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234.ダーレント公子、現る。

噂の人登場。おじいちゃんだけどね!

「亡霊に憑かれた人は、どうも奴に自我を一部制限されてしまうらしいのです」

 ブルガさんが真っ先に説明してくれたのは、白髪勢の呆けっぷりの理由だった。

 アプカルルであるブルガさんには当然亡霊は近付きもしない。魚人族にも憑けないらしく、タムワールさんも基本的には無事だ。ただ、彼がいる川はある程度進むと柵ががっちり嵌っていて、魚人族の力でも、水魔法でも全く動かせないのだという。


 そういえばあの場所からどうやって彼は此処に来たのかと思ったら、亡霊憑きが命令して、他の人たちに運んでこさせた、らしい。それまで半日くらいほったらかされていて、ちょっと命の危機を感じたという。まあ今はそれなりに元気だそうだけど。

 この川には生き物の気配自体がない、そして真水だそうだ。つまりこの洞窟を作った古い伏流水だね?位置としてはどうもトゥーレの西側の海底であるらしい。東から流れる川だそうなので、恐らく源流はトゥーレにあるんだろう。今は冬なので水が少ないんだろうなこれ。


 あれ、ということは、亡霊にはあたし達がトラップを通ったことは既にばれてるな?

 じゃあさっさと全員に一旦マルチロックで初級治癒ぶん投げるところからだ!


「〈付加:マルチロック〉/〈治癒〉」

 今回はカナデ君にあたしのやり方を見せたいので、敢えてキーワードを詠唱する。見えない奥の方にも、魔力の光が飛んで行く。


「自我が固められている人は、その人の名を呼べば一旦は回復します。ただ、呼ばれた名に反応して、他の、その人の名を知っている囚われ人が口を塞ぎ拘束しようとするので、一人二人で名を呼ぶくらいではうまく開放できないのですが」

 ブルガさんの追加説明。成程?


「じゃあまずえーと、コルテックさんいますかー!」

 早速そう名を呼べば、ぎょっとした顔でびくりとして、周囲を見渡す人がひとり。そして、その顔に反応したかのように、彼に手を伸ばす周囲の人々。距離が遠いせいか、こっちには寄ってこない。ヨシ!


「ガルデマンさん!ルンベルツさん!カシュケットさん!リベーレさん!ゴンザレスさん!!」

「えっとまだなのはクルップさんとアンドレイさんとサクロフさんと」

「ヌティックさんにメドラウドさん!」

 最初の五人の名を呼ぶあたし、続けてコルテックさん以外の年末の行方不明者を呼ぶカナデ君とワカバちゃん。

 その場にいた白髪勢全員の動きが止まり、そうして一拍置いて、へたり込む人々。


「全員力技で呼びきりましたわね……」

 何やら幻術の支度をしていたらしいカスミさんが、魔力を散らして呆れ声。


「……ああ、つまり、君たちは、囚われたのではなく、救助隊、なのだね?」

 コルテックさんが、言葉を噛みしめるように、そう聞いてくるのに、頷く。


「そうです。ボトルレターは、ちゃんとガトランドさんと、スレーミーさんの元に届きました。ところでガルデマンさんって何方かしら?」

 取りあえず推定公子以外で一番年長なのはガトランドさんのお父さんであるガルデマンさんの筈だ。なんか真っ先に安否を確認しないといけない気がするのよね。


「親父なら二年程前から足が立たなくなってな……もう一人、後から来た方の、貝で腹を下す体質の奴と一緒に、最初に居た治癒師殿と同じ部屋で寝ている。ただ、命に別条はない、はずだ」

 そう答えたのは、どうやらガトランドさんのお兄さんのどちらかであるらしい。

 なお亡霊が取り憑いて外に出ているということで、カシュケットさんが不在ということだった。こちらがガトランドさんの下のお兄さんで、最初の返事をしてくれた人が上の兄、ルンベルツさんだそうだ。


「それがだな、今魔法が飛んできたと思ったら歩けるようになったんだが、どういうことだい」

 そう言いながら、一同より明らかにだいぶんと年上だと判る人が奥から出てきた。話からすると、どうやらこれがガルデマンさんらしい。他に、更に年上の御老人と、手前に居た人たちと年齢感は余り変わらないけど、随分痩せ細った人がひとり。多分痩せてる人がお腹下してたひとかなあ?


「……上級クラスの治癒師の方がこんな場所までやってくるとは、な」

 御老人が口を開く。年齢的に、この人がダーレント公子かなあ。奥から出てきた三人には、改めて上位治癒をかける。その必要がある程度には、弱っている。流石に賦活までは要らん判定だけどね……


「単刀直入に伺わせて頂くが、ご老体がダーレント公子でよろしいか」

 ランディさんがほんとに直球ど真ん中ぶん投げましたよ!良いのかそれ!

 問われた老人は、ほう?と眉を上げる仕草。


「よもや今頃、そんな呼び方をされるとは思わなかったね。いかにも、我が名はダーレント。まあ今は、ただのダーレント、だよ」

 続けて、流石にもう叔父上も鬼籍におろうし、と呟くダーレント元公子。


「そうだねえ、叔父さんの後は、多分君が知らない従弟が王位に就いて、先日そのまた子供に王位が遷ったところだよ」

 ランディさんが簡潔に説明する。頷く元公子。


「国を離れてどころか、この水底の地に在ってだけでも早三十年、時の流れとは早いものだね」

 ダーレント元公子によれば、五十年前の王位争いで、彼の父は行方不明といいつつ、実際には命を落としたらしい。公子も命の危機を感じて幼いながらに国を出て、それきり一度も帰っていないのだという。思った通り、劇の悲恋話とは全然違ってたなあ。

 まあそもそもあの劇だと、ダーレントの名を与えられているのって、実際には彼の父の方ではあるのよね、人間関係的に。よくあれで本命訳せたな、サーシャちゃんの翻訳スキル?

 何故思った通り、かって?この世界、実は亡霊も同性相手じゃないと本格的には取り憑けなかったりするので、船乗りたちに順繰りに取り憑いて身体を動かせてるって時点で、亡霊がヒロイン的立ち位置だったとしても、女性説はあり得ないのです。恐らく、劇にするときに、他の王位継承時の争いとかも混ぜた上に、恋愛要素を入れる為に性別を変えちゃったんだろうな。流石に争いそのまま引き写しだと、不敬とか名誉棄損とか、色々問題が出てきそうだしねえ。


「亡霊はどういった方だったのです?」

 取りあえず実際の立ち位置は確認だけしておこう。


「私の個人的な侍従だった者だ。元をただせば歴史学者だったのだが、どういう訳か、こんな私に妙に心酔してくれていてね。トゥーレから出航した船に不備があって難破し、この海底遺跡に漂着した時に運悪く死んでしまったのだが、気が付けば亡霊として私以外の者を操るようになってしまっておった」

 難破して遺跡に漂着した段階では、八人ほどが生き残っていて、配下に二人も治癒師がいたことで、どうにか生き延びてこれていたそうなのだけど、十年前、ガルデマンさん達がトラップに嵌るまでの間に、彼以外全員死んでしまったのだという。そして、ダーレント元公子に治癒の才が現われたのは、なんと、ガルデマンさん達と遭遇してからの事なのだという。


「そもそも、私は魔法の才自体が殆どなかった。ほぼ庶民並みでね。光と火と風が、全部小、そんなふうであったのだよ」

 今のこの人の属性は、光中、火中、風小に、見えるかどうかギリギリの極小の雷、だ。シエラによれば、魔力量も余り多いほうではないそうだ。


「建物の中は時折……不定期に海水が多量に入り込む。当然住むのには適しておらぬ故、やむなくこの洞窟側を拠点とした訳だが、この場所は建物と違い、基本的には自然由来の洞窟でしかない。当然日光も入らん故に〈灯〉と〈点火〉は毎日使っておったから、いつの間にか育っていたのだろうが、ねえ……何故、仲間のおる間に、現れてくれなんだのか……」

 それだけが、悔しい。と、ぽつりと呟くダーレント元公子。


 この場所は、初期に探索し尽くしていて、洞窟はあちこち分岐こそしていても、全て行き止まりになっていて、普通の手段では出られないのはほぼ確定なのだそうだ。

 川の中の格子は、これも最初からあったものらしい。〈水中行動〉というスキルのあるサーシャちゃんが潜って調べにいったけど、格子の出どころは不明だそうだ。


「恐らく元の地形と重なった結果、本来開口していた部分が塞がってしまっている可能性もあるね」

 ランディさんはそう言うけど、かといってこの遺跡的な建物を壊して解決できるかというと、正直それも微妙な気はする。なんか鍾乳洞にめり込んでる感じなのよねえ。


 朽ちた階段の広間の左手のプールっぽい場所が、やっぱり海への出口らしい。取りあえず亡霊憑きのカシュケットさんが帰ってくるのを待つことになった。

 でも入り込んだものが判るっぽいのに、来るのが遅いのは、なんでだろう……

そりゃ移動速度が人間並みだからですよ()<戻りが遅い

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