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232.海の底の遺跡。

イルルさんとカスミさんがなんか仲良くなってる……

 吹っ飛ばされたあたしを、ふわりと誰かの魔力が包む。あ、これイルルさんだ。少し遅れてカスミさんの魔法も飛んできたけど、これなんだろう、あ、あったかい。そうね、ちょっと触れた水は、凄く冷たかったからね、これは助かる。


 そうして複数の魔力に包まれたうえで、最終的にランディさんの風魔法で船に引き戻されるあたしであります。


「君が船から落ちるのは二度目だね……」

 暗に学習能力は?と問われた気がする。済まぬ、すまぬ。咄嗟に動くの、苦手なんだ……


「落とされた方が出た時の対処を練習しておいてよかったですわ」

 イルルさんとカスミさんが仲良く頷きあっている。二人でそんなことしてたんだ。まあ後で聞いたら、鶏たちが落ちたら、という想定で練習していたのであって、いきなりあたしが落ちる想定はしてなかったそうだ。いやほんとマジで済まぬ……


 魚人たちはスレーミー姉弟と、ブレイザーさんだけが見える。他の魚人たちはすり鉢状部分の外に弾き飛ばされたらしい。船組は落とされかけたのはあたしだけなので、全員が無事だ。

 船はトンネル状に渦巻く海水の中を流されていく。魚人たちも流れが速いので、救命ボート部分にしがみついて、なんとか付いてきている状況だ。


 そしてその終着点は、何処からどう見ても遺跡、としか言えない建造物の中だった。

 船がどすり、と落とされ、何故か完全に乾いている床に接触した船底が軋む。とはいえかなりがっつりと補強されたばかりなので、壊れたり歪んだりまではしていない。あの船大工さんとシュニールさんのツレの兄さん、ほんとに腕がいいな?そしてさっきの海水、何処行った?

 全員が降りたところで、速攻でランディさんが船を格納する。サーシャちゃんが船、いけるんだ、って顔してた。気持ちは判る。


 魚人族の人たちは、水のない場所では動きが制限されるので、これまたランディさんが格納してきた、巨大なたらいかバスタブに台車を付けたような道具を出して、〈湧水〉で水を入れて、何やら塩っぽいものも入れて、魚人族全員突っ込む。全員突っ込む想定で二台作ってきたそうだけど、三人になったので一旦一台で。


「いやあ済まないね、ここまで見事に水のない場所だと、ボクらはどうにもならないや」

 ぐるりと周囲を見回して、珍しく諦め顔でそう宣言するブレイザーさん。まあここまで全力で楽させてもらったんだから、ここは楽しておいてくださいと答えておく。


「しかし、こんな場所に人の存在していたかのような遺跡?聞いたことがないぞ?」

 ランディさんは、遺跡の存在自体が疑問らしい。確かにこの世界の歴史は一通り確認したことがあるけど、海に沈んだ土地の話なんて、一度たりとも聞いたことがない。


《うーん、メリエン様との繋がりが弱いですね、ここは……ひょっとして、遺跡自体が漂着物なのかもしれません。警戒した方が良いです》

 シエラが警告してくれる。遺跡そのものも、漂着するのか……


「ここ自体が漂着物っぽいですね?」

 そう発言したら、全員に見られた。何か変な事言ったかな?


「こんなデカブツも漂着物なのか?」

 サーシャちゃんの疑問はまあもっともだと思う。相当奥まで構造物が続いてるよね、ここ。


「漂着物だと判定した理由は何だね?巫女の技能かい?」

 ランディさんは平時の調子で理由を尋ねて来る。まあそれも想定のうちだ。実際同じ可能性くらいは考えてるに違いない。


「技能とは別ですが、真龍たるランディさんも知らないうえに、人族の歴史文献にも一切、海に沈んだ土地の話など出てきていないと記憶していますので、一番可能性の高いのは、ハナからこの状態の遺跡が漂着物としてここに現れた、ではないかと」

 あとねえ、ここ、なんだか暖かいんだわ。冬の海向けの恰好だと、少し暑さを感じるくらいに。でも空気の流れははっきりしない感じね。


 改めてぐるりと周囲を見回す。長方形の部屋の両端に、何を支えるでもなく立ち並ぶシンプルな円柱は白地に薄い青のマーブル模様。その柱の上下には元は複雑で繊細な彫刻だったもの、と思しき、角が折れ、摩耗した構造物。下の構造物の方がシンプルね。壁もどうやら土か漆喰のようなものが塗られていた跡だけは残っているけど、今は灰色の長方形の石とモルタルを積み重ねた構造が丸見えだ……いや、これ石じゃないな?コンクリートブロック、だな?どうやら元々地下部分か何かのようで、端の方にぽかんと開いた出入り口はあるけど、窓はない。


「ねーちゃん、この壁コンクリブロックに見えるんだけど俺の気のせい?」

 サーシャちゃんも壁に気付いてそんな風に言う。


「見えるわね。しかも落ち着いてよく見ると、この床もコンクリ打ちっぱなしって奴では?」

 砂と埃があちこちに積もった床をそう判定してから、天井を見る。天井は随分と高い所にあって、全面を何かが覆っていて、その全体が発光しているけれど、魔力は流れていない。有機蓄光素材がこんな光り方だった気がするな?あ、ものすっごく上の方に窓がある。これ、壁と柱の構造を見る限り、一つ上の階の床が丸ごと抜けたんじゃ?まあ窓の外っぽいものは見えないんだけど。真っ暗だ。


「この柱って綺麗ですけど、なんか天然素材っぽさがないですね」

 そう言うのはワカバちゃん。そうね、マーブル模様なのに、あちこちに全く同じ柄の流れが見えるものね。


「遊園地のアトラクション施設の成れの果て感が凄い」

 カナデ君が総評を。うん、多分そんな感じじゃないかな。あたしそういう場所にも縁がなくて、写真とVRでしか知らないけど。


「そもそもこの天井、ボクたちが知っている素材じゃなくない?」

 ブレイザーさんがあたしに釣られるように上を見て、そうこぼす。


「違うでしょうねえ。魔力の流れも見えませんから、恐らく他所の世界の技術だと思いますよ」

 電気が通っているという雰囲気でもないから、ちょっと現状原理は不明だけど、まあ今はこれは考えなくてもいいだろう。よくよく見ると、天井は複数の発光パネルで構成されているのが判るけれど、それ以上の事は遠すぎて判りそうにない。


「魔力で引っかかるものはこの近くにはないね。どうやら目的地は少々遠いようだ」

 ランディさんの判定によれば、魔力で動く何かも、生き物も居ないらしい。ここで突っ立っていてもしょうがないし、特にトラップが設置できる構造にも見えないから、一か所だけある出入り口らしき場所に進むことにした。


 通路のほうが、最初の大部屋より状態がいい。壁は漆喰めいた何かで塗られている状態を保っているし、そもそも漆喰風だけどそれより強靭な素材なことが判る。通路自体は緩い上り坂の一本道だ。

 ただ、床は随分と派手に傷がついている。何かを引きずった跡だ。床の素材も些か謎だけど、樹脂系素材な感触ではあるわね。進行方向に向いてしか傷がついていないので、台車はするすると進める事が出来るのは有難いと言えば有難い。


「すげえ、傷がなかったらつるっつるじゃないのか、この床」

 ブレイザーさん達が周囲の見慣れない素材を見て目を丸くしている。


「うーん」

 カスミさんが珍しく黙ったまま、考え込んでいる。


「どうかしたんですか、カスミさん」

 取りあえず聞いてみるか、と声をかけてみる。


「ああいえ、あの空色の柱、なんだかどこかで見たことがあるような気が致しまして。この世界のどこかに、もう一か所あんなものがあったはずですわ」

 予想外の答えが返ってきた。あの柱が、地上にある?そしてそれを聞いた途端、ランディさんが、あ。と声を上げた。


「確かに、あったな!ただ、あの柱も来歴は一切不明だったはずだ。確か、レガリアーナの北の端に近い方だったと思うが……」

 予想外に遠い場所が出てきた。しかも詳しく聞いたら、その柱は一本だけ、ぽつんと岬の突端にある日突然現れて、そのまま今もそこにただ立っているんだそうだ。現れたのは百年ばかり前で、今も観光地としてそこそこ人気があるらしい。


「そういえばさっきの場所、端っこの柱が一本足りなかったですよね」

 ワカバちゃんが言う通り、柱は両端にずらりと対になるように並んでいたのに、この通路に繋がるのとは反対側の、一見何もない場所の柱が一本なかった気はする。


「可能性としては、あの一本だけが漂着位置がずれた、ということか」

 つまり、百年程前からこの海底に漂着し、存在していた遺跡である可能性が高い、というわけね。まあ同じ場所から落ちたのに、実際に現れた場所がばらばら、という案件は、漂着ではよくあることらしい、三人組もそうだしね。大きな彫像が、縦真っ二つにされた状態で漂着して、その半分が今も見つかってない、なんて案件も本に載っていたしねえ。

空色といっていいのか謎だけど、まあ空色で……

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