわ、などと言っている。

 っていうか、イードさんその辺説明してなかったの?ベッケンスさんが知らないとは思ってなかったわ、あたし。


「出入りのベッケンスが隠してもいない事情をちゃんと知らないって、イードちゃんこれお説教案件かしら」

 サクシュカさんがにっこりと怖いことを言う。なんとなくだけど、サクシュカさんのお説教ってダメージでかそう。


「だなー。今普通に喋ったあたり、嬢ちゃんは隠すとかそういう意図は、はなっからないようだし」

 カルセスト王子が追従するのに、一応頷いておく。説教喰らうのが自分じゃないから気楽なもんですね?


「隠そうとしたところで、あたしは色々ちょっと自分でも変ですからね、魔力周りのあれとか。召喚者で全部説明できるならそのほうが楽かしらって」

 まあ、隠さない理由なんて表向きにはこれに尽きる。説明が、面倒。

 そして、これを隠さないでおけば、詮索そのものは、確実に減る。本当の目的は、そっち。

 あたしが既に実質メリエンカーラ様と契約してるも同然の巫女(候補)なのは、できるだけ今は言わない方がいいらしいからね。

 とはいえ、ライゼルがやらかした結果なのは、隠しても良かった気がちょっとだけしている。いや、フレオネールさんが明らかに警戒した顔なんですよ。

 多分あたしが歩くスキャナー&コピー機みたいなものだと気が付いた感じの、それ。

 まあ手遅れなんだけどね!!



「済まない、待たせたなベッケンス、フレオネール」

 ちょうどそこにイードさんがやってきた。ハイウィンさんが呼びに行ってくれていたようで、一緒に入ってくる。

 あ、久しぶりにヘンチャナの香りがする。あの苦いお茶飲んでたのかひょっとして。健胃薬って言ってたもんな。

 いい香りなんだけど、生薬の中でも相当苦いのよね。あたしはシロップ入れれば飲めるけど。


「酔い潰されたんだって?酒はからっきしなのにな」

 ベッケンスさんが労わるように言う。


「うむ。お陰で、このざまだ」

 機嫌が悪いというよりは、感情がまだ整理できていない様子で、イードさんは言葉少なにそう返す。

 この部屋は庭からそのまま上がれるから、荒れたままの中庭の様子は良く見えるけれど……


 あれ?この部屋にも何か入り込んで争った跡があるわね、掃除はされているけど、壁に抉れた跡があるわ。

 ……じゃあ、もしかして。


「今思ったんですけど、中庭が一番荒れて、この部屋にも被害がちょっと出ていますよね。

 これ、仮にイードさんがここにいたら、逆にイードさん自身が危なかったんじゃ……?」

 視線は中庭のほうに向けたまま、同じ側にある壁の抉れを指さしながら言ってみる。


「え?」

「あ。」

「は?」

 龍の王族三人が三様の声。疑問を呈していない様子なのがカルセスト王子です。


「……イードちゃんの召喚式って即時展開はできないんだっけ」

 サクシュカさんが嫌そうな顔で質問している。


「召喚式など、種族特性で持っている幻獣ならいざ知らず、人なら誰が使っても即時は無理だろう」

 即答するイードさん。ごめん、あたしミモザなら今は即で呼べる。禁止事項にひっかかるやつだから言わないけど。

 ただ、今のミモザなら可能だけど、多分大人になったミモザだと無理な気がするし、ジャッキーは即時召喚は無理だ。

 多分保有魔力量とか技能とか色んなものを持ってる相手だと難しくなるんじゃないかな、これ?


「短時間で呼べるってことは、魔力消費が少ないということでしょうし、仮にそんな小さな誰かを呼べても対スタンピードでは戦力にはならないんじゃないかしら」

 自分の中で出した結論を述べておく。間違ってるならイード師匠が訂正してくれるでしょう。


「私が生まれる前から召喚を使っていた貴方より、習い始めてひと月足らずのカーラ殿のほうが理論をちゃんと理解しておるではないか、サクシュカ姉よ。

 だいたい、即に近い短時間で呼べるような細かいもの用の召喚陣は普段は用意しておらんから、どのみち無理だがね」

 横目でサクシュカさんをじとりと見ながらイードさんがぼやく。


「つまり、うっかりいつも通りここにいたら割とマジでやばかったわけか。……ってことは酔い潰した馬鹿がまさかの殊勲賞?」

 あいつ今正に陛下の御説教喰らってるはずなんだけどなぁ、と、呆れた様子でカルセスト王子。


「結果としてはそうかも知れん。が、呑めないと判っている奴に無理やり酒を飲ますなどという危険行為、御説教で済むなら安いものだぞ」

 そんな言葉とともに、中庭のほうからマグナスレイン様が登場。村の人たちが立ち上がって挨拶している。

 さっきから誰か近くで聞いてるなあとは思ってたけど、マグナスレイン様だったのね。


「……まあ、懲戒はなしにしておいてやるか。そもそも陛下の説教が相当効くであろうしな、色んな意味で」

 どうやら、室内に入り、壁の抉れを確認した彼も、あたしと同じ結論に至ったらしい。

 でもあの陛下の御説教、そんなに威力高いのか……そうよね、威厳ある女王陛下だもんね。


「最終的に泣き落としでくるんだよねえ、陛下の御説教……親を泣かせる気かとか言われるとやっぱ俺らとしちゃ弱いじゃん?」

 えええええ、そっち?そっちなの?そんな風に茶化して言うカルセスト王子の横でイードさんもうんうんと頷いている。君たち揃ってお説教経験者か、そっか……


「ははは、それこそ親子の宿命だな、そこは諦めよ。時に、ベッケンス、フレオネールも久しいな。村からこちらに来たのは、食料補填や今後の計画見直しの話ということで良いかね?」

 マグナスレイン様が挨拶すると、ベッケンスさんたちはその言葉に頷く。


「マグナスレイン様、お久しゅうございます。ええ、流石に家畜がほぼ全滅、畑も半分近く踏み荒らされ汚染もあるとなると、一旦増産計画自体をリセットせざるを得ません。

 それに、うちは人的被害はありませんでしたが、アンキセス村は家畜どころか、人口が半減する被害だそうで、最早一村としては立ち行かない有様。纏めてうちと合併するか、カミモラ村あたりと分散して引き受けるかするしかなさげですから、その辺りの御裁可も頂きたく」

 フレオネールさんがすらすらと状況を述べる。アンキセス、ベネレイト、カミモラ。もしかして村落ABCとか?


「む、カミモラも被害があったのか?ドネッセンは?」

 ははは、Dまであったね!どうでもいいことに気付いてしまったけど、今は気にしてはだめよあたし。


「カミモラはスタンピードに追われた普通の野獣に畑をちょっと踏まれた程度で家畜や人の被害はなし、ドネッセンも遠隔地で放牧していた牛の一部をやられた程度だそうだ。流石にあの二村ほど離れるとな」

 これはベッケンスさんの説明。


 ああ、そうよね、スタンピードなんてあったら普通の生き物も逃げるよね。そういう、間接的な被害もあるのか。

 魔の森近隣が人気ない、少なくとも空から見た時の他地域の半分以下しか村がない理由、良く判りますね……

変な事に気付いたように見えて、この世界のアルファベットがABCDで始まるとは限らない罠。

※実際にはアンキセス村が一番新しいので推察は的外れというオチです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ