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289.掘り起こされた何か?

三月〆の習慣は誰がこの世界に持ち込んだんだろうね……

 サーシャちゃんの言う、掘り起こされた形跡のあった場所に向かう。


「確かに、比較的最近、恐らく年が明けてより以降に掘り起こされた形跡がございますね。墓地の整理と慰霊・記録碑の建立は年末には終わっていたと伺っておりますけれども」

 カスミさんもそう言うので、どうやら改葬とかそういう話ではなさそうな感じがする。


(魔法で掘ったんじゃなさそうね)

(でもこの位置に何かがあるって確認するのは、魔法でも使わないと無理かも。そんな魔法があればだけど)

 鶏たちは実行者の手段のほうを気にしている。そうね、この世界の人はお墓参りってあまりしないから、お墓は残された人たちの記憶から故人の存在が薄れると言われている、大体十年から二十年前後で風化する、白くてとても柔らかい木材で墓碑を建てるのが普通だ。流石に王家とか貴族はそれなりにしっかりした専用の墓所を設けて、石碑で故人の功績を称えたりするそうだけどね。


 取りあえず現状はサーシャちゃんが記録して、何故かアンダル氏が器用に紙に出力している。映像記録からのマッピングはサーシャちゃんがやっていて、それを魔法陣を形成するスキルの応用でドット絵のように再現する、などと説明されたけど。ただ、流石に着色は無理だそうで、所謂グレースケール画像ってやつですね。

 それでもモノクロ写真のように精密な画像が記録できるって大した技だと思います。あたしは覚える事は出来ても出力はまあ、なんだ。文字が精一杯ですはい。


《クロスステッチの図案の応用でドット絵的なものは描けそうではあるんですが……》

 シエラがそういうけど、シエラが図案を作るのは大丈夫そうだけど、あたしが多分無理です。絵心が、絶無。


《そういえば刺繍も基本私に丸投げでしたわね……》

 はいイエスはい、頼りにしております。


「じゃあ掘るか……掘削系って魔法あるの?」

 サーシャちゃんが手を一瞬わきわきさせたけど、唐突にカナデ君に話を振る。まあ穴掘り道具は持って来てないものね……


「〈耕転〉だと土を天地返しするだけだから……あー、〈穴〉、って魔法が削除されてる。なんか先達がやらかしたんだろうなあ……」

 魔法リストを確認したカナデ君がそうぼやいている。毎度思うんだけどそのリスト式凄く便利そうですね?


《ああ、土に初歩魔法がない理由、削除だったんですね……土属性の極小を育てようって人は基本居ないので、話題になることもないまま消えた、といったところなのでしょうか》

 地元の人に一番多いの、土属性らしいもんね、レガリアーナ以外は……わざわざ極小を育てる需要がないか、そっか。なおレガリアーナの場合、土属性が出る時は、ほぼ大以上でしか出ない。それ以下だと風属性に消されるというのが通説だ。


「削除?復帰させられないのかそれ」

「できないわね、類似機能の魔法も開発が制限されるわ」

 サーシャちゃんの質問に即答しておく。新規魔法の開発はあまり安易にやるものじゃない。あたしの場合ほらあれよ、検索ベース君が反応する時点で、実質神様の許可が下りてるからさ……


「でも土属性育てたい時に初級の攻撃魔法からしか手段がないのは面倒な気もする」

 カナデ君はそう言うし、それ自体はもっともだと思うんだけど……


「土の小以下をわざわざ育てる人って基本いないのよ。世界的に地元の人間に一番多い属性だから……土小しか属性がない場合、大体魔力も少ないから、魔法を使わない仕事に就くのが普通ですって。農家でも全部が全部魔法で耕してるわけじゃないしね」

 そもそも、鍛錬の需要があるなら、土を固めて小石一個生み出す魔法くらいはあってもいいと思うんだ、土属性なら。ないってことは、多分需要がないんだと思う。


「ああ、中あれば〈耕転〉か〈固着〉でいいのかあ……いや、〈固着〉は小でいけるんだった」

 カナデ君もやっと納得はしたようだけど、まあ穴掘りは手作業ですかねえ……


 と思ったら、いつの間にかカスミさんが園芸用の小ぶりなスコップで穴を掘り始めていた。


「カスミさん、スコップ持ち歩いているんですか?」

 思わずそう聞いてしまったのはしょうがないと思うんだ。城塞に帰ったからか、例の女給さんスタイルに変化してるカスミさんが、可愛いスコップで土を結構盛大にほじってる図が、割とシュールでして。


「いえ、普段は流石に持ち歩いてはいませんが、土壌調査もする可能性を鑑みて持ってきたのですけれど」

 墓掘りは想定していませんでしたわね、と、涼しい顔で穴を掘り進めるカスミさん。

 まあ結局、そこらへん一帯掘り起こしても、何も、ええ、骨すら出てこなかったんですがね。


「でも多分、なのですけど、先に穴を掘った者も、目的は達成できていない気がしますわね。今掘り起こした部分までが、土の柔らかかった部分です。つまり、先の者も目標を見つけられずに、ここまで掘り広げた、ということですわ」

 言われてみれば、カスミさんが掘った穴は、結構な範囲を掘り広げているけど、所々が不自然に深い気がする程度だ。残留瘴気とかも特にないので、本当に何かがどこかにあった痕跡すら、ない。いやまあ瘴気はあたし達がさっき吹っ飛ばしたんだけども。


「……魔法で掘ってたら痕跡潰してたなあ。危ないとこだった」

「手作業って案外大事なのね、思ってもみなかった」

 サーシャちゃんとワカバちゃんが掘られた穴を検分しながらそんな風に話している。

 あたしは少し離れたところから穴を見ているわけだけど、うん、やっぱりここでも技能系の反応はなしだ。

 旧アンキセス村は、村の正式な区画図も作成してなかったのが発覚したレベルだったし、そもそもこの世界の墓地はここからここまではお墓です、という区画こそ決まっているけど、庶民レベルだと墓参りの習慣自体があんまりないから、区画図みたいなものは、何処の土地の墓地にもだいたいないらしい。

 何故なら魂は善き行いに導かれて天上に向かうものであり、その魂がその人の本質である以上、墓地にあるのは抜け殻に過ぎない、というのがこの世界の基本の死生観だから、だそうだけど。

 ……実際に巫覡系の技能をある程度持ってると、そういうの、視えますからね……あたし自身、何人か見送っているからね。


 まあそんな訳で除染作業自体はさっくりきっちり終わらせたけど、疑惑の色々は全部空振りだ。

 あ、堀った穴はカスミさんがまた綺麗に埋め戻していた。埋めるほうは手伝う暇もない早業だった。いや道具がないんで手伝いもへったくれもなかったわけだけど。最後の地ならしだけは皆でやりました。

 綺麗になった村跡地を一度出て、近くの原っぱでお弁当を食べて、帰る前に全員でぐるりと今日の作業エリアを全部確認して、何も変化がない、とか、不審な何かがない、などは確認してから、城塞に戻ったのだけど。



「それは遺骨を掘り返そうとしたのではなかろうか。呪物の材料として、だが」

 状況を報告したらイードさんからそんな言葉が飛び出した。そして、脳裡によみがえるのはフラマリアの東の村で見た、骨のような素材でできた、笛。


「魔鼠の骨笛……?」

 いやまさか、そんな直球ストレートに繋がりますかね?ああいや、時系列が違うから、別口が、いる?


「そうそれだ。いや待て、その知識はどこから?この城塞にも、国管理の図書館にも、呪物に関する資料はないはずだが」

 あたしの言葉を聞いたイードさんが真面目な険しい顔になる。ああそうね、呪術に対抗するための資料は充実してるけど、呪術そのものの資料は全然なかったね、図書館。


「以前、フラマリアにて現物を見ているのでございます。持ち主は神滅にて滅びましたけれど」

 あたしが口を開くより先に、カスミさんがさっさと説明してくれる。


「では、魔鼠の被害が出たのだね?いや、君たちがいる場所での事なら、瘴気も被害も綺麗に回復しておるのだろうが」

 少し安堵した、という顔でイードさんが確認するので、頷く。


「ええ、上級称号持ちなのに被害者をそのままになんてできませんからね。その前に風邪が流行っていて一部の方には〈回復〉しか使えなかったし時間の都合もあったので、最終的な治療の一部は地元の方に投げてきてしまいましたけど、人間の死者は出ていません」

 イードさんは自分が使えない魔法の知識も豊富なので、当然病気などに対する〈治癒〉系列の弊害は知っている。そう返事したら、うんうんと頷いた。


「成程、それもあって慈善減税の減免金額が大きいのだね、さっき書類が届いて、内容に過不足がないか確認をしたところだから、申告書類は自分で書くように」

 その言葉と共に、行政書簡と呼ばれる、政府関連独特のスタイルの分厚い封筒を手渡されました。うわあ税金!忘れていたかった!!

この世界の暦の二月が終わるまでに成人していると課税対象なので、カーラさんとワカバちゃんには今年届くけどカナデ君は来年です。

なお呪物の知識の出処が不明だと尋問されることになります。

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