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304.ティサニクの主神殿にて。

でも内容は八部の真相リザルト……

 翌朝は、乗合高速馬車でティサニクに入る。ちょっと馬車は混んでいたけど、これはいつもの事だそうだ。そりゃそうよね、国神様の主神殿だもんね、普通に参拝客はいっぱいいるよね。


 相変わらず、門前町にしては静かな、そのくせ活気はある市街を通り抜けて、主神殿に赴く。

 今は季節も良いせいか、朝一とはいえ、まあまあな人出だ。ミスティカさんに先導されて、降車場からてくてく歩くわけですけど。あー、こないだ来た時も食べた屋台があるな、でも今日は我慢だがまん。そもそも朝ごはんはちゃんと食べて来てますし!


 ええ、ティサニクの降車場に着いたのが、丁度出勤ラッシュタイムだったわけですよ。まあミスティカさんは普段同様の家庭内のスケジュールをこなしてからの出勤だそうなので、しょうがないといえばそうななんだけどね。こちらに急ぐ理由も、逆にこれ以上問題を先送りにする理由もないので、ここはミスティカさんの都合に合わせる場面だろう。

 前来た時より人通りは多いけど、全体的に人数の割に静かだなあ、と思いつつ、ミスティカさんについて歩くあたし達。なおメンバーはあたし、カスミさん、ランディさん、そしてコムサレンさん。うん、なんでか知らないけど、コムサレンさんもバッチリ付いてきた。どうも護衛枠の予感?今回は荒事の予定はありませんよー?


 まずは神官長様にご挨拶することになっている。という事で、神殿に到着するや、応接室に案内されるあたし達。ランディさんどうするのかな、と思ったらそのまま一緒に付いてきたよね。相変わらず保護者ムーブな気がするなあ、と思ったけどそういや他所でも神殿だから、と入るのを嫌がったのは奥院より先だけだったような気もするね?


 出されたお茶と殆ど同時に、神官長様が現われました。伸ばした髪を、こめかみに近い辺りから三つ編みにした部分以外は結わずに背に流した、結構年配の、威厳より母性を強く感じるタイプの女性だ。年季の入った感じの、神官長としての衣装をきちんと着こなしている感があるので、その座に就いてから結構経っているんだろうな。

 この世界、女神神殿だと女性が神官長を務める事が多いのだと聞いている。男神神殿だと男性が多めになるけど、どっちも例外はあるらしいよ。


 ここ、マッサイトの国神様はマーサ・ティルデという名の、山と植物を司る女神様だ。なので神官長、神殿長といった立場の方が女性なのは、この国的にはごく当たり前のことだ。他にはメリエン様と、オラルディとマイサラスの国神様が女神様だと言ってたかな?

 なお神殿長という場合は当該神殿単体の長、神官長という場合は国神神殿全ての長、今現れた方は主神殿の神殿長と国神神殿の長を兼ねておられるそうなので、どちらで呼んでも問題ないんだそうだ。普通はより上位である神官長様って呼ぶんだと思うけど。


「お待たせ致しました。このティサニク主神殿の長を拝命しております、ケレストーデ・メラニクと申します。裁定者様にも、真龍様にも、宜しくお見知りおきくださいませ」

 丁寧な挨拶と共に薄い緑の頭を軽く下げる、ケレストーデ神官長。あら、人族なのに植物属性が強いのね、この方。この国ではたまにいるとは聞いていたけど、初めて見るかも。


「初めまして。ご丁寧な挨拶痛み入ります。カーラと申します。先日はお手紙を有難うございました。お陰でいくつか判ったことがありましたので、今回は直接訪問させていただきました。で、早速ですけれど、此度は裁定者としての責務としてお邪魔させていただく形となります」

 名は名乗るけど、個人として訪れたのではないことを強調し、取りあえず面倒なやり取りはしたくないなあとさっさと本題に入るように話を進める。


「ええ、メルマイア嬢の件でございますね。ここ数日は不思議と落ち着いておられるのですが、またいつ元のように戻るか判らない、とご本人も仰いますので、もし不都合がなければこのまま面会という形でも大丈夫でございます」

 おう、予想以上に話が早いぞ!よきかなよきかな。


「はい、問題ないようでしたら今からでも大丈夫です」

 せっかく出してもらったお茶は勿体ないけど、正直あんまり猶予がない感じが、この神殿に足を踏み入れた時からしているのよね……どっちかが、そろそろ限界、みたいな感覚が、ここにいても感じられるのよ。


「あ、せっかくなんでお茶頂きますね」

 立ち上がったら、コムサレンさんがそう言って、ひょい、と手を付けていないお茶を飲んでしまった。本来なら不調法なのかもだけど、嫌みなく自然にやってのけてるあたり、この人只の昼寝スキーじゃないな……?


 またぞろぞろと連なって案内された先は、神殿の裏手に併設されている、身寄りのない人などを保護する施設の一室だ。多分普段は引き取り希望の人とか新規入所者の面談に使ってる部屋じゃないかな。薄いカーテンが引かれて、外は見えないようになっているけど、部屋の中は壁や調度の色調も含めて、明るい。


「失礼致します……お呼びと伺いました、わたくしがメルマイアでございます」

 待つことしばし。静かな声と共に入ってきたのは、レガリアーナ人らしい、緑みがかった金髪に青緑の瞳の少女。十六歳っていったかな?

 そして、その姿が目に入った瞬間から、技能があれこれ矢継ぎ早に判定を下してくる。今入ってきて挨拶をした彼女が、本来のメルマイア姫であり、なおかつ転生者、これはもう確定だ。


でも、その身の内にもう一人、魂が居る。恐らく、駄々をこねて暴れていたのは、そして、限界を迎えようとしているのは、そっちだ。不安定で、何か大きなデータを無理やり抱え込まされ、更には何かに縛り付けられるように、本来あるべきでない場所に押し込められた歪んだ魂。

 あたしとシエラの関係にも似て、でもそれとは決定的に何かが異なる、そんな存在が、今のメルマイア姫、だ……


《こんな邪法と同列に語られるのは御免ですわよ!》

 シエラに叱られる。うん、ごめん。同列だとは思っていないよ。この目で見たらはっきり判る。彼女たちの状態は、人間の悪あがきが作り出した、魂の本質を歪める、有害なものだ。

 ただ、この邪法を行使した者は、既に刑を受け、彼ら自身の本質を喪失している。新たな罪が明らかになったとしても、罰する対象には、最早なり得ない。


「初めまして、カーラと申します。早速ですけど、メルマイアさんは転生者、ということで間違いございませんか?」

 もうここは速攻で畳みかけるよ!確認出来る事は今のうちに確認してしまおう。


「はい、そうです。姉も、わたくしも、転生者です。ヴァルスンドの家には、何時からかは存じませんが、異世界の魂だけを呼び寄せる、変則的な召喚術が伝わっていたようです」

 今は最早誰も使えませんが、と、続けるメルマイア姫。いや、ヴァルスンド家はもうないから、メルマイア嬢とすべきなのかな。それにしても、清浄化の魔法陣を取り扱う家に伝わるのが魂召喚術ってなんかえぐい話の気配がするんですが?


 そのまま説明して貰ったのだけど、ヴァルスンド家は割と早い段階、大体二百年前くらいを境に、清浄化の魔法陣に適性のある人間自体が減っていったのだそうだ。その原因は、判っていない。流石に時代的にライゼルのちょっかいの可能性は……いや、絶対ないとは言い切れないくらいの数字だな……

 で、数少ない適合者の子供に、彼らの持つ技術と術式の情報の全てを魔術的に転写した。特訓して教え込むのではなく、魂に、直接無理やり刻み付けた。その結果、子供の精神は成長する余地を失い、肉体は早い段階で崩壊し、更に肉体を喪ったその魂は、別の術によってヴァルスンドの血筋に縛り付けられた。

 で、その魂の受け皿、憑坐として、何時からか、異世界の魂を呼び寄せて生み出された、人為的な転生者たちが使われていた。彼らは庶民から適当な高魔力者を攫っては孕ませ、不完全な召喚術を繰り返し、運悪くその術の元でも生き残り、生まれた子から選抜した者だけを庶子として登録し、契約で縛り、そして術式のコントロールを、彼らに宿らせた、名も伝わっていない子の魂に行わせていた。一応()は当主とその近しい一族の者から()()されていた、というから、庶子であることも事実ではあるようだけど。しかしまあ、予想以上にろくでもない話だわね。

身内でやれよ感強いけど貴族の血族は届け出によりとはいえ登録されているので、逆にその手の無体はできないシステム。

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