290.税金と減免と申告。
なんでゆるふわ設定系ファンタジー書いてたはずなのに税金の話してんだ僕……
そそくさと部屋に戻って通知書類を開く。ワカバちゃんにも同じ封筒が届いていたけど、あからさまにあたしの書類の方が厚みがですね……
《そりゃあ外国を含むあっちこっちで課税もしくは減免対象になる活動してましたからねえ》
成程、国内での収入関連の方は一枚に全部納まるけど、他国での活動が全部別紙か。あれ、マッサイトの難民保護施設のお手伝いも減免対象なの?あれ自体には治癒どころか魔法自体を特に使ってないはずなんだけど。救助時の魔法はこれとは別紙の計上の方よね?
《あ、保護施設のお手伝いは所謂ボランティア活動と同じ枠なんですね。治癒師の減免とは別枠ですよこれ》
シエラがそう言うので素直に計算したら、治癒師向けの減免だけでも減免上限ぶっちぎったのに更に減免が発生するという結果になって、慌ててイードさんに相談に行きました。これ乗算するの加算するの上限ぶっちの時点でなかったことになるの?どれ?!いや流石に乗算はないわ!落ち着けあたし!
「うわあ……治癒師と無関係の一般慈善減税も付くのか君……完全別枠で減免を加算だよ」
税法もしっかり頭に入っているようで、呆れた系の変顔しつつも即答してくれるイードさん。
「あのそれ、税金自体が吹っ飛ぶんですが……」
計算した式を見せたら絶句していた。隠さないといけない収入なんてものはないので、全部包み隠さず見せる訳ですけども。
「式は……ああうん、全て合っているな。初回の申告書類とは思えぬソツのなさだが、これは直接エスティ兄に送り付けるほうが良さそうだ。この総収入額で非課税とか、どう見ても一般係員の心臓に悪い」
という訳で、イードさんが直接エスティレイドさんに返送してくれることになりました。年度末にクソ忙しい人の仕事を増やしてしまった……済まぬ……
なお相当な収入を得ていた去年なのに税額が弾け飛んだのは、物納含めて換算したら最大額だった褒賞が、そもそも非課税で計上対象外だったからですね……基本、ハルマナート国軍には龍の王族しか実働部隊がいないので、彼らや聖獣以外が褒賞を得る想定自体がされてなかったそうです、ハハハ……
それに、他国で得たあれこれの収入も、金額が大きいフラマリアとヘッセンのものは、支払い時に外国人が報酬を得る際に掛けられる税が差し引かれているので、これもこっちで払うはずだった分は半額処理されるんですよ。金額がちょっとしたアルバイト程度なら全額納税済みと同じ扱いになるらしいけど、上級治癒師の活動にそんな細かい金額は動かんので……
ただ、マッサイトでの活動に関してはぶっちゃけお弁当代くらいの金額しか出てなかったので、どちらの国でもそもそも申告対象額未満だった。そのくせ日数が多かったので減免は丸っと付くのだ……サンファン?ツケの約束手形しか貰ってないから!論外!
これでも船員さん達救助とか、レガリアーナでのあれこれは今年の話だから入ってないんですよ、年末〆だからね!そもそもレガリアーナの分はまだ頂いてないわね!
書類の漏れ抜けがないかどうかを全部チェックして、イードさんに送ってもらったところで、今ちょっといいですか、とワカバちゃんがやってきた。
「すみません、申告書類なんて書くの自体が初めてで、いきなり記入して大丈夫なのか、判らなくて」
行政書簡片手に困り顔のワカバちゃん。そりゃそうよね、今年が初めてだもんねえ。あたしもそうだけど、ぶっちゃけ忘れない特性のおかげと、それにシエラの手も借りたから、一番時間がかかったのが収入側各書類の確認そのものでしたね……
「丁度いいから全員で申告書類の勉強でもするかね」
イードさんが苦笑しながらそう言うので、三人組の残りも呼び寄せた。エルフっ子達は流石にまだ早い、と思ったら、学校で習うんだそうで、実物の書類を見たいです!と自分達からやってきた。勉強熱心でいいことですね!
ワカバちゃんの場合、そもそも去年の収入は余り多くない。マッサイトでのお手伝いをちょこっとと、フラマリアでの活動の分だけだからね。あたし同様フラマリアの分は、外国人税考慮で半減があるのと、フルではないけどマッサイトでの一般慈善減税が付いてくる。で、あたしと違って治癒師報酬とかの上乗せ系は一切ないから、総収入額があたしの一割にもならないので、差し引きしたら彼女も今期は非課税が確定した。まあ夏からのおよそ半年しか期間もないんだし、新成人だし、こんなもんだろう。あたしの収入額の方がおかしいんですー、自覚はありまーす。
「正直、どっちもあまり参考にならないわねこれ……」
「慈善活動に励めばそれなりにリターンもあるって認識でいいのか」
ぼやいたら、サーシャちゃんにそう質問された。
「この国とフラマリアではそういう傾向が強いな。他国ではここまで高率の減免はされないはずだがね」
イードさんが答えている。まあ確かにレガリアーナ辺りでこんなざっくりした減免やってたら国が破産しそうよね。
「慈善活動ってやる側に余裕が必要ですからねえ」
なので豊かな国程そういった活動は活発になる。マッサイトも割と頑張ってる方だそうだ。その代わりあの国は商取引系の税がちょっと重い。難民対策で苦労してきた国だから、慈善系事業の優遇を切れない、という側面もあって、ちょっと負荷が高いんだそうだ。
「……未成年のうちにある程度儲けるべきなんだろうか」
サーシャちゃんが真剣な顔になってしょうもないことを考えている。
「手段があるなら、ある程度ならそれもよかろうが、やりすぎると国から未成年後見人という名の監視者が付く。程々が一番だよ」
そもそも未成年の労働には一定の制限がある。サーシャちゃんは異世界人認定書出せば緩和されるけど、それでも限度はあるそうだ。そして、あたしはサクシュカさんから聞かされてるから知ってるけど、したり顔で忠告しているイードさんも召喚師としての修業時代に、うっかりやりすぎて後見を付けられそうになったクチだ。この人一応王族だよ!市民と課税方式自体別だよ!と師匠であるフェアネスシュリーク様が慌てて上に報告したというオチが付いている。
なお税金絡みでは非常に暮らしやすいといえるハルマナート国とフラマリア国だけど、異世界人には寛容な移民関連は、地元民に対しては、実は他国より厳しい。以前カナデ君もそれにひっかかりかけた。何せ出国元がサンファンになってたので、入国審査、実はあたしが居ないと通らない可能性すらあったのよねえ。子供に関してはどの国も無条件で緩いんだけどね、カナデ君の場合、ハルマナート国の方だと成人とみなされる年齢だったのも危ないとこだった。異世界漂流者証明とこの国の住民である異世界人なあたしの保証、どちらかがないと国替え扱いにできなかったのよね……
まあ無事この国に登録し直せたから、後はどの国に行くときでも、特に問題は発生しないはずだ。そして、彼らがいずれ、と思っている土地は、既に国ではないから、移転するのには何の許可も要らないし、何ならハルマナートの国籍持ったまま移住でもいい。
「おねーさん、もしかして、めっちゃお金持ち……?」
「こんな桁数見たことない……」
エルフっ子達が例示していた書類の控えを覗き込んで呆然としている。
「治癒師がこんなバリッバリにお金稼げる世の中じゃない方がいいんだけどね」
去年のあたしの収入に関しては、本当にこれしか言うべき台詞が見つからない。いやまあ褒賞に関しては当時は初級だった治癒魔法分より、ライトレーザー乱れ撃ちのほうが比重高いんですけども。
「僕らもトラブル多かったもんねえ、のっけのあれこれと最近のあれこれ」
来年はこれ書くのかー、とげっそり顔で書面とにらめっこしていたカナデ君。
「そうね、来年次の申告は今年の頭の救助活動からになるから、君たちも申告は真面目にやらないといけないわね」
そう答えたら、更にげっそり顔になった。この国の場合、申告用の書類の出来がいいし、国立商工会に預けたお金って記録されてるから、収入は基本的にある程度国に把握されているので、今回みたいにワカバちゃん辺りにも、先方から去年の収入はこれとこれで、課税対象はこれですよ、と通知が来る。この子達には領収書を取る習慣をつけさせないといけないかな。国や神殿から出る系の報酬はそういうのもちゃんとしてるんだけどさ。あたしは従軍治癒師の証明書絡みで、その辺はもっと簡略化されてるけども。
後日もう一通ずつ行政書簡が来て、住民税の方は各種減免が半分しか効かない事を知りました。おうっふ。
いやまってマジで税金で一話終わったんだが?!




