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315.ティサニクに戻る。

 ランディさんが預かっていた方のローリーポーリーの殻は、地元の人が殻を見つけた時にしまっておく専用の倉庫があるんだそうで、数回に分けてそちらに持ち込まれて買取りされることになった。代金は神殿付属施設の設備費に回される予定だ。なんか子供たち用の教室に雨漏りがあるんだそうで、そこを直したいと言われて断れる人はいませんでしたね!

 去年のサンファン難民流入時に子供が多かったせいで、国営のも神殿のも、養護施設はどこも人数が一杯で、その結果、予算が結構厳しいんだそうだ。ある程度健康な子は直接養子縁組なんかもできたそうだけど、すぐにそういう縁組が出来ない子供も多くてね。

 あたし達が旅の途中で拾った子供たちは、あたしが治療したこともあって、割合まともなほうだったといえるけど、自力で歩けなくなっていたり、虐待で精神や肉体が病んでいる子供も多かったのだそうだ。ちなみにあたし達が関わったなかで、一番遭遇時の状態が悪かったのは、コル君達だった。

 自力で脱出できないまま、奴隷商の所で死にかけていたのを、脱出者から情報を得て探索に出たマッサイトの民や元難民に救われた子供もいたそうだからね。本来なら内政干渉になりかねないけど、食料もかける人手も全く足りないサンファン側からは黙認どころか、奴隷商を虐待と違法取引で捕縛したうえで、あちらから頭を下げて保護をお願いされたそうなので……


「本来は発見者で按分する形にするべきなのですが……」

 ベレアルド副神殿長さんは申し訳なさそうな顔になるけど。


「喜捨みたいなものですよ。気にしないでくださいな」

 今回は、神殿への寄付もちょっとしてある。ささやかな金額だけど、サンファンの案件にはそれなり以上に深く関わっているから、あたしの立ち位置を考慮しても、出しておくべきという判定だ。


「そうそう。まあ一度に処理しきれん数になってしまっているから、回数を分けざるを得ないが……一部は同業の別の倉庫に回すがよいか?」

 在庫が偏るのも宜しくなかろう?と確認するランディさんに頷くベレアルドさん。


「そうして頂けると大変助かります。値崩れを起こしかねない数量ですからね……」

 別業者に持ち込んだ分は手間でしょうからそちらの取り分で、とベレアルドさんは言うけれど、いやもうそっちも最寄りの神殿施設に寄付しておくよ、と軽い調子で言うランディさん。別に金には困っていない、と続けてこっちを見る。あたしも頷く。去年の収入だけでも、普通の平民の生活してたら、エルフっ子二人抱えてても、数年どころじゃなく余裕で暮せますからね、あたしも。食道楽の気はあるから、そこまで余裕はないかもしれないけど!

 うん、既にお金持ちなんですよあたし。今年も年明け早々から、救助関係で大盤振る舞いした治癒魔法のおかげで結構な収入が積まれているし、この後レガリアーナからの、襲撃に対する賠償金も入ってくる予定だし。


 ローリーポーリー案件の後始末も一段落したので、報告ついでにティサニクに戻る。今日はこっちで泊る予定だ。神殿にお泊りもできるらしいけど、今回は普通のお宿。神殿だと話の流れでご飯を奢られてしまいそうだから、民間にお金を落とすほうを選びますよあたしは!

 サーシャちゃんも今日はこっちに宿泊だ。明日ランディさんが送っていく予定。あたしも特に問題がなければ出国用の届け出だけ神殿に出して便乗で帰ればいいんじゃないかな、という話。これはこの国の場合、港経由の出入国には記録がされるけど、陸地経由だと抜ける先によっては記録がされないので、神殿か役所に届け出をしておくというもの。後で行方不明事件になって騒動になっては困るとか、変な疑いをかけられたくない、とかそういう時に提出するものだ。あたしの場合は断然前者でございます。例のタイセイ君の件を考えるとね、こういう事はちゃんとしておくべきだ。


 宿は去年とは違う場所をセレクト。いや、ランディさんがここには靴を脱いで上がる部屋があるよ、って言うから、サーシャちゃんが速攻で乗りまして。


「た、畳、だ……!ふかふかカーペットとか想定してたのに!!」

 部屋に通されたサーシャちゃんがびっくり顔だ。今回はあたしとサーシャちゃん+カスミさん、ランディさんとコムサレンさん、に分かれて部屋を取りまして、あたし達の部屋だけ異世界仕様、つまり畳敷きの和室だ。ぐるりと見回す室内の調度は、完全に極東趣味で統一されているように見える。


「旅館らしい、って言葉が凄くしっくりくるわね」

「完全に和風旅館のテイストを移植しきってるな……」

 二人で感心しつつ、靴を脱いで下駄箱に入れて、畳を踏む。うん、不思議な感触。いや、実はあたし、畳敷きの部屋で暮らした事、ないんだよね……ゲームで意外と取り上げられていたし、おじいちゃんの昔話も聞いてたから、仕様と基本の作法は知ってるけど。


「完璧に京間仕様のイグサ畳だな……イグサ、この世界にもあるんだな」

「まあ、本式の畳でございますね。しっかりした作りですわ」

 確認するサーシャちゃん、感心するカスミさん。あら、カスミさんも畳は知ってるのか。ああそうだ、以前フラマリアの神殿の新年の飾りつけは舞狐族が担当してるって言ってたから、その流れで知ってるのかも?


「当たりが柔らかいし、香りがいいわねえ。城塞にもちょっと敷いてみたいかも」


《このタイプの敷物はマッサイト国内でも、フラマリアに近い地方で作られていて、フラマリアにも一部輸出されているようです。なのでランディ様達は御存知だったのでしょうね。イグサはゴブリン族が元々食用と、燈心として使うために湿地帯を利用して育てていたものだそうですわ》

 食用?と思ったら、収穫後に乾燥させて粉末状にしてしまえば長期間貯蔵しておける、優秀な栄養源なんだって。そんな経緯もあって、今畳を生産しているのも主にゴブリン族だそうだ。この世界のゴブリン族って手先器用だっていうもんね。実際に会った事はまだないんだけど。



「フラマリアに近い地域にある、この国のゴブリン族の集落がイグサの名産地でね。元は食用にしていたようなのだが、異世界人が畳の作り方を教えて、それ以来その村では畳表づくりをメインの仕事にしているそうだよ。ケンタロウも畳部屋をいくつか神殿に拵えているよ」

 食事は宿の食堂で頂いたのだけど、シエラが教えてくれたのとほぼ同じ内容をランディさんがサーシャちゃんに教えている。成程フラマリアへの輸出は自称勇者様需要か……


「神殿の者達にも畳の愛好家が出ているらしくてね、最近輸入を増やしていると言っていたよ」

「値段と生産量次第ではあるが、いずれは欲しいな。今居る家に、とまでは思ってないんだが、この先長く住む場所に畳部屋があったら、あいつらも気分上がるだろうし」

 そう続けるランディさんに、即答するサーシャちゃん。まあそうでしょうね。


「城塞に二枚くらい置きたいかも。ランディさん、イードさんの許可が出たら買い付けに付き合ってもらえます?」

「ああ、構わんよ。その集落にはケンタロウの使いで出向いた事が何度かある故、転移で飛べるし、輸送も請け負おう」

 聞いてみたら即答のランディさん、そしてそのやり取りを聞いたカスミさんもにっこにこになる。うん、カスミさんの為にも畳は買いましょう!聖獣であるカスミさんの為に、だったらイードさんはまず反対はしないし!


「むしろ買い付けできるのでしたら、あたくし個人で購入したいですね。一部屋お借りできれば最高なのですけど。うちの里でも人気なのですよ、畳」

 カスミさんがちょっと真顔に戻してそんなことを言い出した。一部屋丸ごとか……いや、正月明けに散々お世話になったはずだし、恐らくその要求も通せる気がしないではない。


「それは……カナデ達が入り浸りになる気がするんだが、いや女性の部屋だって強調すれば大丈夫か……?」

 カナデ君が意外なところで信用されてなかった。というかこれどっちかというと、皆でくつろげる畳部屋を造る流れになりかねないな?


「別に随時フラマリアに遊びに来るとかでもいいがねえ、ケンタロウも最近は割合暇そうだし」

 ランディさんはそう言うけど、この三人組、単体だと連絡手段に難があるからね……移動はオプティマル号があるから、ってあれも普段はランディさんに預けっぱなしだもんなあ。


 そんな訳で、帰りついでにゴブリンさんの集落を訪ねる事が決定してしまった。街にはまずいない種族だってことで、ガチの初見になるけど、どんな人たちなのかなあ。

という訳で人数が多い設定の割にまだ出てきてなかったゴブリンさんちにお邪魔します。

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