334.視察団、正式結成!
集合と結団式は別なんよ。
それから十分程待ったところで、ようやっとメリサイト国の一行が到着した。王都に泊ってからこちらに来たのだけど、車両の手配に手間取った、と、早速お詫びと説明を受けた。ああそっか、国元から自分とこの騎獣を連れて来れるとは限らんもんね。
《召喚して騎乗することはできるのですけど、荷物はそうはいきませんからねえ》
それなー。我々は三人組の収納があるので、割と荷物は少ないんですが。それでも収納魔法の存在は余り大っぴらにはしない方がいいよね、という事で、普通の荷物、主に食料などもそれなりに持っている。王族様方より純粋に個人の荷が少ない、という単純な理由もあるけど。
まあそれらは今回はランディさんの転移移動に合わせて、ランディさんに持って貰うことになったから、結局、現状はほんとにお前らなんで手ぶらに近いの?って感じかもしれない。
「大丈夫ですよ、今日は顔合わせだけでございますから」
にこやかにそう応対しているのが、どうやらフラマリアの第二王女、リミナリス殿下であるらしい。明るい茶色のウェービーな髪に、これも明るい紫の瞳の美女だ。ケンタロウ氏の子孫になるんだろうけど、彼にはあんまり似てないなあ。
《ああ、フラマール家は、彼の妻、旧王家の血筋の色や姿が強く出やすい家なんだそうですよ。特にこのリミナリス殿下は肖像画で知られている、嘗ての旧王家第三王女、ケンタロウ氏の奥様によく似ておられるそうですわ》
へえ、成程?ああでも、異世界人の黒髪って殆ど遺伝しないって話もあったものね。そうおかしな話ではないわね。
「それでは、皆様には無事お集まり頂けましたので、サンファン国国際視察団を正式に結成させて頂きます!総団長は僭越ながら、私、リミナリス・マツダ・フラマールが務めさせて頂きます」
周囲の人たちが拍手をするのに合わせて拍手しつつ、周囲の様子の確認も続ける。
こんな空き地が集合場所で文句を言う人とかいるんじゃないか、と思ってたけど、案外そういう人はいないようだ。首を傾げている人は所々にいたけれど、屋台の香りに負けた人の方が多そうね。
総団長の挨拶の後は、ヘッセンのアデライード様が副団長を務める由が告げられ、そのまま各国のリーダーの挨拶が続く。フラマリアから、時計回りに紹介していく感じね。なのでヘッセンの次はオラルディ、マイサラス、メリサイト、マッサイト、そして最後がハルマナート国。
「はい、最後になりましたが、今回は神罰関連の制約で、我が国の王族は相手国に立ち入れませんので、代理として、去年サンファン国内に入っており、当時の内情をある程度把握しているあたしが、ハルマナート国代表を務める事になりました。従軍治癒師で、カーラと申します」
取りあえず順番が回ってきたので、王族が含まれていない理由と、若輩者がリーダーである理由だけ端的に述べて、名乗っておく。というかあたしの場合、他に挨拶で説明すべき事がありません!
あたしの挨拶の直後、ちょっとざわつく一同様。ああ、称号視持ちが大体の団にいるのね……あたしの称号、割とどれも大概だからなあ……
「いや待って?なんでこんなトンデモ称号持ちが神無し国にいるの?」
おいそこ、聞こえてるぞ。まだ若い女性だけど、ああうん、容貌はまあまあだけど、見るからに根性悪そう。
神無し国、なんて、内輪の雑談ならともかく、公式の場で言うと蔑称扱いなのに、聞こえるように言っちゃうような奴連れてきたのはどこの誰!はいオラルディ把握!よし、あそこは近付かないぞ、そもそも用事もないけど。
睨んでやろうかとも思ったけど、称号視くらいしか技能もなさそうな感じの人だったので、ふっ、と鼻で笑っておくことにする。国神がいなくても、巫女技能、軽率な貴方より余程強い人が一杯いるのよ、我が国は。
《そもそも、ハルマナート国って、本当に神のいない国なのでしょうか。最近ちょっと疑問に感じるのですが》
シエラ、それは今考える事じゃないし、今貴方は出てこない方がいいんじゃない?お兄様がこっちガン見してるのよねえ!
挨拶が終わったら名簿と荷物の確認と、明日の集合時間を確定して、一旦解散で、各々事前に定めておいた宿に移動する。このティサニク、門前町という事もあってか、王族にも対応できる宿が普通に複数あるのよねえ。
フラマリア勢とあたし達は、同じ宿だ。ええ、例の畳部屋のあるお宿ですよ。予約とかはランディさんに丸投げしたから、恐らくわざとだろう。
「ワカバさんお久しぶりです!」
「エレンちゃん久し振り!」
宿に着いて自由時間宣言がされた途端に、文通女子二人がわあい!と再会を喜んでいるのを、両国一同で暖かく見守る。女子がきゃっきゃしてるの、いいよね。
「どうも、改めて初めまして、リミナリスと申します。本日は同宿という事で、宜しくお願い致しますね」
そそ、っと寄ってきて、リミナリス殿下が挨拶をしてくれる。なんだか随分気さくな方だな?
「はい、こちらこそ改めまして、カーラと申します。今回はよろしくお願いいたします。実は去年一度、アフルミアにお邪魔しているんですけど、その時にはお会いする機会もなくて」
ちょっと気になってはいたので、その話を少ししてみる事にする。
「ああ、祖の賓客には、祖の許可なく接触してはいけないことになっておりましてね。仕様なのです、お気になさらず。私のすぐ上の兄がちょっと癖のある性格なもので、近年は特に厳重に避けるようにしておりまして」
なんでも魚人族ばりのナンパ癖のあるお兄さんがいるんだそうだ。手を出さないのも魚人ばりらしいんだけど、流石に隠し子疑惑の出るような隙を作るのは王族としてダメだろう、ということで、今は除籍カウントダウン状態らしい。
うん、今直感的に、わざとやってる判定が出ましたね!王族抜けたいなら、もうちょっと穏便にやりましょうよ?いやカル君のアレよりは、よっぽど穏便ではあるのだけどね……
まあ顔も知らない他所の王族さんのことは置いておいて、だ。
なんとなしにそのまま立ち話をしていたんだけど、あちらの随員の皆さんも、全然こっちを止める気配がないのはなんでなんですかねえ?あ、テレンスさんがいるな。ムーレルさんが挨拶に行ってるから、こっちからは後でいいか?
《貴方の称号が見えて、雑に扱えるなんてとんでもない人は、さっきのオラルディの随員さんくらいじゃないですかねえ……》
あれはあれでだめな方の、なんで国際的な場所に出て来れてるのか判らない感じの方ですけど、と辛辣なシエラ。
えーっと、称号でやばいのってどれ、上級治癒師は確か相当レアだとは聞いてるけど。
《大魔王級も裁定者も龍の友も聖獣が盟友なのも開発者に星二つもあるのも、ええ、正直申し上げて、護法師ともふマス以外全部じゃないですかね……》
一転して、ちょっと疲れたような口調でシエラが数え上げてくれたけど……うん、多いな!今更だけど!って護法師中級プラ三くらいは普通なんだっけ?
《称号だけは普通ですね。貴方の結界術の実態は到底普通とは言えませんが》
アッハイ。そういえば儀式系でも普通に中級プラス持ちはいるんでしたっけね。
「今回のハルマナート国の御一行は、異世界の方が多いのですね?」
神殿の賓客は一応資料だけは貰うので、多少存じてはいるのですが、とリミナリス殿下が首を傾げる。
「最初の挨拶でも申し上げましたけど、我が国の王族をサンファン国内に入れると、赦した判定になってしまって、神罰が即解除まではされないようなのですが、緩むようなのです。それで、消去法であたしが指名されたんですけど、随員としての能力がある知り合いが、王族の皆さんを抜いたら大体異世界人でして……」
そして、神罰の解除を、今のサンファン政府が、そもそも望んでいない。怠惰の神に染められた庶民が、まだきちんと正道に立ち返っていないからだ。その辺の懸念は、事前資料でフラマリアには流してあるはずだけど。
「ああ、あちらの政府が現状維持を希望しておられるのでしたっけ。怠惰とは、思いのほか難儀なものですね……それにしても、異世界の方は多才だと聞きますけど、やはり能力の高い方が多いのでしょうか。うちのエレンちゃんも巫覡の才がかなり強いんですよね。祖と相性が悪いのが残念なのですけれど」
うん、一応資料にはちゃんと目を通して頂いているようだ。安心安心。ってエレンちゃん、ケンタロウ氏と相性良くないんだ?
「相性、ですか」
「ええ、彼女、元の世界では動物系の精霊絡みのシャーマンとして修行していたそうで、人型の神様自体が想定外なんだそうですよ」
あー、アニミズムとかそっち系かあ。あたしの元の世界でも、細々とそんな信仰をしてる人たちがいるって話は聞いたことがあるなあ。
……レイクさんと、相性抜群、なんてこと……うん、めっちゃ、ありそうよね?
アデライード様が副団長なのは流石に王族差し置いて平民のカーラさんを副団長にできなかったからですね。カーラさんが話をしやすい知り合い枠という事で選ばれました。
あとオラルディの随員、称号をスクロールできないレベルの人しかいない。他国の神官勢は後半見て固まってるよ?^^




