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281.ちょっと前の異世界人。

この世界の暦の話なんかも。

 結局当日中にタブリサを出発するのは無理だったので、城塞帰着は3月になってしまうのが確定した。そして、その結果、じゃあもう城で誕生日祝いをしましょうよ!とサクシュカさんが言いだしてしまったので、城塞に戻りそこなったあたし達です。いや誕生日とか普通に家で祝いたいです……とは言い出す暇がなかった。パーティの一言で三人組が見事に釣られたので……エルフっ子達も費用サクシュカさん持ちで呼んであげる、って言われたらもう逆らえませんでしたハイ……


「成人の祝いでもあるのだろう?なら盛大に祝うのがよかろう」

 マグナスレイン様までそんな風ににこやかに言うもんだから、もう断るとか無理でしたね。

 それ以前にあたしはあの城塞を家と認識してしまってるんだけど、それって大丈夫なんだろうか。実際の所は居候ですよねあたし……


「そういえば君たちの誕生日っていつなの。ワカバちゃんがこないだ誕生日だったのは聞いたけど」

 気分を切り替える為に、三人組に話を振る。ワカバちゃんとは船でダラダラしてる時にダベってたからそれなりに情報はあるのだけど、今回の帰路は男子勢とサーシャちゃんの組み合わせでわちゃわちゃダベったり物の場所を置き換えたりとかしてて、そちらとはあんまり無駄話はしてないのよねえ。


「僕は此処の暦だと再来月の後半?元日からの日数で換算してみたら、元の世界とどうもずれるんだよね」

 この世界の暦、一週間が八日あったり十二月がなかったりして換算をすべきかどうか悩むところはあるわよね。カナデ君はどうやら換算済みらしいけれど、サーシャちゃんはすっかり考え込んでるな。


「……俺の誕生日、ねえんだが……?」

 わあ年末生まれかこの子!?


「なんかサーシャがうるう日生まれみたいなことを言い出した」

「そう言えば十一月の次って新年祝祭節ってお祭りでしたもんね」

 カナデ君が予想通りの事をツッコみ、ワカバちゃんが思い出したようにそう言う。


「元の世界の暦で言えばいいわよ?」

 そもそもあたしの元世界と君たちの元世界がどちらも三百六十五日制なほうが偶然なんだし、多分。


「……大晦日。この世界、年三百六十日だから、換算しようにも物理的に日がねえんだよ」

 ぶすっとした顔でそう答えるサーシャちゃん。ほんとになかったわ……


「普通にこの世界の大晦日が誕生日ってことにしちゃえばいいんじゃないの」

 カナデ君がシンプルかつ多分それしかない解決案を提示したけど、サーシャちゃんは何やら渋い顔だ。


「いやだってその日今後も多分移動だなんだで忙しくなりそうだからさあ……そのまま忘れられそうじゃん……現に去年の年末は自分でも忘れてたしさあ……えいえんのじゅうにさいとかやだよ俺……」

 ネタとも本気ともつかない口調で、顔は渋いままのサーシャちゃん。


「……お祝いが年末年始のそれと一緒にされるのが嫌なのなら、別でお祝いの日を設定してしまってはどうでしょう?」

 ワカバちゃんの方は、渋り顔の理由を探るようにそう告げる。


「……それいいな。でもそれならもういっそ全然違う日を誕生日だって言い張るのもアリなんじゃ?」

 図星だったようで、一瞬で悪い顔になって何やら考え出すサーシャちゃん。でも君たちさあ……


「勝手に言い張るのは構わないけど、入国時の戸籍申請の時になんて書いたの?」

 そう聞いたら、あ。と口開けて固まるサーシャちゃん。さては普通に本来の誕生日を書いたな?いやあたしも申請の時は何も考えずにそうしたんだけども。


「あれ?いやでも待って?大晦日っつか十二月三十一日って書いたけど、書類突っ返されたりはしなかったけど??」

 困惑顔で首を傾げるサーシャちゃん。


「異世界人だと、出身世界で結構暦が違うそうだから、あたしたち用の書類に限り、実は適当書いても通っちゃうのよね。『銀龍年花月十日』などと書かれていても通すように、って職員側のマニュアルに書いてあったわよ」

 あたしが登録した時はサクシュカさんがついてくれたから、職員側のマニュアルも読ませてもらったのよね。そして予想以上にカッ飛んだ例だったから普通に覚えた。

 そしてあたしが挙げた例に微妙な顔して固まる三人組。


「ねえ、そいつ、まさか、獅子聖ししせいファンダル光義みつよし、とか名乗ってなかった?」

 突然そんな風に言い出すカナデ君。なんだなんだ?有名人、いや、三人組の微妙な表情から察するに、恐らく有名架空作品のキャラか?先人、中二病疑惑?


「それは流石に調べないと判らないわね、あくまでも年月日記入の凡例として書かれていただけだから。で、何?有名な作品のキャラとか設定なの?」

 そう返事しつつ聞き返したら、三人揃ってこくこく頷いた。


「俺らがやってた5Dってフルダイブロープレの、レイドシナリオミッションパートの敵役なんだよ。実装当初はめっちゃ人気あった奴。銀龍年云々はそいつの設定上の誕生日なんだ」

 シナリオの進行と共にめっちゃ株落として、最近じゃみつよしw扱いだったけど、とサーシャちゃん。成程、ってことは。


「……つまり、もう一人、君たちの世界から来た人が居たって事ね」

 凡例にされている以上、あたしやこの子達が来るより、それなりに前に現れた子のはずだ。で、フルダイブゲーのシナリオキャラの名前ってことは、時代の違うケンタロウ氏は自動で除外される。要するに、確定でもう一人いた、というわけだ。


「そうなるな。会いたいかと言われたら正直ノーだが、出来たらちょっと調べて貰えるとありがたいな。戸籍とかあるなら、龍のねーちゃん辺りに聞くのがいいのかねえ」

 サーシャちゃんがやや考え込むようにそう告げる。会いたくはない?ああそうね、敵役の名前とか設定を好んで名乗る中二病患者には、そうそう接触はしたくないかも。



「あーミツヨシ君ね、知ってるしってる。あの子も強烈だったけど、君たちと同郷なんだ!」

 皆でサクシュカさんの所に押しかけて、凡例とキャラ名の話をしたら、ダイレクトに面識があります発言されたあたし達です。


「あたしは別ですけどね。というかそれ、どのくらい前の話なんです?」

「八年程前よ、運よく魔の森の外れの部分に到来して、すぐ脱出できた漂流者ね。当時は十八歳って主張してたけど、どう見ても十五歳くらいだったから、色々カマかけて本名と年齢はどうにか聞き出したんだけど……タイセイ・フジガキだったかな」

 サクシュカさんがさっくり仮名獅子聖君の本名をばらす。三人組はそれを聞いて暫く考えこんでいたのだけど、暫くしてサーシャちゃんだけが、あー。と呟いた。


「富士垣泰星かあ……あいつ、そんな若かったんだ?5Dの覆面開発者、キャラデザやってたうちの一人だな」

 サーシャちゃんによれば、彼女同様のデザインドチャイルドの一人で、芸術面に天元突破しちゃったタイプだったらしい。まあぶっちゃけ変人枠。元の世界でも、お互い名と声とプレイで使っていたキャラは知っているけど、リアルの顔は知らなかったそうだ。


「その人今はどうしてるんですか?」

 ワカバちゃんが当然気になるであろう質問。


「判らないわ。例のフラマリアへの異世界人招待状を持って出かけたのだけど、あちらに到着しなかったのよ」

 つまり、行方不明という事らしい。なんでも彼は、付き添いを断って出かけたのだという。そして、出国の記録はあるのに、先方への入国の記録がないんだそうだ。あたし達は行きは陸路だったから、出入国は同時に記録を取られたけど、彼は海路を選択した。そして、船に乗船した記録はあるのに、下船記録がないという。異世界人の行方不明事件として、結構大掛かりに捜索は行われたようなのだけれど、当時の乗客の数人が、夜に随分覚束ない足取りで甲板に出ていくのを見た、と証言したので、落水した海難事故として処理することになったそうだ。


「ふーん。なんか胡散臭いから、外見の情報があったら欲しいかな」

 巫女技能は何も言わないけど、こういうのは覚えておいて損はないよね、多分。


「確か自画像と、理想のキャラシートとかいうやつが残ってるわ。王城で見せてあげる」

 返事を聞いた三人組が、多分あたしと同じ顔をした。まああれだ、呆れた顔。


「それにしても、八年前ですか。5Dサービス開始前じゃないです?」

 ふと思い出したというように、ワカバちゃんがそう指摘する。


「それを言うなら、直系じゃあないけどお前らの先祖、というほど昔の人間じゃない、向こうで存命でも普通に生きてるレベルの世代の大伯父とか程度の奴がこの世界に来たのだって、二、三百年どころじゃなく前だろ?個別の漂着は時間軸がずれるのがデフォって可能性すらあるぜ?」

 サーシャちゃんの反論は極めて尤もだ。ケンタロウ氏がこの世界に来たの、八百年とか前らしいもんね。ただ、彼のそれは、漂着ではなく、召喚だったそうなのだけど。


 まあなんにしても、来月も予定はたっぷりになりそうだ。本格的な春の前だから、もうちょっとゆっくりしたかったなあ。

めんどくさい計算しないといけなくなった。自分のせいだけど。

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