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293.複層詠唱の破壊力?

でもやってることは耕運機。

「♪~ふふ~ん……」

 カナデ君が鼻歌混じりに、複層詠唱で〈耕転〉と、風と雷の〈分解〉、三種の魔法を同時に二つずつ使いながら、汚染されていた状態で放置されていた畑の、踏み荒らされ固まってしまった土を砕きながら耕していく。あたしはその反対側で、地味に光魔力相殺の作業中だ。カナデ君が耕している部分は既に処理済みの、まっさらな状態の部分ですね。


 ……いやほんとマジなんなんだこの子。魔力はあたしよりやや少ないとはいうものの、一晩で雷属性の〈分解〉の魔法陣完成させて、今日は速攻で土壌分解の実証実験を始めているんですけど?!


「何この人間ブルドーザー」

「それを言うならトラクターでは?」

 呆れた顔のサーシャちゃん、突っ込むワカバちゃん。その背後で黙々とフラマリアで覚えてきたらしき土壌成分の計測作業をやっているカスミさん。何でもできるなこの舞狐?


「トラクターはアタッチメント付け替えで色んな作業をする機械だからこの現状は耕運機というべき……いや、いろんな作業こなせるんだからトラクターでいいのか……」

 あたしまでつられてしょうもないことを考えている。まあ要するに作業の進捗は順調ってことだ。


 取りあえず除染作業は一番汚染程度の酷かった場所から、ということになった。程度の軽い場所で村長さんをはじめとする魔法修行の経験者が、自力で除染する訓練をしたいという話だったので、そうなった。なので今いるのは、村の畑でも一番城塞に近い、つまり村から離れた場所だ。

 なお村から一番遠い畑はドネッセンに行く道から更に逸れた方にあって、被害を受けずに済んだところとなっている。今年はその畑の隣の区画も休耕予定を取りやめて畑地として整備したそうだ。青草食わせる家畜が壊滅しちゃって今年はいないからね……人間や幻獣が優先的に襲われる傾向はあるけど、魔物って最終的には生き物全部なぎ倒す方向性だから、始末に負えない。

 まあベネレイト村で家畜の被害が大きかったのは、人間がきっちり避難出来ていて、他に襲うものがなかったせいでもあるのだけど。完全に全滅じゃなかったのは、お気に入りの子羊や鶏を連れて逃げた人が数人いたのと、元々放牧通り越して放し飼いにしている家があって、自力で逃げ出して無事な子がいくらかいたから、らしい。


 開拓村の人達は、自分達が育った、そして自分達が育てた土地に、強い愛着を持っている。国主導の簡易除染の際も、結構な人数が参加していたという。

 光魔力を練る、つまり魔力を一旦ある程度放出しながら圧縮し、そこに属性を付けてから解放する、というあたし達が今回やって見せた手段は、属性を載せる、という部分に関しては、完全にできる人と全くできない人にきっぱり分かれる。無論、できない人の方が圧倒的に多い。そりゃそうだ、結構なんでもできそうな真龍のランディさんが、放出そのものができなかったし、龍の王族の皆も、実は誰もあたしと同じようにはできなかった。サクシュカさんあたりワンチャンあるかと思ったら速攻で音を上げてたよ!放出自体は皆できるんだけど、属性がどうやっても載らないそうだ。なおイードさんは放出もだめでした。召喚術では使わない訓練だからそこはしょうがない。


「龍ってことはブレス持ちだろう?そのせいじゃね?」

 それを眺めていたアンダル氏がそう指摘していたけど、特に反証が出てきていないのが現状だ。

 ちなみにティスレ君は放出自体ができなくて、シェミルちゃんは放出まではできた。ティスレ君は攻撃魔法の適性もないらしいので、最低限の魔法師適性があることが条件なのか、属性でも向き不向きがあるのか、さもなくばどっちもかもしれないね、という話、つまり現状はまだサンプル不足だ。

 ともあれ、開拓村の人達は、自分にできる事であれば、他人任せになどせず、自分の手でやりたいのだ。逞しく、素敵な人達だと思うし、協力できることは積極的にしていきたいよね。

 村の人達は本日練習開始したばかりなので、こちらの一日分の作業が終わったら、そちらの出来栄えを見る事になっている。


「むしろ複層詠唱ってどんだけ重ねられるの?この世界の〈多重詠唱〉は八重オクタが観測された最大値だって話だけど」

 取りあえず気になっていることを聞いてみる。この世界の〈多重詠唱〉に関しては、オクタスペル、つまり八重詠唱が現在観測されている最大数で、現在あたしが知っている中ではハラルカールさんが使える。といっても、龍の王族はブレスも魔法のように魔法陣経由でぶっぱできちゃう謎仕様だから、正直あまり熟練度とかは参考にはならない気はするけど。そう思うとサンファンのグランデール前王のヘキサスペルって地味に人族としては物凄い手練れだったりする、のよね。あの方、なんでも魔力と修行期間がもうちょっとあったら超級に手が届いていた、らしい。思ってた以上に凄い人だったよ……


「多重はオクタの後のキーワード自体が未設定みたいだねー。複層詠唱の最大数チャレンジはやったことないなー。ゲームの時だと成り行きで十二層まではやったことあるけど。ぶっちゃけここだとそこまでやる需要が今んとこないね!」

 カナデ君が作業は止めないまま、そう返事をくれる。複層、と付くだけあって、何層、という表現をするようだ。成程?って十二は多いな?


「あー、そういや補助役の時の方が積層数多いよねカナデの魔法って」

 サーシャちゃんが思い出した、という雰囲気でそう続ける。彼らの魔法話の過去部分はゲームの話だし、大概の魔法のあるゲームってバフは重ねがけするもんだもんね、さもありなん。


「そりゃ積層展開しないと効果時間がずれて掛け直しで死ぬからなー」

 カナデ君の返事も、その理由なら確かに重ねるわ!と納得のいく感じ。一個ずつバフ積むのって、割とどこのゲームも結構な時間食いだよね……まあ今はそんな遊びをするような環境もないわけですけども。そしてこの世界の魔法はバフ系は種類自体があまり多くないうえに、取得制限が結構厳しいから、重ねがけなんてするのは結界術くらいだ。


《いや、地元の普通の人は結界術の重ねがけなんてしませんからね?!》

 おうっふ、シエラからツッコミが入った。確かに儀式魔法系の結界術には重ねがけの概念自体がないらしいもんな……あたしとワカバちゃんが例外だよな……いやカナデ君も基本の中級までの結界あらかた張れたよな……


「魔力の減り具合もそうだけど、回復量の方も注意しなさいね。突然おなかすいた!とかなるから、あれ」

 以前やらかしたときはほんとにびっくりするくらいだるくて、お腹空いて、大変だったからなあ、体重まで減ったし……


「そういやラーメン食べた時にそんな話したっけね。あと、成長期はあまり使い過ぎよくない、だったっけ?」

「そうそう。だからそこの一枚分終わったら小休止にしましょ。カスミさんにおやつ持って来て貰ったから」

 効率の悪い魔力相殺をやってるあたしのほうが消費量自体は多いのだけど、魔王級と大魔王級の間には結構どでかい魔力量の壁がある。なのでこっちのほうがちょっとだけ、進捗は早い。まああたしの方はじんわり浸透させる事以外気を遣う部分がないからね。


「それにしても、こんだけひっくり返しても、ミミズとかも全然出てこねえな。虫も瘴気を嫌がるのか、死んだのか、どっちだこれ」

 見学しにいった普通の畑にはミミズもワラジムシもいたのになあ、とサーシャちゃん。


(細かいのは死んじゃって、動けるのはどっかに逃げた感じねえこれ。雑草の種はあるけど)

(大丈夫よ、堆肥入れる時にきっと一緒についてくるわ。雑草はある程度食べちゃうね)

 天地返しされた後の地面をつつく鶏たちは両方だと判定し、どうせ堆肥にそれらは混入しているから問題ないと言う。ミミズやワラジムシは優秀な分解者、この菌類分布に難のある世界ではいて貰わないと困る大事な奴らなので、堆肥を作った時にわざわざ野生のものを捕まえて入れておくことも多いんだって。


 なおダンゴムシの方はローリーポーリーというまんまな名前の巨大な生物がいる。幻獣ではないらしいんだけど。こいつの方は何かの手違いで集団発生すると、畑の元気な植物を食い荒らす厄介者だ。普段は人の入らないような深い森の中で、ころころ転がりながら移動して、柔らかい草を探す呑気な生き物なんだけど、森が生活の糧を生み出すといえるマッサイトでは薬草潰しと言われてすっごく嫌われているそうだ。


 雑談しながらやってたら、予定の範囲の倍近く片付けていて、慌ててお茶の時間!と叫ぶ。

 腹減り具合を考えると、カスミさんのおやつだけでは足りないかもしれないなこれ?

節足動物は結構豊富だなこの世界、フナムシもいるし……

魔王級に+五つ付いた次が大魔王級なんですが、ランクアップで+表示の分の倍近く増加量の追加があります、なおパーセンテージで増えます。<魔力量の壁


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