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286.久しぶりのベネレイト村。

但し長期滞在は初だ。

 乗合馬車は順調にベネレイト村に到着した。ただ、直通便の一番遅い奴で出ちゃったので、完全にここで日が暮れた。夏なら歩いて帰れるかな、程度に明るいだろうけど、春先の今はもうすっかり真っ暗だ。仕方ないので本日は村にお泊りです。丁度いい機会なので、春からカナデ君達が借りる家を掃除がてら仮の宿にすることになりました。そもそもベネレイト村に宿屋とかないからね!最寄りの宿はドネッセン!そこも行商人向けの小さなお宿なので、本日の我々の人数ではキャパオーバー!でっす!


 実は夏頃から先週くらいまでの間は、元アンキセス村の後始末の仕事で来た人たち向けの簡易住宅が村近くの原っぱにあったんだけど、跡地と墓地と記録碑の整備が完了して皆引き揚げたから、丁度一旦解体されたところでして。直通便も地元の声でちょっとだけ延長したけど、この週でおしまいだそうだ。

 この後はあたし達が、手が回り切ってない、もしくは汚染度の高すぎて一般民では手出しができなかった部分の除染作業をしたら完全完了とか言う話だ。そっちはもうあたしとカナデ君の仕事として請負い済なので、明日城塞に戻ってから詳細を確認することになっている。無論、ワカバちゃんとサーシャちゃんも護衛と縄張り係として仕事して貰いまーす。



「設備は随分しっかりしてるわね。それにどうも最近まで誰かが住んでた感じ?」

 全部屋点検した最初の感想がこれだ。こっちの村側に作業員さん達は来てなかったはずよね?


「ああ、旧アンキセス村から移動してきた方たちのうち、冬に三軒ほどが村を去りまして、そのうちの一軒ですね。もし不審点があったら処理しておいて頂けると助かります」

 え?フレオネールさん、処理って、それまさか瑕疵物件だってこと?


「あのね、なんかおうちの人全員で悪い薬つかってたんだって」

「そこのうちの子がだんだん変な事言い出したから大人の人に相談したら、まとめて捕まっちゃったの」

 エルフっ子達の説明に、うわあ、という顔になる三人組、そして多分あたし。村を去ったっていうより強制退去じゃん!

 まあ実際には強制退去どころか、逮捕と薬物中毒による措置入院だったわけですが。


「他の村人にも売りつける計画の痕跡がありましたから、君たちは本当にお手柄だったんですよ。うちの子達はさっさと見切りをつけて完全に見ないことにしちゃってたから」

 コルケラ君達のトラブルから背を向ける形の対応は、過去の奴隷暮らしの弊害なんでしょうねえ、とため息を吐くフレオネールさん。

 それ以外のよそんちの子供たちはどうなのかと思ってたら、なんかもうコル君を中心にした一大グループが出来ていて、すっかりリーダー化しているらしい。なので今後を考えると、コル君達をマッサイトに連れて行くのは確定事項、という話だ。あの子、面倒見良さそうではあったけど、リーダーシップも強いタイプだったのか。


「僕らも別にどうにかしてあげようとかは思ってなかったけどね」

「意味わかんないウザ絡みが増えたから相談しただけだったのよ?」

 首を傾げてそう言うエルフっ子達、拾った頃より言葉遣いが随分と大人びてきたし、段々と背も伸びてきたけど、まだまだかわいいなあ!!


「そうは言うけど、普段からあの子達のことも良く観察していて、結構詳細に変化した時期なんかも覚えていてくれたでしょう?説明も過不足なく整理できてたし。あれがとても役に立ったんですよ」

 フレオネールさんがそう言うと二人の頭を撫でる。二人は元々隠れ里出身のせいか、周囲を良く観察する、という習慣が身についている。それがいい方に働いたということね。


「カーラおねえさんが、困ったときはまず信用できる大人に相談しなさいって言ったからね」

「相談する前にはきちんと言うべき事を整理してから、って言ったからね」

 口々にそう言うエルフっ子達。ああうん、確かに村に下宿するって話の時に、困ったことがあった時の基本の対処として、そう言った覚えはあるわね。


 そして、その案件の際、この子達は学校の先生ではなく、村長さんとフレオネールさんに話を持って行ったそうだ。先生は信用してないわけじゃないけど、この話を持っていくのはかわいそうだったから、と言うのでなんで?と思ったら、担任は、優しくて教え方も上手いけど、ちょっと涙もろいコボルトの先生だそうで……あー、うん、それは、荒事の予感がした時点で話を持って行かなかったのは大正解な気がする。実際には速攻で警備隊案件になったので、荒事になる前に終わったのだそうだけど。

 この国には軍とは別に、国内警備隊という警察と消防とあれこれを混ぜたような組織があって、民事のいざこざや小規模な魔物対応は原則そちらの仕事だ。去年小規模な魔物被害があったキャンプ場の近所の村で魔物対応してた人も、田舎に引っ込む前はこの仕事をやってた人だ。まあ他国でも似たような組織は勿論あって、国によってちょっとずつ仕事内容や組織名称が違う。

 ハルマナート国の場合、軍の方が龍の王族ありきのガチの少数精鋭なので、細かいとこに手が回らないから、警備隊の仕事は他所よりちょっと多いらしい。とはいえこの国、魔物絡み以外の治安に関しては、断然他国よりいいから、こういう形の出動は随分久し振りだったようだけど。

 ちなみにこの警備隊も、最寄りの大きい部隊はドネッセン駐留だ。ベネレイト村やカミモラ村にはそれぞれ二人ほど、連絡員という名の駐在さんがいるだけです。


 まあそれにしたって、子供にまで薬物キメさせる親って流石に大概が過ぎるな。どうも現状、親も子も、支離滅裂なことを言うばかりで、事情聴取もままならない有様だということで、詳細はまだ余り判っていないらしい、というところまでは聞いた。


「旧アンキセス村勢の中でも、その三家はスタンピード被害に遭うより前から、村でも浮いていたそうなので、もしかするともっと早くからだったのかもしれないんですよね……」

 使われた薬はまだ分析中で、効果や精神状態への悪影響がどのレベルから発生するかなどがまだ判っていないこともあって、何時頃から手を出していたのかが微妙に判らないという。


(……残り香がある)

 ロロさんが嫌そうに呟いて首を振る。


(あの臭いに似ているわね。ねーさま、その三軒?だっけ、そこは、ねーさまが綺麗にした方がいいかもしれない)

 ココさんも同意して、あたしにそんな風に言うんだけど。つまりそれって、ライゼル絡みの何かの可能性がある、ということ?

 今までココさん達が全く的外れな発言をしたことって、実はない。にわとりですからー、みたいにはぐらかすことはあるけれど。


 ではちょっと光魔力を軽く練って、この建物の中に解放!

 アッハイ駄目ですね!なんか吹き飛ばした確かな手ごたえがありますね!!


「あ、ねーちゃんがダメだって顔した。なんかいたな?」

 サーシャちゃんが目ざとい。いや、あたしが顔に出過ぎなだけね……


「ははは、もういないわよ、全力で吹っ飛んだから」

 感覚としては魔鼠よりちょっと大きい何かだったけど、完全に跡形もなく吹き飛ばしたから、もう何だったかすら判らない。これうっかり証拠隠滅っていうんじゃ?


「そういえば人間は子供も含めて全員捕縛しましたが、それより小さな生き物などは確認していませんでしたね……盲点でした」

 フレオネールさんが眉を寄せて軽く唸る。


 残りの二軒も回って、吹き飛ばす前に徹底的にチェックしてみたけど、そちらには何も居なかった。ただ、最初の家に戻ったら地下室があったので、そこを見に行ったら、くすんだ銀色の、嫌な意味での見覚えしかないメダルだけが落ちていた。中心にはめ込まれた石は粉々に砕けていたけども。


「……流石に人間サイズを潰すような出力じゃなかったはずだけど……?」

 そもそも、ライゼル勢といえども、少なくとも各国で暗躍してる連中は、一応まだ人間の括りの内に入っている。光魔力を過剰に食らった程度で消滅するなんてことは、流石にあり得ない。


 メダルは取りあえず作り置きの封印刺繍布でくるんで、サーシャちゃんの収納に預かってもらった。完全隔離機能もあるんだってよ、どういうシステムなのそれ。

本人の感触通り、実際吹き飛んだのはヒトではないのでご安心を。

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